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2007.07.17

奏楽堂の響き ~吹奏楽による奏楽堂ゆかりの作曲家たち~

 伊福部作品落穂拾いシリーズの2回目です。ま、昔のCDを引っ張り出してきてもキリが無いから近年のものに限る予定ですが……
 今回は昨年『旧奏楽堂コンサート』と題して、日本最古の木造洋式音楽ホールとして国宝に指定されてる旧東京音楽学校・奏楽堂にて行われた吹奏楽コンサートのライブ盤です。演奏内容は「奏楽堂ゆかりの作曲家」ということで、旧東京音楽学校(現・東京藝術大学)出身の作曲家に加え、作曲の指導を行った伊福部先生の作品が並べられています。
 演奏はリベラ・ウィンド・シンフォニー。ネットや雑誌で賛同者を募って結成された非常設の吹奏楽団とのことです。指揮の福田滋は『SF交響ファンタジー第1番』の吹奏楽版アレンジなどで伊福部作品には縁の深い人ですね。

 収録曲は以下の通り。

 01. 矢代 秋雄
    ファンファーレ
 02. 芥川 也寸志
    東京ユニバーシアード・マーチ
 03. 芥川 也寸志(福田 滋編曲)
    交響曲第1番より第4楽章「アレグロ・モルト」
 04. 黛 敏郎(辰野 勝康編曲)
    交響詩「立山」~テーマとセレクション
 05. 團 伊玖磨(時松 敏康編曲)
    吹奏楽のための奏鳴曲より「第1楽章」

   別宮 貞雄
    組曲「映像の記憶」(改訂初演)
 06.  Ⅰ.マタンゴ
 07.  Ⅱ.黒い樹海
 08.  Ⅲ.遥かなる男
 09.  Ⅳ.鍵の鍵

   眞鍋 理一郎
    三つのマーチ(献呈初演)
 10.  Ⅰ.マーチX《未知》
 11.  Ⅱ.マーチY《葬送》
 12.  Ⅲ.マーチZ《再生》

 13. 伊福部 昭
    吹奏楽のためのロンド・イン・ブーレスク
 14. 芥川 也寸志(福田 滋編曲)
    NHK大河ドラマ「赤穂浪士」のテーマ音楽

 現在もそのまま残ってるコンサートの告知サイトには團伊玖磨の『パシフィック・フリート』とか黛敏郎の『祖国』というマーチ曲の記載もあるのですが、収録時間の関係等で割愛されたのでしょうか。
 収録されてる作曲家はどれも高名な人ですが、名前を知ってるからって作品を聴いてるわけではありません。純音楽作品に関しては既製の日本の現代音楽関係のオムニバスCDで伊福部先生の作品とカップリングされてたものぐらいでしょうね。

 それでは順番に聴いていきましょう。


矢代秋雄『ファンファーレ』

 トランペットのソロが単音を順番に奏でていく出だしから、やがてホルン等が加わってシンフォニックなブラスアンサンブルに展開されます。ラスト付近で打楽器が派手に加わって盛り上がります。
 典型的なファンファーレ。短いながらもシンプル・イズ・ベストの見本のような音楽ですね。吹奏楽コンサートの始まりにはぴったりの曲です。


芥川也寸志『東京ユニバーシアード・マーチ』

 華やかなファンファーレに始まる複合3部形式のマーチ曲。
 軽やかで力強い第1主題の後、ややゆったりとした優雅な第2主題が展開し、再び重みを増した第1主題の変奏で構成される序盤。中盤はホルンのソロの響く流れるような第3主題が展開された後、後半で第2主題のアレンジが展開されます。そして終盤は再び序盤と同じ構成が繰り返される華々しいシンフォニック・マーチです。

 初めて聴く曲なのですが、とても惚れ惚れとする素晴らしいマーチ曲なんですが、日本のマーチ曲集などの吹奏楽のオムニバスアルバムではまず見かけないのはもったいないような気がします。
 第1主題の最初の部分で木管のトリルが入ってるあたりが伊福部先生の「怪獣大戦争マーチ」を髣髴させて面白いです。


