宇宙戦艦ヤマト復活篇 オリジナル・サウンドトラック・アルバム
知らない間に2010年になっちゃいましたが、とりあえず復活しちゃったのでヤマトの音楽でも聴いちゃいましょう。
この数年の間に宮川泰、羽田健太郎というヤマトの音楽を担ってきた二大巨匠が相次いで亡くなられたので、『復活篇』の音楽はいったいどうなるのかと心配していましたが、新規の作曲家に一任するという形ではなく、既存の音楽とクラシック曲をベースにしたものになってしまいました。ま、両者の音楽の印象が大き過ぎるとはいえ、新しいヤマトの音楽というものも期待していただけに少し残念だったのは確かです。
さて、発売されたサントラ盤の収録曲は以下のとおりです。
01. 無限に広がる大宇宙
02. カスケードブラックホール
03. 古代の帰還
「別離」
「別離09」
04. 若者たち
05. 氷塊に眠る
06. ヤマト発進
「発進準備」
「宇宙戦艦ヤマト2009/Short Version(THE ALFEE)」
「宇宙戦艦ヤマト2009/Symphonic Version(Instrumental)」
07. 戦火の渦へ
「新コスモタイガー2009」
「ヤマトの戦い」
08. フライバイ・ワープ
09. アマール
10. ゴルイ
11. 女王イリヤ
12. 未来への戦い
13. SUS大要塞
14. 「復活篇」のためのシンフォニー
15. メッツラー
16. この愛を捧げて
Symphonic Version(Instrumental)~Short Version(THE ALFEE)
……というところで、いつものように順番に聴いていきましょう。
『無限に広がる大宇宙』
ヤマトといえばこの曲は外せない、川島和子による冒頭スキャット。これは『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』の「序曲」からの抜粋。今回の映画でも「無限に広がる大宇宙……」というお馴染みのナレーションのバックに使われていますが、宇宙の光景も従来の手描きの美術じゃなくて完全にCGの映像になっちゃいましたが、この音楽があるだけでやっぱりヤマトなんだなと懐かしく感じます。
『カスケードブラックホール』
今回の地球を襲う最大の危機であるカスケードブラックホールの音楽はマーラーの交響曲第2番『復活』第一楽章から。『復活篇』だから『復活』ってわけでもないでしょうが、カスケードブラックホールの持つ脅威や神秘性というものはうまく表されている感じがします。
『古代の帰還』
古代の登場シーンに使われていたのは『別離」』。元々は『新たなる旅立ち』や『永遠に』でサーシャ絡みの別れのシーンに使われていた曲ですね。ユキとの別離ってわけでもないんでしょうが、宮川泰のせつないメロディーがこの作品における古代とユキの立場を心情的に語っています。
後半のストリングスメインのより悲しげな『別離09」』は今回の新録。3年ぶりに再開した娘の美雪に拒絶される父親の寂しさがありありとしてきますが……オリジナルの演奏と続けて聴くと、曲のイメージがどうしても違ってしまいますねぇ。
『若者たち』
これは『新たなる旅立ち』の主題歌のインストゥルメンタル。確か『新たなる旅立ち』では未使用で、『ヤマトIII』の実弾演習の回で使われていたように思います。今回の映画では古代がヤマトに乗り込んで、小林や機関部員の双子と出会うシーンかと思うんですが、実際に使われていたかどうかは記憶が定かでありません。
『氷塊に眠る』
古代がヤマトにたどり着く直前、『完結編』でのヤマトの最後のシーンが挿入される部分で使われていた曲。これは『完結編』のイメージアルバム『ファイナルへ向けての序曲』の最後「宇宙戦艦ヤマト メモリアル」の既存曲のメドレーが終わったラストに入ってる曲で、『完結編』の「ファイナル・ヤマト」の原曲ですね。「ファイナル・ヤマト」が『大ヤマト零号』で使いまくられてたから、対抗してオリジナルを主張したってわけではないと思いますが。
『ヤマト発進』
いよいよアクエリアスの氷塊から発進する新生ヤマト。『さらば』や『完結編』では『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』の「誕生」がヤマト発進のシークエンスを盛り上げていましたが、ここではその伝統を受け継ぐべく『発進準備」』新録曲が使われています。雰囲気的には「誕生」というよりは『永遠に』の「俺たちのヤマト」に近いような気がしますが……
