« 奏楽堂の響き ~吹奏楽による奏楽堂ゆかりの作曲家たち~ | トップページ | ビムス・エディションズ・バンド・コレクション Vol.1 »

2007.07.27

黒船以来~日本の吹奏楽150年の歩み~

 ペルー来航時に軍楽演奏が披露されて西洋の吹奏楽がもたらされて以来の、日本の吹奏楽の歩みを2枚組のCDに収めたものです。収録音源には古い録音を復刻したものから、新たに録音し直したものまで様々ありますが、現在では滅多に聴けない曲もあって興味深いものです。
 元々は伊福部先生の『古典風軍樂「吉志舞」』がCD初収録ということで買ったものですが、暇がなくて聴かずに積んでるうちに『伊福部昭 吹奏楽作品集』の方で先に聴いてしまったから、ますます聴くのが遠退いてしまったというアルバムです。
 吹奏楽強化月間というわけでもないのですが、今回は伊福部作品収録アルバムの落穂拾いの一環として掘り起こしてきました。

 それでは、収録曲です。

【ディスク1】
 01. ヘイル・コロンビア(フィロ)
 02. 「英国歩兵練法」~信号喇叭「早足」
 03. 「英国歩兵練法」~信号喇叭「退群」
 04. 「喇叭符号全」~「陣営」
 05. 行進曲
 06. 礼式
 07. 君が代(林廣守撰/エッケルト編)
 08. 陸軍分列行進曲(ルルー)
 09. 第一軍凱旋の歌(永井建子)
 10. 軍艦行進曲(瀬戸口藤吉)
 11. 長唄「越後獅子」(九世杵屋六左衛門)
 12. ドノーの漣(イヴァノヴィッチ)
 13. カルメン(ビゼー)
 14. 初春の前奏と行進曲~日本のコドモの為に(山田耕筰/時松敏康編)
 15. 行進曲「若人よ!」(橋本國彦)
 16. 愛国行進曲(瀬戸口藤吉)
 17. 出征兵士を送る歌(林伊佐緒)
 18. 行進曲「太平洋」(斉藤丑松)
 19. 月月火水木金金(江口夜詩)
 20. 軍国に躍るリズム(谷口又士
    1.日本陸軍(深沢登代吉)
   ~2.敵は幾万(小山作之助)
   ~3.勇敢なる水兵(奥好義)
   ~4.雪の進軍(永井建子)
 21. 行進曲「大日本」(斉藤丑松)
 22. 序曲「悠久」(水島数雄、須磨洋朔)
 23. 古典風軍樂「吉志舞」(伊福部昭)

【ディスク2】
 01. カン・カン・ムスメ・マーチ(服部良一/ワトソン編)
 02. 行進曲「大空」(須磨洋朔)
 03. 祝典行進曲(團伊玖磨)
 04. 東京オリンピック・ファンファーレ(今井光也)
 05. オリンピック・マーチ(古関裕而)
 06. 吹奏楽のためのディヴェルティメント(兼田敏)
 07. 万国博マーチ(川崎優)
 08. 札幌オリンピック・ファンファーレ(三善晃)
 09. 式典曲「純白の大地」(古関裕而)
 10. 第30回みえ国体式典曲集No.1~「式典序曲」(矢代秋雄)
 11. 行進曲「岩木」(間宮芳生)
 12. 吹奏楽のための「琴瑟」(小山清茂)
 13. 吹奏楽のための「カプリス」(保科洋)
 14. セントルイス・ブルース・マーチ(W.C.ハンディ、ミラー/岩井直溥編)
 15. 冬の光のファンファーレ~長野オリンピックのための(湯浅譲二)
 16. 南蛮回路(伊左治直)
 17. 雅の鐘(ウィリアムズ)

 収録曲が多いので、摘み食い的に聴いていきましょう。
 1枚目は戦前から戦中にかけての曲です。

 『ヘイル・コロンビア』はペリー来航時に最初に演奏されたという、西洋式吹奏楽が日本に上陸した時の曲です。その当時、アメリカの国歌的な曲だったそうですが、昔の軍楽隊って感じの曲ですね。フランス国歌が革命歌であるように、これはアメリカ独立戦争当時の軍隊でも意識した曲なんでしょうか。作りとしては素朴ですね。