芥川也寸志『交響曲第1番』より第4楽章「アレグロ・モルト」

 トロンボーンをベースにしたスピーディーなフレーズと木琴の軽やかなリズムで始まる曲。その上に高音のフルートや、ホルン、低音のバスーン辺りの楽器の旋律が重なって来ます。
 交響曲の1つの楽章というより、単一のマーチ曲かと思うような曲です。ま、これも伊福部先生の特撮マーチと同じで、マーチというよりはタイトル通りのアレグロの曲ってことでしょうけど。
 後半、チューバが入ってゆっくりと堂々としたフレーズが奏でられます。いったん静寂になった後、再び冒頭のスピーディーな展開が繰り返されますが、あっさりと静寂に帰って行きます。
 ティンパニーの連打の後、突然に激しい展開。ラストは派手な打楽器を交えた盛り上がりで終わります。


黛敏郎『交響詩「立山」』~テーマとセレクション

 堂々とした重厚かつ高らかなファンファーレ風の始まり。それに続いてテーマモチーフがゆったりと現れます。
 険しい山々を示すかのようなサスペンス風のマイナーなアダージョ。そして静寂から湧き上がって来る人々の営みを表すような土俗的なモチーフによるフレーズの繰り返し。再びテーマモチーフの旋律が盛り上がってきて一区切り。
 やや激しく反復を繰り返すフレーズ。フルートによるテーマモチーフの調べがかすかに流れてきた後、アクセント的に盛り上がって静まります。
 後半、シンバルとティンパニーの連打がしばらく続きます。その後、トランペットのアルペジオ風のマイナーなフレーズが繰り返された後、テーマモチーフの旋律が入ってきてメジャーに展開していきます。
 ラストは打楽器を交えながらゆっくり堂々と奏でられて終結します。

 タイトルからすると、管弦楽作品である『交響詩「立山」』の抄訳というか一部を抜粋してきて吹奏楽版に仕上げてあるって感じなのですが、どうなのでしょうか。なかなか雄大さに魅かれるところもあるので、原曲を聴けばさらにスケールが違って聴こえるんでしょうね。


團伊玖磨『吹奏楽のための奏鳴曲』より「第1楽章」

 沖縄を思わせるような南方系の民俗的モチーフの第1主題が展開されるスピーディーなファンファーレで始まり、ゆっくりと高らかにトランペットで奏でられるバラード系の第2主題が現れますが、このフレーズ、どこかで聴き覚えがあると思ったら……東宝映画『世界大戦争』のエンディング曲と同じモチーフですね。
 アレグロに展開されていく第1主題とファンファーレ的な響き。それに絡んでくるゆっくりとした第2主題。曲はシンフォニックに展開されていきます。
 マーチ風に盛り上がっていく第1主題。堂々と華々しく展開していきます。そしてゆっくりと第2主題が展開。華々しく盛り上がった後、スローダウンした第2主題のフレーズが断続的に入り、最後は畳み掛けるように盛り上がって終わります。

 やはり聴きなれたモチーフが入った曲は馴染みやすいというか、そういう曲なんですが、まぁどちらがオリジナルなのかはわかりませんが……。


別宮貞雄『組曲「映像の記憶」』

 これは映画やテレビドラマのための音楽をまとめた作品らしいです。

 「Ⅰ.マタンゴ」

 『世界大戦争』の次が『マタンゴ』ですか。なかなか通な構成ですね。(実際に作品を見たことあるのはこれだけで、後の3作品は知りません)
 昭和30年代の映画のパブやキャバレーの場面でよく流れてるようなジャズバンド演奏の現実音楽的な曲。特に東宝映画に顕著なようなんだけど、この手の音楽が掛かってると、同じ特撮映画でも怪獣映画のようなお子様向けではない大人向けの映画ってイメージなんですね。
 テンポの速いポップな曲調。映画では冒頭、登場人物たちがクルーザーで南の海に向かってるシーンのイメージですね。

