2021.02.19

交響組曲 宇宙戦艦ヤマト2202

(※注意 この記事は収録曲「カーテンコール」の内容のネタバレを含みます)

 21世紀の新たなるヤマトの交響組曲です。
 一つ前の『交響組曲 新宇宙戦艦ヤマト』がぎりぎり20世紀最後の年でしたから、実に21年ぶりということになりますが、『交響組曲 新宇宙戦艦ヤマト』はあくまで新作のためのイメージアルバムであり、大半が既製曲のメドレーにすぎない実態であり、またサントラ盤との区別の曖昧な『交響組曲 宇宙戦艦ヤマトⅢ』も、ある意味で別物のように思えます。
 既製の劇伴曲をベースに新たなるアレンジで純粋に鑑賞用アルバムとして製作されたという点では最初の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』の対になるべき存在であり、その相手が今もなおアニメ音楽史上不朽の名盤として語り継がれている以上、完成度は気になるところです。
 まぁ以前に「交響組曲の終焉」なんてことを書いた手前、新しい交響組曲がどんなものかは興味があるところでもあります。

 タイトルが『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト2202』であるように、メインとなっているのは『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』で用いられた楽曲であり、そこに宮川彬良が手掛けた『宇宙戦艦ヤマト2199』や『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』の楽曲も一部含まれて構成されています。
 全体が7つの章立てで構成され、曲名に「第○章」と付いているのは最初の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』のそれぞれの楽曲が『交響組曲』の1曲であるとともに独立した1曲というイメージがあるのに対して、あくまで『交響組曲』全体で1つの作品であるという明確な主張のように思われます。


第一章 地球
  銀河の胎動~再生の序曲
  アンドロメダ
  ヤマト発進

 『2202』の新規曲である「銀河の胎動」から始まり、続く旧第1作からの「誰もいない街」で予期しない意外性をアピールしてきます。そして、『新たなる旅立ち』のタイトル曲で馴染みの「ヤマトに敬礼」が新鮮なアレンジで盛り込まれでいます。
 ストリングスから始まるバラード調のヤマトのテーマは「宇宙戦艦ヤマト2202・新序曲」の中盤からですが、アレンジ的にはいくらか『交響組曲』の「追憶」を意識しているような印象を受けます。
 旧作『さらば宇宙戦艦ヤマト』からの「アンドロメダ」は『2202』劇伴に沿ったアレンジ。第1話で登場した禍々しいアンドロメダではなく、旧作通りの地球復興のシンボル的なイメージを表しています。
 最後は「元祖ヤマトのテーマ」。オリジナルの軽快なビッグバンドの演奏よりも重厚なオーケストラアレンジに仕上がってるところが聴き物。ステレオ版『さらば宇宙戦艦ヤマト』の発進シーンでモノラル版の「元祖ヤマトのテーマ」の代わりに『交響組曲』の「誕生」のメインテーマを持ってきてるようなところが、なんとなく思い出されてきます。
 ただ、「アンドロメダ」で楽曲的に区切りが付いた後にヤマトのテーマを持ってくる必要があるのかというところは、ちょっと違和感を覚えました。


第二章 テレサ
  テレサより、人間たちへ
  追記

 冒頭の重く悲痛な曲は『2199』からの「膠着する戦闘」。
 そして旧作『さらば宇宙戦艦ヤマト』から使われている「テレサのテーマ」(旧作BGM集では「テレサ愛のテーマ」)。途中から『不滅の宇宙戦艦ヤマト』の「テレサのためいき」を思わせるようなリズムの付いたポップなアレンジに代わり、そしてピアノがメインとなるジャズっぽいアレンジへと移っていき、最後は「コスモウェーブ」(旧作BGM集では「テレサのテーマ」)のサスペンス的な短い末尾で締めくくられます。
 この曲の聴きどころは中盤以降の新規アレンジ部分ですが、ちょっと個々の部分が独立しすぎていて、あっさりとしすぎてる印象を受けます。


第三章 白色彗星
  白色彗星の系譜(キース・エマーソンに捧ぐ)
  大帝ズォーダー

 重低音の弦楽器(コントラバス)で奏でられる「白色彗星」、次いでパイプオルガンっぽい音色で奏でられた後、一転して重厚なエレクトリックアレンジに移っていきますが、この辺がキース・エマーソンっぽいのかな。とはいえ『幻魔大戦』と『ゴジラ FINAL WARS』しか知らないので何とも言えませんが。
 テンポが目まぐるしく変わるエレクトリックなサウンドの後は、オルガンを使った教会音楽風のフレーズをはさみ、『2202』の新曲の中でも最重要の「大帝ズォーダー」。劇伴よりも重厚で、より悲痛な宿命を印象づけています。


第四章 暗躍
  独裁者の悲哀~潜航する者

 物悲しいピアノで始まる『星巡る方舟』からの「バーガーの悲哀」。原曲は『2199』で新しく作られたデスラーのテーマ「独裁者の苦悩」ですが、ここではピアノメインの前者が採用された模様。
 後半はピチカートの効いた『2199』からの「ファーストコンタクト」のサスペンス風の導入部から、勇壮な『ヤマト前進』(ヤマトUボート風)。デスラー総統と対峙する威風堂々たるヤマトというイメージを、劇伴より厚みのあるアレンジで奏でています。


第五章 翼~かならずここへ~
  哀しみのヤマト
  消えゆく命

 旧作オリジナルよりは少しゆったりとして、『2199』のリメイク版よりはテンポの早い「哀しみのヤマト」の中盤から、『2202』の新曲「翼~消えゆく命~」に繋がり、再び「哀しみのヤマト」の後半が奏でられた後、再度「翼~消えゆく命~」で締めくくられるという、繋ぎの妙を見せるアレンジの曲。
 最初の『交響組曲』の「回想」が「ショッキングなスカーフ」の冒頭に続けて「悲しみ」のフレーズが展開されていて、それがもとから一曲だったような印象を受けるのに似たようなイメージを感じます。


第六章 鬩ぎ合う力
  決意の翼
  ガトランティス襲撃
  虚空の邂逅
  方舟の覚醒(シャンブロウ)
  果てしなき戦い
  ヤマト渦中へ

 冒頭、『2202』の最大の盛り上がり曲である「ドッグ・ファイト」をより勇壮なアレンジで堪能させた後、続くのは『星巡る方舟』の「ガトランティス襲撃」。滅びの方舟の力を擁した超文明的な破壊者である『2202』のガトランティスとは違う、戦いそのものを目的にするような蛮族を奏でる音楽が、ある意味異質に感じるのは否めないところですが、作品自体の方もむしろこっちの路線で続けてほしかった気がするのは確かです。
 同じく『星巡る方舟』の「大決戦-ヤマト・ガミラス・ガトランティス-」から繋ぎの部分を抜き出してきて、『さらば』以来おなじみの「デスラー(孤独)」を1フレーズ挿入した後、木管メイン(オリジナルはストリングス)で始まる『2199』の「虚空の邂逅」が美しく優雅に奏でられ、末尾は劇伴よりも壮大なアレンジで締めくくられます。
 続く「シャンブロウ」は『星巡る方舟』の曲ですが、ここでは『2202』の惑星ゼムリアとガトランティスの力の源である滅びの方舟を意識した採用でしょう。敵味方を超えた神秘で強大な存在を示しています。
 旧作『さらば』の「超巨大戦艦の出現」に続いて、『2202』から重苦しい激闘の音楽「果てしなき戦い」が重厚に奏でられます。この曲、激闘を思わせるスリリングな部分と戦いの悲しみや虚しさを表すようなバラードの部分が交互に繰り返されるため、単独曲として聴くと落ち着かないのですが、組曲的な構成には相性が良いように感じます。
 最後は『2199』から「ヤマト渦中へ」。マスタリング時に音圧を上げている劇伴と違って、演奏そのものの厚みを感じます。旧作シリーズでの「未知なる空間を進むヤマト」(及びその派生曲)に似たような使われ方をしてる曲ですが、『ヤマトよ永遠に』以降のリメイクがあった場合、扱いがどうなるのか気になるところです。

 交響曲の一楽章に匹敵する長さのトラックですが、明確に途中で曲が区切られているので、それほどの大作感はありません。この辺りを純粋に一続きの曲としてアレンジされていたら、それは物凄いものだっただろうと期待してしまいますが、まあいろいろな面で限界を超えた無い物ねだりということなのでしょう。


第七章 愛
  続・銀河の胎動
  大いなる愛~終曲

 第一章と対を成すかのように、再び『2202』の「銀河の胎動」から。
 そして旧作『さらば』以来お馴染みの「大いなる愛」。ピアノで始まり、ストリングスに展開される第1主題に続くのは、『2202』の「終曲」風のアレンジで低音でゆったりと奏でられる第2主題。そして再び奏でられる第1主題は『さらば』の「医務室にて~愛の涙~」で使われてる悲痛なマイナーアレンジ。そして最後は第2主題が『2202』の「終曲」風に、ゆったりとそして壮大に盛り上がり、最後は余韻を残しながら奏でられていきます。
 第1主題、第2主題の繰り返しは『さらば』の音楽集に収録されている宮川泰の原曲通りの構成なのですが、ここに部分のアレンジをまったく別物にしてるので、同じモチーフを使ったまったく別の音楽に仕上がっています。この辺のバラエティ感が、このアルバムの面白いところかもしれません。
 ただ、『さらば』の音楽集と比べても、『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト2202』の最終章としては、もうちょっと大団円感が欲しかったように思います。


カーテンコール

 購入者へのサプライズとして発売まで曲内容が伏されていたボーナストラックなのですが、もう隠してる意味は薄らいでいると思われますので、遠慮はしないことにします。
 このトラックに収録されているのは、最初の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』に収録されていた「真赤なスカーフ」のリメイクというか、再現曲です。なので、技術的なところを除けば目新しいアレンジ等がなされているわけではなく、そのまんまの曲です。

 宮川泰による旧作の音楽は、その楽譜がほとんど残っていないため、『2199』以降のリメイク版での再現曲も宮川彬良の耳コピによって作られています。それは『交響組曲』が作られた当時も同じで、宮川泰本人が劇伴曲を耳コピしながら「交響組曲」にアレンジしていったといいます。
 そんな苦労をしてるなら、そうして作った『交響組曲』の楽譜ぐらい残しておいても良かろうと思うのに、それも残されてはいないようで、後に2009年に宮川彬良が『交響組曲』のA面曲のコンサートを行った際には、そのほとんどを耳コピで復元したそうです。
 この「真赤なスカーフ」を含むB面曲についてもいずれコンサートが開かれる予定だったみたいですが、今のところは実現されていません。B面曲については「イスカンダル」と「明日への希望」は同時期にコンサートで演奏されているので楽譜は復元済みかと思われますが、「真赤なスカーフ」はその中にはありません。

 この「真赤なスカーフ」のアレンジについては『交響組曲』について語る時によく触れられているので、宮川彬良にとってもかなり思い入れのある曲であり、機会があれば復元を試みようとしていたのであろうことは、「宇宙戦艦ヤマト2202・新序曲」に一部用いられていることからも確かだと思います。
 そんなことなので、今回、この曲が復元されたのは、ちょうど良い機会がやってきたということだったのかもしれません。

 まあ、ライナーノーツ書いてるランティスの人が元の『交響組曲』を全然聴いてないだろうことは言わないことにしておきましょう。


     ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 このアルバムは『宇宙戦艦ヤマト2199』と『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』の音楽を手掛けた宮川彬良の集大成のアルバムとしてみなせば、文句なく十分に納得できる仕上がりのアルバムであるように思います。
 欲を言えば作品中で印象的であった「大志」や「Great Harmony」が使われていないのが寂しいといったところでしょうか。

 ただ、ヤマトの「交響組曲」としてみた場合は、どうしても最初の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』との音楽的な相違が気になります。
 まあ、最初の『交響組曲』はビッグバンドによる演奏の劇伴曲をシンフォニックなオーケストラ曲に作り直したという時点で相当にインパクトの強いものでした。その上で「序曲」や「誕生」のように、元の劇伴曲は複数使っていてもメインのモチーフは一つであり、巧妙なアレンジによって一繋ぎの単一曲として完成しているものが、『交響組曲』のシンボルとして存在していたのは明らかなのです。
 それに比べると今回の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト2202』は、個々の曲要素では斬新なアレンジを伺えますが、各章の多くは個々の曲要素のメドレーに過ぎず、物語的な要素はあっても単独曲としてのまとまりが感じにくいというのが偽らざるところです。

 この辺り、作曲家としての音楽性とか「交響組曲」というものの解釈の違いと言ってしまえばその通りなのですが、やはり旧作からのヤマト音楽のファンにとってすれば、どうしても最初の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』のようなものを期待しがちなのです。
 とはいえ、昔の劇伴のレコードなんて出てなかった時代に初めて出てきた音楽アルバムというインパクトのあったものと、最初からオーケストラ曲として作られてる劇伴アルバムと容易に聴き比べられてしまう今のアルバムを、単純に比べてしまっても意味はないとも思いますが。

 ライナーのインタビュー記事の中で宮川彬良が羽田健太郎の『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』に触れてるところがありますが、今は無理でも、いつかはそこに挑戦して欲しいと願って、この稿を終えます。

 

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2016.06.09

ガールズ&パンツァー劇場版オリジナルサウンドトラック

 サントラがほしいと思った作品が、サントラ未発売だったりDVDの初回特典にしか付いてなかったりと、もうアニメのサントラなんてどうでもいいやという気分にさせられてる今日このごろ。音楽目当てで見るアニメってのもめっきり無くなってしまいました。

 ガルパンの音楽というと、テレビシリーズの頃は各国のモチーフのマーチ曲を使ってて戦車アニメらしく景気良いなぁ、なんてくらいに見ていたのですが、アンツィオ戦OVAで割と好きな「フニクリ・フニクラ」を使ってるのを見て、ちょっとサントラを聴き直して見ました。
 音楽担当の浜口史郎というと、『劇場版ああっ女神さまっ』辺りから名前を知った感じで、オーケストレーションの上手い人って印象があったのですが、あんまり自分がメインで追っかけるような作品には関わってないので、もう一つ位置付けが難しい人ってイメージでした。
 それでも『ONE PIECE』(田中公平と共作)は毎週見てるし、『花咲くいろは』『TARI TARI』『SHIROBAKO』というP.A.WORKS作品は好きなところで、『TARI TARI』はちゃんとサントラ買ってたりします。

 で、なんか凄いヒット作になってしまった劇場版ですが、サントラはたまたま発売日に見掛けたのを買ったぐらいですが、何度も映画館に足を運んでる内に音楽が頭に染みこんで離れなくなってしまいました。

 収録曲は以下のとおり。

DISC.1
 01. 劇場版・戦車道行進曲!パンツァーフォー!
 02. Enter Enter MISSIONです!
 03. 劇場版・大洗女子学園チーム前進します!
 04. 大洗・知波単連合チームで勝利を目指します!
 05. 知波単学園、戦車前進!
 06. 孤高の戦車乗りです!
 07. 島田流です!
 08. 夕暮れです!
 09. 少しだけ疲れちゃいました!
 10. みんなの想いはひとつです!
 11. なんとなくの日常です!
 12. 準備を怠りません!
 13. 西住流です!
 14. Ⅱ号戦車が好きです!
 15. 会長もたまには働きます!
 16. 希望の光は絶対に消えません!
 17. 学園十色です!
 18. アンコウ干しいもハマグリ作戦です!
 19. まるで西部戦線みたいだと優花里さんが言ってます!
 20. ジェロニモです!
 21. 待ち伏せします!
 22. 知波単、新たなる戦いです!
 23. 好敵手です!
 24. 長距離砲です!
 25. 挟まれそうです!
 26. 無双です!
 27. 決断します!
 28. 劇場版・緊迫する戦況です!
 29. 冷静に落ち着いて!
 30. ヴォイテク!
 31. 劇場版・乙女のたしなみ戦車道マーチ