そして「誕生」中間部のブリッジに続けて THE ALFEE による『宇宙戦艦ヤマト2009』が続きます。でも、オリジナルのささきいさおの歌と比べてどうこうというよりも、ヤマトの発進シーンはインストゥルメンタルというイメージがあるから、個人的にはボーカル曲は入れて欲しくなかったですね。西崎監督的には『オーディーン』の「Gotta Fight!」の流れなのかもしれませんが。
『戦火の渦へ』
前半最大の山場は、ゴルイ提督率いるエトス艦隊と第3次移民船団を護衛するヤマトの激しい戦闘シーンです。ヤマトの新艦載機コスモパルサーの出撃シーンに使われていたのが新録の『新コスモタイガー2009』です。
以前『交響組曲 新 宇宙戦艦ヤマト』発売時のプレミアムライブの時に宮川泰が「新コスモタイガー」の人気が高いのを不思議がっていましたが、原曲の「新コスモタイガー」は軽快なイメージを出すためかブラス主体でライトな仕上がりになっていたのが、この『交響組曲 新 宇宙戦艦ヤマト』では他の曲とのメドレーという面もあるから、かなり厚めのアレンジに変更されていて、それがカッコよかったんですね。
今回の新録もこの時のアレンジ以上に重厚なオーケストレーションがなされていて、なかなかカッコよく仕上がっています。
後半の『ヤマトの戦い』は今回の新録曲のアレンジを担当している山下康介によるオリジナル曲。ヤマトのテーマモチーフを織りまぜながら緊迫感のあるスリリングな曲調で戦闘シーンを彩っています。
『フライバイ・ワープ』
ブラックホールをスイングバイに使った移民船団の大ワープ。この緊迫感溢れるシーンに使われているのは『完結編』の「驚異のニュートリノビーム」。解説には「羽田健太郎の楽曲の普遍性」とか書いてありますが、『完結編』でハネケンが書いてたのは主にシチュエーション音楽ですからねぇ。
『アマール』
移民の受け入れ先であるアマールで使われているのはチャイコフスキーの『スラブ行進曲』。アマールの持つエスニックなイメージと政治的に緊迫している雰囲気がぴったりとはまってる感じですね。
『ゴルイ』
自らの誇りを取り戻すため、SUSに反旗を翻すゴルイ提督に使われるのはベートーヴェンの『エグモント序曲』。この曲自体が圧政に反旗を翻して犠牲になった英雄を描いた戯曲のために作られた曲なので、それを意識しての使用なんでしょうね。『復活篇』に使われているクラシック曲の中でもあまりとっつきやすい曲とは言えませんが、それだけに聴きこむことによって心情的な訴えが伝わってくる感じです。
『女王イリヤ』
ゴルイ提督の犠牲と、蜂起を訴える民衆の叫びに揺れ動くアマールのイリア女王。その心情を繊細に奏でているのが横山幸雄のピアノによるショパンの『ノクターン第1番』。この横山幸雄というピアニスト、同時期に発売された『交響曲・宇宙戦艦ヤマト』の新録盤『交響曲ヤマト2009』のソリストを担当していますが、どんな人かと思えば、以前に関西フィルの定演での伊福部昭の『リトミカ・オスティナータ』で物凄い熱演を聴かせてくれた人じゃないですか。以前、東京交響楽団による『交響曲・宇宙戦艦ヤマト』の再演を聴いた時、ピアノがこの人だったらなぁと思ったのはナイショですが、それがこうして実現してくれたのはこの上もない喜びです。
『未来への戦い』
地球人類の存続と真のアマールの独立のためにSUSとの最終決戦に向かっていくヤマト。そのバックに流れるのが横山幸雄のピアノによる力強いベートーヴェンのピアノソナタ『月光』。この人、力強い曲を弾かせると一流ですね。並のピアニストじゃ、これだけの演奏はできません。流石に『リトミカ・オスティナータ』のリハでピアノの弦を2本切ったというだけあります。
『SUS大要塞』
ヤマトのトランジッション波動砲でハイパーニュートロンビーム砲が粉砕されるとともに沈んで行ったかに見えたSUSの要塞が、異空間から自由自在に出現してヤマトを攻撃してくるシーンに使われているのがグリーグの『ピアノ協奏曲イ短調作品16』。ヤマトの敵は強大になるにつれて宗教掛かってくる印象がありますが、これもその流れのひとつという感じです。力強いオーケストラに絡んでくるピアノの音色が、荘厳なイメージで敵の圧倒的な力を醸し出してるようです。
『「復活篇」のためのシンフォニー』
これは90年代に出た『復活篇』のメイキングビデオである『胎動編』当時に作曲された、羽田健太郎の遺作をアレンジし直して新録した曲。ギターソロがどこかノスタルジーを感じさせる曲ですが、全体的には勝利の凱歌ともいうべき勇壮なイメージですね。敵を打ち破って大団円って感じの曲ですが、映画で使われていたかなぁ?