 『行進曲』は戊辰戦争当時の新政府軍の軍楽を今に伝えている山国隊による演奏。現在の吹奏楽じゃなくて、邦楽器の鼓笛隊による行進曲です。
 幕末になると幕府も薩長も西洋式の軍制を採用していますが、軍楽隊の吹奏楽まで手が回るものではないので、邦楽器の鼓笛で軍楽隊の代用をしてりしたみたいですね。木管が中心なので現在の行進曲のイメージとはずいぶん違って、どっちかというと祭囃子に近い素朴な感じがします。
 子供の頃、天理教でこういう邦楽器の鼓笛隊の演奏をしたことがあったので、音的に懐かしい感じがします。

 『陸軍分列行進曲』は陸軍の代表的な行進曲で、今でも陸上自衛隊の儀式等で使われてる曲らしいですが、意識して聴いたのは初めてです。海軍の『軍艦行進曲』なんかと比べると全体的に古臭い感じがします。戦中のニュース映画なんかのバックに掛かってそうな曲……というか、実際に使われてたんでしょうね。
 複合三部構成の主部は『扶桑歌行進曲』ですが、作曲者がフランス人なので当時のヨーロッパの通俗曲を行進曲にしたような雰囲気があります。トリオの部分は西南戦争での警察抜刀隊の活躍を称えた『抜刀隊』が用いられていますが、これが昔のチャンバラ映画を思わせるような雰囲気なので、余計に古臭く感じさせられます。ま、マーチの構成としては完成されていて悪くはありませんね。

 『軍艦行進曲』いついては今さら特に書くことも無いんですが、こうして時代を追った流れで聞いていくと、ようやく江戸時代以前の音楽から離れた、垢抜けた近代日本の行進曲という感じです。ま、今でもしばしば聴かれる現役の曲だからってわけでもなく、曲自体が日本的な伝統の哀愁や切なさが感じられない華やかな曲というところがあると思います。

 『長唄「越後獅子」』は江戸時代の通俗曲を吹奏楽で演奏したもの。貴重な音源なのかどうか、ノイズだらけなのが余計に古臭さを感じさせてくれますが、今では滅多に聴けない物ですね。
 当時は明治維新以前から生きてた人も多かっただろうし、レコードやラジオが普及してる時代でもないから、こういった曲を街頭なんかで生演奏で聴くのが一般的だったんでしょうね。
 曲としてはトーキーの初期の頃のチャンバラ映画のBGMに使われてるというか、サイレントの時代でもバンドのいる劇場ではこんな曲を演奏してたんじゃないかなというような感じです。

 『初春の前奏と行進曲~日本のコドモの為に』は戦前のNHKのラジオ放送では毎年正月に流されていたという曲です。イメージ的に初日の出で新年を迎える情景を表したような音楽ですね。
 冒頭、徐々に近付いてくる夜明け時を表すかのようにゆったりとしたテンポで「お正月」(滝廉太郎)のフレーズが演奏されます。やや激しいダイナミックな変奏の後、ゆっくりと静かに「一月一日」(上眞行)のフレーズが演奏され、夜明け直前の様子を表してるかのようです。
 そして派手なファンファーレとともに活発なマーチアレンジされた「一月一日」が演奏され、水平線から顔を出してくる初日の出を描き、スローダウンして今度は堂々とした「君が代」が水平線を離れて昇っていく太陽を仰ぎ見るイメージです。
 最後はゆっくりと穏やかな「一月一日」が新年を祝う様子で、優雅で次第に堂々と盛り上がって終わります。
 ま、モチーフに使われてるのは今でも馴染みの深い曲ばかりだし、音源自体が新録なので全然古さは感じませんね。

 『行進曲「若人よ!」』は軍歌でもなく、江戸時代の謡曲の流れを汲む曲でも無い、純音楽としての近代的なマーチ。軍隊的な張り詰めた感じが無く、のびのびしてるのが特徴ですね。戦後の曲と言われてもわかりません。

 『愛国行進曲』は『軍艦行進曲』と同じ瀬戸口藤吉の曲。インストゥルメンタルだけなら今でもよく聴く曲ですが、歌入りは宴会とかで年配の人が歌うのを聴く以外は滅多にありませんね。
 昭和初期の国歌総動員体制の時代に「国民が永遠に愛唱すべき国民歌」として政府が作った曲みたいですが、まさに精神を高揚させてくれる曲です。とは言っても、フランスや中国の国歌みたいな殺伐とした歌じゃないから、あんまし軍国主義云々と言って毛嫌いするものでもないでしょう。イメージ的には健全な軍歌って感じかな。