DISC.2
 01. おいらボコだぜ!
 02. Säkkijärven polkka
 03. 雪の進軍
 04. アメリカ野砲隊マーチ
 05. Home!Sweet Home!
 06. When Johnny Comes Marching Home
 07. パンツァー・リート


 では、各曲を見ていきましょう。

「劇場版・戦車道行進曲!パンツァーフォー!」
 この映画のタイトル曲。冒頭のエキシビション戦でゴルフ場のバンカーに追い詰めた聖グロリアーナ女学院のチャーチルを包囲するため大洗・知波単連合が前進を始めるシーンに掛かります。
 基本はテレビシリーズでお馴染みの大洗女子学園戦車道チームのテーマ曲ですが、テレビシリーズでは吹奏楽編成での演奏だったものがオーケストラ演奏に変わっていて、サウンドに弦楽器の厚みが加わっています。
 映画ではこの曲をバックに大洗の各戦車を紹介がてらにアップで映してるのですが、ここで各戦車の駆動音がはっきり違ってるのがよく分かるところです。とくにポルシェティーガーにはモーター音が被さってるのは劇中のふだんの走行シーンではわかりにくいので興味深いところ。

「Enter Enter MISSIONです!」
 テレビシリーズのED曲のオーケストレーション。劇中では大洗市街戦で知波単・福田の九五式軽戦車が商業施設の狭い通路を疾走するシーンに使われています。テレビシリーズのEDではデフォルメされた戦車がのどかにのんびり走ってる感じの映像が印象的だったのですが、意外とスピーディーなシーンにも合ってるんですね。

「劇場版・大洗女子学園チーム前進します!」
 「戦車道行進曲」のアレンジ曲。劇中では、ゴルフ場での包囲戦に失敗し、逆にプラウダ高校チームの到着で挟み撃ちのピンチに陥った大洗・知波単連合が大洗市街に転進していくシーンに流れています。

「大洗・知波単連合チームで勝利を目指します!」
 これも「戦車道行進曲」のアレンジ曲。やや軽快なアレンジで、後半の対大学選抜チーム戦での観覧車を使ったミフネ作戦のシーンに一部が使われています。

「知波単学園、戦車前進!」
 西部劇の決闘シーンを思わせるような、緊迫感のあるボレロ風のスローテンポの曲。劇中では大洗市街戦のさなか、「後退」を聞き誤った知波単・西絹代が突撃していくシーンに使われています。知波単学園のアナクロだけど、どこか憎めないチーム体質を表したような曲です。

「孤高の戦車乗りです!」
 ピアノ主体の可憐でどこか寂しげな曲。愛里寿のテーマといった感じの美しい曲ですが、劇中では愛里寿が大洗との試合での勝利と引き換えにボコミュージアムのスポンサーを頼むシーンに使われています。

「島田流です!」
 ちょっとマイナーで大人びた感じの曲。サックス辺りを主体にジャズっぽく作ってあるのですが、劇中では未使用。

「夕暮れです!」
 ストリングスとピアノが奏でる沈痛な物悲しい曲。ここまで暗い曲は他にはないので、ひたすらに印象深く染みこむブラックホールのような曲ですが、劇中では廃校が告げられるシーンと、学園艦が出港していくシーンに使われています。

「少しだけ疲れちゃいました!」
 「戦車道行進曲」のフレーズをマイナーにピアノアレンジしたような雰囲気の曲。悲しいというより寂しさと脱力感を感じるような曲ですが、劇中ではバスに乗って山奥の廃校に向かうシーンに使われています。

「みんなの想いはひとつです!」
 ギターとピアノのアンサンブルから始まり、木管とストリングス、ピアノが奏でる美しくゆったりとした、ちょっとセンチメンタルな感じの曲。廃校が決まって退艦の前夜、みんなが学園への思いを語るシーンに使われています。

「なんとなくの日常です!」
 ギターとピアノのフレーズから始まる、穏やかな心情曲。鉄琴のような音はシンセの代用かな。廃校での夜、みほが星空を見上げるシーンに使われています。

「準備を怠りません!」
 パーカッションとピアノのフレーズから始まって、木管が奏で上げていくゆっくりとしたテンポのリズミカルな曲。廃校の生活でそれぞれの課題に取り組んでる戦車道チーム(風紀委員を除く)のシーンに流れています。逆境の中でも自分たちの進むべき道を見失わない、そういう強さを感じられる曲です。

「西住流です!」
 ピアノを伴奏にして木管とストリングスが奏でる懐かしそうな温かそうなゆったりとした穏やかな曲。みほが熊本の実家に戻った時に使われている曲ですが、西住流というよりまほ・みほ姉妹の曲って感じです。

「Ⅱ号戦車が好きです!」
 これはマンドリンかな。ゆったりとした穏やかなアルペジオ。実家からの帰路、Ⅱ号戦車の車上でみほが幼少期のまほとの思い出を回想するシーンに使われている曲です。

「会長もたまには働きます!」
 スパイ映画か戦争映画の斥候のような感じの力強くリズミカルなヴァイオリンによるフレーズから始まるシチュエーション曲。スリリングに事態の展開を醸し出すこの曲は、劇中では会長がなんとか廃校を撤回させようと文科省役員に交渉するシーンと、大学選抜チームとの試合前日いきなり殲滅戦であることが告げられて苦境に陥るシーンに使われています。

「希望の光は絶対に消えません!」
 パーカッションとストリングスが主体で、次第に明るく力強くリズミカルに盛り上がって最後に華々しくブラスが奏でられる曲。廃校に帰ってきた会長がみんなに試合の決定を伝えるシーンに使われていますが、けっこう盛り上がる曲なのに一部しか使われてないのが残念なところです。

「学園十色です!」
 黒森峰女学園の「パンツァー・リート」から始まって、サンダース大付属の「リパブリック讃歌」、プラウダ高校の「カチューシャ」、聖グロリアーナ女学院の「ブリティッシュ・グレナディアーズ」、アンツィオ高校の「フニクリ・フニクラ」、継続高校の「Säkkijärven polkka」、知波単学園の「雪の進軍」がメドレーで流れ、最後に「戦車道行進曲」でまとめ上げられてる曲。いうまでもなく各高校のライバルたちが短期転校の手続きで大洗女子の援軍に駆けつけてくるシーンの音楽。この映画で一番盛り上がるところといえば盛り上がるところですね。

「アンコウ干しいもハマグリ作戦です!」
 スローペースでゆったりと、じわじわと始まる戦いの序章のような曲。全体的に緊迫感を感じさせる中、ところどころコミカルなフレーズが混じっていたりして、混成チームの個性的な面々を描いているようです。最初の作戦会議のシーンの他、試合の後半で遊園地跡に布陣するシーンにも使われています。

「まるで西部戦線みたいだと優花里さんが言ってます!」
 スローペースでゆったりとした、もったいぶってるような感じの「戦車道行進曲」のアレンジ曲。始まりを奏でるファンファーレのようなイメージ曲なのだけど、ファンファーレ的な華やかさよりは優雅さを感じられる曲です。劇中では大洗女子学園チームの出陣シーンに使われています。
 音楽とは関係ないですが、このシーン、大洗チームの全戦車が横一列で走行しているロングの俯瞰から、各戦車の脇を舐めてⅣ号戦車のアップになるまでの長々としたシーンが1カット。いくらオールCGでやってるとはいえ、相当に手間が掛かってるだろうと圧倒されました。

「ジェロニモです!」
 西部劇の騎兵隊のようなブラス主体の華々しくスピーディーなアクション曲。劇中では遊園地内のウェスタンゾーンの町並みの中、パーシングに挟まれたポルシェティーガーがハリボテ同然だからと建物の中を突っ切って背後に回りこんで反撃するシーンに使われています。

「待ち伏せします!」
 パーカッション主体の時代劇風サスペンス曲。遊園地の西裏門に布陣していた知波単チームが付近の池の中に潜んでパーシングを待ち伏せするシーンに使われています。

「知波単、新たなる戦いです!」
 前曲のようなパーカッションのフレーズの後、ブラス主体で力強く「知波単学園、戦車前進!」のメロディーが奏でられる曲。劇中では遊園地跡の終盤近く、バレー部の八九式中戦車と合流した知波単チームがパーシングを倒していくシーンに使われています。

「好敵手です!」
 前半は「孤高の戦車乗りです!」のモチーフを使った軽快なマーチ風の曲。後半はトリルでテンポアップするかのように繰り返して盛り上がっていく感じの曲。愛里寿の大進撃って感じの曲ですが、劇中では試合冒頭、大学選抜チームの出陣シーンに使われています。

「長距離砲です!」
 緊迫するサスペンス曲。迫り来る脅威って感じですが、劇中では3箇所、あさがお中隊の知波単部隊が砲撃を受け最初に戦端が開くシーン、どんぐり小隊の前にカール自走臼砲が現れるシーン、遊園地跡で通用門組が罠に嵌って野外音楽堂で包囲されるシーンに使われています。

「挟まれそうです!」
 スピーディーで緊迫感あふれる激しいサスペンス曲。固唾を呑む戦況って感じですが、劇中では未使用のようです。

「無双です!」
 重厚に奏でられる「孤高の戦車乗りです!」のモチーフ。遊園地跡の終盤、愛里寿のセンチュリオンが戦線に参加するやいなや、バタバタと大洗女子学園チームの戦車を瞬殺していくシーンに使われています。名づけて愛里寿の快進撃って感じですね。
 どうでもいいけど、トリルで盛り上がっていく曲が多いかな。

「決断します!」
 トランペットの寂しげなフレーズの後、美しくも物悲しげで深刻そうなシチュエーションを奏でるストリングス。後半はブラスの低音が重なってより重々しい空気をこれでもかというくらいに奏でます。劇中では雨の中のプラウダ部隊の撤退戦シーンに使われていた、悲惨さを感じさせすぎるどっちかというとわざとらしい曲です。

「劇場版・緊迫する戦況です!」
 これはテレビシリーズの曲のリメイク版。重厚さや緊迫感は増強されていますが、アレンジ的にはテレビシリーズより勿体ぶってて、ちょっとじらせ過ぎのような気が。これも「戦車道行進曲」のアレンジ曲ですね。劇中では2箇所、エキシビション戦の終盤に海岸に突入するシーン、そして対大学選抜戦の終盤、斥候役のカルロ・ヴェローチェが追撃されるところから、ルミ・アズミ・メグミのバミューダアタックと愛里寿のセンチュリオンにⅣ号戦車とティーガーⅠ以外が倒されてしまうまでの畳み掛けシーンに使われています。

「冷静に落ち着いて!」
 スリリングに激しく奏でられる「戦車道行進曲」のアレンジ曲。かすかに「孤高の戦車乗りです!」のモチーフも絡まっていて、まさに西住みほと島田愛里寿の最終決戦という感じですが……決着が付くまでは流れていないんですね。途中中断のようなところで終わってしまってる感じ。実際、劇中では中断したところでクマの乗り物の現実音楽が流れて、その後は音楽抜きで決着をつけています。

「ヴォイテク!」
 ゆったりと優雅に奏でられる「戦車道行進曲」のフレーズ。テレビシリーズの「戦車道アンセムです!」と同系統の大団円でハッピーエンドの曲。劇中ではラストに大洗女子学園の勝利が宣言され、愛里寿がみほに限定版ボコを手渡すシーンに使われています。
 タイトルのヴォイテクは第二次世界大戦でポーランド軍に所属していた子供の兵隊グマの名前。愛里寿が乗ってきたクマの乗り物を見立てたネーミングですね。

「劇場版・乙女のたしなみ戦車道マーチ」
 これもテレビシリーズのリメイク曲。元はED曲「Enter Enter MISSION」のカップリング曲をマーチにアレンジしたものですが、劇中ではサンダース大付属のスーパーギャラクシーが預かっていた大洗の戦車を返しに来るシーンに使われています。
 しかし、草地や土砂の上ならともかく、アスファルトの路上に戦車を投下して大丈夫なんだろうかと気になっています。

「おいらボコだぜ!」
 ボコミュージアムのシーンで流れていた曲です。愛里寿がアカペラで歌ってるシーンもありますが、当然ながらそっちは未収録。

「Säkkijärven polkka」
 フィンランドの民族楽器カンテレで奏でられるフィンランド民謡。劇中ではどんぐり中隊の主力が殺人レシーブ作戦でカール自走臼砲を倒す機会を作るために、継続高校のBT-42が1両でパーシング3両相手に大立ち回りを繰り広げるシーンに使われていますが、映画では一番印象的な曲ですね。
 とはいえ、この曲はテンポが早過ぎるので本来はカンテレじゃなくアコーディオンなんかで演奏されるみたいです。劇中で何度かミカが何か語るときにスローバージョンの曲が使われていますが、それくらいならカンテレでも大丈夫でしょうが。

「雪の進軍」
 日清戦争の体験を元に作られた軍歌のオーケストレーション。元歌の方はテレビシリーズのプラウダ戦で斥候に出掛けた秋山殿とエルヴィンが歌ってましたが、こちらは知波単学園のテーマ。劇中ではエキシビション戦で知波単部隊が勝手に突撃して自滅していくシーンに使われています。

「アメリカ野砲隊マーチ」
 アメリカのマーチ王、スーザによる作曲。テレビシリーズでも録音されていますが、それのリメイク。原曲はスーザの完全オリジナルではなく、トリオ部分に既成曲の野砲隊歌を用いているのですが、ガルパン版のこの曲はイントロとこのトリオを反復して使う形にアレンジされていて、スーザの作った本来の主部が削られてしまってるという……。劇中ではサンダース大付属のスーパーギャラクシーが大洗の戦車を引き取りに来るシーンに使われています。

「Home!Sweet Home!」
 原曲はイングランド民謡「埴生の宿」。ギターによるスローテンポのバラード風にアレンジされています。劇中では対大学選抜戦の前夜、試合会場を視察してるみほと会長のシーンから、ダージリンが各校に暗号電文を送るシーンに掛けて流れています。

「When Johnny Comes Marching Home」
 原曲はアメリカ民謡「ジョニーが凱旋するとき」。南北戦争の頃に歌われていた曲らしいです。ここでは非常に勇壮なマーチにアレンジされていて、T-28重戦車の登場シーンに使われています。また、廃校で秋山殿が食事を作ってるシーンで歌ってる鼻歌もこの曲ですが、当然ながら未収録。

「パンツァー・リート」
 原曲は戦前のドイツで作られた戦車軍団の歌。映画『バルジ大作戦』でも盛んに歌われてますが、なにぶんナチス時代の曲なので、今でもドイツ国内で扱いは微妙らしい。でも自衛隊は平気で演奏しています。この曲もテレビシリーズで録音されたものをリメイクしていますが、劇中では未使用です。
 推測ですが尺的なことを考えると「学園十色です!」のスペアとして録音されたのではないでしょうか。

     ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 映画序盤のエキシビション戦ではテレビシリーズの音楽が割と多く使われているので、このサントラだけで劇場版の音楽を網羅することは出来ませんが、割とよくまとまってるような気がします。
 必ずしも劇中での使用順とサントラの収録順が一致していないのは、製作期間とか考えると致し方無いとはいえ、大学選抜チームの曲が後方に集中してるのは、あえてそういう並びにしてるような気がしないでもありません。