『メッツラー』
これは山下康介による新録曲。異次元の異種生命体であるメッツラーの不気味さや恐ろしさ、そしてヤマトや地球にこれから待ち受ける宿命への予感を表してる曲なのかなぁ。これも実際に使われていたのかどうか、印象に残っていません。メッツラーのところはビジュアルの印象が圧倒的ですからねぇ。
『この愛を捧げて』
THE ALFEE によるテーマソングをSynphonic Versionのインストゥルメンタルからのメドレー。映画では前半は使われていませんね。雰囲気的にはヤマトの歴代の映画主題歌よりも『オーディーン』の「Odin」的な印象を受けます。やっぱりヤマトのテーマソングはもうちょっとロマンティックな感じで愛を歌ってくれないと……
ま、世間にはいろんなジンクスがあるわけだけど、THE ALFEE が主題歌を歌ったのが原因で某宇宙を走るSLみたいに「第一部完」が永遠の最後になってしまったりしないことを祈りたいと思います。
(発売元:EMIミュージック TOCT-26918 2009.12.16)
☆ ☆ ☆
既存のヤマトの劇伴曲からはこのサントラに収録されている曲以外にも『さらば』の「ゆうなぎ」前半、『完結編』の「抜けるヤマト」や「ウルクの猛攻」などが使われていますが、この辺は音響監督の人の趣味で選曲してるようにも思ってしまいます。
新録曲を担当してる山下康介は羽田健太郎の教え子だそうで、その関係で『復活篇』の音楽に抜擢されたのでしょうか。大林宣彦作品等の映画音楽をはじめ、ドラマや戦隊物、アニメでは『ガラスの艦隊』や『ドラゴノーツ』、『しおんの王』など多くの作品を手掛けてるようですね。
演奏はクラシック曲が日本フィルハーモニー交響楽団、それ以外の劇伴新録曲が東京ニューシティ管弦楽団とのこと。かつてのようにあちこちから演奏家を集めてシンフォニック・オーケストラ・ヤマトとして録音するような形じゃないのは、音楽プロデュースを務めた大友直人の意向とか、その他の現実的な事情とかあるのでしょうか。
それにしても、横山幸雄のピアノは凄いに付きます。今回はクラッシック曲の演奏だけですが次は劇伴曲の演奏もやって欲しいですね。従来のヤマトのピアノを弾いてきた羽田健太郎が「お洒落」で「華麗」だとすると、横山幸雄は「繊細」と「力強さ」というところですか。この人のピアノで「自動惑星ゴルバ」とか「SYMPHONY OF THE AQUARIUS」とか聴いてみたいですね。
☆ ☆ ☆
……ということで、今回の題材のサントラ盤。
ついでに『交響曲』。映画で使われていたのはハネケン自身の演奏の初演の音源ですが、今は入手困難みたいなので、横山幸雄がピアノソロを担当している新録盤。
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