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2011.09.24

伊福部 昭 SF交響ファンタジー ギタートランスクリプションズ

 しばらく更新をサボってる間に『プロメテの火』とか『寒帯林』とか伊福部先生の作品もいろいろと出て来ましたが、それらは機会があればおいおいと聴いていくこととして、今回はギターで『SF交響ファンタジー』を奏でたという大胆な企画のアルバムです。

 ギター演奏の『SF交響ファンタジー』というと以前に取り上げたデュオ・ウエダのアルバムの中に第1番を演奏したものが入っていましたが、それとの違いも気になりますね。

 今回のアルバムは以前に取り上げた『伊福部昭 ギタートランスクリプションズ』を手掛けた哘崎孝宏によるもの。さすがにソロというわけにはいかないので第2ギターとして岩木俊宏が加わっています。
 また男声合唱による『豪快シリーズ』で知られる不気味社の八尋健生が、哘崎孝宏とともに編曲を手掛けているようです。(『豪快シリーズ』は聴いたことないのでよく知りませんが)

 収録曲は以下の通り

 01.怪獣大戦争マーチ
 02.SF交響ファンタジー第1番
 03.SF交響ファンタジー第2番
 04.SF交響ファンタジー第3番

  SFファンタジー〈ゴジラVSメカゴジラ〉
 05.No.1 イントロダクション
 06.No.2 Title メインタイトル
 07.No.24 ベビーゴジラ
 08.No.21 Robot plane 翼竜ロボット
 09.No.6 Ladon ho God ゴジラVSラドン
 10.No.10 Gフォースマーチ
 11.No.39 ラドン
 12.No.43 Postludio ローリングタイトル

  SFファンタジー〈ゴジラVSデストロイア〉
 13.No.3 メインタイトル
 14.No.9 Vision Destroyer Machine オキシジェンデストロイヤー
 15.No.23B スーパーXⅢ
 16.No.39 G.EXTRA ゴジラ
 17.No.40前半 デストロイア
 18.No.26 メーサータンク
 19.No.44 レクイエム
 20.No.45 エンディイングタイトル

 冒頭に「怪獣大戦争マーチ」を配し、「SF交響ファンタジー」を第3番までキッチリ入れている上に、伊福部先生自身が演奏会用にまとめ上げた『ゴジラVSキングギドラ』ではなく、『ゴジラVSメカゴジラ』『ゴジラVSデストロイア』に挑戦しているところに心意気を感じます。

 それでは簡単に聴いていきましょう。

「怪獣大戦争マーチ」
 数ある伊福部マーチの中でも有名な曲ですが、軽快なギターが奏でる様は、まるでラテン系の音楽のようです。怪獣と戦う勇ましさというよりも、南欧の街の喧騒の中で繰り広げられる日常のドタバタを思わせます。
 伊福部先生の土俗的な舞踊曲の中にある陽気で本能的なほとばしりが、ラテンの陽気さとどこかつながっているのでしょうね。

「SF交響ファンタジー第1番」
 さすがにオーケストラの重低音には敵わないものの、力強い低音で始まる「ゴジラの恐怖」のモチーフ。続く『ゴジラ』の「タイトルテーマ」は力強くもしっとりと優雅に奏でられます。このあたりオーケストラとは奏で方の趣向が違うんですね。引き続く「巨大なる魔神」もそんなところ。派手さ強大さを目指すのではなくモチーフのメロディーを活かした演奏という感じがします。
 しっとりとしたアダージョのセレナーデは『宇宙大戦争』のロマンステーマ。さすがにこういう曲はギターが得意とするところですが、いかんせん短いのが残念。すぐに「バラゴン出現」となってしまいます。ここも奇をてらわずに正攻法でモチーフを奏でることで、ギターの可能性を見せつけてくれます。
 それに続く「ゴジラ対ラドン」の出だしはギターの胴を叩く打楽器的な奏法を交えることで、メロディーの重厚さは損なわれるものの、冒頭の「ゴジラの恐怖」とは違った聴かせ方をしています。そしてラドンのモチーフは軽快でなめらかに奏でられ、絡むゴジラのモチーフにはどこか哀愁を感じさせます。
 後半のマーチ部は『宇宙大戦争』の「タイトルマーチ」がトレモロを活かした斬新な印象を与えてくれるのと交互に、軽快でやはりラテン系っぽい「怪獣総進撃マーチ」が安心感を与えてくれる感じ。そして続く「宇宙大戦争マーチ」はアルペジオを活かしたはつらつとした旋律でさながらフラメンコ音楽のような印象を与えた後、力強い「怪獣総進撃マーチ」で幕を下ろします。