 映画本編とサントラ盤を聴き比べるようなことは、久しくしていなかったのですが、面倒とはいえ、たまに好きな作品でやるのは良いものですね。
 聴き比べてみるとわかりますが、劇中使用曲とサントラ収録曲は必ずしも編集やミックスが一致していません。この辺り、劇伴マニアからすると実際の劇中使用バージョンのサントラが聴きたいという欲求は抑えられないのですが。なんせCD冬の時代なんてことが言われ始めて久しいですからね。昨今のサントラ盤が出ない作品が多いことを考えたら贅沢は言ってられません。

「ガルパンは良いぞ!」なんて陳腐なことは言いませんが、ガルパン好きで劇中に流れてるマーチに興味を持ったような人なら、聴いてみて損はないと思います。

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「2chのヘッドホンだけど5.1chが楽しめる」はちょっと微妙かもしれませんが、戦車の音はなかなか迫力あります。でも、音楽が聴きづらいんだよねぇ。音声オプションでコメンタリーとかと並んで劇伴オンリー(セリフ、効果音なし)とかいうのがあったら嬉しいのですが。


余談(大いにネタバレ注意)

 ポルシェティーガー、テレビシリーズから見てる人はモーター積んだハイブリッド戦車ということを知ってるでしょうけど、映画で初めて見る人はタイトル部分での駆動音に気付かないと、ラストの活躍シーンについていけないような気がします。
 終盤、愛里寿のセンチュリオンと合流しようと急ぐルミ、アズミ、メグミのパーシング3両をなんとか止めようと喰い下がる大洗女子学園チームですが、次々に撃破されて残ったのがポルシェティーガーとティーガーⅡ(エリカ)、T-34/85(カチューシャ)の3両だけ。ところがティーガーⅡとT-34/85はパーシングの速度に追いつけない。
 そこでポルシェティーガーがハイチューンしたモーターを全開させて、スリップストリームでティーガーⅡとT-34/85を引っ張っていきます。結局、モーターが焼き切れてポルシェティーガーは脱落してしまいますが、そのおかげでなんとか追いついたティーガーⅡとT-34/85がルミのパーシングの撃破に成功します。
 アズミとメグミのパーシングは逃したものの、ルミを脱落させたことで中央広場での決戦は2対3に持ち込ますことが出来ました。もし、ルミが生き残っていて2対4になってると、西住姉妹が勝てたかどうかは疑わしいところです。

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2010.01.13

宇宙戦艦ヤマト復活篇 オリジナル・サウンドトラック・アルバム

 知らない間に2010年になっちゃいましたが、とりあえず復活しちゃったのでヤマトの音楽でも聴いちゃいましょう。
 この数年の間に宮川泰、羽田健太郎というヤマトの音楽を担ってきた二大巨匠が相次いで亡くなられたので、『復活篇』の音楽はいったいどうなるのかと心配していましたが、新規の作曲家に一任するという形ではなく、既存の音楽とクラシック曲をベースにしたものになってしまいました。ま、両者の音楽の印象が大き過ぎるとはいえ、新しいヤマトの音楽というものも期待していただけに少し残念だったのは確かです。

 さて、発売されたサントラ盤の収録曲は以下のとおりです。

 01. 無限に広がる大宇宙
 02. カスケードブラックホール
 03. 古代の帰還
   「別離」
   「別離09」
 04. 若者たち
 05. 氷塊に眠る
 06. ヤマト発進
   「発進準備」
   「宇宙戦艦ヤマト2009/Short Version(THE ALFEE)」
   「宇宙戦艦ヤマト2009/Symphonic Version(Instrumental)」
 07. 戦火の渦へ
   「新コスモタイガー2009」
   「ヤマトの戦い」
 08. フライバイ・ワープ
 09. アマール
 10. ゴルイ
 11. 女王イリヤ
 12. 未来への戦い
 13. SUS大要塞
 14. 「復活篇」のためのシンフォニー
 15. メッツラー
 16. この愛を捧げて
   Symphonic Version(Instrumental)~Short Version(THE ALFEE)

 ……というところで、いつものように順番に聴いていきましょう。

『無限に広がる大宇宙』
 ヤマトといえばこの曲は外せない、川島和子による冒頭スキャット。これは『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』の「序曲」からの抜粋。今回の映画でも「無限に広がる大宇宙……」というお馴染みのナレーションのバックに使われていますが、宇宙の光景も従来の手描きの美術じゃなくて完全にCGの映像になっちゃいましたが、この音楽があるだけでやっぱりヤマトなんだなと懐かしく感じます。

『カスケードブラックホール』
 今回の地球を襲う最大の危機であるカスケードブラックホールの音楽はマーラーの交響曲第2番『復活』第一楽章から。『復活篇』だから『復活』ってわけでもないでしょうが、カスケードブラックホールの持つ脅威や神秘性というものはうまく表されている感じがします。

『古代の帰還』
 古代の登場シーンに使われていたのは『別離」』。元々は『新たなる旅立ち』や『永遠に』でサーシャ絡みの別れのシーンに使われていた曲ですね。ユキとの別離ってわけでもないんでしょうが、宮川泰のせつないメロディーがこの作品における古代とユキの立場を心情的に語っています。
 後半のストリングスメインのより悲しげな『別離09」』は今回の新録。3年ぶりに再開した娘の美雪に拒絶される父親の寂しさがありありとしてきますが……オリジナルの演奏と続けて聴くと、曲のイメージがどうしても違ってしまいますねぇ。

『若者たち』
 これは『新たなる旅立ち』の主題歌のインストゥルメンタル。確か『新たなる旅立ち』では未使用で、『ヤマトIII』の実弾演習の回で使われていたように思います。今回の映画では古代がヤマトに乗り込んで、小林や機関部員の双子と出会うシーンかと思うんですが、実際に使われていたかどうかは記憶が定かでありません。

『氷塊に眠る』
 古代がヤマトにたどり着く直前、『完結編』でのヤマトの最後のシーンが挿入される部分で使われていた曲。これは『完結編』のイメージアルバム『ファイナルへ向けての序曲』の最後「宇宙戦艦ヤマト メモリアル」の既存曲のメドレーが終わったラストに入ってる曲で、『完結編』の「ファイナル・ヤマト」の原曲ですね。「ファイナル・ヤマト」が『大ヤマト零号』で使いまくられてたから、対抗してオリジナルを主張したってわけではないと思いますが。

『ヤマト発進』
 いよいよアクエリアスの氷塊から発進する新生ヤマト。『さらば』や『完結編』では『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』の「誕生」がヤマト発進のシークエンスを盛り上げていましたが、ここではその伝統を受け継ぐべく『発進準備」』新録曲が使われています。雰囲気的には「誕生」というよりは『永遠に』の「俺たちのヤマト」に近いような気がしますが……
 そして「誕生」中間部のブリッジに続けて THE ALFEE による『宇宙戦艦ヤマト2009』が続きます。でも、オリジナルのささきいさおの歌と比べてどうこうというよりも、ヤマトの発進シーンはインストゥルメンタルというイメージがあるから、個人的にはボーカル曲は入れて欲しくなかったですね。西崎監督的には『オーディーン』の「Gotta Fight!」の流れなのかもしれませんが。

『戦火の渦へ』
 前半最大の山場は、ゴルイ提督率いるエトス艦隊と第3次移民船団を護衛するヤマトの激しい戦闘シーンです。ヤマトの新艦載機コスモパルサーの出撃シーンに使われていたのが新録の『新コスモタイガー2009』です。
 以前『交響組曲 新 宇宙戦艦ヤマト』発売時のプレミアムライブの時に宮川泰が「新コスモタイガー」の人気が高いのを不思議がっていましたが、原曲の「新コスモタイガー」は軽快なイメージを出すためかブラス主体でライトな仕上がりになっていたのが、この『交響組曲 新 宇宙戦艦ヤマト』では他の曲とのメドレーという面もあるから、かなり厚めのアレンジに変更されていて、それがカッコよかったんですね。
 今回の新録もこの時のアレンジ以上に重厚なオーケストレーションがなされていて、なかなかカッコよく仕上がっています。
 後半の『ヤマトの戦い』は今回の新録曲のアレンジを担当している山下康介によるオリジナル曲。ヤマトのテーマモチーフを織りまぜながら緊迫感のあるスリリングな曲調で戦闘シーンを彩っています。

『フライバイ・ワープ』
 ブラックホールをスイングバイに使った移民船団の大ワープ。この緊迫感溢れるシーンに使われているのは『完結編』の「驚異のニュートリノビーム」。解説には「羽田健太郎の楽曲の普遍性」とか書いてありますが、『完結編』でハネケンが書いてたのは主にシチュエーション音楽ですからねぇ。

『アマール』
 移民の受け入れ先であるアマールで使われているのはチャイコフスキーの『スラブ行進曲』。アマールの持つエスニックなイメージと政治的に緊迫している雰囲気がぴったりとはまってる感じですね。

『ゴルイ』
 自らの誇りを取り戻すため、SUSに反旗を翻すゴルイ提督に使われるのはベートーヴェンの『エグモント序曲』。この曲自体が圧政に反旗を翻して犠牲になった英雄を描いた戯曲のために作られた曲なので、それを意識しての使用なんでしょうね。『復活篇』に使われているクラシック曲の中でもあまりとっつきやすい曲とは言えませんが、それだけに聴きこむことによって心情的な訴えが伝わってくる感じです。

『女王イリヤ』
 ゴルイ提督の犠牲と、蜂起を訴える民衆の叫びに揺れ動くアマールのイリア女王。その心情を繊細に奏でているのが横山幸雄のピアノによるショパンの『ノクターン第1番』。この横山幸雄というピアニスト、同時期に発売された『交響曲・宇宙戦艦ヤマト』の新録盤『交響曲ヤマト2009』のソリストを担当していますが、どんな人かと思えば、以前に関西フィルの定演での伊福部昭の『リトミカ・オスティナータ』で物凄い熱演を聴かせてくれた人じゃないですか。以前、東京交響楽団による『交響曲・宇宙戦艦ヤマト』の再演を聴いた時、ピアノがこの人だったらなぁと思ったのはナイショですが、それがこうして実現してくれたのはこの上もない喜びです。

『未来への戦い』
 地球人類の存続と真のアマールの独立のためにSUSとの最終決戦に向かっていくヤマト。そのバックに流れるのが横山幸雄のピアノによる力強いベートーヴェンのピアノソナタ『月光』。この人、力強い曲を弾かせると一流ですね。並のピアニストじゃ、これだけの演奏はできません。流石に『リトミカ・オスティナータ』のリハでピアノの弦を2本切ったというだけあります。

『SUS大要塞』
 ヤマトのトランジッション波動砲でハイパーニュートロンビーム砲が粉砕されるとともに沈んで行ったかに見えたSUSの要塞が、異空間から自由自在に出現してヤマトを攻撃してくるシーンに使われているのがグリーグの『ピアノ協奏曲イ短調作品16』。ヤマトの敵は強大になるにつれて宗教掛かってくる印象がありますが、これもその流れのひとつという感じです。力強いオーケストラに絡んでくるピアノの音色が、荘厳なイメージで敵の圧倒的な力を醸し出してるようです。

『「復活篇」のためのシンフォニー』
 これは90年代に出た『復活篇』のメイキングビデオである『胎動編』当時に作曲された、羽田健太郎の遺作をアレンジし直して新録した曲。ギターソロがどこかノスタルジーを感じさせる曲ですが、全体的には勝利の凱歌ともいうべき勇壮なイメージですね。敵を打ち破って大団円って感じの曲ですが、映画で使われていたかなぁ?

『メッツラー』
 これは山下康介による新録曲。異次元の異種生命体であるメッツラーの不気味さや恐ろしさ、そしてヤマトや地球にこれから待ち受ける宿命への予感を表してる曲なのかなぁ。これも実際に使われていたのかどうか、印象に残っていません。メッツラーのところはビジュアルの印象が圧倒的ですからねぇ。

『この愛を捧げて』
 THE ALFEE によるテーマソングをSynphonic Versionのインストゥルメンタルからのメドレー。映画では前半は使われていませんね。雰囲気的にはヤマトの歴代の映画主題歌よりも『オーディーン』の「Odin」的な印象を受けます。やっぱりヤマトのテーマソングはもうちょっとロマンティックな感じで愛を歌ってくれないと……
 ま、世間にはいろんなジンクスがあるわけだけど、THE ALFEE が主題歌を歌ったのが原因で某宇宙を走るSLみたいに「第一部完」が永遠の最後になってしまったりしないことを祈りたいと思います。

(発売元:EMIミュージック TOCT-26918 2009.12.16)

     ☆ ☆ ☆

 既存のヤマトの劇伴曲からはこのサントラに収録されている曲以外にも『さらば』の「ゆうなぎ」前半、『完結編』の「抜けるヤマト」や「ウルクの猛攻」などが使われていますが、この辺は音響監督の人の趣味で選曲してるようにも思ってしまいます。

 新録曲を担当してる山下康介は羽田健太郎の教え子だそうで、その関係で『復活篇』の音楽に抜擢されたのでしょうか。大林宣彦作品等の映画音楽をはじめ、ドラマや戦隊物、アニメでは『ガラスの艦隊』や『ドラゴノーツ』、『しおんの王』など多くの作品を手掛けてるようですね。
 演奏はクラシック曲が日本フィルハーモニー交響楽団、それ以外の劇伴新録曲が東京ニューシティ管弦楽団とのこと。かつてのようにあちこちから演奏家を集めてシンフォニック・オーケストラ・ヤマトとして録音するような形じゃないのは、音楽プロデュースを務めた大友直人の意向とか、その他の現実的な事情とかあるのでしょうか。

 それにしても、横山幸雄のピアノは凄いに付きます。今回はクラッシック曲の演奏だけですが次は劇伴曲の演奏もやって欲しいですね。従来のヤマトのピアノを弾いてきた羽田健太郎が「お洒落」で「華麗」だとすると、横山幸雄は「繊細」と「力強さ」というところですか。この人のピアノで「自動惑星ゴルバ」とか「SYMPHONY OF THE AQUARIUS」とか聴いてみたいですね。

     ☆ ☆ ☆

 ……ということで、今回の題材のサントラ盤。

宇宙戦艦ヤマト復活篇オリジナルサウンドトラック
宇宙戦艦ヤマト復活篇オリジナルサウンドトラック


 ついでに『交響曲』。映画で使われていたのはハネケン自身の演奏の初演の音源ですが、今は入手困難みたいなので、横山幸雄がピアノソロを担当している新録盤。

宇宙戦艦ヤマト復活篇オリジナルサウンドトラック 交響曲ヤマト2009
宇宙戦艦ヤマト復活篇オリジナルサウンドトラック 交響曲ヤマト2009

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2008.10.22

『あさっての方向。』Original Sound Track "truth"

 相変わらず時期外れのレビューです。昨今のアニメの本数からは遅れが広がることがあっても縮まることはまず無いので、これからもどんどん遅れて行くでしょう。サントラ自体はリアルタイムで入手してますが、作品があってのサントラですから、ある程度は作品本編が頭に入ってないと聴いても身が入らないのですね。
 『あさっての方向。』は京アニ版『Kanon』と同時期にBS-iで放送していた作品ですが、願い石に願って大人になってしまった少女と、それに巻き込まれて子供になってしまった少女の兄の元カノを巡る日常を丹念に描いた作品でした。
 こういう地味な作品というのは音楽にも堅実さが要求されますが、それに応えたのが光宗信吉の音楽です。光宗信吉というと以前に『ゼロの使い魔』を取り上げていますが、この作品は打って変わって、初期の『ナースエンジェル りりかSOS』を髣髴とさせるようなピアノ主体のサウンドでまとめられています。

