2011.09.24

伊福部 昭 SF交響ファンタジー ギタートランスクリプションズ

 しばらく更新をサボってる間に『プロメテの火』とか『寒帯林』とか伊福部先生の作品もいろいろと出て来ましたが、それらは機会があればおいおいと聴いていくこととして、今回はギターで『SF交響ファンタジー』を奏でたという大胆な企画のアルバムです。

 ギター演奏の『SF交響ファンタジー』というと以前に取り上げたデュオ・ウエダのアルバムの中に第1番を演奏したものが入っていましたが、それとの違いも気になりますね。

 今回のアルバムは以前に取り上げた『伊福部昭 ギタートランスクリプションズ』を手掛けた哘崎孝宏によるもの。さすがにソロというわけにはいかないので第2ギターとして岩木俊宏が加わっています。
 また男声合唱による『豪快シリーズ』で知られる不気味社の八尋健生が、哘崎孝宏とともに編曲を手掛けているようです。(『豪快シリーズ』は聴いたことないのでよく知りませんが)

 収録曲は以下の通り

 01.怪獣大戦争マーチ
 02.SF交響ファンタジー第1番
 03.SF交響ファンタジー第2番
 04.SF交響ファンタジー第3番

  SFファンタジー〈ゴジラVSメカゴジラ〉
 05.No.1 イントロダクション
 06.No.2 Title メインタイトル
 07.No.24 ベビーゴジラ
 08.No.21 Robot plane 翼竜ロボット
 09.No.6 Ladon ho God ゴジラVSラドン
 10.No.10 Gフォースマーチ
 11.No.39 ラドン
 12.No.43 Postludio ローリングタイトル

  SFファンタジー〈ゴジラVSデストロイア〉
 13.No.3 メインタイトル
 14.No.9 Vision Destroyer Machine オキシジェンデストロイヤー
 15.No.23B スーパーXⅢ
 16.No.39 G.EXTRA ゴジラ
 17.No.40前半 デストロイア
 18.No.26 メーサータンク
 19.No.44 レクイエム
 20.No.45 エンディイングタイトル

 冒頭に「怪獣大戦争マーチ」を配し、「SF交響ファンタジー」を第3番までキッチリ入れている上に、伊福部先生自身が演奏会用にまとめ上げた『ゴジラVSキングギドラ』ではなく、『ゴジラVSメカゴジラ』『ゴジラVSデストロイア』に挑戦しているところに心意気を感じます。

 それでは簡単に聴いていきましょう。

「怪獣大戦争マーチ」
 数ある伊福部マーチの中でも有名な曲ですが、軽快なギターが奏でる様は、まるでラテン系の音楽のようです。怪獣と戦う勇ましさというよりも、南欧の街の喧騒の中で繰り広げられる日常のドタバタを思わせます。
 伊福部先生の土俗的な舞踊曲の中にある陽気で本能的なほとばしりが、ラテンの陽気さとどこかつながっているのでしょうね。

「SF交響ファンタジー第1番」
 さすがにオーケストラの重低音には敵わないものの、力強い低音で始まる「ゴジラの恐怖」のモチーフ。続く『ゴジラ』の「タイトルテーマ」は力強くもしっとりと優雅に奏でられます。このあたりオーケストラとは奏で方の趣向が違うんですね。引き続く「巨大なる魔神」もそんなところ。派手さ強大さを目指すのではなくモチーフのメロディーを活かした演奏という感じがします。
 しっとりとしたアダージョのセレナーデは『宇宙大戦争』のロマンステーマ。さすがにこういう曲はギターが得意とするところですが、いかんせん短いのが残念。すぐに「バラゴン出現」となってしまいます。ここも奇をてらわずに正攻法でモチーフを奏でることで、ギターの可能性を見せつけてくれます。
 それに続く「ゴジラ対ラドン」の出だしはギターの胴を叩く打楽器的な奏法を交えることで、メロディーの重厚さは損なわれるものの、冒頭の「ゴジラの恐怖」とは違った聴かせ方をしています。そしてラドンのモチーフは軽快でなめらかに奏でられ、絡むゴジラのモチーフにはどこか哀愁を感じさせます。
 後半のマーチ部は『宇宙大戦争』の「タイトルマーチ」がトレモロを活かした斬新な印象を与えてくれるのと交互に、軽快でやはりラテン系っぽい「怪獣総進撃マーチ」が安心感を与えてくれる感じ。そして続く「宇宙大戦争マーチ」はアルペジオを活かしたはつらつとした旋律でさながらフラメンコ音楽のような印象を与えた後、力強い「怪獣総進撃マーチ」で幕を下ろします。

「SF交響ファンタジー第2番」
 冒頭は『奇巌城の冒険』のメインタイトル。やや静かに流れるバラード系の曲なのでギターにとっては得意分野。これももうちょっと長く堪能したいところですが、すぐにキングギドラの出現モチーフに移ってしまいます。ここは単音で流した方が楽そうですが、トレモロを駆使してビブラートを再現してる辺りは感服です。続く「キングキング対ゴジラ」の対決モチーフは原曲の軽快なイメージではなく、どこか不安を誘うような単調さが印象的です。
 幻想的な雰囲気で奏でられる「聖なる泉」は純音楽作品「胡哦」のモチーフにもなってる曲だから、これもギター向きの曲。これだけ切り出して単独の曲として堪能したいぐらいです。ギター版「胡哦」が入ったCDもどこかにあったはずだから、探してきて聴き直してみたいです。
 そして『大怪獣バラン』の「メインタイトル」。これは原曲はオーケストラでコーラスが入ったりするんだけど、大元のモチーフはラドンとかと同じで、割とギターとかピアノに合ったソロ向きのメロディーという感じなので、それをそのまま活かして正攻法で乗り切ってる印象です。ただ、オーケストラ版は元の劇伴よりもかなり派手にアレンジされてるので、そういう点では別ものになってしまってますね。
 素朴にたたずむような「黒部谷のテーマ」は原曲ではホルンが幽幻なイメージを醸し出していますが、ギターはどこか哀愁を漂わせてる感じです。そして『キングコングの逆襲』のメカニコングの出現テーマと軽快なキングコングの追撃モチーフが続きます。そしてクライマックスの「メーサー光線車マーチ」。やはり軽快だけど力強くはないものの、起伏のある曲の表情を堪能させてくれます。ラスト近くで「ラドン追撃せよ」の末尾のトリルの部分が挿入されているんですが、ギター版だからって省いたりはしないんですね。

「SF交響ファンタジー第3番」
 出だしは『怪獣総進撃』の東宝マークの音楽。原曲でもサスペンスタッチの不安を煽るところですが、ギターだともろに怪談風に聞こえますね。
 軽快なメカニコングのテーマは原曲でもメカっぽさを出すために尖ったイメージのモチーフ。エレキギターならギンギンの尖ったイメージを出してくれるでしょうけど、そこはクラシックギター。鋼鉄の巨猿にもどこか寂しさと哀愁を感じさせます。
 そして同じく『キングコングの逆襲』の「コングとスーザン」。ベースのモチーフはバラード風のセレナーデですが、実際にこの曲を特徴付けるのは平穏を破るティンパニーなんですね。このティンパニーをリズム楽器として捉えるのかメロディー楽器として捉えるのかで解釈が違ってくるのですが、このギター版ではメロディーパートとして奏でています。
 ややスローテンポで始まる「東京湾と海底軍艦」はラストのスパートに向けて鋭気を溜め込んでるという感じで、『キングコング対ゴジラ』の「コング輸送作戦」に続きます。ここはストレートで軽快にモチーフを奏でていますが、ギターだとどことなくマイナーっぽく感じてしまいます。この部分、日比谷公会堂初演版に映像を付けた『ゴジラファンタジー』では当時は全長版フィルムが未発見だったため別のシーンの映像で代用されていたというのは昔の思い出。
 そしてファロ島での「キングコング対大ダコ」のモチーフ。原曲は重厚なサスペンス曲なのですが、トレモロを駆使してはいるものの、かなりマイルドな味わいになっていて、これはこれで聴きものという感じです。
 超絶アルペジオを駆使した「海底軍艦マーチ」に続き、クライマックスの「地球防衛軍マーチ」が奏でられますが、これはモチーフ自身の性格なのか、どこかゆったりとした感じで聞こえてきます。後半のトリルはオーケストラとは印象が違うけど、大曲の締めくくりにふさわしい盛り上がりを感じさせてくれます。

《ファンタジー〈ゴジラVSメカゴジラ〉》
「No.1 イントロダクション」
 弱々しいキングギドラのモチーフから始まるこの曲は映画の冒頭、メカキングギドラの残骸のカットからGフォースの訓練シーンに流れた導入曲。後半の激しいアルペジオの伴奏が印象的です。

「No.2 Title メインタイトル」
 重厚でゆったりとしたメカゴジラのテーマですが、ギター版はバラードがかった幽幻な印象を受けます。やはり原曲の和太鼓パートをギターを叩いて再現してるようですが、けっこう響いてますね。

「No.24 ベビーゴジラ」
 ギター向きの切ないセレナーデ。原曲はコール・アングレだから管楽器さながらの風に溶けこむような雰囲気だけど、ギターだとどことなく風を刻むようなイメージを受けてしまいます。そこが優しさよりも寂しさを感じてしまう所以なのかしれません。

「No.21 Robot plane 翼竜ロボット」
 前曲と似た感じの曲ですが、こっちの方が淡い感じかな。トラック間にブランクが無いので、ちょっと聴いた感じでは前曲がそのまま続いてるかのように思えます。タイトルが曲と違うような気がしますが、これは翼竜ロボットをだしにしたデートのシーンだから、こういう甘い音楽なのです。

「No.6 Ladon ho God ゴジラVSラドン」
 この作品でようやく全体が復活したゴジラの恐怖のモチーフ。これは序盤のアドノア島でのゴジラとラドンの戦いの音楽。ここでは重厚さとかよりもモチーフの音楽要素を重視して忠実に再現してるように思います。どことなくバラードっぽく聞こえますが、それに絡むラドンのモチーフは相変わらず軽快な感じ。でも、「SF交響ファンタジー第1番」のものに比べると心持ちゆったりしてますね。

「No.10 Gフォースマーチ」
 軽やかに奏でられるガルーダのテーマ曲。平成に入って待望の新曲の伊福部マーチでしたが、意外とギターと相性いい感じです。でも、どっちかというとスーパーメカのテーマ曲と言うより、西部劇のヒーローのテーマ曲ってイメージですね。

「No.39 ラドン」
 神秘的な音色は力尽きたファイアーラドンが最後の力を振り絞って倒れたゴジラにエネルギーを与えるシーンの音楽。幻想的なフレーズの最後にお馴染みのラドンのモチーフが現れます。割とこういった曲もギターは聴かせてくれますね。

「No.43 Postludio ローリングタイトル」
 どこか哀愁と神秘性を漂わせた感じのエンディング曲。原曲はハープが重要な聴かせどころを担ってたので、それをギターで置き換えたって感じなので音の違いに比べて違和感はあまり感じませんね。むしろオーケストラとかコーラスとか入れるよりもギター版の方が曲としてはまとまりがあるような気がします。ただこの辺は聞く人の好みの問題でしょうけど。

『ファンタジー〈ゴジラVSデストロイア〉』
「No.3 メインタイトル」
 映画冒頭の香港破壊シーンの音楽。いつもと違うゴジラということを明確に分からせてくれる音楽ですが、やはりオーケストラの重低音あっての曲。それでもなかなか雰囲気を感じさせてくれるアレンジです。この辺はガットの聴かせどころという感じです。

「No.9 Vision Destroyer Machine オキシジェンデストロイヤー」
 第1作『ゴジラ』のレクイエムのモチーフがゆっくりと奏でられます。尺があればギターなりの聴かせどころとかあるんでしょうけど、何分にも短いのが残念です。

「No.23B スーパーXⅢ」
 「Gフォースマーチ」に続く新作伊福部マーチですが、前半は『大坂城物語』の合戦シーンのモチーフ、後半は「Gフォースマーチ」のアレンジなので目新しさがないというか、逆に変に古さを感じてしまいそうな曲です。ギターは非常に軽快に奏でてくれるのですが、やっぱり時代劇のチャンバラシーンが頭に浮かんできます。

「No.39 G.EXTRA ゴジラ」
 おなじみのゴジラのモチーフで始まるものの、これは「SF交響ファンタジー第1番」以来の『ゴジラ』のタイトルテーマが続くパターンの曲。非常にゆっくりと奏でられるこの曲は、さしずめ「ゴジラのバラード」という感じの演奏で、吟遊詩人がギター片手にゴジラの物語を語ってるイメージが浮かんできます。

「No.40前半 デストロイア」
 ショッキングフレーズのようなデストロイアのモチーフ。アクセントポイントとしての選曲なのでしょうが、もうちょっとじっくり聴かせる選曲であっても良かったように思えます。たぶん、ギターとは一番相性が悪そうな構成に思えますから。それでもギターならではの聴かせ方というものを味あわせてくれているのはさすがです。

「No.26 メーサータンク」
 おなじみ「メーサー光線車マーチ」のモチーフ。『ゴジラVSモスラ』でも使われていましたけど、オリジナルのメーサー光線車と平成ゴジラのメーサータンクじゃ画面上の動きが全然違うから、同じ曲使われても違和感あるのですが、お約束の音楽というところなんでしょうね。「SF交響ファンタジー第2番」のものと比べると、軽やかだけどストレートで力強い感じがします。

「No.44 レクイエム」
 メルトダウンしたゴジラのレクイエム。哀愁ただようこの曲にはギターは格好のお似合いです。原曲のような荘厳なイメージには欠けますが、一音一音噛み締めるように奏でてくれるのはギター曲ならではです。

「No.45 エンディイングタイトル」
 『ゴジラ』のタイトルテーマに始まるエンディング曲。これも「SF交響ファンタジー第1番」に倣って後に「巨大なる魔神」のモチーフが続きますが、これはキングコングのみならず歴代のライバル怪獣のイメージってところでしょうか。演奏は力強くストレート。

     ☆ ☆ ☆

 デュオ・ウエダ版と比べれば、向こうはオーケストラの「SF交響ファンタジー第1番」の印象をそのままギターデュオに置き換え、それを再現しようとしている感じですが、今回の哘崎版はオーケストラ版の構成音を分解・再構成することで、曲を要素単位で再現しようとしているように感じました。
 ユニゾンで音の厚みを得るよりもパート分けで伴奏やサブメロディーやアクセントを出来る限り忠実に再現しようとしているのですね。それがために全体的な雰囲気においてオーケストラとは聴いた印象がずいぶん違ってる部分があったりもしますが、耳を凝らして聴いていくとなるほどと感じる部分も少なくありません。
 ギター2本じゃ出せる音も限られているわけだし、まして作曲者本人のアレンジというわけでもありません。このあたりは個々の嗜好の違いの現れですね。

