東京交響楽団/交響曲「宇宙戦艦ヤマト」
5月16日に東京芸術劇場で催された大友直人指揮・東京交響楽団の東京芸術劇場シリーズ第100回のコンサートに行ってきました。
目的は言うまでも無く25年ぶりに再演される羽田健太郎作曲の『交響曲「宇宙戦艦ヤマト」』です。この曲自体についてはハネケンの追悼記事として以前に書いてますので、楽曲に関する詳細はそちらをご参照ください。(羽田健太郎『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』)
初演の時は聴けなかった(というか、レコードが出てから初めて知った)貴重なヤマトの演奏会用の音楽ですので、万難を排して聴きに行くことにしました。しかし、3月の『ウルトラセブン』、4月の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』と、3ヶ月連続の東下りはさすがに懐的に辛いですね。いつもは年1回ぐらいに抑えてるものですが。
会場には西崎プロデューサーからの花が飾られていましたが、ご健在そうで何よりです。おりしも『ヤマト』の新作が動き出してるみたいなので、期待したいものですね。
さて、コンサートの演奏曲目は以下の通りです。
01. 坂本龍一
映画『戦場のメリークリスマス』テーマ曲
02. 三枝成彰
NHK大河ドラマ『太平記』から
「はかなくも美しく燃え」(藤夜叉のテーマ)
03. 三枝成彰
映画『優駿 ORACION』から“誕生”
04. 服部隆之
TBS日曜劇場『華麗なる一族』からメイン・テーマ(原典版)
05. 羽田健太郎(テーマ・モチーフ:宮川泰)
交響曲『宇宙戦艦ヤマト』
EC. 冨田勲
NHK『新日本紀行』テーマ曲
それでは、順番に印象などを……
坂本龍一
映画『戦場のメリークリスマス』テーマ曲
坂本龍一といえばYMOの坂本教授ってイメージでしたが、それを一新して世界的な映画音楽作家として印象付けたのが、この『戦場のメリークリスマス』ですね。シンプルで覚えやすいフレーズの繰り返しによるこのテーマ曲は、いまなお色々なところで耳にします。
鉄琴の序奏から始まり、ストリングスが伴奏を重ねます。次いで木琴とベル、そしてピアノが主題のフレーズを奏でていき、徐々にストリングスが加わってきます。
次第にオーケストラ全体で優雅に、そして壮麗に奏でられていきますが、終始ベルが響いてるのが印象的です。
三枝成彰
NHK大河ドラマ『太平記』から
「はかなくも美しく燃え」(藤夜叉のテーマ)
三枝成彰といえば、個人的には『機動戦士Zガンダム』の音楽の人ってイメージですが、透き通った流れるようなストリングスを多用するオーケストレーションの印象が強い作曲家ですね。
木管のフレーズから始まり、次第にストリングスが重なってきますが、この辺りが実に三枝成彰らしい作りです。
やがて哀愁的なヴァイオリンのソロが響いてきますが、これは劇伴の原曲では胡弓によるものだという話。もっとも、ヴァイオリンも胡弓と呼ばれたりする場合がありますが……
マイナー気味の沈滞したようなフレーズがしばらく続き、全体で華々しく盛り上がっていきます。再びヴァイオリンのソロが入り、穏やかな伴奏と共に締めくくられていきます。
三枝成彰
映画『優駿 ORACION』から“誕生”
波打つような独特のヴァイオリンとフルートによる序奏。ベル(トライアングル?)とストリングス、そしてブラス、パーカッション、コーラスが加わって大きく盛り上がっていきます。
マイナーなストリングスのフレーズが続いた後、ストリングスにコーラスが加わって優雅に展開されます。全体で壮大に盛り上がり、堂々とした主題が奏でられます。その後、清らかなコーラスと美しいストリングスのフレーズが展開され、安らぎと清浄なイメージが広げられます。
最後は全体で壮大に盛り上がって、太古の連打と共に堂々のクライマックスを迎えます。
服部隆之
TBS日曜劇場『華麗なる一族』からメイン・テーマ(原典版)
服部隆之というと『劇場版スレイヤーズ』とか『機動戦艦ナデシコ』の作曲家というイメージですが、音楽的にはストリングスとブラスを調和させた豊かで華やかなオーケストレーションの印象が強い人です。
原典版とあるのは、実際にレコーディングに用いられた作曲家手書きのスコアを用いての演奏とのことみたいです。
力強いブラスとストリングスから始まり、徐々にスローダウンしていきます。哀愁漂うマイナーなストリングスと低音のコーラスのフレーズが続きます。やがて叙情的にオーケストラが展開していきますが、この辺りが実に服部隆之らしい深みのあるオーケストレーションです。
ピッコロとハープが間奏的なフレーズを奏でた後、全体で盛り上がると、今度はトランペットやホルンが哀愁的なフレーズを印象深く重ねます。