 『軍国に躍るリズム』は軍歌をスイングジャズ風にアレンジしてメドレーにした曲。冒頭のファンファーレは『ウイリアムテル序曲』かな。普通は泥臭いような感じがする軍歌もおしゃれに聴こえます。
 昔は軍歌というものが身近な歌謡曲的存在だったのと、大正から昭和の始めにかけては民主的な自由な風潮があったから、お堅いような軍歌もこうやって楽しんでる人たちもいたんですね。

 『古典風軍樂「吉志舞」』は伊福部先生による日本の古典的な兵士の鼓舞の曲を想像して作られた作品。ノイズ交じりの音源が続いた後でいきなりクリアで、やけに聴き慣れた音使いの曲が始まったらけっこう違和感がありますね。
 海軍の委託による『兵士の序楽』と並んで、伊福部先生は戦時中から伊福部マーチを書いてたのかとファンを畏怖させた作品ですが、正しくは後年の「怪獣大戦争マーチ」等と同じモチーフを使った軍楽風の舞曲です。ま、羽田健太郎の『交響曲 宇宙戦艦ヤマト」ではスケルツォに戦闘音楽のモチーフが使われてたりしますから、行進曲を始めとする軍楽と舞曲というのは近いものがあるのかも知れませんね。

 ゆったりとした土俗的な舞曲のフレーズが最初はブラスで、続いてクラリネット主体で奏でられます。そして、「怪獣大戦争マーチ」の前半のモチーフをブラスが高らかに繰り返しますが、あくまで舞曲のリズムです。
 今度は少し弱々しく木管の土俗的舞曲のモチーフが始まると、力強いブラスの反発が入ります。それに続いて「怪獣大戦争マーチ」の後半のモチーフ。
 やがて土俗的舞曲のモチーフが踊り回るような展開で、最後はブラスを主体にややアレグロ気味に派手に盛り上がって終ります。全体的に伊福部先生お得意のオスティナートではなくカノンの技法を多用してるのが特徴でしょうか。


 続いて2枚目は戦後の曲です。

 『カン・カン・ムスメ・マーチ』は、戦後のヒット曲『銀座カンカン娘』をスイングジャズ風にアレンジした曲。演奏のジョニー・ワトソン楽団はメンバーこそフランキー堺ら当時の日本の一流ミュージシャンを集めたものですが、率いるジョニー・ワトソンは進駐軍の人。まさに第2の黒船みたいな位置付けで、進駐軍時代を思わせるようなアメリカナイズされたサウンドです。

 『行進曲「大空」』は戦後を代表するマーチで、旧軍時代のマーチのような、どこか物々しい雰囲気はなく、未来に向かって羽ばたくような明るさに満ちた新時代の行進曲です。タイトルには「大空」ってあるけど、これは空じゃなくて陸上自衛隊の公式行進曲なんですね。
 初めて聴いたのは確か『完全収録 伊福部昭 特撮映画音楽・東宝編』の何枚目かの『宇宙大戦争』のところにライブ使用の音源が収録されていたものですが、それで気に入ってちゃんとステレオ録音されてるCDを買ってきたりしたことが懐かしいですね。

 『祝典行進曲』は今上天皇と美智子皇后の御成婚の際のパレード行進曲で、團伊玖磨屈指の名曲ですね。宮廷風の華やかなファンファーレから始まるロイヤル・ウェディングマーチです。
 クラシカルで堂々としていて優雅で、それでいて新時代の幕開けを告げるような華やかなマーチです。通俗的な軍楽隊マーチやポップスマーチとははっきりと一線を画した風格があります。
 團伊玖磨は現皇太子夫妻の御成婚の際の行進曲も書いていますが、そちらはまだ聴いたことがありません。

 『オリンピック・マーチ』は東京オリンピックの開会式行進曲。
 前半はポップスメーカーの古関裕而らしいスポーツ系の快活で華々しいマーチで始まります。中間部の静かなマーチが独特の味を出していますが、ベルリラの音が入ってるのが印象的です。
 後半は力強いマーチが展開され、コーダはポップス的な独特の終わり方ですね。

 『吹奏楽のためのディヴェルティメント』は演奏会用の純音楽という感じの曲です。
 一斉音一発で始まった後、スピーディーな曲調が展開されます。中間部はホルンを主体としたゆったりと静かな展開で、サックスのアドリブ的なフレーズや、ティンパニーの乱打が挿入されます。
 ファンファーレの後、クラリネット主体で前半部の主題が展開され、ブラスを交えて盛り上がり、マーチ風に終わります。