 『ファンタジー〈ゴジラVSメカゴジラ〉』『ファンタジー〈ゴジラVSデストロイア〉』については、劇伴にかなり忠実な構成のアレンジというのが意外でした。このあたりは伊福部先生が自ら手掛けた『交響ファンタジー「ゴジラVSキングギドラ」』と比べるとかなり物足りなく感じてしまうのですが、作曲者が亡くなられた後となっては本人の監修もない大幅なアレンジは躊躇われたというところでしょうか。
 それでも個々の曲だけ聴くのではなく、『ファンタジー〈ゴジラVSメカゴジラ〉』『ファンタジー〈ゴジラVSデストロイア〉』として全体を通して聴けば、そのボリューム感に不足はありません。

     ☆ ☆ ☆

 今回、哘崎氏よりサンプル盤を送っていただきました。最近は情報に疎く発売のことを知らなかったもので、それがなければ聴けるのがいつになったことかわかりません。ここにお礼を申し上げます。(本文中は敬称を省略させていただいておりますが、失礼)

(発売元:ジェイズミュージック GRGT-01 2011.09.01)


 Amazonも取り扱いがなく、発売元の直販も見当たらないので、HMV ONLINEのページを貼っておきます。(他にもググれば幾つかネットショップが見付かると思いますが)
 扱いが無くなった場合はご容赦を。

Sf交響ファンタジー Guitar Transcriptions: 哘﨑考宏 岩木俊宏



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2008.06.18

伊福部昭 ヴァイオリン協奏曲~ピアノ・リダクション~

 協奏曲といえば一般的に独奏楽器とオーケストラによって奏でられる音楽です。独奏楽器は様々で、ハープや打楽器の協奏曲もありますが、一般的によく見掛けるのはピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲です。また独奏楽器を複数用いた二重協奏曲なんてものもあります。
 ところで、独奏楽器の方はソロの演奏者だけで済みますから(曲の難易度を考えなければ)気軽に演奏できますが、オーケストラの方はそういうわけにはいきません。ソロの奏者がコンクールで協奏曲を弾こうと思っても、簡単にオーケストラを用意したりすることはできません。そこで、オーケストラの代わりにピアノ伴奏を用いることが多く行われています。
 例えば『のだめカンタービレ』では千秋がジョリベの『打楽器協奏曲』の伴奏を弾いたりしていますが、これなんかピアノ伴奏版は『のだめ』のサントラに入ってるので比較的容易に聴けますが、むしろ日本ではオーケストラ版のCDを探す方が難しかったりしますね。(現代音楽の作品という事情がありますが)

 今回の伊福部先生の『ヴァイオリン協奏曲』のピアノ・リダクション版は晩年の伊福部先生自身の手によってピアノ伴奏用に改作された作品ですので、純粋に鑑賞を目的とした演奏会用の作品として仕上げられていると思われます。


『ヴァイオリンと管絃楽のための協奏風狂詩曲』(1948/1971)

 曲名としては戦前の『ピアノと管絃楽のための協奏風交響曲』と似たタイトルですが、あえて「協奏風狂詩曲」としたところに意味があるのか、まっすぐ「協奏曲」と名乗るのに照れたからかはわかりませんが、現在は『ヴァイオリン協奏曲第1番』とも呼ばれている作品です。
 時代的には『交響譚詩』と『シンフォニア・タプカーラ』の中間に作られた曲なので、両者に似た雰囲気を感じます。

  「第1楽章:Adagio-allegro」

 序盤はほとんどと言って良いほどヴァイオリンのソロによるバラード風の演奏が続きます。まるでレクイエムのように沈静な雰囲気で奏でられるのは、お馴染みの土俗的なマイナー系の主題です。やがて、ゆっくりと情緒深い調べに展開して行きます。
 中盤から小刻みでリズミカルなピアノ伴奏が加わり、アレグロ風のテンポになります。ここで繰り返されるピアノのフレーズの一部が「怪獣総進撃マーチ」の後半と似たモチーフが使われていることにニヤリとしてしまいます。
 ヴァイオリンとピアノの激しい掛け合いの展開が続いた後、ピアノが『ゴジラ』のタイトルテーマと同じフレーズを奏でるのが、ある意味、この楽章のハイライトですね。次第にピアノの伴奏が力強く、はっきりと主張して来る一方、ヴァイオリンは狂おしく奏でられていきます。
 終盤はスローダウンしてレクイエム風のバラードがじんわりと儚げに奏でられ、徐々に激しく展開し、再びリズミカルに盛り上がっていきます。序盤から中盤までをダイジェストに再現したような形ですね。


  「第2楽章:Vivace spirituoso」

 冒頭、ピアノの低音の激しい連続の後、軽やかなリズムで主題が奏でられます。続いてヴァイオリンが低く、ゆっくりと主題を奏で始めます。ピアノとヴァイオリンが寄り添いながら大きく、そしてスピーディーに展開して行きます。
 第1楽章ではピアノとヴァイオリンはどちらかというと対立的な関係にあったのとは対照的に、第2楽章では協調的な印象を受けます。
 少しスローがかったところで奏でられる豊かなフレーズは『交響譚詩』や『シンフォニア・タプカーラ』とのつながりを想起させてくれます。
 後半はヴァイオリンが主体でマイナー系のバラードが展開され、そこにスタッカートでテンポアップしていくピアノが加わり、ヴァイオリンは今度は高音で主題を奏で上げていきます。
 再び前半と同様に激しく展開を見せて終わります。


『ヴァイオリン協奏曲第2番』 (1978)

 こちらはかなり後年の作品であり、円熟の渋みを感じさせる作りです。『第1番』でしばしば感じる「交響曲への憧れ」のようなものは見事に消え去って、独奏楽器を引き立てることに注力しているようです。

 ゆっくりと雄大な雰囲気のヴァイオリンによる第1主題。寂しく儚げな雰囲気のバラードが繰り返されます。途中、レクイエム風の沈痛なピアノのフレーズが挟まれますが、ほとんどヴァイオリンのソロ曲のような印象が続きます。
 再びピアノのレクイエムが入り、そしてピアノとヴァイオリンの協奏が少しだけ奏でられます。
 ヴァイオリンがアレグロ気味に速度を増して来て舞曲風の第2主題が入ってきます。低音で踊り狂うような慌しい演奏です。ピアノを交えて、さらに激しくリズミカルに。アレグロのピアノの伴奏にノリノリのヴァイオリンって感じです。
 やがてスローダウンしてバラード風に奏で始めるピアノに、高音でそれを引き継いでゆくヴァイオリン。深く沈み込むように展開していくヴァイオリンに素朴なピアノ伴奏が寄り添います。そして大らかに第1主題が奏でられます。
 中盤、淡々としたピアノのレクイエムの後、激しく狂おしく展開していくヴァイオリンに小刻みなピアノの伴奏。
 リズミカルな第2主題の舞曲が展開された後、ゆったりとしたピアノ伴奏とともにヴァイオリンが大きく奏で上げていきます。優雅で穏やかなヴァイオリンの調べが続き、一転して激しい展開を見せていきます。
 スローでマイナーなバラードで第1主題が奏でられた後、アレグロのピアノのリズムと狂おしいヴァイオリンの音色が盛り上がり、激しく執拗に繰り広げられていきます。ラストはプレスト風にまで展開して終結を迎えます。

     ☆ ☆ ☆

 本来なら以前に取り上げた『ギター・トランスクリプションズ』のすぐ後に出る予定だったアルバムですが、なぜか延期が繰り返され、あまりに延期が続いたのでHMVの予約が取り消されちゃったとかいうことになったのですが、こうして無事に発売されて良かったです。
 『ヴァイオリンと管絃楽のための協奏風狂詩曲』は『第2回伊福部昭音楽祭』の時にピアノだけで十分にリズムが出てるから、打楽器を追加するのは蛇足じゃないかということを書いたわけですが、実際、ピアノのリズムだけで何の不足も感じられません。
 ただ、たまたま手近にあったジャパン・グスタフ・マーラー・オーケストラの演奏によるオーケストラ版の『ヴァイオリンと管絃楽のための協奏風狂詩曲』を聴いてみたら、オケに対して打楽器がかなり強調されて使われているんですね。確かにこの雰囲気を再現しようとか思ったらピアノだけじゃ物足りなくて打楽器を追加しようと考えるのも分かる気がします。

     ☆ ☆ ☆

(演奏)
  ヴァイオリン:佐藤久成、ピアノ:岡田 将

(発売元:ミッテンヴァルト MTWD99028 2008.03.16)

伊福部昭:ヴァイオリン協奏曲~ピアノ・リダクション~
伊福部昭:ヴァイオリン協奏曲~ピアノ・リダクション~

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2007.08.04

ビムス・エディションズ・バンド・コレクション Vol.1

 ついでだから吹奏楽シリーズでこの1枚。言うまでもなくこれを買った目的はこれが初収録の吹奏楽版『SF交響ファンタジー第1番』だったのですが、開封はしてあったから1回は聴いたんだろうけど、そのうち『伊福部昭 吹奏楽作品集』が出て来たのですっかり忘れ去られていました。
 このCDはバンドスコアの出版社が出した模範演奏集って感じで、本来なら吹奏楽をやる人が参考に聴くためのものなのか知りませんが、単純に鑑賞目的で聴いてはいけないってわけでも無いでしょうから、気にしないことにします。
 演奏は福田滋指揮のリベラ・ウィンド・オーケストラ。最近取り上げた『奏楽堂の響き』と同じですね。
 収録曲は以下の通りです。


 01. SF交響ファンタジー第1番/伊福部昭
 02. イギリスの海の歌による幻想曲/ヘンリー・ウッド
 03. 悪魔の踊り/ジョセフ・ヘルメスベルガー Jr.

   映画音楽「来たるべき世界」/アーサー・ブリス
 04.  プロローグ
 05.  間奏曲-荒廃した世界
 06.  新世界の建設
 07.  ムーン・ガンへの攻撃
 08.  エピローグ

   交響詩「ローマの噴水」/オットリーノ・レスピーギ
 09.  夜明けのジュリアの谷の噴水
 10.  朝のトリトンの噴水
 11.  昼のトレヴィの噴水
 12.  黄昏のメディチ荘の噴水

 13. キスカ・マーチ/團伊玖磨
 14. 行進曲「黎明」~防衛大学校のために/黛敏郎
 15. パリは燃えているか/加古隆

  バレエ組曲「ドン・キホーテ」/レオン・ミンクス
 16.  シプシーの踊り
 17.  パジリオと2人の少女のパ・ドゥ・トロワ
 18.  チャルダッシュ


 それでは、さっそく順番に聴いていってみましょう。

 『SF交響ファンタジー第1番』はお馴染みの曲の吹奏楽版。吹奏楽は縦方向の音の通りは良いけど、弦楽器の持つ横幅の豊かさが無いというのが印象です。
 『ゴジラ』のタイトル曲なんかはマーチ風の曲ではあるけど、原曲はストリングスでかなり厚みを持たせた音なんですが、それが軽く感じてしまうきらいがあります。逆にラストの純粋なマーチ部分は突き抜けるような爽快感が出て来ます。
 個別に気になったところを挙げると、『キングコング対ゴジラ』の「巨大なる魔神」は音が少し物足りない感じ。『地球最大の決戦』の「ゴジラ対ラドン」のところはラドンのモチーフが入る辺りの打楽器のタイミングがずれてる感じで、かなり違和感があります。極めつけはマーチ部分の冒頭の『宇宙大戦争』のタイトルマーチのファンファーレからマーチに入るところ。繋ぎに伸ばしてる音が原曲よりやけに高く感じて落ち着きません。
 マーチ部分の繰り返しは「怪獣総進撃マーチ」が2回繰り返した後、『宇宙大戦争』のタイトルマーチからもう1回繰り返して、最後に「宇宙大戦争マーチ」の後半から入るというオーソドックスな形ですが、最近は本名徹次指揮の繰り返しを端折ってる演奏を聴く機会が続いてたから少し斬新に感じました。

 『イギリスの海の歌による幻想曲』はイギリスの海の歌を集めた、毎年ロンドンで行われるプロムスの最終夜に演奏される定番曲とのこと。「幻想曲」と言っても演奏によっては曲目の数や順番も入れ替わる、実質的には「組曲」をメドレーで演奏したものみたいです。この辺は伊福部先生が『SF交響ファンタジー』を「ファンタジー(幻想曲)」ではないと言いながらも単なるメドレーではなく1曲にまとまった編曲を施してるのとは違いますね。

 このCDに収められてるバージョンではまず最初にファンファーレのメドレーである『Fanfare The Saucy Arethusa』から始まります。かつて七つの海を支配したといわれる海軍国イギリスの伝統を思わせるような華やかさです。
 やがて、ホルン主体の穏やかなゆっくりとしたワルツが奏でられます。
 一転して唐突にややエキサイト気味のブラスのフレーズが入ってきて曲の変わりを印象付けます。この急転的なフレーズを繰り返した後、やがてゆっくりと力強く堂々とした曲調で終わります。
 そしてクラリネットのソロによるバラード的なフレーズ。マイナー系の旋律が続き、やがて木管が加わって物悲しくゆっくりと奏でられていきます。
 ラストは『Jack’s the Lad』。最初はフルート主体でメヌエット風のフレーズが奏でられますが、これがクラリネットに代わり次第にテンポアップして行き、最後はこれでもかというところまで盛り上がって終わります。


 『悪魔の踊り』はピッコロとトライアングルが響くハイテンポのフレーズで始まる舞曲。やがてブラスがシンバル等が加わって重厚に展開していきます。
 中間部ではややテンポを落とした、(『くるみわり人形』みたいな)コミカルなフレーズで始まり、続いて競りたてるようなブラスのフレーズが繰り返されます。重厚だけど慌しそうなフレーズが続いた後、再びコミカルなフレーズが始まります。
 後半は冒頭のハイテンポなフレーズが奏でられた後、華々しく盛り上がり、やがてゆったりとしたワルツとなります。ラストは再びブラスがハイテンポに畳み掛けるようにして終わり。
 『悪魔の踊り』なんていうから、毒々しく殺伐としたような曲かと思ったら、愉快で華やかなイメージの曲ですね。

 『映画音楽「来たるべき世界」』は古典SFの大家H.G.ウェルズ原作というか、原作者自身の脚本によるイギリスの古典的SF映画の音楽ですが、見たことはありません。

 「プロローグ」はブラスによる重厚なものものしい始まりの曲。何かシリアスで深刻な感じです。やがて木管が悲しげなフレーズを奏でますが、何か大変な内容の映画って印象を受けます。
 「間奏曲-荒廃した世界」は前曲に続いて悲痛でシリアスな感じ。より深刻に展開していくイメージなのは、最終戦争か何かで文明が破壊された光景なのでしょうか。ラストのソロがまるで何もかもなくなってしまったのかのような絶望感を表してるようです。
 「新世界の建設」は木管主体でおとなしめのゆっくりとしたマーチ風のフレーズに始まる曲。テンポアップを奏でる木琴のフレーズが印象的。中盤は力強く突き進むようなブラスのフレーズで、新世界を作り上げていく意思と情熱の強さというところでしょうか。ラストで再びマーチ風のフレーズに戻ります。
 「ムーン・ガンへの攻撃」は派手なブラスによるアクション音楽。前半はファンファーレのようなトランペット主体のフレーズを繰り返し、後半になってリズムに乗ったスピーディーな展開が繰り広げられます。
 「エピローグ」はゆったりと穏やかな、安らぎの曲。理想の平和が訪れてメデタシメデタシというところでしょうか。徐々に雄大に盛り上がってきて終わります。