「SF交響ファンタジー第2番」
 冒頭は『奇巌城の冒険』のメインタイトル。やや静かに流れるバラード系の曲なのでギターにとっては得意分野。これももうちょっと長く堪能したいところですが、すぐにキングギドラの出現モチーフに移ってしまいます。ここは単音で流した方が楽そうですが、トレモロを駆使してビブラートを再現してる辺りは感服です。続く「キングキング対ゴジラ」の対決モチーフは原曲の軽快なイメージではなく、どこか不安を誘うような単調さが印象的です。
 幻想的な雰囲気で奏でられる「聖なる泉」は純音楽作品「胡哦」のモチーフにもなってる曲だから、これもギター向きの曲。これだけ切り出して単独の曲として堪能したいぐらいです。ギター版「胡哦」が入ったCDもどこかにあったはずだから、探してきて聴き直してみたいです。
 そして『大怪獣バラン』の「メインタイトル」。これは原曲はオーケストラでコーラスが入ったりするんだけど、大元のモチーフはラドンとかと同じで、割とギターとかピアノに合ったソロ向きのメロディーという感じなので、それをそのまま活かして正攻法で乗り切ってる印象です。ただ、オーケストラ版は元の劇伴よりもかなり派手にアレンジされてるので、そういう点では別ものになってしまってますね。
 素朴にたたずむような「黒部谷のテーマ」は原曲ではホルンが幽幻なイメージを醸し出していますが、ギターはどこか哀愁を漂わせてる感じです。そして『キングコングの逆襲』のメカニコングの出現テーマと軽快なキングコングの追撃モチーフが続きます。そしてクライマックスの「メーサー光線車マーチ」。やはり軽快だけど力強くはないものの、起伏のある曲の表情を堪能させてくれます。ラスト近くで「ラドン追撃せよ」の末尾のトリルの部分が挿入されているんですが、ギター版だからって省いたりはしないんですね。

「SF交響ファンタジー第3番」
 出だしは『怪獣総進撃』の東宝マークの音楽。原曲でもサスペンスタッチの不安を煽るところですが、ギターだともろに怪談風に聞こえますね。
 軽快なメカニコングのテーマは原曲でもメカっぽさを出すために尖ったイメージのモチーフ。エレキギターならギンギンの尖ったイメージを出してくれるでしょうけど、そこはクラシックギター。鋼鉄の巨猿にもどこか寂しさと哀愁を感じさせます。
 そして同じく『キングコングの逆襲』の「コングとスーザン」。ベースのモチーフはバラード風のセレナーデですが、実際にこの曲を特徴付けるのは平穏を破るティンパニーなんですね。このティンパニーをリズム楽器として捉えるのかメロディー楽器として捉えるのかで解釈が違ってくるのですが、このギター版ではメロディーパートとして奏でています。
 ややスローテンポで始まる「東京湾と海底軍艦」はラストのスパートに向けて鋭気を溜め込んでるという感じで、『キングコング対ゴジラ』の「コング輸送作戦」に続きます。ここはストレートで軽快にモチーフを奏でていますが、ギターだとどことなくマイナーっぽく感じてしまいます。この部分、日比谷公会堂初演版に映像を付けた『ゴジラファンタジー』では当時は全長版フィルムが未発見だったため別のシーンの映像で代用されていたというのは昔の思い出。
 そしてファロ島での「キングコング対大ダコ」のモチーフ。原曲は重厚なサスペンス曲なのですが、トレモロを駆使してはいるものの、かなりマイルドな味わいになっていて、これはこれで聴きものという感じです。
 超絶アルペジオを駆使した「海底軍艦マーチ」に続き、クライマックスの「地球防衛軍マーチ」が奏でられますが、これはモチーフ自身の性格なのか、どこかゆったりとした感じで聞こえてきます。後半のトリルはオーケストラとは印象が違うけど、大曲の締めくくりにふさわしい盛り上がりを感じさせてくれます。

