ビムス・エディションズ・バンド・コレクション Vol.1
ついでだから吹奏楽シリーズでこの1枚。言うまでもなくこれを買った目的はこれが初収録の吹奏楽版『SF交響ファンタジー第1番』だったのですが、開封はしてあったから1回は聴いたんだろうけど、そのうち『伊福部昭 吹奏楽作品集』が出て来たのですっかり忘れ去られていました。
このCDはバンドスコアの出版社が出した模範演奏集って感じで、本来なら吹奏楽をやる人が参考に聴くためのものなのか知りませんが、単純に鑑賞目的で聴いてはいけないってわけでも無いでしょうから、気にしないことにします。
演奏は福田滋指揮のリベラ・ウィンド・オーケストラ。最近取り上げた『奏楽堂の響き』と同じですね。
収録曲は以下の通りです。
01. SF交響ファンタジー第1番/伊福部昭
02. イギリスの海の歌による幻想曲/ヘンリー・ウッド
03. 悪魔の踊り/ジョセフ・ヘルメスベルガー Jr.
映画音楽「来たるべき世界」/アーサー・ブリス
04. プロローグ
05. 間奏曲-荒廃した世界
06. 新世界の建設
07. ムーン・ガンへの攻撃
08. エピローグ
交響詩「ローマの噴水」/オットリーノ・レスピーギ
09. 夜明けのジュリアの谷の噴水
10. 朝のトリトンの噴水
11. 昼のトレヴィの噴水
12. 黄昏のメディチ荘の噴水
13. キスカ・マーチ/團伊玖磨
14. 行進曲「黎明」~防衛大学校のために/黛敏郎
15. パリは燃えているか/加古隆
バレエ組曲「ドン・キホーテ」/レオン・ミンクス
16. シプシーの踊り
17. パジリオと2人の少女のパ・ドゥ・トロワ
18. チャルダッシュ
それでは、さっそく順番に聴いていってみましょう。
『SF交響ファンタジー第1番』はお馴染みの曲の吹奏楽版。吹奏楽は縦方向の音の通りは良いけど、弦楽器の持つ横幅の豊かさが無いというのが印象です。
『ゴジラ』のタイトル曲なんかはマーチ風の曲ではあるけど、原曲はストリングスでかなり厚みを持たせた音なんですが、それが軽く感じてしまうきらいがあります。逆にラストの純粋なマーチ部分は突き抜けるような爽快感が出て来ます。
個別に気になったところを挙げると、『キングコング対ゴジラ』の「巨大なる魔神」は音が少し物足りない感じ。『地球最大の決戦』の「ゴジラ対ラドン」のところはラドンのモチーフが入る辺りの打楽器のタイミングがずれてる感じで、かなり違和感があります。極めつけはマーチ部分の冒頭の『宇宙大戦争』のタイトルマーチのファンファーレからマーチに入るところ。繋ぎに伸ばしてる音が原曲よりやけに高く感じて落ち着きません。
マーチ部分の繰り返しは「怪獣総進撃マーチ」が2回繰り返した後、『宇宙大戦争』のタイトルマーチからもう1回繰り返して、最後に「宇宙大戦争マーチ」の後半から入るというオーソドックスな形ですが、最近は本名徹次指揮の繰り返しを端折ってる演奏を聴く機会が続いてたから少し斬新に感じました。
『イギリスの海の歌による幻想曲』はイギリスの海の歌を集めた、毎年ロンドンで行われるプロムスの最終夜に演奏される定番曲とのこと。「幻想曲」と言っても演奏によっては曲目の数や順番も入れ替わる、実質的には「組曲」をメドレーで演奏したものみたいです。この辺は伊福部先生が『SF交響ファンタジー』を「ファンタジー(幻想曲)」ではないと言いながらも単なるメドレーではなく1曲にまとまった編曲を施してるのとは違いますね。
このCDに収められてるバージョンではまず最初にファンファーレのメドレーである『Fanfare The Saucy Arethusa』から始まります。かつて七つの海を支配したといわれる海軍国イギリスの伝統を思わせるような華やかさです。
やがて、ホルン主体の穏やかなゆっくりとしたワルツが奏でられます。
一転して唐突にややエキサイト気味のブラスのフレーズが入ってきて曲の変わりを印象付けます。この急転的なフレーズを繰り返した後、やがてゆっくりと力強く堂々とした曲調で終わります。
そしてクラリネットのソロによるバラード的なフレーズ。マイナー系の旋律が続き、やがて木管が加わって物悲しくゆっくりと奏でられていきます。
ラストは『Jack’s the Lad』。最初はフルート主体でメヌエット風のフレーズが奏でられますが、これがクラリネットに代わり次第にテンポアップして行き、最後はこれでもかというところまで盛り上がって終わります。