 トーキーが発明されてまだ10年にならない頃の映画ですから、アーサー・ブリスによる本格的な音楽を使ってるというのは注目すべきところかも知れませんが、ライナーに書かれてるように『スター・ウォーズ』の響き云々というのは、他に映画音楽知らないのかというくらいどうかと思います。

 『交響詩「ローマの噴水」』はイタリアの作曲家レスピーギによるローマ三部作の最初の作品。特に楽章ごとの関連性は無く、単に4つの代表的な噴水を取り上げて、時系列順に1日の光景を描いたような感じです。

 「夜明けのジュリアの谷の噴水」はローマの北部にあるボルゲーゼ公園辺りにあるジュリアの谷の噴水の夜明けの光景を描いた曲。まるで交響曲の緩徐楽章のような、静かでゆったりとした穏やかな曲です。ローマといっても郊外の夜明けの牧歌的な光景を描いたというところでしょうか。
 「朝のトリトンの噴水」はバルベリーニ公園にあるベルニーニのトリトン像の噴水の朝を描いた曲。ファンファーレが華々しく朝の営みの始まりを告げ、ナイアデスとトリトンの活発な踊りの様子を奏でていきます。小刻みで可変的なテンポのホルン主体のフレーズから、やがて派手に盛り上がってから徐々に静まっていきます。
 「昼のトレヴィの噴水」は、コイン投げで知られるトレヴィの泉にあるネプチューン像の凱旋の光景を描いた曲。昼下がりのローマの賑わいを表すような華やかで力強いブラスのフレーズが繰り広げられ、やがでゆったりと雄大にトランペットのカノンの中を収束していきます。
 「黄昏のメディチ荘の噴水」はボルゲーゼ公園近くのメディチ宮殿の噴水の黄昏時の光景を描いた曲。木管主体の静かで穏やかなフレーズが続いた後、ピッコロのフレーズなどが続き、街の喧騒とは関係なく静かに夕暮れを迎えていく様子を奏でます。最後は日没を告げるかのような鐘の音が夜の帳を告げ、フルートの音色が静かに消えていきます。

 『キスカ・マーチ』は映画『太平洋奇跡の作戦キスカ』でクライマックスのキスカ島撤退シーンに使われていた曲です。
 ゆったりとしたファンファーレに始まり、戦記映画の音楽ではあるけど軍歌調のマーチではなく、華やかなスポーツ風のマーチ曲です。どこか『鉄腕アトム』に似たフレーズを感じるのは気のせいでしょうか。
 後半は雄大な響きの後、スローダウンし、ややマイナー掛かった静か目のマーチとブラスの力強いフレーズの繰り返しになります。
 全体的に『祝典行進曲』の團伊玖磨らしい、上品な仕上がりの作品ですね。

 『行進曲「黎明」』は黛敏郎による防衛大学校の30周年記念行進曲。一聴して「カッコイイ」の一言で全てが言い表されるような名曲ですね。
 複合三部構成で主部は、まずドラムのリズムに合わせた木管の穏やかなフレーズに始まりますが、そこにブラスが重なってきて、次第に力強いマーチ展開していきます。
 トリオは勇壮な大マーチ。オスティナート風に同一フレーズの力強い反復を行ってる部分が印象的で、まるで黛敏郎版の「伊福部マーチ」とでもいうべきカッコ良さ。聴いていて痺れずにはいられません。
 主部のフレーズが繰り返された後、ラストでボレロ風に盛り上がった後、静かに消え行くように終わります。

 『パリは燃えているか』はNHKスペシャル「映像の世紀」のテーマ曲ということですが、NHKスペシャルも科学的なシリーズだと見るけど、このシリーズは見た記憶はありませんね。
 タイトルは第2次世界大戦末期のドイツ軍のパリ撤退時に焼土作戦で連合国軍を疲弊させようと考えたヒトラーが、ドイツ軍の撤退報告を聞いて作戦の成否を確かめようと発した言葉のようですね。
 ピアノのソロに始まるレクイエム風のモチーフが、木管、そしてブラスへと次第に盛り上がっていき、クライマックスでバラード風のフレーズが奏でられます。同じモチーフの繰り返しによるポピュラーな映像音楽ですが、このCDの中ではどことなく異質な気がします。
 最後は静かにフェードアウトするように終わっていきます。

 『バレエ組曲「ドン・キホーテ」』はロシアの音楽家ミンクスによるバレエ音楽からの抜粋。本来は4曲構成ですが、収録時間の関係で第3曲が割愛されています。

 「シプシーの踊り」はものものしく重厚な序奏に始まる舞曲。前半はカスタネットの響くスペイン風のハイテンポのスケルツォで、中盤はゆったりと優雅で少し寂しげなメヌエット風の曲。後半は再びハイテンポのスケルツォで、テンポアップして盛り上がります。
 「パジリオと2人の少女のパ・ドゥ・トロワ」は、ややゆったり気味で華やかなフラメンコ風の舞曲で、カスタネットが印象的。
 「チャルダッシュ」はスピーディーにテンポアップしていくスラブの民族音楽風の舞曲。ブラスが派手に盛り上がります。中間部は穏やかな、やはりスラブの民族風ダンス。ラストは派手に盛り上がって畳み掛けるように終わります。
 タイトルの「チャルダッシュ」自体がハンガリーの民族音楽風の音楽ってことみたいですが、「ドン・キホーテ」の原作はスペインの作品なのに、そのバレエ音楽にスラブ的なものが出てくるのは作曲者自身の出自や、曲の提供先がロシア帝室バレエ団だったことによるものなのでしょうね。

     ☆ ☆ ☆

 バンド向けの模範演奏というと、どうしても義務教育レベルの学校教育で使えるような平易な楽曲を集めたものを想像しがちですが、これはそんなものではなく、吹奏楽の極みを目指して楽しむ上級者向けのものですね。演奏も一流で、単純に観賞用に聴いてもまったく遜色のない素晴らしい内容のCDです。
 収録曲もバラエティ溢れるレパートリーで、最後まで飽きることない新鮮さを感じさせてくれます。ただ通して聴いた場合、『ローマの噴水』はもうちょっと落ち着いたセレクトの中で聴いた方が良かったかなという気はします。

 最初に述べたように目的は伊福部先生の『SF交響ファンタジー第1番』だったのですが、一番の収穫は黛敏郎の『行進曲「黎明」』ですね。確かに伊福部マーチの多くのようなアレグロではなくあくまでマーチのテンポの曲ですけど、力強い反復を繰り返すその曲の作りは非常に伊福部マーチを彷彿とさせるものです。
 黛敏郎は師の影を踏まずということか、いわゆる特撮怪獣映画の音楽などはまったく手掛けてはいませんが、もし怪獣映画を手掛けていたら自衛隊のテーマはこんなマーチが作られていたのかと思うと興味深いところです。
 ま、防衛大学校のマーチですから、リアルの自衛隊マーチであるわけですけど。東宝自衛隊の活躍シーンのビデオにこの曲を付けてみても面白いでしょうね。

(発売元:ビムス・エディションズ CD-0714 2004.08.15)


これもAmazonでは扱いが無いみたいなので、発売元へのリンクを張っておきます。
ビムス・エディションズ

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2007.07.27

黒船以来~日本の吹奏楽150年の歩み~

 ペルー来航時に軍楽演奏が披露されて西洋の吹奏楽がもたらされて以来の、日本の吹奏楽の歩みを2枚組のCDに収めたものです。収録音源には古い録音を復刻したものから、新たに録音し直したものまで様々ありますが、現在では滅多に聴けない曲もあって興味深いものです。
 元々は伊福部先生の『古典風軍樂「吉志舞」』がCD初収録ということで買ったものですが、暇がなくて聴かずに積んでるうちに『伊福部昭 吹奏楽作品集』の方で先に聴いてしまったから、ますます聴くのが遠退いてしまったというアルバムです。
 吹奏楽強化月間というわけでもないのですが、今回は伊福部作品収録アルバムの落穂拾いの一環として掘り起こしてきました。

 それでは、収録曲です。

【ディスク1】
 01. ヘイル・コロンビア(フィロ)
 02. 「英国歩兵練法」~信号喇叭「早足」
 03. 「英国歩兵練法」~信号喇叭「退群」
 04. 「喇叭符号全」~「陣営」
 05. 行進曲
 06. 礼式
 07. 君が代(林廣守撰/エッケルト編)
 08. 陸軍分列行進曲(ルルー)
 09. 第一軍凱旋の歌(永井建子)
 10. 軍艦行進曲(瀬戸口藤吉)
 11. 長唄「越後獅子」(九世杵屋六左衛門)
 12. ドノーの漣(イヴァノヴィッチ)
 13. カルメン(ビゼー)
 14. 初春の前奏と行進曲~日本のコドモの為に(山田耕筰/時松敏康編)
 15. 行進曲「若人よ!」(橋本國彦)
 16. 愛国行進曲(瀬戸口藤吉)
 17. 出征兵士を送る歌(林伊佐緒)
 18. 行進曲「太平洋」(斉藤丑松)
 19. 月月火水木金金(江口夜詩)
 20. 軍国に躍るリズム(谷口又士
    1.日本陸軍(深沢登代吉)
   ~2.敵は幾万(小山作之助)
   ~3.勇敢なる水兵(奥好義)
   ~4.雪の進軍(永井建子)
 21. 行進曲「大日本」(斉藤丑松)
 22. 序曲「悠久」(水島数雄、須磨洋朔)
 23. 古典風軍樂「吉志舞」(伊福部昭)

【ディスク2】
 01. カン・カン・ムスメ・マーチ(服部良一/ワトソン編)
 02. 行進曲「大空」(須磨洋朔)
 03. 祝典行進曲(團伊玖磨)
 04. 東京オリンピック・ファンファーレ(今井光也)
 05. オリンピック・マーチ(古関裕而)
 06. 吹奏楽のためのディヴェルティメント(兼田敏)
 07. 万国博マーチ(川崎優)
 08. 札幌オリンピック・ファンファーレ(三善晃)
 09. 式典曲「純白の大地」(古関裕而)
 10. 第30回みえ国体式典曲集No.1~「式典序曲」(矢代秋雄)
 11. 行進曲「岩木」(間宮芳生)
 12. 吹奏楽のための「琴瑟」(小山清茂)
 13. 吹奏楽のための「カプリス」(保科洋)
 14. セントルイス・ブルース・マーチ(W.C.ハンディ、ミラー/岩井直溥編)
 15. 冬の光のファンファーレ~長野オリンピックのための(湯浅譲二)
 16. 南蛮回路(伊左治直)
 17. 雅の鐘(ウィリアムズ)

 収録曲が多いので、摘み食い的に聴いていきましょう。
 1枚目は戦前から戦中にかけての曲です。

 『ヘイル・コロンビア』はペリー来航時に最初に演奏されたという、西洋式吹奏楽が日本に上陸した時の曲です。その当時、アメリカの国歌的な曲だったそうですが、昔の軍楽隊って感じの曲ですね。フランス国歌が革命歌であるように、これはアメリカ独立戦争当時の軍隊でも意識した曲なんでしょうか。作りとしては素朴ですね。

 『行進曲』は戊辰戦争当時の新政府軍の軍楽を今に伝えている山国隊による演奏。現在の吹奏楽じゃなくて、邦楽器の鼓笛隊による行進曲です。
 幕末になると幕府も薩長も西洋式の軍制を採用していますが、軍楽隊の吹奏楽まで手が回るものではないので、邦楽器の鼓笛で軍楽隊の代用をしてりしたみたいですね。木管が中心なので現在の行進曲のイメージとはずいぶん違って、どっちかというと祭囃子に近い素朴な感じがします。
 子供の頃、天理教でこういう邦楽器の鼓笛隊の演奏をしたことがあったので、音的に懐かしい感じがします。

 『陸軍分列行進曲』は陸軍の代表的な行進曲で、今でも陸上自衛隊の儀式等で使われてる曲らしいですが、意識して聴いたのは初めてです。海軍の『軍艦行進曲』なんかと比べると全体的に古臭い感じがします。戦中のニュース映画なんかのバックに掛かってそうな曲……というか、実際に使われてたんでしょうね。
 複合三部構成の主部は『扶桑歌行進曲』ですが、作曲者がフランス人なので当時のヨーロッパの通俗曲を行進曲にしたような雰囲気があります。トリオの部分は西南戦争での警察抜刀隊の活躍を称えた『抜刀隊』が用いられていますが、これが昔のチャンバラ映画を思わせるような雰囲気なので、余計に古臭く感じさせられます。ま、マーチの構成としては完成されていて悪くはありませんね。

 『軍艦行進曲』いついては今さら特に書くことも無いんですが、こうして時代を追った流れで聞いていくと、ようやく江戸時代以前の音楽から離れた、垢抜けた近代日本の行進曲という感じです。ま、今でもしばしば聴かれる現役の曲だからってわけでもなく、曲自体が日本的な伝統の哀愁や切なさが感じられない華やかな曲というところがあると思います。

 『長唄「越後獅子」』は江戸時代の通俗曲を吹奏楽で演奏したもの。貴重な音源なのかどうか、ノイズだらけなのが余計に古臭さを感じさせてくれますが、今では滅多に聴けない物ですね。
 当時は明治維新以前から生きてた人も多かっただろうし、レコードやラジオが普及してる時代でもないから、こういった曲を街頭なんかで生演奏で聴くのが一般的だったんでしょうね。
 曲としてはトーキーの初期の頃のチャンバラ映画のBGMに使われてるというか、サイレントの時代でもバンドのいる劇場ではこんな曲を演奏してたんじゃないかなというような感じです。

 『初春の前奏と行進曲~日本のコドモの為に』は戦前のNHKのラジオ放送では毎年正月に流されていたという曲です。イメージ的に初日の出で新年を迎える情景を表したような音楽ですね。
 冒頭、徐々に近付いてくる夜明け時を表すかのようにゆったりとしたテンポで「お正月」(滝廉太郎)のフレーズが演奏されます。やや激しいダイナミックな変奏の後、ゆっくりと静かに「一月一日」(上眞行)のフレーズが演奏され、夜明け直前の様子を表してるかのようです。
 そして派手なファンファーレとともに活発なマーチアレンジされた「一月一日」が演奏され、水平線から顔を出してくる初日の出を描き、スローダウンして今度は堂々とした「君が代」が水平線を離れて昇っていく太陽を仰ぎ見るイメージです。
 最後はゆっくりと穏やかな「一月一日」が新年を祝う様子で、優雅で次第に堂々と盛り上がって終わります。
 ま、モチーフに使われてるのは今でも馴染みの深い曲ばかりだし、音源自体が新録なので全然古さは感じませんね。