《ファンタジー〈ゴジラVSメカゴジラ〉》
「No.1 イントロダクション」
 弱々しいキングギドラのモチーフから始まるこの曲は映画の冒頭、メカキングギドラの残骸のカットからGフォースの訓練シーンに流れた導入曲。後半の激しいアルペジオの伴奏が印象的です。

「No.2 Title メインタイトル」
 重厚でゆったりとしたメカゴジラのテーマですが、ギター版はバラードがかった幽幻な印象を受けます。やはり原曲の和太鼓パートをギターを叩いて再現してるようですが、けっこう響いてますね。

「No.24 ベビーゴジラ」
 ギター向きの切ないセレナーデ。原曲はコール・アングレだから管楽器さながらの風に溶けこむような雰囲気だけど、ギターだとどことなく風を刻むようなイメージを受けてしまいます。そこが優しさよりも寂しさを感じてしまう所以なのかしれません。

「No.21 Robot plane 翼竜ロボット」
 前曲と似た感じの曲ですが、こっちの方が淡い感じかな。トラック間にブランクが無いので、ちょっと聴いた感じでは前曲がそのまま続いてるかのように思えます。タイトルが曲と違うような気がしますが、これは翼竜ロボットをだしにしたデートのシーンだから、こういう甘い音楽なのです。

「No.6 Ladon ho God ゴジラVSラドン」
 この作品でようやく全体が復活したゴジラの恐怖のモチーフ。これは序盤のアドノア島でのゴジラとラドンの戦いの音楽。ここでは重厚さとかよりもモチーフの音楽要素を重視して忠実に再現してるように思います。どことなくバラードっぽく聞こえますが、それに絡むラドンのモチーフは相変わらず軽快な感じ。でも、「SF交響ファンタジー第1番」のものに比べると心持ちゆったりしてますね。

「No.10 Gフォースマーチ」
 軽やかに奏でられるガルーダのテーマ曲。平成に入って待望の新曲の伊福部マーチでしたが、意外とギターと相性いい感じです。でも、どっちかというとスーパーメカのテーマ曲と言うより、西部劇のヒーローのテーマ曲ってイメージですね。

「No.39 ラドン」
 神秘的な音色は力尽きたファイアーラドンが最後の力を振り絞って倒れたゴジラにエネルギーを与えるシーンの音楽。幻想的なフレーズの最後にお馴染みのラドンのモチーフが現れます。割とこういった曲もギターは聴かせてくれますね。

「No.43 Postludio ローリングタイトル」
 どこか哀愁と神秘性を漂わせた感じのエンディング曲。原曲はハープが重要な聴かせどころを担ってたので、それをギターで置き換えたって感じなので音の違いに比べて違和感はあまり感じませんね。むしろオーケストラとかコーラスとか入れるよりもギター版の方が曲としてはまとまりがあるような気がします。ただこの辺は聞く人の好みの問題でしょうけど。

『ファンタジー〈ゴジラVSデストロイア〉』
「No.3 メインタイトル」
 映画冒頭の香港破壊シーンの音楽。いつもと違うゴジラということを明確に分からせてくれる音楽ですが、やはりオーケストラの重低音あっての曲。それでもなかなか雰囲気を感じさせてくれるアレンジです。この辺はガットの聴かせどころという感じです。

「No.9 Vision Destroyer Machine オキシジェンデストロイヤー」
 第1作『ゴジラ』のレクイエムのモチーフがゆっくりと奏でられます。尺があればギターなりの聴かせどころとかあるんでしょうけど、何分にも短いのが残念です。

「No.23B スーパーXⅢ」
 「Gフォースマーチ」に続く新作伊福部マーチですが、前半は『大坂城物語』の合戦シーンのモチーフ、後半は「Gフォースマーチ」のアレンジなので目新しさがないというか、逆に変に古さを感じてしまいそうな曲です。ギターは非常に軽快に奏でてくれるのですが、やっぱり時代劇のチャンバラシーンが頭に浮かんできます。