『悪魔の踊り』はピッコロとトライアングルが響くハイテンポのフレーズで始まる舞曲。やがてブラスがシンバル等が加わって重厚に展開していきます。
中間部ではややテンポを落とした、(『くるみわり人形』みたいな)コミカルなフレーズで始まり、続いて競りたてるようなブラスのフレーズが繰り返されます。重厚だけど慌しそうなフレーズが続いた後、再びコミカルなフレーズが始まります。
後半は冒頭のハイテンポなフレーズが奏でられた後、華々しく盛り上がり、やがてゆったりとしたワルツとなります。ラストは再びブラスがハイテンポに畳み掛けるようにして終わり。
『悪魔の踊り』なんていうから、毒々しく殺伐としたような曲かと思ったら、愉快で華やかなイメージの曲ですね。
『映画音楽「来たるべき世界」』は古典SFの大家H.G.ウェルズ原作というか、原作者自身の脚本によるイギリスの古典的SF映画の音楽ですが、見たことはありません。
「プロローグ」はブラスによる重厚なものものしい始まりの曲。何かシリアスで深刻な感じです。やがて木管が悲しげなフレーズを奏でますが、何か大変な内容の映画って印象を受けます。
「間奏曲-荒廃した世界」は前曲に続いて悲痛でシリアスな感じ。より深刻に展開していくイメージなのは、最終戦争か何かで文明が破壊された光景なのでしょうか。ラストのソロがまるで何もかもなくなってしまったのかのような絶望感を表してるようです。
「新世界の建設」は木管主体でおとなしめのゆっくりとしたマーチ風のフレーズに始まる曲。テンポアップを奏でる木琴のフレーズが印象的。中盤は力強く突き進むようなブラスのフレーズで、新世界を作り上げていく意思と情熱の強さというところでしょうか。ラストで再びマーチ風のフレーズに戻ります。
「ムーン・ガンへの攻撃」は派手なブラスによるアクション音楽。前半はファンファーレのようなトランペット主体のフレーズを繰り返し、後半になってリズムに乗ったスピーディーな展開が繰り広げられます。
「エピローグ」はゆったりと穏やかな、安らぎの曲。理想の平和が訪れてメデタシメデタシというところでしょうか。徐々に雄大に盛り上がってきて終わります。
トーキーが発明されてまだ10年にならない頃の映画ですから、アーサー・ブリスによる本格的な音楽を使ってるというのは注目すべきところかも知れませんが、ライナーに書かれてるように『スター・ウォーズ』の響き云々というのは、他に映画音楽知らないのかというくらいどうかと思います。
『交響詩「ローマの噴水」』はイタリアの作曲家レスピーギによるローマ三部作の最初の作品。特に楽章ごとの関連性は無く、単に4つの代表的な噴水を取り上げて、時系列順に1日の光景を描いたような感じです。
「夜明けのジュリアの谷の噴水」はローマの北部にあるボルゲーゼ公園辺りにあるジュリアの谷の噴水の夜明けの光景を描いた曲。まるで交響曲の緩徐楽章のような、静かでゆったりとした穏やかな曲です。ローマといっても郊外の夜明けの牧歌的な光景を描いたというところでしょうか。
「朝のトリトンの噴水」はバルベリーニ公園にあるベルニーニのトリトン像の噴水の朝を描いた曲。ファンファーレが華々しく朝の営みの始まりを告げ、ナイアデスとトリトンの活発な踊りの様子を奏でていきます。小刻みで可変的なテンポのホルン主体のフレーズから、やがて派手に盛り上がってから徐々に静まっていきます。
「昼のトレヴィの噴水」は、コイン投げで知られるトレヴィの泉にあるネプチューン像の凱旋の光景を描いた曲。昼下がりのローマの賑わいを表すような華やかで力強いブラスのフレーズが繰り広げられ、やがでゆったりと雄大にトランペットのカノンの中を収束していきます。
「黄昏のメディチ荘の噴水」はボルゲーゼ公園近くのメディチ宮殿の噴水の黄昏時の光景を描いた曲。木管主体の静かで穏やかなフレーズが続いた後、ピッコロのフレーズなどが続き、街の喧騒とは関係なく静かに夕暮れを迎えていく様子を奏でます。最後は日没を告げるかのような鐘の音が夜の帳を告げ、フルートの音色が静かに消えていきます。
『キスカ・マーチ』は映画『太平洋奇跡の作戦キスカ』でクライマックスのキスカ島撤退シーンに使われていた曲です。
ゆったりとしたファンファーレに始まり、戦記映画の音楽ではあるけど軍歌調のマーチではなく、華やかなスポーツ風のマーチ曲です。どこか『鉄腕アトム』に似たフレーズを感じるのは気のせいでしょうか。