 『行進曲「若人よ!」』は軍歌でもなく、江戸時代の謡曲の流れを汲む曲でも無い、純音楽としての近代的なマーチ。軍隊的な張り詰めた感じが無く、のびのびしてるのが特徴ですね。戦後の曲と言われてもわかりません。

 『愛国行進曲』は『軍艦行進曲』と同じ瀬戸口藤吉の曲。インストゥルメンタルだけなら今でもよく聴く曲ですが、歌入りは宴会とかで年配の人が歌うのを聴く以外は滅多にありませんね。
 昭和初期の国歌総動員体制の時代に「国民が永遠に愛唱すべき国民歌」として政府が作った曲みたいですが、まさに精神を高揚させてくれる曲です。とは言っても、フランスや中国の国歌みたいな殺伐とした歌じゃないから、あんまし軍国主義云々と言って毛嫌いするものでもないでしょう。イメージ的には健全な軍歌って感じかな。

 『軍国に躍るリズム』は軍歌をスイングジャズ風にアレンジしてメドレーにした曲。冒頭のファンファーレは『ウイリアムテル序曲』かな。普通は泥臭いような感じがする軍歌もおしゃれに聴こえます。
 昔は軍歌というものが身近な歌謡曲的存在だったのと、大正から昭和の始めにかけては民主的な自由な風潮があったから、お堅いような軍歌もこうやって楽しんでる人たちもいたんですね。

 『古典風軍樂「吉志舞」』は伊福部先生による日本の古典的な兵士の鼓舞の曲を想像して作られた作品。ノイズ交じりの音源が続いた後でいきなりクリアで、やけに聴き慣れた音使いの曲が始まったらけっこう違和感がありますね。
 海軍の委託による『兵士の序楽』と並んで、伊福部先生は戦時中から伊福部マーチを書いてたのかとファンを畏怖させた作品ですが、正しくは後年の「怪獣大戦争マーチ」等と同じモチーフを使った軍楽風の舞曲です。ま、羽田健太郎の『交響曲 宇宙戦艦ヤマト」ではスケルツォに戦闘音楽のモチーフが使われてたりしますから、行進曲を始めとする軍楽と舞曲というのは近いものがあるのかも知れませんね。

 ゆったりとした土俗的な舞曲のフレーズが最初はブラスで、続いてクラリネット主体で奏でられます。そして、「怪獣大戦争マーチ」の前半のモチーフをブラスが高らかに繰り返しますが、あくまで舞曲のリズムです。
 今度は少し弱々しく木管の土俗的舞曲のモチーフが始まると、力強いブラスの反発が入ります。それに続いて「怪獣大戦争マーチ」の後半のモチーフ。
 やがて土俗的舞曲のモチーフが踊り回るような展開で、最後はブラスを主体にややアレグロ気味に派手に盛り上がって終ります。全体的に伊福部先生お得意のオスティナートではなくカノンの技法を多用してるのが特徴でしょうか。


 続いて2枚目は戦後の曲です。

 『カン・カン・ムスメ・マーチ』は、戦後のヒット曲『銀座カンカン娘』をスイングジャズ風にアレンジした曲。演奏のジョニー・ワトソン楽団はメンバーこそフランキー堺ら当時の日本の一流ミュージシャンを集めたものですが、率いるジョニー・ワトソンは進駐軍の人。まさに第2の黒船みたいな位置付けで、進駐軍時代を思わせるようなアメリカナイズされたサウンドです。

 『行進曲「大空」』は戦後を代表するマーチで、旧軍時代のマーチのような、どこか物々しい雰囲気はなく、未来に向かって羽ばたくような明るさに満ちた新時代の行進曲です。タイトルには「大空」ってあるけど、これは空じゃなくて陸上自衛隊の公式行進曲なんですね。
 初めて聴いたのは確か『完全収録 伊福部昭 特撮映画音楽・東宝編』の何枚目かの『宇宙大戦争』のところにライブ使用の音源が収録されていたものですが、それで気に入ってちゃんとステレオ録音されてるCDを買ってきたりしたことが懐かしいですね。

 『祝典行進曲』は今上天皇と美智子皇后の御成婚の際のパレード行進曲で、團伊玖磨屈指の名曲ですね。宮廷風の華やかなファンファーレから始まるロイヤル・ウェディングマーチです。
 クラシカルで堂々としていて優雅で、それでいて新時代の幕開けを告げるような華やかなマーチです。通俗的な軍楽隊マーチやポップスマーチとははっきりと一線を画した風格があります。
 團伊玖磨は現皇太子夫妻の御成婚の際の行進曲も書いていますが、そちらはまだ聴いたことがありません。

 『オリンピック・マーチ』は東京オリンピックの開会式行進曲。
 前半はポップスメーカーの古関裕而らしいスポーツ系の快活で華々しいマーチで始まります。中間部の静かなマーチが独特の味を出していますが、ベルリラの音が入ってるのが印象的です。
 後半は力強いマーチが展開され、コーダはポップス的な独特の終わり方ですね。

 『吹奏楽のためのディヴェルティメント』は演奏会用の純音楽という感じの曲です。
 一斉音一発で始まった後、スピーディーな曲調が展開されます。中間部はホルンを主体としたゆったりと静かな展開で、サックスのアドリブ的なフレーズや、ティンパニーの乱打が挿入されます。
 ファンファーレの後、クラリネット主体で前半部の主題が展開され、ブラスを交えて盛り上がり、マーチ風に終わります。

 『万国博マーチ』は大阪万博の式典パレード用の行進曲。後に『進歩と調和』に改題されているようです。
 全体的に軽快なマーチですが、どこか昭和40年代のガメラ映画とかテレビの特撮番組のマーチ風のテーマ曲を思わせるような感じで、今から聴くと安っぽく感じてしまいます。逆に言えば、俗っぽくて親しみやすいってことでしょうが。

 『行進曲「岩木」』は青森県のあすなろ国体の行進曲。国体の開会式行進曲も開催する都道府県によって様々で、以前に取り上げた宮川彬良によるなみはや国体のように既製の歌謡曲をメドレーでアレンジしたようなものもあれば、完全なオリジナルの曲もあります。
 間宮芳生といえば『太陽の王子ホルスの冒険』が真っ先に浮かんできますが、民謡研究家としても知られる人のようですね。
 この曲は主部が華やかな現代風のマーチ曲なのに、トリオの部分に民謡風のマーチが入ってるのがやけにアンマッチングな感じがして、強く印象に残ります。青森だからねぶた祭か何かの曲かと思ったら、これはタイトルにも使われてる岩木山のお山参詣の御囃子の曲だそうですね。

 『吹奏楽のための「琴瑟」』は日中の国交回復を記念して作られた曲。「瑟」は大きい琴のことで、「琴瑟」は大小の琴の音が上手く合わさるように仲が良い例えに用いられる言葉です。日中の友好を願ったタイトルですね。
 太鼓、拍子木の打楽器から始まり鉦の音が入り、笛によるメロディーが始まっていく、日中の伝統的な音楽を組み合わせたような曲です。吹奏楽用の音楽というより、伝統楽器の音を吹奏楽で再現してるような感じで、どこか雅楽っぽい雰囲気もあります。
 前半部はゆっくりとした祭囃子風で、木管と太鼓が主体。木琴が印象的に使われています。後半は非常にゆっくりとした民俗的なバラード風で、金管を主体にシンバルを印象的に使っています。やがて祭囃子風にテンポアップし、華やかなブラスの音で堂々と終結します。

 『雅の鐘』は皇太子夫妻の御成婚を祝してジョン・ウィリアムズによって書かれた曲です。全体的に華やかなファンファーレが主体の曲。
 音を次々に繰り出してくるイメージはどこかで似たような曲を聴いたことがあるなと思ったら、同じジョン・ウィリアムズによるロサンゼルス・オリンピックの開会式ファンファーレですね。
 ジョン・ウィリアムズってことで、どこか映画音楽的な感じを受けたりもします。「雅の鐘」ってタイトルは和風のものを想像しますが、曲の中身は西洋風のウェディングベルのイメージでしょうか。

     ☆ ☆ ☆

 他にも東京、札幌、長野の3つのオリンピックのファンファーレを聞き比べることが出来て、トランペットのみのシンプルな東京オリンピック、オーソドックスなブラスアンサンブルの札幌オリンピック、現代音楽風に変に凝ってる長野オリンピックという特徴が見て取れるのも面白いところです。
 純音楽的な作品も時代を経るに連れて現代音楽風の嫌な感じになってるのがまざまざと感じられたりもしますし……

 どうでもことかも知れませんがいいけど、ライナーの解説に「新王」の表記が2箇所ありますが……。ま、別に不敬罪で罰せられたりする時代ではありませんが、キングレコードや解説執筆者のの恥を晒してるだけだと思うので、ちゃんとアフターケアを取った方が宜しかろうと思いますが……

(発売元:キングレコード KICC-407~8 2003.07.02)

黒船以来~吹奏楽150年の歩み~
黒船以来~吹奏楽150年の歩み~

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2007.07.17

奏楽堂の響き ~吹奏楽による奏楽堂ゆかりの作曲家たち~

 伊福部作品落穂拾いシリーズの2回目です。ま、昔のCDを引っ張り出してきてもキリが無いから近年のものに限る予定ですが……
 今回は昨年『旧奏楽堂コンサート』と題して、日本最古の木造洋式音楽ホールとして国宝に指定されてる旧東京音楽学校・奏楽堂にて行われた吹奏楽コンサートのライブ盤です。演奏内容は「奏楽堂ゆかりの作曲家」ということで、旧東京音楽学校(現・東京藝術大学)出身の作曲家に加え、作曲の指導を行った伊福部先生の作品が並べられています。
 演奏はリベラ・ウィンド・シンフォニー。ネットや雑誌で賛同者を募って結成された非常設の吹奏楽団とのことです。指揮の福田滋は『SF交響ファンタジー第1番』の吹奏楽版アレンジなどで伊福部作品には縁の深い人ですね。

 収録曲は以下の通り。

 01. 矢代 秋雄
    ファンファーレ
 02. 芥川 也寸志
    東京ユニバーシアード・マーチ
 03. 芥川 也寸志(福田 滋編曲)
    交響曲第1番より第4楽章「アレグロ・モルト」
 04. 黛 敏郎(辰野 勝康編曲)
    交響詩「立山」~テーマとセレクション
 05. 團 伊玖磨(時松 敏康編曲)
    吹奏楽のための奏鳴曲より「第1楽章」

   別宮 貞雄
    組曲「映像の記憶」(改訂初演)
 06.  Ⅰ.マタンゴ
 07.  Ⅱ.黒い樹海
 08.  Ⅲ.遥かなる男
 09.  Ⅳ.鍵の鍵

   眞鍋 理一郎
    三つのマーチ(献呈初演)
 10.  Ⅰ.マーチX《未知》
 11.  Ⅱ.マーチY《葬送》
 12.  Ⅲ.マーチZ《再生》

 13. 伊福部 昭
    吹奏楽のためのロンド・イン・ブーレスク
 14. 芥川 也寸志(福田 滋編曲)
    NHK大河ドラマ「赤穂浪士」のテーマ音楽

 現在もそのまま残ってるコンサートの告知サイトには團伊玖磨の『パシフィック・フリート』とか黛敏郎の『祖国』というマーチ曲の記載もあるのですが、収録時間の関係等で割愛されたのでしょうか。
 収録されてる作曲家はどれも高名な人ですが、名前を知ってるからって作品を聴いてるわけではありません。純音楽作品に関しては既製の日本の現代音楽関係のオムニバスCDで伊福部先生の作品とカップリングされてたものぐらいでしょうね。

 それでは順番に聴いていきましょう。


矢代秋雄『ファンファーレ』

 トランペットのソロが単音を順番に奏でていく出だしから、やがてホルン等が加わってシンフォニックなブラスアンサンブルに展開されます。ラスト付近で打楽器が派手に加わって盛り上がります。
 典型的なファンファーレ。短いながらもシンプル・イズ・ベストの見本のような音楽ですね。吹奏楽コンサートの始まりにはぴったりの曲です。


芥川也寸志『東京ユニバーシアード・マーチ』

 華やかなファンファーレに始まる複合3部形式のマーチ曲。
 軽やかで力強い第1主題の後、ややゆったりとした優雅な第2主題が展開し、再び重みを増した第1主題の変奏で構成される序盤。中盤はホルンのソロの響く流れるような第3主題が展開された後、後半で第2主題のアレンジが展開されます。そして終盤は再び序盤と同じ構成が繰り返される華々しいシンフォニック・マーチです。

 初めて聴く曲なのですが、とても惚れ惚れとする素晴らしいマーチ曲なんですが、日本のマーチ曲集などの吹奏楽のオムニバスアルバムではまず見かけないのはもったいないような気がします。
 第1主題の最初の部分で木管のトリルが入ってるあたりが伊福部先生の「怪獣大戦争マーチ」を髣髴させて面白いです。


芥川也寸志『交響曲第1番』より第4楽章「アレグロ・モルト」

 トロンボーンをベースにしたスピーディーなフレーズと木琴の軽やかなリズムで始まる曲。その上に高音のフルートや、ホルン、低音のバスーン辺りの楽器の旋律が重なって来ます。
 交響曲の1つの楽章というより、単一のマーチ曲かと思うような曲です。ま、これも伊福部先生の特撮マーチと同じで、マーチというよりはタイトル通りのアレグロの曲ってことでしょうけど。
 後半、チューバが入ってゆっくりと堂々としたフレーズが奏でられます。いったん静寂になった後、再び冒頭のスピーディーな展開が繰り返されますが、あっさりと静寂に帰って行きます。
 ティンパニーの連打の後、突然に激しい展開。ラストは派手な打楽器を交えた盛り上がりで終わります。


黛敏郎『交響詩「立山」』~テーマとセレクション

 堂々とした重厚かつ高らかなファンファーレ風の始まり。それに続いてテーマモチーフがゆったりと現れます。
 険しい山々を示すかのようなサスペンス風のマイナーなアダージョ。そして静寂から湧き上がって来る人々の営みを表すような土俗的なモチーフによるフレーズの繰り返し。再びテーマモチーフの旋律が盛り上がってきて一区切り。
 やや激しく反復を繰り返すフレーズ。フルートによるテーマモチーフの調べがかすかに流れてきた後、アクセント的に盛り上がって静まります。
 後半、シンバルとティンパニーの連打がしばらく続きます。その後、トランペットのアルペジオ風のマイナーなフレーズが繰り返された後、テーマモチーフの旋律が入ってきてメジャーに展開していきます。
 ラストは打楽器を交えながらゆっくり堂々と奏でられて終結します。