 収録曲は以下の通り。

 01. 組曲『あさっての方向。』
 02. 光の季節 (TV size)
 03. 真心
 04. Summer Dream
 05. 夏祭り
 06. 願い石
 07. Pure
 08. お出かけ
 09. On the Beach
 10. 小さな冒険
 11. 無邪気
 12. 出会い
 13. Sad Things
 14. 願い
 15. わだかまり
 16. 郷愁
 17. 困惑
 18. 子供時代
 19. Jealousy
 20. ぎこちない雰囲気
 21. 穏やかな日々
 22. 晩夏
 23. 寂しさ
 24. 逃亡者
 25. 力を合わせて
 26. 家族のように
 27. 小さな幸せ
 28. High Tension
 29. 海の家
 30. 突然の別れ
 31. どじっぷり
 32. 尾行
 33. 照れっぷり
 34. 光の季節 piano version
 35. スイートホームソング music box version
 36. Summer Fantasy II
 37. 告白
 38. 和解
 39. ありのままの自分
 40. コマクサの花
 41. スイートホームソング (TV size)
 42. Summer Fantasy I
 43. 眼差し

 それでは適当にピックアップしていきましょう。

 「組曲『あさっての方向。』」は劇伴を素材に鑑賞目的を意識してまとめられた曲です。1枚まるまる劇伴曲をそのまま収録したサントラもあれば、収録曲すべてを観賞用にアレンジしなおしたサントラもありますが、中には一部だけ作り変えたりしたものもあります。昔のコンシューマー機のゲーム音楽のCDなんかでは、オリジナル音源の音楽に混じって生楽器で演奏しなおした曲とか混じってるものも多かったのですが、そんな感じですね。「組曲」と題してサントラの1曲目に乗せてあるのは、個人的には『劇場版スレイヤーズ』のサントラを思い出しますが……
 短いピアノの序奏の後、アバンタイトルのモノローグのバックで流れるスリリングな音楽。そして華麗なピアノによるメインテーマが始まり、木管のフレーズに続きます。ややテンポアップしてストリングスによるスリリングな展開。再び穏やかなピアノのメインテーマが流れ、やがて大団円的な盛り上がりで収束していきます。
 アバンタイトルで聴き慣れたフレーズから始まることで一瞬にして作品の世界に引き込まれますが、光宗信吉らしい華麗なピアノによるメインテーマが楽曲独自の世界に包み込んでくれます。続く展開部は劇伴そのものでは聴けない、アーチストとしての光宗信吉の音楽を堪能させてくれます。

 OP曲のTVサイズを挟んで実際の劇伴曲が並べられていますが、前半は光宗音楽の特徴とでも言えるピアノを主体にした曲が集められてる感じです。

 「Summer Dream」はファンタジックなピアノ曲。淡い短いフレーズの連続ですが、月光の中の願い石の奇跡が描かれてるようなイメージです。
 「夏祭り」はエレピから始まり木管、ストリングスと続く三拍子のメヌエット風の曲。ややノスタルジックな感じで、穏やかで華やかな夏の思い出を感じさせてくれるような曲です。
 「お出かけ」はゆっくりと弾むようなリズミカルなピアノに始まり、穏やかな木管のメロディーに続く曲。嬉しさとか、楽しさとか、夏休みへの期待感みたいなものを感じさせます。
 「On the Beach」は少しアップテンポでエレクトリックな感じの曲。リズムボックスの音が目立つ、少しスピーディーで穏やかな感じのメロディーですが、楽しい夏の光景ってイメージですね。

 「無邪気」はピアノによるメインテーマ。やがて木管に続いていきます。穏やかだけど希望にあふれてる感じが伝わってきます。弾むようなピアノタッチが印象的です。
 「出会い」は軽いピアノのフレーズから始まり、ストリングスを加えて穏やかに展開していきます。そして木管主体の第2のメロディーが奏でられ、だんだんと華やかな広がりを聴かせます。
 少し不思議な出会いの印象から、出会えた喜びとか感謝を思わせる雰囲気に繋がっていくようなイメージで、ホッと安心感を持てるようなまとまりの音楽かな。

 「願い」はスリリングな木管の旋律による、ちょっとスピーディーな感じの曲。ミステリアスな感じで事件の始まりっぽい感じの曲で、作品中でも印象的な使われ方をしてたように思います。どこか『りりかSOS』の最終回の音楽を思い出します。
 「わだかまり」は緩やかなスケッチ風のピアノ。少しリズミカルな感じに事件の進行や、後悔や悲しみなどやりきれない思いを切々と伝えます。
 「郷愁」は緩やかなピアノの旋律に始まる曲。以前の幼い印象を与える雰囲気から、一転して現実を思い出させるシビアなイメージを伝え、再び緩やかな旋律に戻っていきます。もう戻れない過去への郷愁というところでしょうか。
 「困惑」はゆっくりと弾むようなフレーズによる、日常的な雰囲気のコミカルなピアノスケッチ風の曲。曲だけ聴いてる感じでは「困惑」というタイトルがそぐわない感じなのですが、大人になってしまったからだや子供になってしまった椒子の、これまでの生活とは勝手が違った生活での戸惑いによる困惑って意味なんでしょうか。
 「Jealousy」は淡くセンチメンタルなメロディーに始まる曲。ピアノにファンタジックなシンセエフェクトを加えた感じですが、透明感あふれるピアノが印象的です。後半はピアノ主体のシリアスな雰囲気。

 中盤はピアノ以外の楽器を主体にした曲が集められてる感じですが、やはり主要なところをピアノで押さえてる感じがあるから、どちらかというと日常光景で用いるバリエーションって感じで、あまり印象的な曲はありません。

 「穏やかな日々」「晩夏」「寂しさ」の辺りはギターを主体にした曲が続きます。ピアノに比べて柔らかで、より穏やかなイメージや、風が吹けば飛んでいってしまいそうなもろく切ないイメージを奏でています。「寂しさ」の哀愁っぽさはやっぱりギターじゃないと雰囲気ありませんからね。
 「家族のように」はピアノと鉄琴によるゆっくりと穏やかなメインテーマの旋律。安らぎとか自分の居場所を感じられる、そんな曲です。
 「小さな幸せ」は木管というよりリコーダー系による、少し小刻みでリズミカルな感じの曲。椒子との同居生活になれて、日常生活が順調になってきたって感じの辺りの音楽でしょうか。
 「High Tension」はもろにディストーションを効かせたエレキ系のアクション曲。お得意のピアノ曲の繊細さに比べると、こういう方面はけっこうベタな作りの傾向がありますね。

 「突然の別れ」はゆっくりとしたピアノの出だしで始まる曲。寂しげな感じから徐々にリズミカルに転じていきますが、兄と椒子の以前の関係を知って、やるせなさと罪悪感を感じたからだが家出していく心情を巧みに描いている印象です。いかにも光宗信吉らしい心情曲といったところでしょうか。
 「照れっぷり」はミステリアスな感じのシンセ曲。波紋のような音と、淡いコーラス、水の流れるようなSE。淡く幻想的なイメージのする不思議な曲です。

 「光の季節 piano version」はOP曲のピアノソロ。淡く儚げで、少ししんみりとした寂しげな感じの曲です。
 「スイートホームソング music box version」はED曲のオルゴール・バージョン。やはりしんみりとした感じで、夢とか幼い頃の思い出とかいう雰囲気を醸し出しています。

 アルバムの終盤は本編でもクライマックスの重要どころに当てられた感じの曲が並んでいますが、音楽的にはストリングスが加わって弦楽オーケストラ風の盛り上がりを見せるところが聴きどころですね。

 「告白」は少し速めのスリリングなピアノのリズムで始まる曲。シリアスな雰囲気からショッキングな急展開のドラマを繰り広げるように変化していきます。後半はピアノとバイオリンによるゆっくりとしたフレーズから、やがてストリングスを中心にオーケストラ風の盛り上がりを見せます。
 家出したからだを探すテツと出くわしたからだが、大人の姿の自分がからだ本人だと告白するクライマックスの印象です。
 「コマクサの花」は軽やかなピアノによる安らぎ系のフレーズに始まる曲。すべてのわだかまりが解けたって感じで、ストリングス、次いで木管が加わってオーケストラ風の大団円的な終曲を盛り上げます。
 後半、間奏的に印象的なピアノソロが流れたと思ったら、最後は意外とあっさり終わってる感じです。

 「Summer Fantasy I」は最後にボーナストラック的に入ってる曲の1つですが、冒頭の「組曲『あさっての方向。』」で使われてるアバンタイトルのピアノ曲の単体バージョンですね。ファンタジックでミステリアスな雰囲気のピアノ曲です。
 「眼差し」はピアノとギターによるゆったりと穏やかな雰囲気の曲。作品中でも馴染みの深い平和な日常の中の温かなまどろみって感じの音楽ですが、アルバムの最後にここに収束させることで一つの世界が作られているようです。

     ☆ ☆ ☆

 実に光宗信吉の真骨頂って感じのサントラで、十分に堪能できるアルバムです。
 組曲的な楽曲は『りりかSOS』のサントラにも収録されてるのですが、『りりかSOS』では最終回のクライマックスでそれが延々と使われてて実に印象的だったのを覚えています。『あさっての方向。』はそんな波乱万丈な活劇でもないので、長々した楽曲を延々と聴かせ続けるような場面は想像できませんが、音楽的な指向は似たものを感じさせてくれます。

(発売元:ランティス LACA-5598 2007.01.24)

TVアニメ「あさっての方向。」オリジナルサウンドトラック
TVアニメ「あさっての方向。」オリジナルサウンドトラック

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2008.08.14

乙女はお姉さまに恋してる オリジナル・サウンドトラック

 今回は2006年秋に放映された深夜アニメ『乙女はお姉さまに恋してる』のサントラ盤です。例によって自分の作品視聴ペースに合わせた記事ですので、時代遅れとかいう批難はご容赦を。
 『乙女はお姉さまに恋してる』は、いわゆるスタチャ枠と呼ばれる時間枠で放映された作品で、最近では『D.C.II S.S.』とか『薬師寺涼子の怪奇事件簿』が放映されてる時間帯ですね。
 原作はキャラメルBOX製作の18禁PCゲーム『処女はお姉さまに恋してる』で、これをアルケミストがコンシューマー版にに移植したのがPS2版の『乙女はお姉さまに恋してる』です。ちなみにタイトルは共に「おとめはボクにこいしてる」と読むので「処女」が「乙女」に代わっても支障は無いのですが、やはり「処女」という言葉はレーティングで引っ掛かるのでしょうか? PC版PS2版ともボイス付きですが、アニメ版はいわゆるスタチャ声優主体にキャスト変更されています。

 作品内容というと、主人公がある理由で女装して女子校に通うことになるって作品で、正体を隠しながらエルダーという全校生徒の憧れの対象となる存在になっていくという作品です。原作ではやはりそのシチュエーションから妄想できる行為に至っていくものと思われますが、当然ながらアニメ版ではそういう要素はありません。主人公はあくまで健全なお姉さまとして振舞っていく作品です。(実のところ第1話ではそれっぽく思わせぶりな描写がいくつかあるのですが、第2話以降は完全に健全路線。主人公が男であると視聴者自身に思い出させるのは最終回あたりの展開になってからです)

 そんなわけで、作品の描写の中心となるのは舞台である聖應女学院での学園生活。音楽もお嬢様学校らしい優雅さを感じさせるような、ストリングスを活かした豊かな音作りの曲が多く使われています。
 音楽は原作『処女はお姉さまに恋してる』の音楽も担当してるらしいZIZZ STUDIOですが、原作の音楽は未聴です。
 サントラの収録曲は次の通りです。


 01. Love Power~TV EDIT VERSION~
 02. Beautiful day~TV EDIT VERSION~
 03. Mizuho's Thema
 04. Shion's Thema
 05. Mariya's Thema
 06. Kana's Thema
 07. Yukari's Thema
 08. Takako's Thema
 09. Ichiko's Thema
 10. Every Day
 11. Fresh Morning
 12. Good Feeling
 13. Amusement
 14. Surprise!
 15. Nostalgie
 16. Deep Relation
 17. Tense Situation
 18. Divine
 19. Anxiety
 20. Determination
 21. Party!!
 22. Charming Smile
 23. Final Parting
 24. Heart Pain
 25. Last Elegy
 26. Waltz
 27. YURI?
 28. Optimistic
 29. Coquettish
 30. Feel Down
 31. Action!
 32. Peaceful
 33. Let's Start
 34. Again Piano Arrange Version


 TVアニメのサントラということで細かな楽曲が多くありますが、いつものように適当に聴いてくことにしましょう。最近の音楽ですからベル系やブラス系は打ち込み音源で、ギターやバイオリン等のストリングスは生楽器の演奏っぽい感じです。(というわけなので、鉄琴とかハープシコードとかチェンバロとかチャイムとか書いてあるのは、その系統の音色っぽいといういうところです)

 「Love Power~TV EDIT VERSION~」は今は無きAice5によるOP曲。アニメでのキャスト変更の意図が色濃く出てる起用ですね。ウェディングベルを思わせるコーラスから華やかに始まり、アクティブにアップテンポで進行していく流れは好きです。声優ユニットの曲としてはパート分けがはっきりしていて聴きやすいですね。
 「Beautiful day~TV EDIT VERSION~」は榊原ゆいによるED曲。それまではエロゲ関係の人ってイメージが強かった榊原ゆいを一躍メジャーに押し上げた曲と言って良いでしょう。もっともシングルのタイトル曲はイメージソング「Again」の方なのですが。
 どちらかというと歌よりもEDアニメのやたらアゴの張ったデフォルメキャラの行進が強く印象に残ってたりしますが。

 「Mizuho's Thema」は主人公である瑞穂のテーマ。活発でカッコよく颯爽としてる感じの曲。ドキドキの女装をさせられて希望と不安の女子校生活ってイメージもあります。
 トランペットとチャイムによるイントロからフルートによる主題が始まります。トランペットのフレーズの後、同じフレーズをフルートが繰り返し、ストリングスが加わって展開していきます。不安げなエレピのフレーズにゆったりしたブラスが続き、やがて全体で主題を盛り上げて行き、最後はチャイムで締め括られます。

 「Shion's Thema」は先代のエルダーである紫苑のテーマ。まりやや貴子より先に名前が出てるってことは、原作では紫苑がプライマリヒロインなのかな? アニメでは瑞穂の理解者であり協力者という線をまったく越えてはいませんが。(というか、アニメ版は必要以上にまりやと貴子の敵対を強調し過ぎてる感じですね)
 ピアノのイントロから始まり、リード・オルガンによる主題が優雅に奏でられます。華やかで温かな感じで、見守ってくれる存在ってイメージです。
 「Mariya's Thema」は瑞穂の幼馴染みのまりやのテーマ。下町の娘っぽい浅野真澄の声もあるんだろうけど、元からお嬢様らしくない性格や陸上部員とかいうこともあり、可憐で活発な感じの曲で、いたずらっぽさも感じられます。
 ハープシコードのイントロに始まり、木管がメロディーを奏でますが、少しスピーディーでアクティブな感じの曲です。