 「Ⅱ.黒い樹海」

 ゆっくりとしたトランペットによるミステリータッチのフレーズが繰り返される曲。昭和30年代あたりの犯罪ミステリー映画って雰囲気が感じられます。

 「Ⅲ.遥かなる男」

 小林旭の渡り鳥シリーズってわけではありませんが、そんな感じの風来坊か何かの主人公が活躍する作品って感じのイメージを呼び起こさせる音楽です。これもラウンジか何かでバンド演奏してるような雰囲気の曲ですね。

 「Ⅳ.鍵の鍵」

 アップテンポで少しスリリングな曲。同じフレーズが繰り返されますが、犯罪事件の発端とか、チェイスシーンとか、犯罪アクション映画風の雰囲気の曲ですね。これもラウンジとかビアガーデンとか、そんなところで演奏されてるような感じ。昭和30年代の映画ってこういう音楽が流行りだったのか、特に別宮貞雄の音楽の特徴とかいうイメージではありませんね。
 ラストが華々しく盛り上がって終わってるのは、組曲用のアレンジなんでしょうか。


眞鍋理一郎『三つのマーチ』

 これはこの演奏会のための新作のようです。
 眞鍋理一郎というと『ゴジラ対ヘドラ』や『ゴジラ対メガロ』の音楽でお馴染みですが、同じ昭和のゴジラ映画でも伊福部先生や佐藤勝の管と弦の調和の取れた音楽と比べると、ブラスの突出した音楽というイメージが強いですね。それも、伊福部マーチのように金管が張り詰めた音を高らかに奏でるのではなく、どちらかというとファ~ンファ~ンと萎れたような脱力系のイメージです。
 昭和後期の「チャンピオン祭」時代のゴジラ映画ですから、世間的には子供だましの映画と見られていたかも知れませんが、だからと言って作曲家が手抜きして適当に作ったとは思わないから、これが眞鍋理一郎という作曲家の特徴なんでしょうね。
 ……と前置きを書いたのは、他に眞鍋理一郎の作品を聴いたことが無いからですが、そのイメージで聴いていきます。

 「Ⅰ.マーチX《未知》」

 ゆっくりとしたテンポ。トランペットを主体にブラスがいかにも前衛音楽的な不快な音を奏でます。サスペンス風の旋律が、未知というよりも何か好ましくない侵略者かモンスターのような存在が水面下を淡々と進行してる感じです。
 初っ端から、この人のブラスはやっぱりこういう音なんだなと思わせてくれる作りです。昭和の前衛音楽最盛期ならともかく、21世紀になってまだこういう音で音楽を作りますかって感じなんですが、すっかりそれを御自分の作風にされてるってことでしょうね。

 「Ⅱ.マーチY《葬送》」

 弱々しく静かに始まるマイナーの旋律による非常にゆっくりとしたマーチ。マーチというよりはむしろボレロって感じがするくらい、ゆっくりと淡々としたフレーズが続きます。
 メインの旋律は悲愴というよりもむしろおどろおどろしく、葬送行進曲というよりは、ゾンビの集団のマーチじゃないかって感じで、スリリングかつサスペンスタッチの印象を受けます。何か恐ろしいものが迫ってくるって感じが徐々に大きくなって緊迫していきます。

 「Ⅲ.マーチZ《再生》」

 トランペットが奏でるトリル風のイントロ。ブラスが吹き乱れる中、マーチのリズムとマイナーな土俗風の旋律が始まり、続いてトランペットがアルペジオ風のフレーズを奏でます。
 ゆっくりとしたリズムに、大雑把な旋律。再生というイメージよりも、まるで力強さの抜けた怪獣の葬送行進曲って感じ。やがて打楽器が大きく盛り上がってきます。

 マーチというにはマイナー系の重苦しい曲ばかりで躍動感の欠片もありません。音楽的にはマーチのリズムで作られてるってことなんでしょうけど、世間一般のマーチというイメージからは大きく懸け離れたイメージです。
 『三つのマーチ』と称するなら1曲ぐらいならこんな曲が入っていても味付けにはなるんでしょうけど、3曲ともこれじゃとても世間ウケする音楽ではありませんね。せめて1曲ぐらいは華々しいマーチ曲があっても良さそうなんですけど、それじゃ作風に反するってことでしょうか。