後半は雄大な響きの後、スローダウンし、ややマイナー掛かった静か目のマーチとブラスの力強いフレーズの繰り返しになります。
全体的に『祝典行進曲』の團伊玖磨らしい、上品な仕上がりの作品ですね。
『行進曲「黎明」』は黛敏郎による防衛大学校の30周年記念行進曲。一聴して「カッコイイ」の一言で全てが言い表されるような名曲ですね。
複合三部構成で主部は、まずドラムのリズムに合わせた木管の穏やかなフレーズに始まりますが、そこにブラスが重なってきて、次第に力強いマーチ展開していきます。
トリオは勇壮な大マーチ。オスティナート風に同一フレーズの力強い反復を行ってる部分が印象的で、まるで黛敏郎版の「伊福部マーチ」とでもいうべきカッコ良さ。聴いていて痺れずにはいられません。
主部のフレーズが繰り返された後、ラストでボレロ風に盛り上がった後、静かに消え行くように終わります。
『パリは燃えているか』はNHKスペシャル「映像の世紀」のテーマ曲ということですが、NHKスペシャルも科学的なシリーズだと見るけど、このシリーズは見た記憶はありませんね。
タイトルは第2次世界大戦末期のドイツ軍のパリ撤退時に焼土作戦で連合国軍を疲弊させようと考えたヒトラーが、ドイツ軍の撤退報告を聞いて作戦の成否を確かめようと発した言葉のようですね。
ピアノのソロに始まるレクイエム風のモチーフが、木管、そしてブラスへと次第に盛り上がっていき、クライマックスでバラード風のフレーズが奏でられます。同じモチーフの繰り返しによるポピュラーな映像音楽ですが、このCDの中ではどことなく異質な気がします。
最後は静かにフェードアウトするように終わっていきます。
『バレエ組曲「ドン・キホーテ」』はロシアの音楽家ミンクスによるバレエ音楽からの抜粋。本来は4曲構成ですが、収録時間の関係で第3曲が割愛されています。
「シプシーの踊り」はものものしく重厚な序奏に始まる舞曲。前半はカスタネットの響くスペイン風のハイテンポのスケルツォで、中盤はゆったりと優雅で少し寂しげなメヌエット風の曲。後半は再びハイテンポのスケルツォで、テンポアップして盛り上がります。
「パジリオと2人の少女のパ・ドゥ・トロワ」は、ややゆったり気味で華やかなフラメンコ風の舞曲で、カスタネットが印象的。
「チャルダッシュ」はスピーディーにテンポアップしていくスラブの民族音楽風の舞曲。ブラスが派手に盛り上がります。中間部は穏やかな、やはりスラブの民族風ダンス。ラストは派手に盛り上がって畳み掛けるように終わります。
タイトルの「チャルダッシュ」自体がハンガリーの民族音楽風の音楽ってことみたいですが、「ドン・キホーテ」の原作はスペインの作品なのに、そのバレエ音楽にスラブ的なものが出てくるのは作曲者自身の出自や、曲の提供先がロシア帝室バレエ団だったことによるものなのでしょうね。
☆ ☆ ☆
バンド向けの模範演奏というと、どうしても義務教育レベルの学校教育で使えるような平易な楽曲を集めたものを想像しがちですが、これはそんなものではなく、吹奏楽の極みを目指して楽しむ上級者向けのものですね。演奏も一流で、単純に観賞用に聴いてもまったく遜色のない素晴らしい内容のCDです。
収録曲もバラエティ溢れるレパートリーで、最後まで飽きることない新鮮さを感じさせてくれます。ただ通して聴いた場合、『ローマの噴水』はもうちょっと落ち着いたセレクトの中で聴いた方が良かったかなという気はします。
最初に述べたように目的は伊福部先生の『SF交響ファンタジー第1番』だったのですが、一番の収穫は黛敏郎の『行進曲「黎明」』ですね。確かに伊福部マーチの多くのようなアレグロではなくあくまでマーチのテンポの曲ですけど、力強い反復を繰り返すその曲の作りは非常に伊福部マーチを彷彿とさせるものです。
黛敏郎は師の影を踏まずということか、いわゆる特撮怪獣映画の音楽などはまったく手掛けてはいませんが、もし怪獣映画を手掛けていたら自衛隊のテーマはこんなマーチが作られていたのかと思うと興味深いところです。
ま、防衛大学校のマーチですから、リアルの自衛隊マーチであるわけですけど。東宝自衛隊の活躍シーンのビデオにこの曲を付けてみても面白いでしょうね。
(発売元:ビムス・エディションズ CD-0714 2004.08.15)
これもAmazonでは扱いが無いみたいなので、発売元へのリンクを張っておきます。
ビムス・エディションズ
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