 「Kana's Thema」は瑞穂の世話係の後輩、奏のテーマ。奏は大きなリボンを付けているのですが、これは魔法のリボンで実は「パラレルパラレル」と唱えると変身することができ……ません。せいぜい空を飛ぶだけのものです。
 エレピの小気味良いテンポに始まり、ブラスアンサンブルに展開、間奏部で印象的に鉄琴が使われ、木管に続いていきます。ゆっくり気味であどけないかわいさが感じられる曲です。
 「Yukari's Thema」はまりやの世話係の後輩、由佳里のテーマ。チェンバロ系を主体に、弾むような音色の曲。少し華奢で儚げな感じのする曲ですが、やや自身なさげだけど明るい後輩ってイメージですね。

 「Takako's Thema」は生徒会長の貴子のテーマ。以前からまりやとは敵対していて、まりやの推薦で瑞穂がエルダーに立候補したことで敵役になっちゃったって感じの人ですが、ものすごく生真面目な努力家なんですね。アニメでは一応この人がメインヒロインって感じなのかな。(ヒロインは瑞穂ちゃんだって話もありますが)
 ピアノに始まり、バイオリン主体で奏でられる哀愁漂うマイナー系のバラードって辺りがヒロインというよりライバルキャラ的な雰囲気ですが。鉄琴を交えたサスペンス風の中間部が印象的です。
 「Ichiko's Thema」は寮に居付いてる幽霊、一子のテーマ。ハーモニカ主体でうきうきスキップするような日常的な音楽。幽霊となって何の悩みもない能天気で長閑な感じがあふれています。

 「Every Day」はチェレスタ系でリズミカルな少しアップテンポの日常曲。楽しく明るい学園生活って感じ。
 「Fresh Morning」は弾むようなチェンバロ系。希望に満ちた朝って感じの曲です。未知の女子校生活を前にした期待や驚き、新鮮さとかいうものを表しているようです。
 「Good Feeling」はブラス主体のアクション曲……というか、ドタバタ系の匂いがする音楽です。派手でアップテンポ。作品中でも印象が強く、主にスポーツとか学園祭とかイベント関係のイメージがあります。
 「Amusement」はちょっとイタズラっぽい感じの曲。サンバ系のリズムにファンキーな木管のフレーズが特徴です。真ん中辺りでシンセが入り、少しサスペンス風のアクセントを刻んでいます。
 「Surprise!」はドタバタ系で走り回ってる感じの曲。アップテンポのチェレスタ系の弾むようなフレーズと、木管というかリコーダー系のファンキーな音が追いかけっこしてる感じかな。

 「Nostalgie」は木琴とフルートを主体とするメランコリックな感じの曲で、ややマイナー系。鉄琴のアクセントが印象的かな。回想シーンというよりどちらかというとかつて聖應女学院に通っていたという瑞穂の母親絡みのエピソードを思い出させる、センチメンタルなイメージの曲ですね。
 「Deep Relation」はスローテンポのサスペンス曲。低音のベースとピアノのアクセントがメインの曲です。疑念とか誤解、陰謀、敵対とかいうネガティブなイメージを感じさせます。後半になってストリングスのマイナーな旋律が入ってきます。
 「Tense Situation」はスローピッチで、少しスリリングなサスペンス風の曲。切羽詰った感じで、バイオリンの演奏が緊張感を高めています。途中でエコーが掛かったり、後半になると演奏がエスカレートし、速弾きなどのテクニックがなかなか聴きものです。

 「Divine」はチャペル風のオルガン曲。厳かな雰囲気とか、大事な決心って感じのする曲ですが、単にミッション系の学校って雰囲気作りかも知れません。
 「Anxiety」は鉄琴によるゆっくりとしたミステリー感の漂う曲。叙情的な雰囲気ですが、悩みとか心理的葛藤とか、そんなあたりを表してるようです。
 「Determination」はピアノによるセンチメンタルな感じの美しい旋律の曲。葛藤後の決心とか、心理の吐露とか、大きな問題にあたって重大な決心によって血路が開けたとかいうシチュエーションが印象的ですね。

 「Party!!」は「チュルルル~」とかいうコーラスが印象的な華やかな曲で、エピソードの最後に万事解決って感じでよく使われていた気がします。タイトル的には難関突破の後の打ち上げの宴会ってところですが。しばしば瑞穂の魅力をアピールするような印象を受けました。
 ライナーによるとコーラスはいとうかなこ。『破天荒遊戯』のOPやPS2版『ひぐらしのなく頃に祭』とかで最近名前を聞く人ですね。
 「Charming Smile」はゆったりとしたテンポの穏やかな曲。オルゴール系の少しメランコリックな旋律に始まり、柔らかなフルートの音色に続いていきます。優しさとか微笑みとか、そんなイメージの曲です。

 「Final Parting」はハープシコードのイントロから始まり、ハーモニカやフルートを主体に奏でられるゆったりとして哀愁漂うバラード系の曲。やがてストリングスが少し爽やかに感動的に盛り上げて行きます。
 最後の別れを前にした寂しさとか後ろめたさを振り払い、すっきりした結末を迎えていく感じです。
 「Heart Pain」はギターによるバラード系のエレジー。メランコリックな曲調で、後ろめたさとか後悔とか、そういう心理的状況を表してる感じです。
 「Last Elegy」はゆったりとしたギターソロによる「Party!!」のバラード・バージョン。とても心に沁みてくる曲ですが、罪とか罰とか、すべてを受け入れてしまった後の無力感の漂う悲しみとか寂しさとかいうイメージです。

 「Waltz」は最終回の生徒会主催の舞踏会の優雅なワルツ。現実音楽(作品世界の中で現実に流れている音楽)として用意されてるはずの曲なのですが、コンチェルト風に重ねられるピアノのフレーズが、揺れる心情を表しているような感じです。
 「YURI?」はヴィオラ(?)によるショッキングなサスペンス風の曲。タイトルが微妙ですが、少し妖しげなイメージですね。とくに中盤から後半にかけて派手な演奏が、大袈裟に強調付けてる感じです。
 「Optimistic」はピアノ、フルート、サックスの順で派手目のドラムとともに悪ふざけのようなコミカルなフレーズが奏でられていきます。イメージをそのまま外見に結び付ければトラブルメーカーとかトリックスターとかを思い浮かべますが、内面的に受け取れば空元気なんて感じもしてきます。
 「Coquettish」は繊細な鉄琴と凛々しく規律的なドラムスに、退廃的な雰囲気のストリングスが絡んできてる感じの曲。独特の緊迫感が醸し出されています。

 「Feel Down」は小刻みなテンポでメランコリックなストリングスで奏でられる曲。シンセボイスのバックコーラスが効果的に使われています。重大な決断を迫られて、深い悲しみやどうしようもない憂鬱な気分に落ち込んでいくような感じです。
 「Action!」は小刻みなテンポでスリリングなアクション音楽。急げ、瑞穂ちゃん!……って感じですか。
 「Peaceful」は台風一過、事件の後の穏やかな結末って感じの曲。いろいろあったけど、これで良かったんだってイメージかな。ハープシコードのフレーズから木管に引き継がれ、ストリングスの伴奏が加わってきます。淡く悲しげな雰囲気から開き直っていくような感じです。
 「Let's Start」は木管のメインフレーズがトランペットで繰り返されるスピーディーで爽やかな曲。アグレッシブに奏でられる希望にあふれた新たなる再出発ってところでしょうか。
 「Again Piano Arrange Version」はイメージソング「Again」のピアノソロによるバラード・バージョン。叙情的でセンチメンタルな雰囲気ですが、コーラスの後半の力強さが印象的です。

     ☆ ☆ ☆

 作品自体に物語の中心となるような一貫したテーマが存在しないので、そういう作品テーマ的な音楽は存在しません。各キャラクターのテーマの他には個々のシチュエーション音楽がパターン的に用意されてるって感じですので、バラエティ番組とかでも使いやすいような感じですね。
 音楽的には生楽器を使ってそうなのはギターとかストリングス系ぐらいで、後は打ち込みの音源みたいですが、意外と多くのところでストリングスの伴奏が入ってるので、音に厚みが感じられます。お嬢様学校が舞台ってこともあるのでしょうが、心持ちリッチな印象を受けますが、音の厚みに加え、各曲をきちんと楽曲として作り上げてるところにもあるのでしょう。例えサスペンス系の曲であってもエフェクトばかりを協調したME的なものは存在しません。
 主題歌のテレビサイズを最初に2曲並べてるところに少し違和感を感じたりしますが、各劇伴曲はどれも耳通りの良いサウンドなので、アルバムを通して聴いてもイージーリスニング的に楽しむことが出来るでしょう。

(発売元:キング KICA-812 2006.11.22)


乙女はお姉さまに恋してる オリジナル・サウンドトラック
乙女はお姉さまに恋してる オリジナル・サウンドトラック

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2008.06.27

Gift~eternal rainbow~オリジナルサウンドトラック

 今回は「アニメ魂」だか「アニメスピリッツ」だかの枠で放映されていた『Gift~eternal rainbow~』のサントラです。いささか時期を逸していますが、『奏光のストレイン』同様、個人的な作品鑑賞のスケジュールに関係するものです。
 作品を見た感じ、一目で思ったのは『D.C.~ダ・カーポ~』によく似てるなということですね。メインヒロインの莉子と霧乃がほとんどそのまんま音夢とさくらの関係にそっくりだし、人が一生に一度だけ使えるというギフトの力が、初音島の願い事をかなえる枯れない桜とオーバーラップしてきます。
 もっとも、この作品独自な要素も多くありますが、とりわけ印象深かったのはこの手の作品ではたいてい不在である主人公の父親がちゃんと出て来てたことですね。ま、作品の本筋とはあんまり関わってるようには思えず、中盤は出番も無かったように思いますが、最後に母親とギフトの関係を結び付けるヒントは出してくれました。

 音楽は七瀬光というのがランティスっぽいところです。以前にも『永久アリス輪舞曲』を取り上げていますが、いくつかの印象的なメロディーをモチーフにした曲を何パターンかアレンジしたのをメインに、その他のテーマ曲や状況音楽を組み合わせた作風というイメージの人ですね。
 収録曲は以下の通りです。


 01. 虹色センチメンタル(TVサイズ)
 02. 幼き日の別れ
 03. 幼なじみ
 04. 振り返って
 05. いつもの我が家
 06. 想い合う心
 07. しっかりしなさい
 08. 優しい幼なじみ
 09. 一緒に歩く
 10. 平和な時間
 11. いたずら心
 12. 魔法少女
 13. 家族の団らん
 14. 学園生活
 15. 不気味な空気
 16. 怪しいぞ
 17. お仕置きだ
 18. 和の心
 19. 偽り
 20. 張りつめた時間
 21. 得体の知れないもの
 22. 行き場を失って
 23. よぎる不安
 24. 心の溝
 25. 言いしれぬ不安
 26. 非日常的な会話
 27. Giftの修正に向かう
 28. 想い合う気持ち
 29. 通じない心
 30. 淡い恋
 31. 美しい記憶
 32. 霧乃のピアノ
 33. ふるさとの喜び
 34. 素直になって
 35. 分かり合う時
 36. 想い出の音
 37. Giftのテーマ
 38. ココロ虹を架けて(TVサイズ)


 「虹色センチメンタル」はOPテーマ。スピーディーで爽やかな印象を受ける曲です。
 「幼き日の別れ」はメランコリーなオルゴール風の曲。ややゆっくりとしたテンポで、淡いノスタルジックなメロディーを奏でています。
 「幼なじみ」はピアノによるゆっくりと穏やかな曲。少し弾むようなリズムで、憧れの感情とか淡い初恋といったイメージも含めつつ、心の安らぎどころというような印象も受けます。
 「振り返って」はグラスハープか何かの音色による透明感あふれる「Giftのテーマ」。作品中で非常に印象的に使われているモチーフメロディーですが、ここではピュアなイメージのGiftを表しているようです。思いやりや真心、希望……そんな純粋な心で彩られたGiftです。

 「いつもの我が家」はスタッカート気味のバイオリンと、弾むというよりは転がるような木琴のフレーズで奏でられる、ガボット調の2拍子の曲。全体的にコミカルな雰囲気が漂いますが、よくある日常の光景といった感じです。
 「想い合う心」はゆっくりしたバラードに始まるピアノ伴奏とグラスハープのフレーズ。やがてゆったりと雄大にバイオリンのメロディーが奏でられます。センチメンタルな雰囲気で、ラストは切なく。懐かしい義妹との心の触れ合いっといった印象でしょうか。

 「しっかりしなさい」はスローピッチでリズミカルなコミカル系の曲。日常のさりげない光景をシンセとギターで奏でたような感じです。
 「優しい幼なじみ」はリズミカルなチェンバロ系の音色によるかわいらしい曲。甘える感じとか、安らぐ日常光景とか、そんな感じです。
 「一緒に歩く」はマーチ風のテンポでアレンジされた「想い合う心」のメロディー。フルートの旋律を主体にリズムが強調付けられてる感じです。イタズラっぽさと優しさが同居したような、愉快な日常を思い浮かべます。
 「平和な時間」はゆっくりしたシンセギターと木琴のフレーズによって奏でられる曲。日常の何気ない穏やかなシーンという感じです。
 「いたずら心」「優しい幼なじみ」のメロディーのアレンジ曲。こちらは木琴系の音色によって奏でられる、ちょっとしたイタズラ心とか、ふざけ合いというイメージで、ちょっぴりドキドキするような感覚です。

 「魔法少女」は少しスピーディーなハプニング系のアンサンブル曲。タイトルから見ると「魔女っ子」千紗絡みのドタバタ騒動って感じで、ハラハラドキドキやお茶目感たっぷりな、一種のパターン曲ですね。めくるめくバイオリンの展開が事態のエスカレートを物語っている印象です。
 「家族の団らん」「いつもの我が家」のライトアレンジ。シンセギターと木琴による弾むような感じの曲です。
 「学園生活」はアップテンポに奏でられる「優しい幼なじみ」のアレンジ曲。鉄琴とギターで奏でられ、パーカッションが小気味良い感じの曲です。学園生活らしい活発さを描いた感じですね。

 ここからはサスペンス系の状況音楽が続いたりしますので、適当に端折ります。

 「怪しいぞ」はいわゆる『ピンクパンサー』系の泥棒シーンでお約束のミステリー音楽。ま、1フレーズ聴いただけでどういう状況かはわかるのですが、こういうのがパターン化されてるのはどうなんでしょうか。
 「お仕置きだ」はスケルツォ風の大騒動曲。こういうのもパターンといえばパターンですね。スピーディーなバイオリンの展開から始まって、アップテンポにコミカルに繰り広げられて行きます。

 「行き場を失って」はピアノとバイオリンによる「Giftのテーマ」のマイナーアレンジ。悲しげで深刻なイメージで、レクイエムの雰囲気です。悲嘆にくれてやるせない想いとか、救いを求めて彷徨ってるような印象です。
 「Giftの修正に向かう」は激しいサスペンス音楽で、スピーディーでスリリングな曲です。ピアノ伴奏とオケのメロディーで緊張の連続が奏でられ、後半はアクティブな行動へのつながりを感じさせます。作品のクライマックスに繋がって行く音楽のようです。
 「想い合う気持ち」「想い合う心」のピアノアレンジ。ゆったりとした日常の労り合いって雰囲気の曲です。
 「通じない心」「行き場を失って」をさらにパラードっぽくアレンジしたピアノによる「Giftのテーマ」のマイナーアレンジ。間違ったGiftによって絶望に陥ってしまった霧乃と莉子の悲嘆と後悔を表してるような感じです