 『万国博マーチ』は大阪万博の式典パレード用の行進曲。後に『進歩と調和』に改題されているようです。
 全体的に軽快なマーチですが、どこか昭和40年代のガメラ映画とかテレビの特撮番組のマーチ風のテーマ曲を思わせるような感じで、今から聴くと安っぽく感じてしまいます。逆に言えば、俗っぽくて親しみやすいってことでしょうが。

 『行進曲「岩木」』は青森県のあすなろ国体の行進曲。国体の開会式行進曲も開催する都道府県によって様々で、以前に取り上げた宮川彬良によるなみはや国体のように既製の歌謡曲をメドレーでアレンジしたようなものもあれば、完全なオリジナルの曲もあります。
 間宮芳生といえば『太陽の王子ホルスの冒険』が真っ先に浮かんできますが、民謡研究家としても知られる人のようですね。
 この曲は主部が華やかな現代風のマーチ曲なのに、トリオの部分に民謡風のマーチが入ってるのがやけにアンマッチングな感じがして、強く印象に残ります。青森だからねぶた祭か何かの曲かと思ったら、これはタイトルにも使われてる岩木山のお山参詣の御囃子の曲だそうですね。

 『吹奏楽のための「琴瑟」』は日中の国交回復を記念して作られた曲。「瑟」は大きい琴のことで、「琴瑟」は大小の琴の音が上手く合わさるように仲が良い例えに用いられる言葉です。日中の友好を願ったタイトルですね。
 太鼓、拍子木の打楽器から始まり鉦の音が入り、笛によるメロディーが始まっていく、日中の伝統的な音楽を組み合わせたような曲です。吹奏楽用の音楽というより、伝統楽器の音を吹奏楽で再現してるような感じで、どこか雅楽っぽい雰囲気もあります。
 前半部はゆっくりとした祭囃子風で、木管と太鼓が主体。木琴が印象的に使われています。後半は非常にゆっくりとした民俗的なバラード風で、金管を主体にシンバルを印象的に使っています。やがて祭囃子風にテンポアップし、華やかなブラスの音で堂々と終結します。

 『雅の鐘』は皇太子夫妻の御成婚を祝してジョン・ウィリアムズによって書かれた曲です。全体的に華やかなファンファーレが主体の曲。
 音を次々に繰り出してくるイメージはどこかで似たような曲を聴いたことがあるなと思ったら、同じジョン・ウィリアムズによるロサンゼルス・オリンピックの開会式ファンファーレですね。
 ジョン・ウィリアムズってことで、どこか映画音楽的な感じを受けたりもします。「雅の鐘」ってタイトルは和風のものを想像しますが、曲の中身は西洋風のウェディングベルのイメージでしょうか。

     ☆ ☆ ☆

 他にも東京、札幌、長野の3つのオリンピックのファンファーレを聞き比べることが出来て、トランペットのみのシンプルな東京オリンピック、オーソドックスなブラスアンサンブルの札幌オリンピック、現代音楽風に変に凝ってる長野オリンピックという特徴が見て取れるのも面白いところです。
 純音楽的な作品も時代を経るに連れて現代音楽風の嫌な感じになってるのがまざまざと感じられたりもしますし……

 どうでもことかも知れませんがいいけど、ライナーの解説に「新王」の表記が2箇所ありますが……。ま、別に不敬罪で罰せられたりする時代ではありませんが、キングレコードや解説執筆者のの恥を晒してるだけだと思うので、ちゃんとアフターケアを取った方が宜しかろうと思いますが……

(発売元:キングレコード KICC-407~8 2003.07.02)

黒船以来~吹奏楽150年の歩み~
黒船以来~吹奏楽150年の歩み~

|

« 奏楽堂の響き ~吹奏楽による奏楽堂ゆかりの作曲家たち~ | トップページ | ビムス・エディションズ・バンド・コレクション Vol.1 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/3819/15912677

この記事へのトラックバック一覧です: 黒船以来~日本の吹奏楽150年の歩み~:

« 奏楽堂の響き ~吹奏楽による奏楽堂ゆかりの作曲家たち~ | トップページ | ビムス・エディションズ・バンド・コレクション Vol.1 »