 タイトルからすると、管弦楽作品である『交響詩「立山」』の抄訳というか一部を抜粋してきて吹奏楽版に仕上げてあるって感じなのですが、どうなのでしょうか。なかなか雄大さに魅かれるところもあるので、原曲を聴けばさらにスケールが違って聴こえるんでしょうね。


團伊玖磨『吹奏楽のための奏鳴曲』より「第1楽章」

 沖縄を思わせるような南方系の民俗的モチーフの第1主題が展開されるスピーディーなファンファーレで始まり、ゆっくりと高らかにトランペットで奏でられるバラード系の第2主題が現れますが、このフレーズ、どこかで聴き覚えがあると思ったら……東宝映画『世界大戦争』のエンディング曲と同じモチーフですね。
 アレグロに展開されていく第1主題とファンファーレ的な響き。それに絡んでくるゆっくりとした第2主題。曲はシンフォニックに展開されていきます。
 マーチ風に盛り上がっていく第1主題。堂々と華々しく展開していきます。そしてゆっくりと第2主題が展開。華々しく盛り上がった後、スローダウンした第2主題のフレーズが断続的に入り、最後は畳み掛けるように盛り上がって終わります。

 やはり聴きなれたモチーフが入った曲は馴染みやすいというか、そういう曲なんですが、まぁどちらがオリジナルなのかはわかりませんが……。


別宮貞雄『組曲「映像の記憶」』

 これは映画やテレビドラマのための音楽をまとめた作品らしいです。

 「Ⅰ.マタンゴ」

 『世界大戦争』の次が『マタンゴ』ですか。なかなか通な構成ですね。(実際に作品を見たことあるのはこれだけで、後の3作品は知りません)
 昭和30年代の映画のパブやキャバレーの場面でよく流れてるようなジャズバンド演奏の現実音楽的な曲。特に東宝映画に顕著なようなんだけど、この手の音楽が掛かってると、同じ特撮映画でも怪獣映画のようなお子様向けではない大人向けの映画ってイメージなんですね。
 テンポの速いポップな曲調。映画では冒頭、登場人物たちがクルーザーで南の海に向かってるシーンのイメージですね。

 「Ⅱ.黒い樹海」

 ゆっくりとしたトランペットによるミステリータッチのフレーズが繰り返される曲。昭和30年代あたりの犯罪ミステリー映画って雰囲気が感じられます。

 「Ⅲ.遥かなる男」

 小林旭の渡り鳥シリーズってわけではありませんが、そんな感じの風来坊か何かの主人公が活躍する作品って感じのイメージを呼び起こさせる音楽です。これもラウンジか何かでバンド演奏してるような雰囲気の曲ですね。

 「Ⅳ.鍵の鍵」

 アップテンポで少しスリリングな曲。同じフレーズが繰り返されますが、犯罪事件の発端とか、チェイスシーンとか、犯罪アクション映画風の雰囲気の曲ですね。これもラウンジとかビアガーデンとか、そんなところで演奏されてるような感じ。昭和30年代の映画ってこういう音楽が流行りだったのか、特に別宮貞雄の音楽の特徴とかいうイメージではありませんね。
 ラストが華々しく盛り上がって終わってるのは、組曲用のアレンジなんでしょうか。


眞鍋理一郎『三つのマーチ』

 これはこの演奏会のための新作のようです。
 眞鍋理一郎というと『ゴジラ対ヘドラ』や『ゴジラ対メガロ』の音楽でお馴染みですが、同じ昭和のゴジラ映画でも伊福部先生や佐藤勝の管と弦の調和の取れた音楽と比べると、ブラスの突出した音楽というイメージが強いですね。それも、伊福部マーチのように金管が張り詰めた音を高らかに奏でるのではなく、どちらかというとファ~ンファ~ンと萎れたような脱力系のイメージです。
 昭和後期の「チャンピオン祭」時代のゴジラ映画ですから、世間的には子供だましの映画と見られていたかも知れませんが、だからと言って作曲家が手抜きして適当に作ったとは思わないから、これが眞鍋理一郎という作曲家の特徴なんでしょうね。
 ……と前置きを書いたのは、他に眞鍋理一郎の作品を聴いたことが無いからですが、そのイメージで聴いていきます。

 「Ⅰ.マーチX《未知》」

 ゆっくりとしたテンポ。トランペットを主体にブラスがいかにも前衛音楽的な不快な音を奏でます。サスペンス風の旋律が、未知というよりも何か好ましくない侵略者かモンスターのような存在が水面下を淡々と進行してる感じです。
 初っ端から、この人のブラスはやっぱりこういう音なんだなと思わせてくれる作りです。昭和の前衛音楽最盛期ならともかく、21世紀になってまだこういう音で音楽を作りますかって感じなんですが、すっかりそれを御自分の作風にされてるってことでしょうね。

 「Ⅱ.マーチY《葬送》」

 弱々しく静かに始まるマイナーの旋律による非常にゆっくりとしたマーチ。マーチというよりはむしろボレロって感じがするくらい、ゆっくりと淡々としたフレーズが続きます。
 メインの旋律は悲愴というよりもむしろおどろおどろしく、葬送行進曲というよりは、ゾンビの集団のマーチじゃないかって感じで、スリリングかつサスペンスタッチの印象を受けます。何か恐ろしいものが迫ってくるって感じが徐々に大きくなって緊迫していきます。

 「Ⅲ.マーチZ《再生》」

 トランペットが奏でるトリル風のイントロ。ブラスが吹き乱れる中、マーチのリズムとマイナーな土俗風の旋律が始まり、続いてトランペットがアルペジオ風のフレーズを奏でます。
 ゆっくりとしたリズムに、大雑把な旋律。再生というイメージよりも、まるで力強さの抜けた怪獣の葬送行進曲って感じ。やがて打楽器が大きく盛り上がってきます。

 マーチというにはマイナー系の重苦しい曲ばかりで躍動感の欠片もありません。音楽的にはマーチのリズムで作られてるってことなんでしょうけど、世間一般のマーチというイメージからは大きく懸け離れたイメージです。
 『三つのマーチ』と称するなら1曲ぐらいならこんな曲が入っていても味付けにはなるんでしょうけど、3曲ともこれじゃとても世間ウケする音楽ではありませんね。せめて1曲ぐらいは華々しいマーチ曲があっても良さそうなんですけど、それじゃ作風に反するってことでしょうか。


伊福部昭『吹奏楽のためのロンド・イン・ブーレスク』

 日比谷公会堂での『SF交響ファンタジー』の初演時にオーケストラ版が演奏されて以来、レコーディング等ではオーケストラ版の方が馴染みのある作品ですが、今回は会場の問題もあって初演版の編成とのこと。
 ライナー等によれば伊福部先生はあくまで編成を増した現在の改訂版での演奏に拘っていたとのことなんですが、この吹奏楽版の改訂ってのはいつの時点で行われたんでしょうか。(『バンドのための「ゴジラ」ファンタジー』に収録された時かな)

 トランペットが高らかに奏でる第1主題は『わんぱく王子の大蛇退治』の「スサノオの旅立ち」等でもおなじみのもの。そしてすぐに第2主題の「怪獣大戦争マーチ」等でおなじみのモチーフが始まりますが、重厚なオーケストラ版の第2主題が「怪獣大戦争マーチ」なら、この小編成の吹奏楽版の第1主題は『ゴジラ』の「フリゲートマーチ」って感じの印象です。
 オーケストラ版の方もしばらく聴いていないのですが、この第2主題の反復がけっこう執拗に続きます。よく聴けば「怪獣大戦争マーチ」の前半のモチーフと後半のモチーフを別々の素材として使ってるようです。そこに第1主題が絡んでいます。
 曲の半ばにきてようやく第3主題の『フランケンシュタイン対地底怪獣』の「特車隊マーチ」等で使われてるモチーフが現れますが、これは意外と短く、すぐに再び第2主題に戻ってしまいます。
 第1主題と第2主題の反復が繰り返された後、打楽器と共に大きく盛り上がった後、再び第3主題が登場します。その後は第2主題の2つのモチーフと第3主題が交互に現れながら、太鼓の一定のリズムと共に『ボレロ』風に盛り上がって終結を迎えます。

 CD等はしばらくオーケストラ版が何枚か出てただけ(ほとんど『SF交響ファンタジー』全曲とのカップリング)なんですが、近年になって吹奏楽版が多く見られるのは『バンドのための「ゴジラ」ファンタジー』への収録がきっかけでしょうか。逆に最近はオーケストラ版の方を見掛けなくなってますが……
 いわゆるブラスがメインの伊福部マーチのモチーフ主体の曲なので、オーケストラ版と吹奏楽版とであまりイメージに違いはありませんが、編成の大きさというのはやはり影響を強く与えてるみたいですね。


芥川也寸志『NHK大河ドラマ「赤穂浪士」のテーマ音楽』

 胴打ちを交えた和太鼓の単調なリズムが繰り返されます。その上に奏でられる旋律も短いフレーズを延々と繰り返してるだけで、さしずめ芥川也寸志版の『ボレロ』ですね。
 中盤で一度盛り上がった後、最初から繰り返しって感じで、ラストで大きく盛り上がった後、急激にあっさり終わります。この辺もラベルの『ボレロ』を意識してるのでしょうか。

     ☆ ☆ ☆

 アルバムのタイトルとか作曲者の顔ぶれを見たら、吹奏楽といっても何か小難しい前衛的な現代音楽の作品が多いのではないかって印象だったのですか、実際に聴いてみると華やかなマーチとか、親しみやすい映画音楽のモチーフを展開させた作品とかが多くて、あまり難しいことを考えなくても良いアルバムでしたね。

 ところで、20世紀の間は現代音楽とは20世紀の音楽ってことで扱われていたのですが、21世紀になってからは主に第2次世界大戦後の音楽ということになってしまって、それ以前の音楽は近代音楽に含まれてしまったみたいで、伊福部先生みたいに戦前から活躍してる作曲家は近代音楽の作曲家扱いになってるようです。
 ここで演奏されてる『ロンド・イン・ブーレスク』は戦後の作品ですから現代音楽と言っても良いのかも知れませんが、戦時中に作られた『吉志舞』『兵士の序楽』等の流れを汲む作品ですから微妙なところかも知れません。

(発売元:スリーシェルズ 3SCD-0003 2006.10.15)


奏楽堂の響き~吹奏楽による奏楽堂ゆかりの作曲家たち
奏楽堂の響き~吹奏楽による奏楽堂ゆかりの作曲家たち

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2007.05.11

伊福部昭『日本狂詩曲』+有馬礼子『交響曲第1番「沖縄」』

 当初は昨秋に発売予定だったミッテンヴァルトの伊福部昭追悼盤の2枚目が春に延期ってことだったんですが、さらに今秋に延びてしまったみたいで残念です。6月にはこの前の『伊福部昭音楽祭』のライブ盤がキングの伊福部昭の芸術シリーズとして出てくるみたいですが、それまではということで昨年発売された単独タイトル以外のCDから落穂拾いということで……

 伊福部先生が亡くなられた直後に真っ先に追悼盤と題打って出て来たのがこのアルバム。もちろん、元々は先生の存命中から発売予定になってたもので、ちょうどジャケットの見本が出来た頃に亡くなられたという話です。
 有馬礼子は以前、日本コロムビアの学芸部にいて、その頃にレコード化しようと録音したのがこの『日本狂詩曲』で、それ以来お蔵入りになっていたのを、自作曲のCD化と抱き合わせてCD化しようと掘り出してきたというのが今回の音源らしいですね。

 録音は今は無き赤坂のコロムビア第1スタジオとのこと。以前に1度、名匠宮川組による『宇宙戦艦ヤマト』のプレミアムライブで入ったことがある場所ですが、『宇宙戦艦ヤマト』の数々の名曲が生まれたのもこのスタジオであり、このスタジオで最後に録音されたのが宮川彬良と平原まことによる『アコースティックヤマト』だったとの話で、個人的には非常に親しみのあるスタジオです。
 プレミアムライブの時はスタジオの半分ぐらいはパイプイスを並べて客席になってたので狭く感じましたが、本来なら全体が演奏用の部屋だから小さなオーケストラぐらいは平気ではいるんでしょうね。

 収録曲は次の通りです。

 伊福部昭『日本狂詩曲』
     指揮:若杉弘 、演奏:読売日本交響楽団
  01. 第一楽章 夜曲
  02. 第二楽章 祭り

 有馬礼子『交響曲第1番「沖縄」』
     指揮:内藤彰、東京ニューシティ管弦楽団
  03. 第一楽章 宮古
  04. 第二楽章 八重山
  05. 第三楽章 首里

 伊福部先生は今さら紹介するまでもありませんから、有馬礼子について。東京音大出身で一時期、コロムビアの学芸部にいた頃にここに収録されてる『日本狂詩曲』の録音を手掛けたらしいというのは前述の通り。
 その後、東京音大の助教授の時に伊福部先生が学長としてやってきたので、何かと付き添う間に教えを受けたということらしいです。ここに収録されてる『交響曲第1番「沖縄」』以外にも沖縄に関する曲を多く手掛けてライフワークとされてるらしいですが、その辺はよくわかりません。
 当然ながら、このCDで初めて名前を目にした人です。

 では、曲を聴いていきましょう。

 伊福部昭『日本狂詩曲』

 今さらいうまでもありませんが、チェレプニン賞を受賞によって伊福部先生の人生を大いに変えた作品です。
 ところが、国内の反応は散々で、日本の恥だから応募は取りやめにさせろとか言われたり、コンサートでの国内初演は作曲から40年以上も経った1980年代に入ってからだったり……現在ではコンサートの機会もも数多くCDも手元にあるだけですでに10枚近くは出てるようですが、以前の音壇における伊福部先生の冷遇振りが目に見えるようです。
 有馬礼子の手掛けたこの演奏は1967年の録音。ライナーには後の伊福部ブームに先立つこの録音がレコード化されていたらというようなことが書かれていますが、実はこれ以前に録音されてレコード化されたものがあるので、この録音が最古というわけではありません。そっちの方は割と早くからCD化もされていて、後にユーメックスやフォンテックが伊福部作品をシリーズで出し始める以前には貴重な1枚でした。

  第一楽章 夜曲

 ヴィオラの哀愁漂うソロで始まるレクイエム風の曲。レクイエムと言っても西洋風のものじゃなくて、盆の送り火を送る寂しげなながしの音楽って感じです。ヴィオラから始まる曲ってのもちょっと珍しいですけど、耳だけじゃちょっとチェロと区別が付き難いですね。どっちにしろバイオリンやフルートで始まるような普通の曲とは違った印象をまず受けてしまいます。
 そのヴィオラにフルートやピアノが加わってきてだんだん厚みが加わってくる感じ。ピアノはここではアクセントをつけるだけに使われてる感じで、それに気付かないとピアノが入ってることすら見落としてしまうようです。
 フルートとストリングスによるゆったりとしたフレーズが続いた後、やがてリズミカルな土俗的な踊りの旋律が現れ、ストリングスと哀愁的なフルートの調べが奏でられた後、ゆっくりとスローダウンしたフルートのソロでフェードアウトするように終わります。