 「霧乃のピアノ」は霧乃が幼い頃にコンクールで弾いていたピアノ曲。たまたまその日が莉子との別れの日だったために春彦に拒絶され、どうしてもピアノを最後まで弾けなくなってしまうというトラウマの原因になった曲ですが……なかなか力強い展開を見せるラプソディーです。
 「ふるさとの喜び」はギターソロによる淡く軽やかな感じの「Giftのテーマ」のアレンジ曲。絶望の淵から希望を見出したようなイメージで、物語の転換点といった感じの曲です。
 「素直になって」はグラスハープによる「虹色センチメンタル」のバラード風インストゥルメンタル。笑顔を見出し、心情的な解決に至ったような雰囲気を印象付ける音楽です。

 「分かり合う時」「Giftのテーマ」のオーケストラアレンジ。物語の大団円に大きな祝福を与えているかのような感じです。
 「想い出の音」「虹色センチメンタル」のオルゴール風アレンジ。淡く儚げで、懐かしくセンチメンタルな感じの曲です。
 「Giftのテーマ」は作品中で様々にアレンジされて使われてる曲ですが、これが基本形でしょうか。ピアノに始まり、バイオリンが続き、そして室内楽風に展開して行きます。ピアノが霧乃、バイオリンが莉子をイメージする楽器としたら、2人の和解によるハーモニーがこの曲を完成に導いてるという解釈に結び付きそうですが……
 「ココロ虹を架けて」はEDテーマ。ED映像のようなアコースティックな引き語りってわけではありませんが、ギター伴奏主体のフォークっぽい出だしの曲ですね

     ☆ ☆ ☆

 EDで莉子がギターの弾き語りをしてる映像の印象が強いせいか、莉子の方が音楽的なキャラクターのような気がしたりするのですが、実際にはピアノを弾く霧乃の方が音楽に結び付いているんですね。
 そんなわけで、音楽としてピアノに印象付けられてるのが霧乃。一方、莉子の方はバイオリンっぽい感じかな。ま、あくまでそういう印象って感じで、個々の曲にピアノやバイオリンが使われてるからって必ずしもキャラクターと関連付けられてるわけではありませんが。
 何と言っても印象的なのは「Giftのテーマ」で、次回予告に使われてることもあるけど、作品を見てるだけで刷り込まれてしまう感じです。全体的に音楽は淡白な感じで、優雅さを感じた『永久アリス輪舞曲』に比べるとチープな印象を受けるのは、むしろアコースティックなイメージを志向してるからでしょうか。同時期に放映されていた『乙女はお姉さまに恋してる』の音楽がけっこうリッチな印象を受けていたのとは対照的です(どっちの方が音楽にお金が掛かってるのかは知りませんが)。逆にその分だけ余計に「Giftのテーマ」の印象が強まってくるんですね。この曲が無ければこのサントラ盤は聴かなかったかも知れません。
 やはりアニメの劇伴というのは作品そのものの展開の中で印象付けられる音楽が一番貴重だと思える一例です。

(発売元:ランティス LACA-5601 2007.01.24)

Gift~eternal rainbow~オリジナルサウンドトラック
Gift~eternal rainbow~オリジナルサウンドトラック

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2008.06.11

Selfconsciousness-岩崎琢 劇伴音楽集- DISC 2

 引き続いて2枚目です。

-DISC 2-
 『びんちょうタン』
 01. Nostalgia
 02. 菩提樹
 『銀色の髪のアギト』
 03. M-23
 04. M-21b
 『オーバン・スターレーサーズ』
 05. Theme De Molly - Action
 06. Theme D'Aika
 『009-1』
 07. Theme Of 009-1
 08. Theme Of 009-1 (Closing Mix)
 09. The Conflicted World
 『結界師』
 10. Take Over Destiny
 11. Magic Mushroom
 12. Get Away From Here
 『天元突破グレンラガン』
 13. お前のxxxで天を衝け!! / Another Mix
 14. "libera Me" From Hell
 15. 合体なんてクソくらえ
 16. 「萌え」っていったい何ですか?
 『ペルソナ~トリニティ・ソウル~』
 17. SOMEWHERE
 18. Der Mond Zeigt Mir Meine Eigne Gestalt
     ~ハイネ「doppelganger」より~
 『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 星霜編』
 19. Eclipse
 20. And You And I
 21. Cord Of Life


 『びんちょうタン』はアルケミストのマスコットキャラを主人公にアニメ化した作品。おんぼろの山小屋で一人暮らすびんちょうタンの清貧な生活をほのぼのと描いた作品でしたが、飽食時代に育った「ゆとり」の人たちにはとても悲惨な作品に見えたらしく、ネットの感想に違和感を覚えたのが記憶に新しいところです。
 「Nostalgia」は郷愁感というよりもどっちかというと神秘的な雰囲気の森を印象付けるような曲です。たしかネットで先行配信されてた第1話だかパイロット版だかの冒頭で使われていたと思いますが、本格的なファンタジーなら似合いそうな曲だけど、ほのぼの系のびんちょうタンとは世界が違うんじゃないかと感じてました。
 「菩提樹」はピアノによる穏やかな美しいフレーズに始まる曲。やがてゆったりとしたストリングスに展開されます。自然の中で生きる大らかでほのぼのとしたびんちょうタンの生活を表してるかのような感じです。

 『銀色の髪のアギト』は数年前に公開された劇場用アニメですね。確かWOWOWで放映されたのを録画したような記憶がありますが、まだ見てません。
 「M-23」はゆっくりと大きく展開していく堂々としたモチーフの曲。大団円に向けてのクライマックスの盛り上がりって印象を受ける壮大なオーケストラ曲です。
 「M-21b」はゆったりとしたストリングス系の安らぎの曲。雰囲気的にはロマンスの盛り上がりの音楽って感じなのですが、実際はどうなんでしょう。

 『オーバン・スターレーサーズ』はBS2の衛星アニメ劇場の枠で放送されてた3DCGアニメだったかな。確か1話だけ流し見しただけでやめにした記憶があります。
 「Theme De Molly - Action」はスピーディーでスリリングなアクションテーマ。かっこよくて爽快な曲ですね。
 「Theme D'Aika」はリズム主体で繰り広げられるアクションテーマ。異国情緒なフレーズがストリングスで展開され、アップテンポに盛り上がっていきます。

 『009-1』は石ノ森章太郎原作の女スパイの物語ですが、いまどき石ノ森キャラでお色気って言われても……という感じなので第1話ぐらいしか見てません。
 「Theme Of 009-1」「R.O.Dのテーマ」と同系統のスパイアクションテーマですね。「R.O.D」と比べるとこちらの方が少しアダルトっぽいイメージですが。
 「Theme Of 009-1 (Closing Mix)」はそれの別バージョン。
 「The Conflicted World」はスリリングなサスペンス曲。徐々に迫りくる危機とか、そういう感じです。中盤のドラムス主体に展開されるところがなかなか聴き応えあります。後半はスリリングに盛り上がり、激しく展開していきます。

 『結界師』はやはり原作読んでたらアニメはいいやと思って、初期の頃に少し見ただけで終わっています。
 「Take Over Destiny」は前曲と似た感じで激しく展開されるアクションテーマです。
 「Magic Mushroom」は曲名が曲名だけに、なんか精神がトリップしたような感じの不思議系の音楽ですね。
 「Get Away From Here」はアップテンポでアグレッシブなボーカル入りの曲。

 『天元突破グレンラガン』はドリル萌え萌えの男のアニメ。まだ流し見しただけで視聴の待ち行列の中の作品ですが、地面に這いつくばってたころはあまり面白そうには思えなかったので、それなりにチェックするようになったのはアンチ・スパイラルとの戦いになってからかな。
 「お前のxxxで天を衝け!! / Another Mix」はゆったりとした始まりの曲。そこからスピーディーなリズムで大きく盛り上がっていきます。
 「"libera Me" From Hell」は宗教的なイメージの女声コーラスと、アイキャッチで使われてる男声のスキャットというかシャウトのラップを組み合わせた、とてもカオスな感じの音楽。ピアノの淡い伴奏が印象的です。雰囲気的にはクライマックスの運命との死闘ってイメージですが、実際にはどうなんでしょう。
 「合体なんてクソくらえ」は激しいリズムと男声のボーカルだかシャウトだかが強調されるヘビメタ系の曲。劇伴的には乱戦のイメージですね。
 「「萌え」っていったい何ですか?」はフルート主体のゆっくりと穏やかな曲。どこか寂しげで、ちょっぴり悲しい思い出って雰囲気ですが、タイトル的にはニア関係の音楽かな。最終回のラストでニアが消えていくあたりかもしれません。

 『ペルソナ~トリニティ・ソウル~』は現在放映中の作品ですが、作品サントラより先行収録というのが売りみたいです。割と丁寧に作ってある作品なのでいつか見ようと録り残してありますが、今のところはたまにチェックしてるぐらいですね。
 「SOMEWHERE」はピアノのイントロで始まる女声コーラスの曲。木管の伴奏が印象的で、どこかクラシック系の子守歌って雰囲気です。後半は大きくオーケストラに展開されていきます。
 「Der Mond Zeigt Mir Meine Eigne Gestalt」はオペラのようなソプラノが印象的な曲です。運命的なレクイエムといった雰囲気の曲で、歌劇風の激しい展開を見せていきます。

 『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 星霜編』はBSフジが開局記念番組として繰り返し放送してた作品ですが、ほぼ全編が断片的な回想シーンの繋ぎ合わせで構成されてるので、物語としてはあんまりよくわかりませんでしたね。
 「Eclipse」は重々しく展開される壮大なアダージョ。さながら剣心の生涯を振り返る一大交響詩のような曲です。
 「And You And I」はストリングスで展開される、切なく感傷的な曲。
 「Cord Of Life」は木管とストリングスで奏でられる穏やかな曲。物語の最後にたどり着いた安らぎのイメージかな。

     ☆ ☆ ☆

 作曲家自らによるセレクトということですから、おそらく自信作とか思い入れのある曲というのが主眼に来るだろうから、作品的な視点から代表曲を選んでいったのとは違ってくると思いますが、その辺りは個別のサントラを聴いていないので何とも言えません。ただ、『エンジェル・ハート』辺りは実に印象的な曲を選んできてますね。
 また、割とタイトル曲が主題歌じゃなくインストゥルメンタルを使ってる作品が多いのが印象的で、そういう作品はテーマ曲を率先して選んできてあるので馴染み深いイメージですが、そうじゃない作品は純粋な本編中の劇伴が中心なのでアンバランスな感じがします。

 この手の作曲家別にアニメの劇伴を集めたベストってのは意外と無いものなのですね。川井憲次のベスト盤だって映画音楽が中心で、そこに劇場版アニメの音楽がいくらか含まれてるぐらいのもので、膨大なテレビアニメの劇伴は範疇外です。大島ミチルも映画音楽やテレビドラマの音楽をそれぞれ録り直してベスト盤にしてますが、アニメ音楽は蚊帳の外にされていますね。昔、『トップをねらえ!』のサントラに「田中公平の世界」なんてタイトルが付いてたこともありましたが、もちろん『トップをねらえ!』の音楽しか収録されていません。
 一方、最近はサントラ盤の発売自体が確実なものとは言えなくなってて、DVDの初回特典とか言われても手を出しにくいものですし、出たサントラ盤だって商品寿命が短いからすぐに廃盤って感じで、後から作曲家の作品を探そうと思っても困難な場合が多いから、ベスト盤のような形で触れることが出来れば嬉しいものです。(そのベスト盤もすぐに廃盤とかいうと困るんですが)
 実際に作ろうと思えばレコード会社の垣根とかいろいろ難しい大人の事情とかも出てくるでしょうが、アニメの劇伴作曲家として基本的に押さえておきたいと思えるような人のベスト盤とか、どこかシリーズ化して出してくれないでしょうかね。


(発売元:アニプレックス SVWC-7542 2008.04.02)

Selfconsciousness-岩崎琢 劇伴音楽集-
Selfconsciousness-岩崎琢 劇伴音楽集-

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Selfconsciousness-岩崎琢 劇伴音楽集- DISC 1

 岩崎琢という作曲家は自分にとって鬼門なのか、サントラの類を全然持ってなかったような気がします。それでいて、やってる作品はけっこう見てるんですね。下手すれば川井憲次や田中公平よりもカバー率は高いかもしれません。
 名前を最初に見たのは『今、そこにいる僕』あたりからかな。それから『るろうに剣心 星霜編』とか『びんちょうタン』とかでいろいろ見掛けるようになったんですけど、どれも微妙なところでサントラを買うほど夢中になる作品ではなかったとか、そういうのばかりが続いていたようです。

 今回、岩崎琢のアニメ音楽のベスト盤が出てきたので、今までの埋め合わせという思いもあって聴いてみました。
 2枚組で曲数が多いので2回に分割します。1枚目の収録作品は以下の通りです。


-DISC 1-
 『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 追憶編』
 01. In Memories "ko・to・wa・ri"
 02. Quiet Life
 『今、そこにいる僕』
 03. Now & Then
 04. A Sign Of Hope ~Stand Up For...
 『R.O.D -READ OR DIE-』
 05. R.O.Dのテーマ ~long Version~
 06. 書を愛して狂う者日く、"紙は常に我らと共に"
 『Witch Hunter ROBIN』
 07. Robin
 08. Kyrie
 『Get Backers -奪還屋-』
 09. Domestic Babylon
 10. Gib Mir Dinen Giftstob βzahn
 『R.O.D -THE TV-』
 11. 影が行く
 12. 健康と平和
 13. R.O.D -the Tv-のテーマ -i▼香港 Version-
 『焼きたて!!ジャぱん』
 14. パンタジアの娘
 15. 焼きたて!! ジャぱん
 『BLACK CAT』
 16. TI UCCIDO MA NON MI SODDISFO
 『エンジェル・ハート』
 17. 虚ろな心
 18. 暗闇に見えた夕陽

 作品数が多いので、各作品2~3曲ずつってところですか。それでは順番に聴いていきましょう。

 まずはOVAの『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 追憶編』から。作品は見たことが無いので、音楽もこれが初めてです。
 「In Memories "ko・to・wa・ri"」は幻想的に始まる追憶の曲。徐々にリズムが強くなって来ますが、全体的にレクイエム風の曲ですね。中間部のフルートのソロが切ないです。続くバイオリンのソロも印象的。後半は少し明るくなって魂が救われていくような感じかな。
 初めてなのに聴いた記憶があるように思うのですが、『星霜編』でも同じモチーフが使われていたのでしょうか。
 「Quiet Life」はストリングスによる安らぎ系の曲。やはり心が救済されていくイメージかな。

 次は大地丙太郎監督の意欲作『今、そこにいる僕』から。主人公が巻き込まれてタイムスリップしてしまった未来の話なんですが……ヒロインの一人がレイプされて子供を産むって展開は衝撃的でした。
 「Now & Then」はややノスタルジーな雰囲気の曲。どちらかというと後から物語を振り返った視点って感じかな。ストリングスの美しい優雅な曲です。
 「A Sign Of Hope ~Stand Up For...」もノスタルジックな雰囲気のピアノが印象的な曲。思春期の切ない思い出とか、もう戻れない遠い過去って感じかな。後半は大きくオーケストラに展開。爽やかな青春ってイメージを奏でています。