伊福部昭『吹奏楽のためのロンド・イン・ブーレスク』

 日比谷公会堂での『SF交響ファンタジー』の初演時にオーケストラ版が演奏されて以来、レコーディング等ではオーケストラ版の方が馴染みのある作品ですが、今回は会場の問題もあって初演版の編成とのこと。
 ライナー等によれば伊福部先生はあくまで編成を増した現在の改訂版での演奏に拘っていたとのことなんですが、この吹奏楽版の改訂ってのはいつの時点で行われたんでしょうか。(『バンドのための「ゴジラ」ファンタジー』に収録された時かな)

 トランペットが高らかに奏でる第1主題は『わんぱく王子の大蛇退治』の「スサノオの旅立ち」等でもおなじみのもの。そしてすぐに第2主題の「怪獣大戦争マーチ」等でおなじみのモチーフが始まりますが、重厚なオーケストラ版の第2主題が「怪獣大戦争マーチ」なら、この小編成の吹奏楽版の第1主題は『ゴジラ』の「フリゲートマーチ」って感じの印象です。
 オーケストラ版の方もしばらく聴いていないのですが、この第2主題の反復がけっこう執拗に続きます。よく聴けば「怪獣大戦争マーチ」の前半のモチーフと後半のモチーフを別々の素材として使ってるようです。そこに第1主題が絡んでいます。
 曲の半ばにきてようやく第3主題の『フランケンシュタイン対地底怪獣』の「特車隊マーチ」等で使われてるモチーフが現れますが、これは意外と短く、すぐに再び第2主題に戻ってしまいます。
 第1主題と第2主題の反復が繰り返された後、打楽器と共に大きく盛り上がった後、再び第3主題が登場します。その後は第2主題の2つのモチーフと第3主題が交互に現れながら、太鼓の一定のリズムと共に『ボレロ』風に盛り上がって終結を迎えます。

 CD等はしばらくオーケストラ版が何枚か出てただけ(ほとんど『SF交響ファンタジー』全曲とのカップリング)なんですが、近年になって吹奏楽版が多く見られるのは『バンドのための「ゴジラ」ファンタジー』への収録がきっかけでしょうか。逆に最近はオーケストラ版の方を見掛けなくなってますが……
 いわゆるブラスがメインの伊福部マーチのモチーフ主体の曲なので、オーケストラ版と吹奏楽版とであまりイメージに違いはありませんが、編成の大きさというのはやはり影響を強く与えてるみたいですね。


芥川也寸志『NHK大河ドラマ「赤穂浪士」のテーマ音楽』

 胴打ちを交えた和太鼓の単調なリズムが繰り返されます。その上に奏でられる旋律も短いフレーズを延々と繰り返してるだけで、さしずめ芥川也寸志版の『ボレロ』ですね。
 中盤で一度盛り上がった後、最初から繰り返しって感じで、ラストで大きく盛り上がった後、急激にあっさり終わります。この辺もラベルの『ボレロ』を意識してるのでしょうか。

     ☆ ☆ ☆

 アルバムのタイトルとか作曲者の顔ぶれを見たら、吹奏楽といっても何か小難しい前衛的な現代音楽の作品が多いのではないかって印象だったのですか、実際に聴いてみると華やかなマーチとか、親しみやすい映画音楽のモチーフを展開させた作品とかが多くて、あまり難しいことを考えなくても良いアルバムでしたね。

 ところで、20世紀の間は現代音楽とは20世紀の音楽ってことで扱われていたのですが、21世紀になってからは主に第2次世界大戦後の音楽ということになってしまって、それ以前の音楽は近代音楽に含まれてしまったみたいで、伊福部先生みたいに戦前から活躍してる作曲家は近代音楽の作曲家扱いになってるようです。
 ここで演奏されてる『ロンド・イン・ブーレスク』は戦後の作品ですから現代音楽と言っても良いのかも知れませんが、戦時中に作られた『吉志舞』『兵士の序楽』等の流れを汲む作品ですから微妙なところかも知れません。

(発売元:スリーシェルズ 3SCD-0003 2006.10.15)


奏楽堂の響き~吹奏楽による奏楽堂ゆかりの作曲家たち
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