ピアノのソロからストリングスの穏やかにフレーズに続き、徐々に全体で盛り上がり勇壮に展開していきます。その後の余韻に響くホルンが印象的。
スタッカート気味にテンポ良く盛り上がり、行進曲風に勇壮に展開していきます。やがて大きくコーラスが入り、壮大に響き渡ります。まるで交響曲の終楽章のような堂々たるフィナーレを迎えます。
羽田健太郎(テーマ・モチーフ:宮川泰)
交響曲『宇宙戦艦ヤマト』
第一楽章「誕生」
低音から始まる幻想的な序奏。CDでは数え切れないくらい繰り返し聴いてる冒頭部ですが、生で聴くブラスの響きはとっても豊かに感じられます。
可変的なテンポで奏でられる第1主題のメインテーマが壮大に展開されていきます。オーケストラの音がとにかく豊か。こればかりはレコードでは味わえない醍醐味です。ホルンによる間奏を経て第2主題の「イスカンダル」が奏でられます。華麗な木管がメインのフレーズから始まり、美しいストリングスに引き継がれていきます。
展開部の第1主題はどこか不安定な雰囲気で始まります。危うくも派手な展開が繰り広げられますが、途中に入るティンパニーの響きが印象的。
再提示部になると第1主題は安定し、勇壮かつ堂々とした展開で盛り上がります。そして静寂に帰って第2主題。雄々しく優雅な雰囲気で、曲全体は穏やかに流れていく感じです。
第二楽章「闘い」
流れるようなストリングスによる第1主題の「神殿部の斗い」に、トランペットによる「FIGHTコスモタイガー」が絡み、華々しい盛り上がりから始まっていきます。重低音の「ウルクの歴史」はコントラバスがメインで旋律を奏でてるのが実に印象的です。
こうして生で聴くと、ストリングス主体の第1主題のフレーズと、重低音の「ウルクの歴史」のフレーズ、そしてブラス中心の展開音楽が三者互いに対峙してるイメージが強く感じられます。
中間部に流れるストリングス主体の第2主題は、激しいスケルツォに挟まってとても優雅に感じられます。
終盤はより力強い「FIGHTコスモタイガー」から始まって展開されます。
第三楽章「祈り」
ストリングスで優雅に奏でられる第1主題。そして清らかな第2主題の「無限に広がる大宇宙」が木管中心で奏で始められます。
中間部では第1主題が展開的に奏でられていきます。美しくも不安げな感じから、熱情的なブラスの展開に移り、最後は雄々しく堂々とした形になっていきます。
終盤はスキャット(ヴォカリーズ)とハープを加えた第2主題。ヴォカリーズは安井陽子というソプラノ歌手の人ですが、初演の川島和子に比べると声が野太い感じがします。川島和子のスキャットが割りとフラットで頭にアクセントがあるのに対し、声の半ばに重みを置いた歌い方です。ま、以前に聴いたセントラル愛知交響楽団のコンサートの時の人みたいに、おもいっきり声を震わせたソプラノそのものの歌い方ほどじゃないにしても、やはりどこか違うような気がします。
第四楽章「明日への希望」
ピアノとヴァイオリンによるドッペルコンチェルト。今回はピアノが若林顕、ヴァイオリンがコンマスの大谷康子ということです。
オケは力強い第1主題のユニゾンで始まりますが、ブラスの出だしが少し弱いかなという感じ。続いて入ってくるピアノは確かに力強くはあるけど、軽やかさが足りず、テンポを維持するのにいっぱいで、少し音が濁ってる気がします。初演のハネケンのピアノと比べるのも無理があるのだけど、どうしてもあれが基本に感じてしまいますからね。
そして第2主題の「大いなる愛」をピアノが奏で始めますが、ハネケンとも宮川泰とも違う、まったく別の味わいです。一方、ヴァイオリン・ソロは表現豊かな演奏なのですが、ちょっと弱々しい感じが否めません。
中盤、第三楽章の第1主題が現れる辺りはオケの演奏が豊かに響いてます。ヴァイオリン・ソロの歌い上げていく部分はかなり見事に聴かせてくれます。しかし、そこに加わってくるピアノが何かもたついて感じられます。そして、オケの方もそれに引っ張られてるのか、少し乱れを見せてる感じです。
終盤近くのピアノとヴァイオリンの掛け合いは音がかみ合ってないというか、初演のハネケンと徳永二男の阿吽の呼吸のようなものはここには存在してないのでしょう。それを望むのは無理な注文とはわかるのですが……
それでも、ラストの盛り上がりは格別の味わい。堂々としたメインテーマを用いたコーダがフィナーレを飾ります。
冨田勲
NHK『新日本紀行』テーマ曲
冨田勲といえば、このブログ的には『ジャングル大帝』の人なのですが、どちらかというとクラシック音楽の演奏にシンセサイザーを用いた旗手の人という感じですか。もっとも、バッハの楽曲を使ったアルバムしか聞いたことはありませんが。