 倉田英之のライトノベルをアニメ化した『R.O.D -READ OR DIE-』ですが、原作は好きで読んでたけど、このOVA版は以前にチャンネルNECO辺りでやってたのをいつか見ようと保存はしておいたけど、まだ見てないままですね。
 「R.O.Dのテーマ ~long Version~」はいかにもスパイアクションとか特殊エージェントものを想起させるスリル&ミステリーなテーマ曲。アダルトなジャズ系バントのサウンドですね。
 「書を愛して狂う者日く、"紙は常に我らと共に"」は鉄琴の軽やかな音色が印象的なエレガントな雰囲気のムード音楽風の曲。サックスだかクラリネットだかのジャズっぽいパフォーマンスも印象的です。タイトル的には読子の活躍シーンの曲なのかな。

 『Witch Hunter ROBIN』はどこかミステリアスな感じの物語でしたが、割と好きな作品でしたね。
 「Robin」はミステリーっぽく淡々とした雰囲気のテーマ曲。OPの映像の影響もあるんでしょうが、霧の中をあてもなく彷徨ってる感じかな。ピアノやベル系のメロディーと小刻みに響くリズムセットがどこか切なさを感じさせます。
 「Kyrie」は宿命的なものを感じさせるような男性コーラスの曲。ラストのゆっくりと響くエレギのフレーズが印象に残ります。

 『Get Backers -奪還屋-』は主人公の一人が『マクロス7』の熱気バサラにそっくりだったのが印象に残ってます。
 「Domestic Babylon」は叙情的なストリングスから始まる曲です。中盤からリズムやブラスが入ってきてアップテンポなってきて、やがて流れるようなフレーズのストリングスを主体に展開していきます。
 「Gib Mir Dinen Giftstob βzahn」は断続的に展開していくサスペンス曲。後半は激しくスリリングに盛り上がり、テンションの高いサウンドが展開されます。アクション系の劇伴ならではの醍醐味って感じですね。

 『R.O.D -THE TV-』は『R.O.D』のテレビシリーズってことですが、放映されてるのを見たことが無いのでよくわかりません。
 「影が行く」は淡々と流れる静かで叙情的な感じの曲。センチメンタルな雰囲気ですが、後半はリズムが入ってスリリングに展開していきます。運命的なものを感じさせるシリアスなイメージですね。
 「健康と平和」は淡々としたフレーズが繰り返されるマイナー気味の曲。
 「R.O.D -the Tv-のテーマ -i▼香港 Version-」はOVA版のテーマ曲のアレンジバージョンですね。でも、へんに違いを出そうとしてるためか、原曲と比べたらメリハリのキレが中途半端で少しもどかしい感じがします。

 『焼きたて!!ジャぱん』は原作の連載を読んでたから、アニメの方はたまに気が向いた時にしか見てませんでしたが、リアクション担当の子安武人の怪演ぶりには楽しませてもらいました。
 「パンタジアの娘」ピアノの即興曲のようなイントロに続いて、ヨーロッパ映画のような雰囲気のオシャレで弾むような気分で奏でられる曲です。タイトルからすると月乃のテーマ曲ってところでしょうか。
 「焼きたて!! ジャぱん」は少し優雅な昼下がりって感じで、まるで料理番組のテーマ曲のようなイメージです。そのためか、他のテレビ番組に使われているのを聴くのも多いですね。

 『BLACK CAT』は原作が好きだったのでアニメもそのまま見てましたが、ラストの急展開には付いていけませんでした。
 「TI UCCIDO MA NON MI SODDISFO」は女声コーラスがフィーチャーされた宗教がかったような宿命的な雰囲気の音楽。クライマックスの怒涛の展開を演出するような感じのイメージですが、実際はどうだったのか記憶にありません。

 『エンジェル・ハート』は割と最近に見た印象があります。『シティハンター』はあまり好きではなかったけど、この作品の方はついつい見入ってしまいました。
 「虚ろな心」は単調なピアノのフレーズに始まり、サックスをメインにした大人っぽいムードを展開させて行く曲。どこかセンチメンタルな感じがするのも特徴。
 「暗闇に見えた夕陽」はゆっくりとしたピアノによる穏やかな曲。日常の安らぎとかぬくもりといったところですが、思い浮かぶのは不思議な少女ミキによって救われた海坊主というところでしょうか。

(続きます)

(発売元:アニプレックス SVWC-7542 2008.04.02)

Selfconsciousness-岩崎琢 劇伴音楽集-
Selfconsciousness-岩崎琢 劇伴音楽集-

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2008.02.10

奏光のストレイン サウンドトラック

 『奏光のストレイン』は2006年の秋からWOWOWのノンスクランブル枠で放映されていた本格的な宇宙SFロボットアニメです。『ストラトス・フォー』のスタジオ・ファンタジアの作品ということで期待を抱いた作品でしたが、主人公の兄の叛逆から始まるシリアスな作品展開とはいえ、そのSFテイストは健在であり、SFロボットアニメであっても地球圏の重力に囚われた作品が多い昨今では、久々に恒星間レベルでの宇宙空間の存在を感じさせてくれる作品でした。(え、『ガラスの艦隊』? どこのファンタジー世界の作品ですか?)

 音楽の担当は酒井良。『封神演義』やってた人だなという記憶があるぐらいで、後は『妖しのセレス』ぐらいしか知りませんが、本作では極めて印象的な次回予告の音楽など、クリア感のある明瞭な劇伴が特徴的でした。
 ……と、過去形で書いてますが、昨今の大量アニメに追いつけず現在視聴中なわけですが、見てる時期が放送と違うと困るのがサントラ盤の入手ですね。どちらかというと実際の作品を見て気に入ったらゲットというタイプなので、気に入って買おうと思ったらもう店頭に見当たらないとかいう恐れが多々あります。もっとも、昨今はAmazonとかを使えば比較的過去の商品でも簡単に入手できるようになりましたが、それでも廃盤になったらお終いですね。
 幸い、このサントラ盤は現在でも店頭で見掛けることが出来ますが、現在放映中の作品なんか見れるのが何年先になるか……とか思ったら、とても心配になります。ま、目ぼしいだろうと思った作品のサントラは先物買いしてはいますが……

 では、『奏光のストレイン』のサントラ盤の収録曲です。

 01. Waltz for Strain(Music Box)
 02. メッセージ ~TV version~
 03. Glabella
 04. Higher and Higher
 05. Over the Stellar
 06. Threat
 07. Raider
 08. Attack
 09. Strain Battle
 10. Nostalgia
 11. Sympathy
 12. Deague
 13. Strategy
 14. TUMOR
 15. Interval
 16. Waltz for Strain(for Guitar)
 17. Warmer Hands
 18. optik
 19. Kitpo
 20. Doubt
 21. Solitude
 22. Standby
 23. Perception sharing
 24. The Conflict
 25. Crossing The Line
 26. The Decisive battle of Fate
 27. Waltz for Strain
 28. 海のオパール~TV version~
 29. アウローラ~ひとすじの曙

 いつものように印象に残った曲を中心に聴いていきましょう。

 「Waltz for Strain(Music Box)」はファンタジックなオルゴールの音色によるメインテーマのワルツバージョン。ゆっくりとしたテンポで、少し寂しく、せつない感じがします。
 こういうオルゴール曲が冒頭に置かれてると、これから昔話やおとぎ話が語られるというシチュエーションを暗示しているかのようです。物語が終わった後で振り返るように聴くためのサントラ盤とかいうことでしょうか。

 「Glabella」はゆっくりとした行進曲風のリズムの曲。やや重苦しい感じを漂わせ、悲痛な感じを静かに奏でながら、物語のプロローグを語る雰囲気の音楽です。グラベラというのは物語の発端の舞台となった惑星の名前なので、作品の基底として主人公セーラの決意などを感じさせる印象があります。
 「Over the Stellar」は華やかな出撃シーンを思わせる音楽。決意に燃えてるとか期待を受けてるとか、物語を盛り上げるシチュエーションのイメージです。ややスピーディーなリズムに、ストリングス系のさわやかなメロディーが魅力です。「星を越えて」ってことだから、亜空間航行中にも行動可能なストレインの活躍という感じの曲でしょうか。

 「Strain Battle」は軽快なリズムから始まるメインテーマ。ここではブラス中心で力強い8ビートのアクション系の曲として展開されます。主にセーラの活躍を描くようなシーンで使われる、主役らしいカッコイイ曲ですね。
 「Sympathy」はピアノを中心とした、ゆっくりとして悲しげな曲。ストリングスが切ない調べを奏でます。悲劇的なセーラの運命に、何故かありえないシンクロを見せるミミックのエミリー……具体的に心を通わせたり出来る存在ではありませんから、まさにシンパシーを通じた関係で、セーラは心の傷を癒してるような印象です。

 「Waltz for Strain(for Guitar)」はギターによるメインテーマのワルツバージョン。オルゴールに比べると軽快で情緒的な調べですが、やはり物悲しさや寂しさを感じる曲です。孤独なセーラの心情を歌った感じですね。
 「Warmer Hands」は日常の安らぎ系の曲。フルートとギターがメインで、まさに戦士の休息という感じのリラックス曲。歩兵科で苛めに遭ってた頃のセーラはとにかく悲惨だったから、機甲科に転籍してから仲間に温かく迎えられるようになってホッとします。それでも本人が打ち解けるまでには時間が掛かるのですが……

 「optik」はコミカル系の日常音楽。コミカルなフレーズにリズムを交えたベル系の音色が反発してる感じですが、後者の際立ったアクセントが印象的です。どちらかというとセーラにライバル意識を持って何かと張り合ってるロッティを思い浮かべる曲ですね。
 「Doubt」「Solitude」は作品中でも印象に残る2大鬱曲。前者はストリングスがメインの悲痛な曲で、突然の兄の裏切りに疑念を抱き、その理由を知ろうと追い続けるセーラの悲しみと苦悩を表した音楽。
 後者はとてもスローテンポで、深い悲しみを感じさせるストリングス系のソロ曲。その理由ゆえに正体を隠し、歩兵科の同期からは苛められっぱなしのセーラの孤独感を表しています。セーラの心の奥の悲しみとか、絶望感を感じさせます。

 「Standby」は堂々とした出撃シーンの音楽。ブラスとドラムスが響く力強い曲で、いよいよ決意を込めた最終決戦って感じで盛り上げてくれる印象ですが……
 「The Conflict」は重厚でスリリングなサスペンス系で、やや速いテンポの戦闘音楽。まさに兄ラルフとの対決シーンって感じで、クライマックスの盛り上がりを感じさせてくれる曲です。でも、最高に盛り上がったところで「次回に続く」なんて予感を感じたりするのは、心が捻くれてるのかなぁ。

 「Crossing The Line」はやや軽快でハイテンポ、テクノっぽいベースやリズムが印象的な曲。ストリングスの爽快な旋律が、セーラの活躍を感じさせてくれます。タイトルからすると、ようやくセーラが兄のラルフに追いついたというあたりの音楽なのでしょうか。
 「The Decisive battle of Fate」はスリリングで重厚な盛り上がりのクライマックスの音楽。分厚いブラスによる、まさに堂々としたラストバトルという感じです。

 「Waltz for Strain」はマイナー系の寂しげなメインテーマのワルツバージョン。ストリングス中心の室内楽スタイルの演奏で、まさに舞踏会のワルツって感じなのですが、こんなマイナー系のワルツ、実際の舞踏会に掛かったりはしませんね。
 メヌエット風のおとなしめの演奏と、ブラスやパーカッションが加わった分厚く堂々とした激しめの演奏が交互に繰り返されます。どこか大河ドラマのエンディング風のイメージですね。

     ☆ ☆ ☆

 このサントラでは何パターンかメインテーマのワルツバージョンが収録されているのが印象的ですが、これは『奏光のストレイン』という作品そのものを一種の登場人物たちが織り成す踊りのような感覚で音楽が作られているということかも知れません。
 かつて『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』に「20世紀の白鳥の湖」というキャッチフレーズが使われてたり、『銀河英雄伝説』での印象的な「ボレロ」など、アニメのスペースオペラは舞踊曲との相性が良いということもありますし。

(発売元:ハピネット HMCH-2007 2007.01.24)

奏光のストレイン サウンドトラック
奏光のストレイン サウンドトラック

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2007.11.26

Shiro SAGISU Music from“EVANGELION:1.0 YOU ARE(NOT)ALONE”

 今回は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』のサントラです。今回はタイトル表記が「ヱヴァンゲリヲン」となっていますが、最初のTVシリーズ以来「エヴァンゲリオン」という表記の方が慣れ親しんでるので、映画のタイトルそのもの以外は従来通りの表記を用います。

 『新世紀エヴァンゲリオン』というと当時はまだモノラル放送だった地元の奈良テレビで1年近く遅れて放送し始めたのを見たのが最初で、それまで異様に世間で盛り上がってるから、逆に余計な情報は出来るだけシャットアウトして見てたのを思い出します。
 当時はニフティ・サーブのアニメフォーラムで『アニメ音楽年代記』とかいう連載を始めてたのですが、『宇宙戦艦ヤマト』から始めた連載のとりあえずの終了目標が『エヴァンゲリオン』の予定でした。連載は数年続き、ようやく『エヴァンゲリオン』の手前までやって来たところで運悪くパソコンがクラッシュ。記事のための準備が全部吹き飛んでしまって(気分的に)何も手が付けられなくなってしまいました。
 その後、個人的にいろいろあったり、パソコン通信自体が衰退していく中でモチベーションも失って、結局そのままでフォーラム終了の日を迎えてしまいました。ここで躓かなければ『機動戦艦ナデシコ』とか『少女革命ウテナ』とか、書き続けたい作品もあったんですけどね。

 そんなわけで『エヴァンゲリオン』の音楽というといろいろと思い入れもあるわけですが、今回の劇場版もTVシリーズに引き続き鷺巣詩郎の担当ということで期待が高まりました。
 個人的には鷺巣詩郎というと『幻夢戦記レダ』とか『きまぐれオレンジ☆ロード』の人って感じであんまりSFロボット物の音楽ってイメージはなかったんですが、それを覆したのが『ふしぎの海のナディア』でした。『エヴァンゲリオン』は『ナディア』に引き続いての庵野秀明監督作品ということで、さらに音楽の方向性が先鋭的になってきた感じでしたね。

 今回の劇場版は当初は(富野ガンダムみたいにどうせTV版の再編集だろうと)見に行く予定はなかったんですが、ネットでヤシマ作戦とかの評判が良いから見に行くことにしました。『エヴァンゲリオン』でヤシマ作戦は一番のツボです。それが最新の映像でリメイクされてるなら見に行くしかありません。(二番目は弐号機の八艘飛び)
 映画の音楽を聴いて感じたのは、何か変にアーチスト志向にアレンジした音楽だなという感じです。旧作ではストレートに流れていた音楽が、いわゆるアレンジアルバムのような感じの作りで置き換えられているんですね。個人的にはかなり違和感を感じてしまいました。
 もっとも、TVシリーズでも同じ曲のテイク違いとか別バージョンとかがかなり多用されてた感じですから、慣れてしまえばどうってことが無いのかもしれませんが。

 まぁ、この辺のサントラというよりアーチスト志向というのはアルバムのタイトルにも見て取れますが。
 収録曲は以下の通り。

 01. L'Attaque des Anges (EM01)
 02. I'll Go On Lovin'Someone Else (EM02)
 03. Premiere Manoeuvre (EM03)
 04. Staggering Yet (EM11)
 05. Les Betes (EM05_B)
 06. Crepuscule-Tokyo III (EM06)
 07. Cruel Dilemme (EM09)
 08. The Longest Day (EM10_A)
 09. Contre Les Agressions (EM04_A)
 10. Showdown (EM05_A)
 11. Mecanisme de Defense (EM13)
 12. Cruel Dilemme II (EM16)
 13. Rei-Opus IV (EMA13_B)
 14. The Longest Day II (EM10_B)
 15. Lucifer's Cry (EM17)
 16. Cruel Dilemme III (Guit_A)
 17. Strategie“Yashima" (EM18_Rhythm03)
 18. The Longest Day III (EM10_C)
 19. Danse des Lucioles (EM19)
 20. Battaille Decisive (EM20)
 21. Angel of Doom (EM21)
 22. Rei-Opus V (EMA01)
 23. Trailer Eva Special (EMF02)
 24. EM17_Demo
 25. EM21_Demo
 26. Cruel Dilemme IV (Guit_C)