  第二楽章 祭り

 打楽器のリズムに乗ったクラリネットによる祭囃子風のメロディーで始まります。いかにも伊福部昭という旋律なので、最初のフレーズを聴いただけでもゾクゾクとしてくるのが伊福部ファンですが、初期の作品ですでにこういうスタイルを確立していたというのが驚きです。
 一斉に鳴り始めるオーケストラでいったん盛り上がった後、クラリネットの旋律とブラスの反駁の掛け合いが繰り返されます。そして再びオーケストラが盛り上がった後、これまでクラリネットが奏でていた旋律をブラスが奏で始めたと思うと、逆に反駁部分を今度は木管が奏で始めるという展開です。
 中盤以降はほとんど同じフレーズを執拗に繰り返すというオスティナートの手法が、やはりこんな初期の作品から始まってるのかと感嘆するほかはありません。
 終盤の盛り上がりになると、ここぞとばかりに鳴り始めるピッコロも、『シンフォニア・タプカーラ』第3楽章の終盤にも見られる部分ですが、ここでピッコロを出してきてるのはオーケストラの中ではもっとも高音域を奏でる楽器なので、オーケストラが一斉に鳴ってる時でも音が聞き取りやすいからなんでしょうね。

 スタジオ録音と言っても大規模なオーケストラ演奏は貸切のホールで録音されることが多いんですが、これはコンサートホールとは違う文字通りのレコーディングスタジオでの録音なので、ホールでの演奏とは音の聞こえ方が微妙に違ってるのかも知れません。別にパート別の録音をしたってわけじゃないんでしょうけど、他の録音と比べると、割と個々の楽器の音がくっきり聴こえる感じがしますね。


 有馬礼子『交響曲第1番「沖縄」』

 交響曲と題打ってますが、元々は交響詩として作曲された第1楽章、第2楽章に新作の第3楽章を合わせて3楽章構成としたもののようです。
 2004年の初演版の収録とのことで、『日本狂詩曲』とは40年近くも違いますが、さすがにそれだけ録音期日の離れた作曲者も演奏者も違う演奏をカップリングしたアルバムというのも珍しいような気がします。

  第一楽章 宮古

 どこか気だるさを感じるトランペットのファンファーレ。フルートによる沖縄風の旋律が現れ、不協和音のブラスによる騒がしい展開。沖縄の民族音楽風のモチーフを使いつつも現代音楽的な不協和音の展開がメインのようです。
 伊福部先生の『日本狂詩曲』の後に続けてこの曲を聴くと、伊福部音楽が続く『ゴジラ』シリーズのオムニバス盤の中でいきなり佐藤勝の『ゴジラ対メカゴジラ』のタイトル曲が掛かってきたような感じがします。
 けっこうブラスを派手に使ってるようだから、もうちょっと華やかに聴こえても良い気がするんだけど、そうじゃないのは曲がどことなく古臭く感じてしまうからですね。2004年(元の交響詩としては2002年?)の作品に古臭いも何も無いだろうって話はありますが、なんか手法的に20世紀の前衛的なものの影響が残ってるからのような気がします。

  第二楽章 八重山

 シンバルの乱打から華やかなブラスのファンファーレで始まる曲。チューバを中心とした重低音がリズムをリードしてるのが特徴で、スピーディーなストリングスが続きます。序盤では民俗音楽風のモチーフは使われず、普通に南の島のイメージそのもので曲が展開されてる感じです。
 不協和音主体のバイオリンソロのフレーズの後、ようやく民族音楽のモチーフが奏でられ、ブラス主体に盛り上がっていきます。(宮古と八重山の違いなのか、第一楽章のモチーフとは異なる感じです)
 ややゆったりとしたワルツ風の展開の後、土俗的な踊りのリズムが現れ、ここで一瞬だけ第一楽章の民族音楽のモチーフが現れます。第一楽章ほどの気だるさは感じないけど、やはり似たようなイメージで曲は展開していきます。
 ブラスがアップテンポに盛り上がり、オーケストラヒットを何発か続けて終曲です。

  第三楽章 首里

 やや尖った感じのブラスのファンファーレに、ややスローダウン気味のストリングスのフレーズが続きます。
 気だるいブラスのファンファーレが続いた後、ゆっくりとしたマーチ風のリズムで展開されるブラスとストリングス。バイオリンソロによるフレーズとやや弱めのブラスの掛け合いの後、小刻みでリズミカルなピッコロの調べが続きます。
 ストリングスで徐々に奏でられていく民族風の旋律。カスタネットと気だるいブラスに、ストリングスのスタッカート。ブラスとティンパニーで華々しく盛り上がる民族音楽風の旋律……というより、第一楽章や第二楽章とも違ってユンタ風の旋律ですね。
 カスタネットの連打の後、ストリングスの静かな調べが続いた後、ブラスが絡んできて盛り上がって終わります。

     ☆ ☆ ☆

 う~ん、何度聞いても『沖縄』の方が『日本狂詩曲』より遥かに古臭く感じてしまいます。別に沖縄の民族音楽の素材が古臭いとかいうのでないのは、例えば同じ沖縄のモチーフを使った佐藤勝の『ゴジラ対メカゴジラ』のタイトル曲を聴いてもここまで古くは感じません。作曲法というかオーケストレーションの手法が古いような気がします。
 そんなこと言えば、伊福部昭なんてもっと古臭いんじゃないかって言われそうですけど、伊福部先生の音楽は時代の移り変わりなんかとはずっと超越した世界にあって、ベートーベンやモーツァルトの音楽がけっして古臭くないのと同様、すでに普遍性を手にしてるように思います。そうじゃない人が流行り廃りを意識した手法で作ったりすると、現在ではあっという間に陳腐化してしまうんですね。
 冒頭のどことなくルーズに聴こえるファンファーレも、沖縄の音階を用いた音だといえばそうかも知れませんが、その表現方法が現代音楽的な不協和音だとしたら。沖縄の音としての普遍性よりも現代音楽としての一時性に支配されてしまいます。

 このルーズに聴こえるファンファーレで思い出したのが、『ゴジラ対ヘドラ』の眞鍋理一郎の音楽。どうも日本の現代音楽作家はトランペットをパンパカパーンと吹けば軍隊ラッパでも連想して避けようとするのか、ファ~ンファ~ンと吹かせようとするきらいがあるみたいですか、それはさておき。昭和のゴジラ映画の音楽を聴いていくと、伊福部先生の音楽はいまなお色褪せない魅力を秘めていて、佐藤勝の音楽もけっして古さは感じないのですが、それに比べると眞鍋理一郎の音楽は完全に昔の音楽って感じがします。別に『ゴジラ対ヘドラ』がシリーズ後期の子供向けの作品だから手抜きをしたってわけじゃないんでしょうけど、トランペットのファ~ンファ~ンというのは、そればかりが連続すると古臭く感じるんですね。
 それに比べると伊福部先生なんかは誰がどう言おうとパンパカパーンで譲らない人だから、音が鮮烈に研ぎ澄まされてて、けっして古さを感じないように思います。


(発売元:日本ウエストミンスター JXCC-1011 2006.04.19)


伊福部昭+有馬礼子
伊福部昭+有馬礼子

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2007.04.20

ブラスバンド・バラエティ 宮川彬良&大阪市音楽団

 今回は吹奏楽のアルバムです。
 吹奏楽といえばパレード等のマーチングバンドをイメージすることが多いのですが、ステージ演奏をメインとする弦楽器抜きの簡易オーケストラ的な編成のものも多く、オーケストラにはちょっとメンバーを集められないアマチュアバンドの活動なんかも多いようです。(オーケストラ指向の強い吹奏楽団は特にウインド・オーケストラを名乗ったりしています)
 大阪市音楽団は大阪市の持つプロの吹奏楽団ですが、前身が陸軍の軍楽隊だったというから、相当に歴史の古いのようです。
 今回のアルバムは、この大阪市音楽団が宮川彬良のアレンジ・指揮で演奏した2006年2月の八幡市民文化会館でのコンサートのライブ録音です。宮川彬良についてはここを読んでる人には特に説明は要りませんよね。この春からNHK教育で放映してる『風の少女エミリー』の音楽も手掛けられてるようです。
 ゲストプレーヤーはサックスの平原まこと。最近の宮川彬良とは切り離せない人ですね。

 とりあえず曲目一覧。父親だからって故・宮川泰の作品が多いのはいつもながらのご愛嬌ですか。

 01. ズームイン!!朝!
 02. 組曲『宇宙戦艦ヤマト』1 序曲
 03. 組曲『宇宙戦艦ヤマト』2 宇宙戦艦ヤマト
 04. 組曲『宇宙戦艦ヤマト』3 出撃
 05. 組曲『宇宙戦艦ヤマト』4 大いなる愛
 06. 私のお気に入り
 07. ジュ・トゥ・ヴ
 08. 竹内まりやメドレー 不思議なピーチパイ
 09. 竹内まりやメドレー 駅
 10. 竹内まりやメドレー 恋の嵐
 11. ブラック・ジャック 第1楽章
 12. メドレーマーチ“Oh!Namihaya” 道頓堀行進曲
 13. メドレーマーチ“Oh!Namihaya” チャンピオン
 14. メドレーマーチ“Oh!Namihaya” 大阪で生まれた女
 15. メドレーマーチ“Oh!Namihaya” 大阪の女
 16. メドレーマーチ“Oh!Namihaya” 王将
 17. メドレーマーチ“Oh!Namihaya” 大阪ラプソディー
 18. メドレーマーチ“Oh!Namihaya” 雨の御堂筋
 19. メドレーマーチ“Oh!Namihaya” どんなときも
 20. マツケンサンバII
 21. ゲバゲバ90分

 それでは中身を聴いていきましょう。

 「ズームイン!!朝!」はかつては日本の朝を代表する音楽だったと言っても良い、宮川泰の名曲です。トランペットのファンファーレから始まり、流れるようなホルンが紡いでいく華やかな曲……というよりは、サンバホイッスルの鳴り響くド派手な曲といった方がいいでしょう。
 テレビ番組、とくにニュース番組だと押さえ気味に使われるものだし、昔のテレビは音質も良くないから同時刻の他の局のニュース番組に比べたら派手気味でしたが、音楽自体はそんなに派手な印象はなかったのですが、こうして音楽だけ取り出してみるととても朝のニュース番組の音楽とは思えないくらい派手ですね。
 ま、「ズームイン!!朝!」といえばニュースよりも巨人贔屓の徳光アナに阪神を応援する読売テレビのアナが対抗してたプロ野球コーナーとか、ウィッキーさんの英会話の印象が強かったんですが。

 「組曲『宇宙戦艦ヤマト』」は宮川泰の代表作である『宇宙戦艦ヤマト』の音楽の演奏会用のアレンジ曲。
 この曲、90年代くらいから宮川泰が手掛けるオーケストラコンサートで演奏されるようになって、しばしばボーカルやスキャットが入ったりしていてその都度、演奏形態が微妙に違ったりしています。演奏される機会で言えばオーケストラの方が圧倒的に多いんですが、なぜかCD化されてるのは吹奏楽バージョンばかりでこれが3枚目。
 実質的には『幻想軌道』のライブ盤に入ってるのや『交響組曲 新・宇宙戦艦ヤマト』の冒頭に入ってるのもこれのバリエーションの1つと言えないことは無いでしょうけど、純粋にオーケストラ版としては出てないんですね。

 「序曲」は『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』の同名曲からサスペンス・モチーフによるイントロを省き、ピアノ伴奏付きのスキャットから始まり(『交響組曲』ではピアノ伴奏は付かない)、中盤の盛り上がりから後半部に入ったところでぶち切って次の「宇宙戦艦ヤマト」に繋げられる構成の曲ですが、この吹奏楽バージョンではスキャットの代わりに平原まことのサックスが入って、もちろんピアノ伴奏なんかはありません。
 ゆっくりとした哀愁漂うサックスのソロから始まってる時点で原曲とはイメージがかなり違います。そこに木管やトロンボーン、ホルンが重なってきて何とか原曲のイメージを取り返してるという感じ。後半の盛り上がり部分はノーマルですね。

 「宇宙戦艦ヤマト」はお馴染みの『宇宙戦艦ヤマト』のテーマソングです。前曲がサックスを表に出した大胆なアレンジで来たから、これはどう料理してくれるのかと思ってたら、意外にノーマルな感じのアレンジです。
 ボーカルパートはサックスとトランペット辺りが交互に奏でてる感じですが、サックスのペースに合わせてるのか、オーケストラ版だとしばしば速過ぎるテンポになってるところを、ボーカルに適した適正なテンポに納まっているようです。

 「出撃」は戦闘シーンの音楽。『交響組曲』の「決戦~挑戦=出撃=勝利」の真ん中からタイトルを持ってきたみたいですが、要するに「ブラックタイガー」の音楽です。
 テンポはやや不定気味。伊福部マーチじゃないけど、こういうハイテンポで激しい音が連続する曲はブラスにとっては過酷なんでしょうか。原曲に比べていくらかもたつきが感じられます。ストリングスが無いと滑らかさに欠けるというのも原因かな。

 「大いなる愛」は『さらば宇宙戦艦ヤマト』のクライマックスで使われた名曲ですが、これが本編で実際に使われた曲と構成が違うのは、昔からサントラ盤を聴いた人ならよく知ってる話ですね。
 第1主題はクラリネットのソロから始まってオーボエのソロで終わる、非常におとなしいアレンジ。哀愁漂うバラード風です。続く第2主題はサックスのソロで1ループした後、ようやく他の楽器全体に盛り上がってもう1ループという感じで、前半と後半の対比が非常に大きなアレンジに仕上げられています。
 ラストのマーチ風の締めくくりは『交響組曲』の「序曲」のラストを思わせるアレンジで、うまくまとめ上げてるって感じですね。

 「私のお気に入り」はミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』で、マリア先生が何度か口ずさむ、とても印象的な曲です。映画しか見たことはないんですけど、どちらかというと「トレミの歌」とか「エーデルワイス」なんかより、この曲の方がずっと印象に残ってるんですね。
 演奏はサックスを中心にジャズ風のアレンジから始まり、中盤、小刻みにコミカルなアレンジ。そこからゆっくりとしたバラード調のフレーズが続いた後、アップテンポに盛り上がってジャズセッション風の演奏となり、最後はシンフォニックに締めくくってるという感じ。
 いろんなアレンジを組み合わせてる感じで、トラップ家の子供たちの間を駆け回ってるマリア先生の光景が思い浮かんで来ます。
 『サウンド・オブ・ミュージック』の曲では他に「もうすぐ17歳」なんかも好きなんですが、この曲も宮川彬良アレンジで演奏してくれないかなぁ……