「No.39 G.EXTRA ゴジラ」
 おなじみのゴジラのモチーフで始まるものの、これは「SF交響ファンタジー第1番」以来の『ゴジラ』のタイトルテーマが続くパターンの曲。非常にゆっくりと奏でられるこの曲は、さしずめ「ゴジラのバラード」という感じの演奏で、吟遊詩人がギター片手にゴジラの物語を語ってるイメージが浮かんできます。

「No.40前半 デストロイア」
 ショッキングフレーズのようなデストロイアのモチーフ。アクセントポイントとしての選曲なのでしょうが、もうちょっとじっくり聴かせる選曲であっても良かったように思えます。たぶん、ギターとは一番相性が悪そうな構成に思えますから。それでもギターならではの聴かせ方というものを味あわせてくれているのはさすがです。

「No.26 メーサータンク」
 おなじみ「メーサー光線車マーチ」のモチーフ。『ゴジラVSモスラ』でも使われていましたけど、オリジナルのメーサー光線車と平成ゴジラのメーサータンクじゃ画面上の動きが全然違うから、同じ曲使われても違和感あるのですが、お約束の音楽というところなんでしょうね。「SF交響ファンタジー第2番」のものと比べると、軽やかだけどストレートで力強い感じがします。

「No.44 レクイエム」
 メルトダウンしたゴジラのレクイエム。哀愁ただようこの曲にはギターは格好のお似合いです。原曲のような荘厳なイメージには欠けますが、一音一音噛み締めるように奏でてくれるのはギター曲ならではです。

「No.45 エンディイングタイトル」
 『ゴジラ』のタイトルテーマに始まるエンディング曲。これも「SF交響ファンタジー第1番」に倣って後に「巨大なる魔神」のモチーフが続きますが、これはキングコングのみならず歴代のライバル怪獣のイメージってところでしょうか。演奏は力強くストレート。

     ☆ ☆ ☆

 デュオ・ウエダ版と比べれば、向こうはオーケストラの「SF交響ファンタジー第1番」の印象をそのままギターデュオに置き換え、それを再現しようとしている感じですが、今回の哘崎版はオーケストラ版の構成音を分解・再構成することで、曲を要素単位で再現しようとしているように感じました。
 ユニゾンで音の厚みを得るよりもパート分けで伴奏やサブメロディーやアクセントを出来る限り忠実に再現しようとしているのですね。それがために全体的な雰囲気においてオーケストラとは聴いた印象がずいぶん違ってる部分があったりもしますが、耳を凝らして聴いていくとなるほどと感じる部分も少なくありません。
 ギター2本じゃ出せる音も限られているわけだし、まして作曲者本人のアレンジというわけでもありません。このあたりは個々の嗜好の違いの現れですね。

 『ファンタジー〈ゴジラVSメカゴジラ〉』『ファンタジー〈ゴジラVSデストロイア〉』については、劇伴にかなり忠実な構成のアレンジというのが意外でした。このあたりは伊福部先生が自ら手掛けた『交響ファンタジー「ゴジラVSキングギドラ」』と比べるとかなり物足りなく感じてしまうのですが、作曲者が亡くなられた後となっては本人の監修もない大幅なアレンジは躊躇われたというところでしょうか。
 それでも個々の曲だけ聴くのではなく、『ファンタジー〈ゴジラVSメカゴジラ〉』『ファンタジー〈ゴジラVSデストロイア〉』として全体を通して聴けば、そのボリューム感に不足はありません。

     ☆ ☆ ☆

 今回、哘崎氏よりサンプル盤を送っていただきました。最近は情報に疎く発売のことを知らなかったもので、それがなければ聴けるのがいつになったことかわかりません。ここにお礼を申し上げます。(本文中は敬称を省略させていただいておりますが、失礼)

(発売元:ジェイズミュージック GRGT-01 2011.09.01)


 Amazonも取り扱いがなく、発売元の直販も見当たらないので、HMV ONLINEのページを貼っておきます。(他にもググれば幾つかネットショップが見付かると思いますが)
 扱いが無くなった場合はご容赦を。

Sf交響ファンタジー Guitar Transcriptions: 哘﨑考宏 岩木俊宏



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