 それでは聴いていきましょう。

 「L'Attaque des Anges」はシト襲来シーンでお馴染みの音楽。TV版サントラ1収録の「ANGEL ATTACK」が原曲です。比較的原曲に近いアレンジという感じです。
 さすがに大規模なフルオーケストラで演奏されてるだけあって、TVのサントラとは音の厚みが違います。比較的ブラスやストリングスが引っ込んで、パーカッションが目立つ感じです。ブラスパートの一部がエレギに置き換わってる感じもします。
 原曲の「ANGEL ATTACK」はシリーズ全般にわたってシトの襲撃シーンに頻繁に使われている曲ですが、やはり一番印象に強いのは第1話冒頭のシト出現シーンでしょう。

 「I'll Go On Lovin'Someone Else」はショッキングなサスペンス風の序奏に始まるピアノ曲。聞き覚えが無いので新曲のようです。
 刹那的で儚げな、運命的な旋律をしっとりとしたタッチのピアノが奏でています。イメージ的には運命と向き合うシンジってところでしょうか。

 「Premiere Manoeuvre」は初号機が初めて発進するシーンの音楽。原曲はTV版サントラ1の「EVA-01」。
 原曲に比べて非常に幅広くゆっくりとした感じのサウンドで、悠然としたイメージを受けます。後半の盛り上がりの中で響くトランペットが印象的です。
 初号機の名前が付いた原曲の「EVA-01」ですが、意外にもTVシリーズでの使用シーンは今回の劇場版と同じ初号機の発進シーンの一度だけです。

 「Staggering Yet」は地表に出た初号機が出撃するシーンの音楽。原曲はTV版サントラ1の「A STEP FORWARD INTO TERROR」。
 イントロのアレンジがマイナー気味で、テンポがもどかしい感じ。なかなかメインの旋律が出て来ず、じわじわと重厚感を高めています。やがて馴染みのメロディーが流れてきますが、どちらかというと演奏は抑え気味で、バックのリズムの方が目立ってる印象ですが、音楽の壮大さは格別です。

 「Les Betes」は初号機が第4使徒サキエルに苦戦するピンチの状況の音楽。原曲はTV版サントラ1の「EVA-00」の別バージョン。TV版のほぼ同じシーンに用いられて印象が強いのですが、3枚のサントラの中には収録されていません。(後に発売されたコンプリート版CD-BOX『S2 WORKS』に収録)
 比較的原曲に忠実なアレンジですが、大編成による生演奏らしい音の揺らぎが随所に感じられます。
 原曲は第2話冒頭の他には第5話の零号機起動実験のシーンで使われています。

 「Crepuscule-Tokyo III」初戦闘の後、ミサトがシンジに第3新東京市のビルが生えてくる光景を見せるシーンの音楽。原曲はTV版サントラ1の「TOKYO-3」。
 さすがに原曲と比べると雄大さが絶品。ホルンの響きもなかなかです。ちょっとテンポがゆっくりな感じがします。
 原曲の「TOKYO-3」は第1話でシンジとミサトがカートレインでジオフロントに降りていくシーンにも用いられています。

 「Cruel Dilemme」はリツコがミサトにハリネズミだかヤマアラシだかのジレンマを語るシーンの音楽。原曲はTV版サントラ1の「Hedgehog's Dilemma」。
 原曲よりもスタイリッシュでピュアなピアノのサウンド。よりアダルトな感じが漂ってします。ピアノの音が、鍵盤の木材の材質まで感じさせるぐらいにくっきり聴こえてるのが、逆に作り物の音じゃないかって感じがしないでもないのですが……
 このピアノ、演奏がクリヤマコトなんですね。
 原曲の「Hedgehog's Dilemma」はTVシリーズでの使用頻度は高いですが、シンジやミサトの心の中を語るシーンが多いようです。

 「The Longest Day」はヤシマ作戦の作戦準備シーンに使われている音楽。TV版サントラ2の「Spending Time in Preparation」のリズムとコード進行をベースに、同じくTV版サントラ2の「MAGMADIVER」のモチーフ等を絡めた曲です。
 全国レベルの規模でじわじわと盛り上がっていくヤシマ作戦の雰囲気を高めていく印象ですね。着実に進行していく作戦にストリングスのユニゾンが緊迫感を与えていて、作戦の大掛かりなイメージを壮大に奏でています。
 どうしても「Spending Time in Preparation」と同じリズムとコード進行の「DECISIVE BATTLE」の印象が強いから、聴き慣れたメロディーがまったく流れてこないことにもどかしさを感じますが、それがまたこの曲の狙い目なんでしょうね。
 原曲の「Spending Time in Preparation」はTVシリーズでの使用頻度はかなり高いですが、やはり繰り返し使われている第6話のヤシマ作戦が印象に強いですね。一方、「MAGMADIVER」は第10話で1回だけ使われています。

 「Contre Les Agressions」は第6使徒ラミエルに対して初号機が最初に出撃していくシーンの音楽かな。原曲は「Staggering Yet」と同じくTV版サントラ1の「A STEP FORWARD INTO TERROR」。こちらが原曲に近いメジャーバージョンですね。
 華々しい出撃シーンの音楽で、原曲より重厚な感じです。こういうTVシリーズで聴き慣れたアクションテーマはゾクゾクと来るカタルシスがたまりません。ラストの一番最後でパーカッションの一打が追加されてるのが印象的。次に続く何かを予感させる効果があります。
 原曲の「A STEP FORWARD INTO TERROR」は第1話ラストの初号機出撃シーンの他、第3話、第9話、第10話といずれも華々しくかっこいい出撃シーンの音楽として使われていますが、それに見合う戦果を挙げているかというと……

 「Showdown」はラミエルの攻撃に初号機がダメージを受けるシーンの音楽かな。「L'Attaque des Anges」と同じく、TV版サントラ1収録の「ANGEL ATTACK」が原曲ですが、物々しいコーラスが追加され、斬新なイメージに仕上がっています。
 より高まる緊迫感を演出し、ラミエルの想像を絶する攻撃力を現してるイメージです。コーラスが入ってるのは鷺巣詩郎らしくヒップホップからの影響というのもあるでしょうが、TV版の渚カヲルの回の『第九』や、旧劇場版の予告編に使われてたヴェルディの『レクイエム』を想起させます。

 「Mecanisme de Defense」はサスペンスタッチでミステリアスなピアノのフレーズの繰り返しに始まる曲。TV版サントラ1収録の「MARKING TIME,WAITING FOR DEATH」が原曲ですが、ほとんどそのままのイメージです。
 後半は一転して激しくスリリングなサスペンス音楽。迫り来る死の恐怖を味わう心境の音楽って感じでしょうか。
 原曲の「MARKING TIME,WAITING FOR DEATH」も使用頻度は高いのですが、第13話のイロウルの侵入や、第18話でのバルディエルの侵食による参号機の暴走、第22話でのアラエルの弐号機への精神攻撃など、シトの内部への攻撃シーンが印象に強い曲です。

 「Cruel Dilemme II」はTV版サントラ1の「Hedgehog's Dilemma」を原曲とするストリングスバージョン。ピアノよりは柔らかく穏やかに感じます。
 ピアノ版が他人の心を冷たく表現してるなら、こちらは自分の心の中を描いてるようなイメージですね。

 「Rei-Opus IV」は綾波レイのテーマ。TV版サントラ1の「Rei I」が原曲ですが、ゆっくりとしてミステリアスな感じはTV版サントラ3の「HOSTILITY RESTRAINED」や「CRIME OF INNOCENSE」の方が近いかもしれません。
 この曲も「Cruel Dilemme」と同様に、非常に明瞭なピアノの音で、演奏してるホールの空気までをも感じさせるような録音です。
 曲名がいきなり「IV」なのはTV版で「III」まであるのを引き継いでるからですね。

 「The Longest Day II」はやはりTV版サントラ2の「Spending Time in Preparation」のリズムとコード進行をベースにしたヤシマ作戦準備の音楽。ここでは「MAGMADIVER」のモチーフはさらにアレンジが加えられているようです。
 次第に高まる緊迫感と、慌しげな準備作業の様子が醸し出されています。

 「Lucifer's Cry」はラミエルの猛攻による緊張感を現すような今回の劇場版の完全新曲。
 重厚なブラスによる激しいアレグロの序奏に、重くシリアスなストリングスのユニゾンが続き、後半はコーラスが加わってきます。高まる脅威を実感させるような、劇場版ならではの壮大な曲ですね。

 「Cruel Dilemme III」はTV版サントラ1の「Hedgehog's Dilemma」を原曲とするギターバージョン。ピアノ版やストリングス版の演奏に比べると、ギターの旋律は切なく淡く感じられます。
 曲の順番からするとシンジが出撃を拒否しようとしてミサトに叱られる辺りの音楽なのかなぁ。

 「Strategie“Yashima"」もヤシマ作戦絡みの音楽。いよいよ作戦開始って感じのタイトルですが、曲そのものは「The Longest Day」の流れで、やはりTV版サントラ2の「Spending Time in Preparation」のリズムとコード進行をベースにした感じの曲です。
 かなりゆっくりとしたテンポですが、管楽器の遠吠えのような音が何度も繰り返されているのが印象的です。

 「The Longest Day III」もTV版サントラ2の「Spending Time in Preparation」のリズムとコード進行をベースに「MAGMADIVER」のモチーフ等を絡めた曲ですが、ここでは序奏部分のフレーズが割愛されてるので「MAGMADIVER」のモチーフの方が強調されてる感じですね。
 作戦の実行段階に入っていくネルフ部隊(と言っても、ネルフ自体にそんな大規模な実戦部隊は無いと思うから、多くは国連軍とか戦自からの借り物でしょうけど)の雄姿を描いてる感じです。スローテンポではあるけど、高揚感があり勇ましい印象です。

 「Danse des Lucioles」はピアノに始まるサスペンス系の曲。TV版サントラ2の「A Crystalline Night Sky」が原曲です。
 着実にネルフ本部に迫ってくるラミエルのドリル。攻撃開始のカウントダウンの緊張感を現してるような曲ですが、ラストのストリングスのきれいな旋律がどこか不似合いのような感じがします。
 原曲の「A Crystalline Night Sky」はやはりヤシマ作戦による全国一斉停電のシーンに使われています。

 「Battaille Decisive」はいよいよ攻撃開始の音楽。原曲はTV版サントラ1の「DECISIVE BATTLE」。「Spending Time in Preparation」と同じリズムとコード進行の曲ですが、ようやくじらされ続けたお馴染みの戦闘シーンのモチーフメロディーが入ってきます。
 やはりこの曲が掛からないと『エヴァンゲリオン』の戦闘シーンじゃないって感じの曲ですから、映画のクライマックスでもあり、最大限に気分が盛り上がってきますね。
 それでも原曲に比べるとメロディーの入る部分が何小節分かじらされてる感じだし、勢いパーカッションが弾んで聞こえて、リズム主導の曲ってイメージがします。メロディー部分もブラスが奏でるバトルよりも、ストリングスが奏でるサスペンスの方が強調されてる印象ですね。
 原曲の「DECISIVE BATTLE」は劇場版と同じヤシマ作戦開始以外には、第8話のガギエル に対する国連艦隊戦艦の0距離射撃シーン、第11話の停電中のネルフ本部を襲ったマトリエルへの反撃シーンの全部で3回しか使われておらず、「Spending Time in Preparation」に比べて少ないのが意外です。もっとも、いずれもクライマックスの盛り上がりに使われている曲なので印象は非常に強いです。

 「Angel of Doom」は運命的な試練を表すような、今回の劇場版の完全新曲。
 テンポはゆっくりだけどリズムは小刻みで、ブラスとストリングスのユニゾンが中心に奏でられていきます。この曲も途中からコーラスが入ってきますが、やはりヴェルディの「レクイエム」辺りと同じ効果を狙ってるんでしょうか。
 世界の運命を表すような宗教的な雰囲気を持つ壮大で荘厳なイメージの曲ですね。

 「Rei-Opus V」は自らシンジの盾となってラミエルの攻撃を受けたレイのテーマ。やはりTV版サントラ1の「Rei I」が原曲ですが、サントラ2の「Rei III」のモチーフが前面に出て来てる感じで、より運命的な印象を与えています。
 ストリングスとハープ伴奏がより神秘的なイメージを醸し出してる感じですね。

 「Trailer Eva Special」は30秒バージョンの予告編音楽を3パターンのアレンジでメドレーにした曲。原曲はTV版サントラ1の「次回予告」ですね。『破』の予告部分で使われてたのがこのアレンジバージョンかどうかは覚えていません。
 不安定なイントロが何か落ち着かない感じを与えています。
 旧劇場版『DEATH & REBIRTH』の前売券付きで発売されたアルバム『NEON GENESIS EVANGELION ADDITION』に劇場版の予告が3パターン連続で収録されていたのを思い出させるような曲です。
 原曲の「次回予告」は当然ながら毎回の次回予告に使われていましたが、第9話では本編中のシンジとアスカの対イスラフェル用のシンクロ攻撃の特訓のシーンに用いられていたのが印象的です。

「EM17_Demo」
「EM21_Demo」
 この2曲は今回の新曲である「Lucifer's Cry」「Angel of Doom」のデモバージョン。オーケストラではなく、すべてシンセ音源によって演奏されていて、コーラスパートは入っていません。
 オーケストラ収録の前のイメージ合わせとか、コーラスの練習用とかの用途のための録音でしょうか。

 「Cruel Dilemme IV」はTV版サントラ1の「Hedgehog's Dilemma」を原曲とするギター版の別バージョン。非常にゆっくりしたバラード風の演奏で、少しマイナー気味に感じられます。
 後半の展開が独特で、原曲とはかなり違った印象を受けます。

     ☆ ☆ ☆

 サントラ的には序盤で主に第1話冒頭のサキエル出現から第2話でのサキエルとの戦闘までの音楽をリメイクし、中盤以降はヤシマ作戦で固めてあるという感じです。ミサトとの夕食シーンの音楽など、ここに収録されていないのはTVシリーズの音源を流用してるのでしょうか?
 TVシリーズの音楽はキングのスタジオでの小編成での演奏や打ち込みが主体だったようですが、今回はロンドンでのオーケストラによる演奏の収録が主体になっていて、音の質感が全然違っていますね。
 中盤以降のヤシマ作戦は映像自体がボリュームアップしているから、音楽も最初から作り直しと言っていい感じです。とくにTVシリーズでは「Spending Time in Preparation」を繰り返し使っているのに対し、今回の劇場版ではすべてアレンジを変えた別曲として作り直している辺りが作品の音楽に対する気合を感じさせます。
 2作目以降のサントラにも大いに期待を持てるアルバムと言えますが、さて、どうなることでしょうか。

(発売元:キング KICA-887 2007.09.26)

Shiro SAGISU Music from“EVANGELION:1.0 YOU ARE(NOT)ALONE”
Shiro SAGISU Music from“EVANGELION:1.0 YOU ARE(NOT)ALONE”

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