 「ジュ・トゥ・ヴ」はヨーロピアン風の華やかでシャレた音楽。何かと思えば、原曲はサティの書いたシャンソンらしいですね。サティといえば「ジムノペティ第2番」ぐらいしか馴染みがなく、またピアノ曲の人というイメージしかないから新鮮な感じです。
 コミカルなイントロの後、トランペットによるゆっくりとしたメロディー。トロンボーンあたりのやや寂しげなフレーズが続いた後、トランペットを中心に木管や木琴を交えて華やかに盛り上がり、シンフォニックに展開した後スローダウンして終わる感じ。

 「竹内まりやメドレー」は竹内まりやの代表曲をジャズ風のアレンジでつなげたメドレー。
 ライナーノートで宮川彬良が吹奏楽は(あまり制約がないからジャズ風のアレンジみたいな)自由なアレンジが出来るというようなことを書いていて、実際、他の曲でもジャズっぽいアレンジがされてる曲もあるわけですが、あまり音楽的に濃くないリスナーからすると、吹奏楽は吹奏楽であってジャズじゃないんだから……というような印象ももってしまって、もうちょっとノーマルなアレンジで原曲に近い音を聞かせてくれてもとか思ったりもしてしまいます。

 「不思議なピーチパイ」は竹内まりあの曲というよりも、河合奈保子がアイドル時代のライブ盤で歌ってるのを繰り返し聴いて耳に馴染んでるって感じかな。オーソドックスなジャズセッション風のアレンジですが、スローダウンしたところのピッコロがなかなか聞かせてくれます。
 「駅」はゆっくりとしたバラード風。後半、鉄琴とホルンで盛り上がってくるところのアレンジがどこか宮川泰の作風に似てるんですが、やはり血は争えないというところでしょうか。
 「恋の嵐」は華々しいアレンジで始まる曲ですが、サックスのソロの部分が印象的ですね。

 「ブラック・ジャック」は宝塚市立手塚治虫記念館の開館5周年記念に作曲された作品で、「命」をテーマに3楽章構成で作られています。元々は宮川彬良&アンサンブル・ベガの公演プログラムとして発表された曲なので、元来は非常に少人数のブラスバンドで演奏される曲のようです。今回はそれを大編成用にアレンジしなおしたバージョンですね。
 「第1楽章」は「血と、汗と、涙と…」という副題が付いていますが、血は患者の発生、汗は手術の苦労、涙はそれを巡る人間模様というところでしょうか。
 割と派手目のシンフォニックな曲で、具体的な解説がないのでどういう状況展開の曲なのかはちょっとわかりませんが、天才外科医として華々しく活躍するBJの光と影を描きながら「命」を謳い上げてるというところでしょうか。
 作曲者によるとソナタ形式とのことですが、終始トランペットで奏でられるメインモチーフが印象的に残る曲です。

 「メドレーマーチ“Oh!Namihaya”」は1997年の大阪国体(なみはや国体)の開会式入場行進曲です。この曲を手掛けたことが宮川彬良と大阪市音楽団との出会いだったようですね。
 曲目を見てもわかるように、大阪ゆかりの歌謡曲をメドレーで繋いで行進曲かしたものです。ファンファーレ的なトランペットのモチーフをメインに各曲をマーチ風にアレンジして繋げてある形ですが、原曲がしっとりとした感じの曲はアレンジも抑え目にただリズムにメロディーを乗せてる感じなのですが、逆に元から派手目の曲はマーチ化のアレンジが大胆でイメージがかなり変わってるような気がします。
 この手の式典マーチは、完全オリジナルの曲ならともかく、こういう既製曲をメドレーにしたようなのはほとんど使い捨てという感じで、後から顧みられることは滅多に無いと思うので、こういう形で残っていくのも貴重かも知れません。
 Wikipediaの「なみはや国体」を見てみたら『グランドオペラなみはやの夢』というのも宮川彬良が手掛けたようですが、これも聴いてみたいですね。

 「マツケンサンバII」は今や宮川彬良の代表曲として知らない人はいないような曲ですね……って、実のところマツケン抜きのオーケストラ版とか吹奏楽版しか聴いたことがないんですけど。
 とにかく全体的に華やかな曲で、ド派手なトランペットにサックスが微妙に絡んでる感じです。クラリネットとトロンボーンあたりによる間奏がなかなか良いですね。

 「ゲバゲバ90分」は昔、日曜の夜にやっていたバラエティ番組のテーマ曲で、これも故・宮川泰の作品です。当時は子供は8時には寝ろというのが当時の我が家のルールだったので、原則的に見られない番組だったのですが、それでも何らかの事情で遅くなるときもあって、たまたまテレビに映っていたのを目にしたこともあるのですが、記憶に残ってるのはシルクハットとタキシード姿でステッキを持った大橋巨泉が行進してる光景ぐらいですか。
 いかにも宮川泰らしい歌謡ショー的な華やかなオープニングマーチという感じで、スポーツ番組とか運動会とかにも使えそうなのに、あんまりそういう使い方されてるイメージはありませんね。ま、長らく音源が商品化されてなかったみたいだし、番組のイメージが強過ぎて(特に学校の運動会のような行事には)不向きと思われていたのでしょうか。

     ☆ ☆ ☆

 吹奏楽のライブ盤と言っても、平原まことのサックスにかなりウェイトを置いたようなアレンジがなされてるので、純粋な吹奏楽バンドの演奏なり音を期待して聞いてみると、若干イメージが違って感じられると思います。
 「組曲『宇宙戦艦ヤマト』」なんかもそういう意味で原曲とは違いますから、このアルバムで初めて聴いたというような人は、原曲なり原曲に近いアレンジの演奏に触れて欲しいような気がします。一方、あまり演奏の機会のない「ズームイン!!朝!」とか「ゲバゲバ90分」はストレートに吹奏楽の音を引き出した演奏で原曲に近い魅力を引き出してると言えます。

 この宮川彬良&大阪市音楽団ですが、ほぼ同じような曲目のプログラムのコンサートが各地で開かれてるようですね。(頻度は高くないようですが)
 『題名のない音楽会21』の公開録画の観覧募集の案内が出てたから、近々テレビでも放送があると思いますし、秋にはザ・シンフォニーホールでのコンサートがあるみたいだから聴きに行きたいと思います。

(発売元:キングレコード KICC-648 2006.12.06)


ブラスバンド・バラエティ 宮川彬良&大阪市音楽団 痛快ライヴ!マツケンサンバII!!
ブラスバンド・バラエティ 宮川彬良&大阪市音楽団 痛快ライヴ!マツケンサンバII!!

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2006.10.24

伊福部昭 ギタートランスクリプションズ

 伊福部先生への追悼盤としてミッテンヴァルトから発売された第1弾が、この『伊福部昭 ギタートランスクリプションズ』です。タイトル通り、伊福部作品のギターアレンジ曲を中心に収録されています。
 奏者は8年間、伊福部先生に師事してきたというギタリストの哘崎孝宏。それに二重奏で加わってるのが大宮洋美。哘崎孝宏は以前に同じミッテンヴァルトから出てる『伊福部昭・ギター作品集』も手掛けてる人ですが、大宮洋美の方はよく知りません。

 収録曲は以下の通り。

 交響譚詩
 01. 第一譚詩 アレグロ・カプリッチオーソ
 02. 第二譚詩 アンダンテ・ラプソディコ

 03. サンタ・マリア
 04. ギターのためのトッカータ
 05. 箜篌歌
 06. ファンタジア(幻哥)
 07. <チェンバロギターによる>サンタ・マリア

 「交響譚詩」はここではギター二重奏。本来は管弦楽の曲ですが、野坂恵子のために書かれた二十五絃箏甲乙奏合版を元にギター二重奏としてアレンジされています。ギター二重奏用の編曲に当たっては作曲家本人によって音の整理が行われているとのことで、かなりすっきりした感じに聴こえます。
 ギター二重奏というと、以前に取り上げたデュオ・ウエダ版と同じですが、こちらの方が滑らかで軽快に仕上がってる感じです。

 第一譚詩は軽快なアレグロの第1主題に始まり、ゆったりとしたアルペジオの第2主題につながっていきます。この第一譚詩は管弦楽ではブラスが主体となる祭囃子風の第1主題と、木管が主体となるバラード風の第2主題の掛け合いの繰り返しが特徴的な曲ですが、管弦楽のように明確に楽器が違うのと比べると、単一楽器での違いの聴かせ方というのが興味深いところです。
 後半、マイナー調になってからピチカートで小刻みな掛け合いの辺り、ギターならではの趣があるかな。最後の盛り上がりはギターだと少し物足りない気がしますが。

 第二譚詩はマイナー調のソロのバラードで始まる曲。オリジナルの管弦楽でも弱くたどたどしさを感じる曲ですが、ギターだと余計に寂静感を感じてしまいます。やや盛り上がっては再びゆったりとしたソロのバラードという形式の繰り返しです。
 副題の「アンダンテ・ラプソディコ」は歩くような速さの狂詩曲って意味ですが、ここでは葬列の歩みって感じですね。オリジナルの「交響譚詩」は伊福部先生の亡くなった兄に捧げられていますが、さしずめその鎮魂曲ともいう位置付けでしょうか。

 「サンタ・マリア」は元々は映画『お吟さま』のために作られた歌曲で、近年では有橋淑和の『チェンバロ・レボリューション2002』にチェンバロ・ソロのアレンジで収録され注目を浴びた曲です。
 元が千利休の娘でキリシタン大名・高山右近を愛した女性を描いた映画で、その主人公が歌う曲なので、伊福部先生の歌曲にしては珍しく西洋風の旋律。作りとしては吟遊詩人が竪琴で弾き語りしてるような感じの曲ですね。少しもの悲しげで、波乱万丈の人生の物語って感じがします。
 ギターソロと言っても、使われてるギターはルネッサンスリュートと同じ調律の八絃ギターとありますから、かなり特殊なものですね。(普通のギターって六絃でしたっけ)

 「ギターのためのトッカータ」は伊福部先生のギター作品としては代表的な曲。めまぐるしくリズミカルに弾かれるギターの旋律がピチカートでぐるぐる旋回してるようなイメージの曲で、延々と踊り続けられるダンスを奏でてる感じです。ラスト付近で単音の高音がアクセントとなって打ち止めされてる辺り、スペインのフラメンコとか、ジプシーの踊り子あたりをイメージした曲なんでしょうか。
 この曲はギターの銘工・河野賢氏が伊福部先生のために製作し、ベルギーの国際ギター製作コンクールに優勝したギターで作曲されたということですが、今回の録音はその作曲に使ったギターを伊福部先生から借りて演奏したものらしいです。やはり作曲に使った楽器の音が一番作曲者の意図した音に近いんでしょうか?

 「箜篌歌」は上で触れた河野氏のギターへの答礼として作曲された曲とのことです。この曲も今回はそのギターで演奏されています。
 曲は微かで弱々しい感じのバラードで始まり、少しメロディーが入ったかと思うと、その余韻をトレモロで流す感じが繰り返されます。やがて曲調はマイナーのままテンポアップしてきますが、何かに訴えかけるようなとうとうとした繰り返しです。ハイテンポなピチカートとは裏腹に、延々と繰り返される無常感を感じます。
 再び弱々しいバラードが、挫折や絶望感から来る悲嘆を奏でてる感じ。途中、いきなり激しいアクセントが入って、やがて再びテンポアップしていきます。悲嘆から回復し、絶望感に打ち勝とうとせめぎあうようなイメージで、心持ち明るい希望や力強さが現れて来たような印象で終わります。
 箜篌というのは正倉院御物として残されてる古代アッシリア起源のハープ族の楽器で、この曲はその楽器を偲んで作られてるということですが、あくまでギター曲であることには変わりません。
 曲としての中味は、恐らく伊福部先生が自分の経験も踏まえ、銘工である河野氏の製作工程に思いをはせながら、芸術家が作品を生み出すまでの苦悩とそれを乗り越える喜びというものを描いたんじゃないかと思うんですがどうでしょうか。

 「ファンタジア(幻哥)」は元々「バロック・リュートのためのファンタジア」として発表された曲で、今回はそれを「二十五絃箏曲 幻哥」として改作されたものの演奏です。リュートだってバイオリンなんかよりはずっとギターに近い楽器だろうに、それよりも箏のスコアの方をベースにギターを弾いてるってことは、やはりそれだけギターとは違いが大きいってことなんでしょうか。
 曲の組み立てはABAの三部形式で、Aの部分はゆったりとしたロマンス風のモチーフが淡く奏でられる感じで使われてるのが印象的。ここで使われてるモチーフは『宇宙大戦争』の「星空」や『ゴジラVSキングギドラ』のエミーのテーマ等で使われてるロマンスのモチーフを組み合わせた感じなのが何か懐かしく思います。
 中間部のBはピチカートでテンポの速いフレーズが繰り返される中、土俗的なサブメロディーが絡んでくるのが印象的です。前半がややゆったり気味で、後半はやや激しくスピーディーな感じです。

 「<チェンバロギターによる>サンタ・マリア」は「サンタ・マリア」をチェンバロギターで演奏した作品……ってそのまんまですね。
 チェンバロギターというのはギターにチェンバロの音が出るようなスチール製の絃を張って、右手の3本の指に付けた針で演奏するようになってる楽器だということです。いや、そんなややこしい楽器を使うくらいなら素直にチェンバロで演奏した方がという気がしないでもないですけど、奏者がギタリストだからチェンバロは弾けないからってところでしょうか。(チェンバロは一般にはピアノと同じ鍵盤楽器)
 曲の方は基本的にはギター版と同じですが、やはり音はチェンバロって感じですね。ギターとは全然雰囲気が違います。

   ☆ ☆ ☆

 伊福部先生とギターというと、戦前の林務官時代、赴任先の山小屋にピアノを持ち込むわけにもいかないから専らギターで管弦楽曲を作曲してたというくらいですので、あらゆる楽器に通じた伊福部先生にとっても相当に馴染みの深い楽器だと思われます。
 ところが、ギターオリジナルの作品で有名なものというと、ここに収録された「ギターのためのトッカータ」と「箜篌歌」以外には「古代日本旋法による踏歌」ぐらいしかなくて、ギター作品のアルバムというと他の楽器用の曲をギターアレンジしたものが多くなったりして、そこが逆にどんな曲を演奏するのか楽しみになってるのも確かです。
 さすがにデュオ・ウエダのように「SF交響ファンタジー第1番」をギターで演奏するなんてのは滅多にありませんけど、伊福部先生は晩年になってから二十絃箏や二十五絃箏のための曲を多く作られていたから、ここからギターに転用されるものがこれからも多いんでしょうね。

 伊福部先生が亡くなられてもう半年以上も過ぎてしまったけど、こうして次々に新しいCDが出て来てくれるのは嬉しいことです。もう新しい作品が生み出されることは無いけど、これからも新しい演奏をいつまでもずっと聴き続けられることを願います。

(発売元:ミッテンヴァルト MTWD-99027 2006.08.01)

伊福部昭 ギター・トランスクリプションズ
伊福部昭 ギター・トランスクリプションズ

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2006.04.28

日本作曲家選輯 伊福部昭:シンフォニア・タプカーラ

 ちょっと間が開いたけど、伊福部先生の追悼シリーズの4回目です。肝心の管弦楽作品がまだだったので、とりあえず入門用としてこの1枚。
 ナクソスが意欲的に出してきてる《日本作曲家選輯》のシリーズの1枚ですが、比較的最近の発売でもあるし、手軽に入手しやすいCDだとは思います。

 演奏はドミトリ・ヤブロンスキー指揮によるロシア・フィルハーモニー管弦楽団。先に発売されてる『日本狂詩曲』収録の『日本管弦楽名曲集』が沼尻竜典指揮の東京都交響楽団という日本人による演奏だったのに比べると、外国人の解釈による演奏がどうなってるのは興味がわくところです。
 収録曲は以下の通り。

 1.シンフォニア・タプカーラ
 2.ピアノとオーケストラのためのリトミカ・オスティナータ
 3.SF交響ファンタジー第1番

 一般的に弦(特にバイオリン)の厚い日本のオーケストラに比べると、欧米ではしばしば管(特にフルート)の方が厚く感じられるオーケストラが珍しくありませんが、このロシア・フィルハーモニー管弦楽団も日本のオーケストラに比べるとどちらかといえば管楽器の方が目立って聞こえる感じです。
 単にレコーディングの関係だとか、ホールの残響設計が違うからだとか、日本人と欧米人の肺活量の違いだとか、原因を考えればいろいろと浮かんできますが、聴覚的に違いが感じられるのは確かです。
 『シンフォニア・タプカーラ』も踊りがテーマの軽快な曲調がメインとなる作品ですが、日本のオーケストラの演奏を聴くと、管楽器のアクセントはあってもあくまでメインの音は弦楽器のイメージなんですね。ところがこの演奏を聴くと、多くの場所でトランペット等の金管楽器が前面に出てきてる感じで、日本の演奏に聴きなれてると違和感を感じてしまいます。
 作曲家としてはどう聴こえるかということも頭に入れて書いてるとは思いますが、楽器の構成もオーケストラによっては微妙に違ってくるし、ましてや個々の演奏家の力量までコントロールすることは出来ませんから実際はどんな音をイメージして作られた曲かなんてことはわかりません。ま、中には作曲家自らが立ち会って演奏指導して録音される場合もありますが、そういう例があると話は別ですが。
 伊福部先生の場合だと、映画音楽の多くは自らが立会い、指揮をして収録しているので作曲家の意図はわかりやすいのですが、純音楽作品はあくまで演奏してくれる人があってのことなので、やはり演奏に当たる指揮者やオーケストラ次第ということになります。
 そんなわけだから、あくまで弦が中心の『タプカーラ』も金管が表に出てる『タプカーラ』も、それはそれで1つの『タプカーラ』なわけです。
 ただ、金管のアクセントが入ってる部分というのは元より金管が目立つ部分として設計されてるわけであり、それはしばしばトランペット等の音の通る楽器のソロだったりするわけですが、その部分はちゃんと演奏してくれないと曲全体が散漫に感じられたりします。
 ま、事前に他の演奏を聞けばどう演奏するものなのかということがわかるはずですが、しばしば配られたパート譜だけでは即座に理解出来ない部分も確かだと思います。そういう点で少し作品に対する理解不足かなと思えた部分がかなり見られたのは残念です。

 『リトミカ・オスティナータ』は日本語に訳せば「リズムによる執拗反復曲」ということになります。ピアノとオーケストラというと普通はピアノコンチェルトということになりますが、そこは伊福部先生、ピアノを使ったからと言って普通にピアノコンチェルトを作ったりはしません。
 この作品のピアノはあくまでリズム楽器として使われています。ピアノは旋律を語るものなんて常識に囚われていてはこの作品は理解できません。そういえば伊福部先生ってマリンバの曲だってマリンバを半分リズム楽器みたいに使ってます。ピアノもマリンバも鍵盤楽器とはいえ、打楽器の一種であることには変わりません。だからドラムのように用いる方法もあるってことです。
 ま、ショパンが聴いたら涙を流して嘆きそうな話ですが……
 この曲、実は非常に演奏の難しい曲なんですね。だいたいピアニストって繊細な人が多くて、ピアノを打楽器として扱えなんて言われて平気で叩ける人なんて、伊福部音楽の信奉者でもなければそうはいません。おまけにコンチェルトのようにかけあうんじゃなくて、終始オーケストラと張り合って叩き続けなければなりません。メロディーも単調でメリハリがありません。たぶん、ピアノ奏者にとっては地獄のような作品なんじゃないでしょうか。
 CD等で出てるのはどれも素晴らしい演奏のものですが、それは良い演奏のものをCDで出してるって話でしかなく、生演奏で聴く場合はあたりはずれがかなり大きい作品みたいですね。
 で、このナクソス盤ですが……オーケストラの方はともかくとして、少なくともピアノは「あたり」の方ですね。オーケストラに対してけっして引けをとらず、そして終始大きな乱れも見せずに最後まで演奏しきってるのは見事と言っていいでしょう。

 最後はおなじみの『SF交響ファンタジー第1番』ですが、やはり作品の理解というのが大きな障害になってる感じです。この作品はとくに楽譜に現れない微妙なタメとか変則的なリズムというのが重大な要素になっていて、それらは基本的に原曲となってる映画音楽そのものに対する理解がないと出て来ないものです。
 日本のオーケストラでもけっこういい加減な演奏が多かったりしますから、ロシアのオーケストラに文句を言っても仕方ないのだけど、せめてわかった人に指揮をしてほしかったという感じです。冒頭のゴジラ出現のモチーフから「こんなの違う」と思わせるなんて日本のオーケストラならありえない話ですが、そもそもゴジラなんて知らなけりゃどうしようもないことですからね。
 あとはラストのマーチに入るタイミングが違うというか……これも伊福部マーチに対する愛着がなければこだわるような部分じゃないといえばその程度の話ではあるのですが。ただ、オーケストラそのものはけっして乱れて無いんですね。中間あたりはあまり違和感は感じられない演奏だし。やはり作品に対する理解の問題でしょう。


 伊福部先生の代表曲として取り上げた3曲としての選曲は悪くはないし、演奏はそれなりに整ってるからけっして悪いわけじゃありません。ただ、作品に対する理解という点で限度が見えてるというところかな。
 1枚1000円で手に入ることを思えば、伊福部作品に触れて見るためのアルバムとしては手軽なところだと思いますし、『リトミカ・オスティナータ』だけでも元は取れるでしょう。後の2作品に関しては、興味を持ったらその先と言う感じで他の演奏を聴いて行ってほしいという感じです。
 また、このCDに付いてる解説文はものすごく濃厚で、他のCDに比べてもこれだけ充実した内容は無いというくらいのものです。CDより解説書のほうが価値があると言えば言い過ぎでしょうが、とにかく一見の価値はある解説なので、伊福部音楽を知るためにはこれだけでも読んで欲しいですね。

 ところで、Wikipediaの「ナクソス」の項目で、このアルバムが《日本作曲家選輯》の第1弾だと記されてるんですが、これは間違いですね。第1弾は『日本管弦楽名曲集』の誤りで、伊福部先生のこのアルバムは《日本作曲家選輯》でも割と新しい範疇に入るはずです。(追記:その後、正しく訂正されたようです)

(発売元:ナクソス 8.557587J 2004.12.01)

伊福部昭:シンフォニア・タプカーラ
伊福部昭:シンフォニア・タプカーラ

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2006.03.06

伊福部昭 吹奏楽作品集

 伊福部先生追悼シリーズ第3回です。二十五絃箏曲、ギター二重奏とどちらかというとマイナーな演奏のアルバムが続いたので、今回は吹奏楽のアルバムを取り上げてみたいと思います。
 純粋に伊福部先生が作曲された吹奏楽の作品は多くなく、戦時中に軍楽用に依頼された曲を除くと、戦後の作曲で有名なのは『倭太鼓と吹奏楽のためのロンド・イン・ブーレスク』ぐらいでしょうか。もっとも、この曲は後に管弦楽用にアレンジされ、『SF交響ファンタジー』の初演時のプログラムで一緒に演奏されて以来、もっぱら管弦楽版の方が聴く機会が多くなっています。
 昨今、アマチュアのブラスバンドでも伊福部先生の作品が演奏されることが多くありますが、それらは管弦楽の作品を独自に吹奏楽用にアレンジされたものがほとんどです。このアルバムに収録されてる作品も、1曲目を除けば、管弦楽作品を伊福部先生以外の人の手によって吹奏楽用にアレンジされています。
 演奏は陸上自衛隊中央音楽隊。あまりプロの吹奏楽隊による伊福部作品の演奏は聴ける機会も少ないので、その意味でも貴重な1枚です。
 収録曲は以下の通りです。

 1.古典風軍楽「吉志舞」
 2.交響譚詩
 3.シンフォニア・タプカーラ
 4.SF交響ファンタジー第1番

 1曲目の『吉志舞』は戦時中に海軍の依頼で作曲されたもので、当時は祝祭日等によく流されていたとか、マッカーサーが厚木に来た際に出迎えに演奏された曲だとか言われています。(厚木は当時、海軍航空隊の基地)
 出だしはスローテンポの『ロンド・イン・ブーレスク』といったところですが、後の「怪獣大戦争マーチ」に繋がるモチーフがすでに使われてるというのは、同じ時期に陸軍の依頼で作曲された『兵士の序楽』にも通じるところがあります。ただ、『吉志舞』は終始スローテンポの曲であり、いわゆる軍楽隊のマーチではありません。もっとも、当時の演奏は作曲家の指示よりもずっとアップテンポで行われていたようですが。
 この「怪獣大戦争マーチ」を含む『ロンド・イン・ブーレスク』のモチーフの他に、やはり伊福部先生の作品では馴染みの深い土俗的なモチーフが絡み合い、独特の音楽世界を作り上げていますが、こうして古い作品を聴くと、私たちには「怪獣大戦争マーチ」や『ゴジラ』の「フリゲートマーチ」にしか聞こえないこのモチーフも本来は土俗的なモチーフの1つとして作られたものなのかも知れません。

 『交響譚詩』は戦前に作曲された2楽章構成の作品。2楽章構成であり、あえて交響曲を名乗ってはいませんが「交響」と名付けてることろから見ても、十分に交響曲を意識した作品と思われます。一説には交響曲を作ろうとしたのだけど師匠のチェレプニンにまだ早いと釘を刺されたからだとか言われていますが……
 第1楽章冒頭から、伊福部先生独特の土俗的モチーフによるアレグロの連発に、初めて聞く人は度肝を抜かれてしまうでしょう。本来は管弦楽用の作品なので、弦楽器の存在が幾分か印象を和らげてくれるのですが、吹奏楽では金管の力強さがストレートに響いてくる感じです。前回のギター二重奏版の後だと、特にインパクトが違います。
 一転して静かな始まりの第2楽章。吹奏楽の弱みは、静かな音が音の弱さに繋がってくるところでしょうか。管弦楽なら静かな音でも弦の重ね合わせて厚みを感じさせることが出来るのですが、吹奏楽ではその点が不得手なようです。しかし、それに真正面から挑みかかってる演奏の真摯さは深く感じられます。

 『シンフォニア・タプカーラ』は別名『タプカーラ交響曲』。ゴジラと同じ1954年に作曲された伊福部先生唯一の交響曲です。一般に交響曲というとソナタ形式の4楽章構成が思い浮かびますが、これは3楽章構成。
 この曲は1979年に改訂されていますが、改訂のメインは第1楽章冒頭の静かでゆったりとした導入部の追加。元々は中盤のアップテンポの部分から始まっていたそうですので、ずいぶんと印象が違う気がします。この演奏はもちろん改訂版の方をベースにしていますが、やはり吹奏楽では難しいところかと思います。
 逆にアップテンポな部分になると吹奏楽の持ち味発揮。特にほとんど全曲に渡ってアップテンポな曲調の現れる第3楽章は、ここぞとばかりに吹奏楽の醍醐味を聴かせてくれます。もっとも、これはこれでクライマックスになると奏者も息が続かなくなってくるぐらいにヒートアップしてしまいますが。

 最後の『SF交響ファンタジー第1番』はおなじみの曲。ファンタジーは音楽用語で言えば「幻想曲」であって、これで1つの音楽ジャンルになるわけですが、ここではそういう音楽本来の意味ではなく、様々なモチーフを組み合わせた幻想的な組曲という程度の意味でしょう。
 この曲も本来は管弦楽用の作品ですが、非常に人気の高い作品なので、アマチュアバンド向けにアレンジされたりもしていますが、ここに収録されて原曲に出来るだけ忠実に吹奏楽用にアレンジしたもの。中盤の『宇宙大戦争』の「セレナーデ」を除けば、どれも鳴り響くということを目的とした映画音楽のモチーフだから、もう低音響く金管の鳴りっぱなし。それでも冒頭の「ゴジラの恐怖」あたりは弦の厚みがないと……という感じがしますが、次第に管楽器だけの構成の方がストレートなイメージを与えてくれるような感じがしてきます。
 そしてやはり圧巻はクライマックスの『宇宙大戦争』と『怪獣総進撃』のマーチ部分でしょう。何しろ本物の自衛隊の音楽隊が伊福部マーチを奏でてるんだから、これで燃えないわけはありません。

 伊福部先生の吹奏楽作品のアルバムは、元から吹奏楽用に作られた作品が少ないこともあってか、たまに単発で何らかのオムニバス盤やコンピレーション盤に収録されることはあっても、まとまった形のアルバムとして出ているのは『バンドのための「ゴジラ」ファンタジー』を除けば、現在のところこれが1枚ですが、ほとんど非の打ちどころがない素晴らしい1枚だといえます。
 あえて欲を言えば伊福部先生自身で吹奏楽用に作られた『ロンド・イン・ブーレスク』まで入っていれば良かったと思いますが、この曲は『バンドのための「ゴジラ」ファンタジー』の方に入ってるので、そちらで聴くことは可能です。
 これは伊福部先生の作品に限りませんが、吹奏楽作品に関しては吹奏楽コンクールでの優秀バンドによる演奏などが割とCDになってたりします。そこから伊福部先生の作品が入ってるのを探すとかいうマニアックなこともやってたりするわけですが、やはりアマチュアのバンドはアマチュアであって、プロの演奏には敵わないなというのが実感できるアルバムですね。

(キング KICC-531 2005.04.27)

伊福部昭 吹奏楽作品集
伊福部昭 吹奏楽作品集

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