この『新日本紀行』の曲は、途中に拍子木とか木魚とか笛の音という和風テイストを入れることで日本をめぐってるって雰囲気を出してる感じですが、曲そのものの作りはあんまし和風の感じはしないので、狙いどころは良くわかりません。ま、オケで和楽器そのものを使ってたとは思わないから、クラヴェスやウッドブロック、フルート等で代用してるんでしょうが、席が前の方だと演奏してるところが見えないので、よくわかりません。
☆ ☆ ☆
これまで音源が初演版しか無かったから、どうしてもそれをスタンダードとして比較してしまいます。特にソリストの方たちにはきつい感想になってしまいがちです。こういうのも比較対象が多くなれば、それなりにきちんとした評価が出てくるのでしょうが。
これを機会に、多く演奏されるようになってくれたらと思います。大友氏も語ってられましたが、羽田健太郎が残した貴重な大作なのですから。本当の意味での音楽的な評価がなされていって欲しいものです。
(とか言ってるけど、現在では頻繁に演奏されてる伊福部先生の『SF交響ファンタジー第1番』だって、未だに頭の中には日比谷公会堂初演版がスタンダードとして居付いてますからねぇ……。最初にレコードとしてリリースされた演奏の影響は大きいです)
☆ ☆ ☆
第三楽章の女声ソロのパート、初演のレコード等じゃ「スキャット」の記述なのに今回のコンサートでは「ヴォカリーズ」との表記です。「スキャット」とは誤用で音楽的には「ヴォカリーズ」の方が正しいってことのようですが……おおっぴらにそんなこと書いてるの、Wikipediaの「宇宙戦艦ヤマト」の項目でのこの「交響曲宇宙戦艦ヤマト」に対する記事でしか見たことありません。
ま、Wikipediaの記載自体、出典を示して書かれてるわけじゃないから、誰が言い出したことかわからないので今回の表記との関連性は不明なのですが、どうなんでしょうね。
音楽的に「ヴォカリーズ」が正しいにしても、その当時「ヴォカリーズ」でググっても(Wikipediaの「ヴォカリーズ」の項目も含めて)音楽用語として有用な記述への検索結果が出て来なかったから、どこまで一般に認知されてる(さらに1984年当時に遡って、当時に認知されてた)言葉かはわかりません。
この「ヴォカリーズ」を正しいとする根拠の1つとしてジャズ用語である「スキャット」の誤用が挙げられてるわけですが、そもそもこの指摘自体がおかしい気がします。
『宇宙戦艦ヤマト』の音楽でこれを「スキャット」と称しているのは第1作目の音楽(少なくとも『交響組曲』のアルバム)から始まっていますが、そもそもこれを「スキャット」と呼んでいるのは(根源的にはジャズ由来なのでしょうが)日本の歌謡曲での習慣からなのですね。少なくとも由紀さおりの「夜明けのスキャット」に遡る流れです。
「夜明けのスキャット」は「ルールルルー」の子音の連続だから「スキャット」で、『ヤマト』のは「アーアーアアアー」の母音の連続だから「ヴォカリーズ」というのは、そりゃ子音と母音が明確に区分されてる西洋言語の音楽なら正しいのでしょうが、共に音節をはっきりと出している日本語の音楽では区別する意味がありません。
つまりのところ、日本の歌謡曲における「スキャット」としては『ヤマト』の川島和子の歌も「スキャット」として間違いではなく、大元のジャズの定義を持ってきて誤りだというのはふさわしくないのではないでしょうか。歌謡曲の「スキャット」とジャズの「スキャット」は別物だと考えた方が良いと思います。
クラシック音楽として「スキャット」という概念が無いから「ヴォカリーズ」と表すというのなら、それはそれで正しいと思いますが、別のところからジャズの定義を持ってきて「スキャット」は誤りだというのは違うのではないでしょうか。
☆ ☆ ☆
相変わらず商品欠乏状態ですね。リンクを貼っておくけど、取扱いがあるかどうかは運次第だと思ってください。(メーカー在庫が無いからマーケットプレイス次第)
まずは滅多に出て来ない単品CD。それでもジャケ写はある。
DVDの方はたまには出て来るみたいです。
左サイドにも貼ってある特典ディスクに『交響曲』が付いてるBOX版。2年前にはまだまだ現行商品で在庫があったのに、これも今では……
生誕30周年記念 ETERNAL EDITION PREMIUM 宇宙戦艦ヤマト CD-BOX
これはアナログ盤といえどもヤマト末期の商品だからヤフオクで探しても『交響組曲』ほど手軽に手に入らないと思います。むしろ商品期間の長かったCDの方が多く出てるかも。(ま、イージーリスニングシリーズとか、『宮川泰の世界』ほどのレア物じゃないでしょうが)
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント