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2007.03.23

ひぐらしのなく頃に オリジナルサウンドトラック

 今回は昭和50年代に雛見沢村で起こった連続怪死事件(と書けば何やら実在の事件のような感じがすが、いうまでもなく架空の事件です)を描く『ひぐらしのなく頃に』のサントラ盤です。
 原作は「正解率1%」との触れ込み(ハッタリともいう)で話題となった同人ソフト。原作ゲームでの音楽は前半4話の出題編はフリー音源からの使用、後半4話の解答編の音楽は複数の有志の協力によるオリジナルとのことで、後半の『ひぐらしのなく頃に解』のみサントラ盤が出ています。(一部の曲は作曲者自身の同人CDとしても発表)
 しかし、ここでは原作ゲームやPS2版ではなく、続編の製作も決まってるTVアニメ版の音楽を取り上げます。

 音楽担当は毎度おなじみの川井憲次。同じ2006年の作品では『Fate/stay night』の音楽が印象に残るところですが、それに続くこの作品はどうでしょうか。ちなみに作品の主な舞台である昭和58年といえば、川井憲次が劇伴音楽の仕事を始める僅か数年前の時代なんですね。
 サントラは2枚目まで出ていますが、今回は1枚目のみ。収録曲は以下の通り。

 01. メイン・テーマ
 02. 静かな朝
 03. 散策
 04. 疑惑
 05. 祟り
 06. 笑顔
 07. ハリキって行こう!
 08. 決めるぜ!
 09. オヤシロさま
 10. やすらぎ
 11. 浸行
 12. 暗示
 13. 元気印!
 14. 少女
 15. ウラガワ
 16. 危機
 17. 企み
 18. 放課後
 19. 祭り
 20. ものがたり
 21. 事件
 22. 鬼ヶ淵
 23. 想い抱いて
 24. 授業中!
 25. 淑やかに
 26. 勝負!
 27. ワルだくみ
 28. 夕涼み
 29. 憑依
 30. 暗転
 31. 恐怖
 32. 緊張
 33. 切なくて
 34. メイン・テーマ~revise~
 35. ひぐらしのなく頃に~TV Version~
 36. why,or why not~TV Version~

 収録曲が多いですね。ある意味、TVアニメの劇伴らしいと言えますが。以前、トラック数が多いとJASRACに対する支払いが多くなるからアニメのサントラ等では何曲かの劇伴をまとめて1曲として申請して費用を抑えるとかいう話を聞いたことがあるんですが、必ずしもそういうものばかりではないようです。
 ま、作曲者にしたら1曲ずつ別々に登録された方が実入りが良いでしょうし、聴き手としても個々の劇伴単位でトラック分けされている方がありがたいのですが、反面、CDそのもののコストが掛かっていつまで経っても価格が高止まりということにもなります。

 それはさておき、曲数が多いのでいつものように適当に端折りながら聴いていきましょう。

 「メイン・テーマ」はゆっくりとしたピアノ近い音色のアルペジオの伴奏に幽玄なスキャットの曲です。中盤、ストリングスが加わって、より神秘的に。後半、ややハイテンポのパーカッションが被さってきてるけど、スキャットは一定のペースのまま。これでも聴感上はテンポアップしたように聴こえるのが不思議ですね。
 霧の中深くに沈んでる雛見沢という雰囲気です。これから惨劇が繰り広げられる舞台の取り返しの付かない日常のはかなさや切なさを感じさせる、まるで映画の始まりのような曲。盛り上がったところでばったりと終わってるのが少し物足りなさを感じてしまいますが……

 「静かな朝」はゆったりとしたピアノの曲。少しはかなげな感じの平和な日常の始まりのイメージ。まだ惨劇を知らない、さわやかな夜明けというところかな。
 「散策」はフルート系の木管がメインに奏でる日常の光景。なんか『パトレイバー』あたりで聞きなれた感じの曲です。
 「疑惑」はミステリータッチのピアノソロ。誰も知らない惨劇の始まりという雰囲気です。シンプルだけど不安を掻き立てる、一種のパターンのような曲ですね。

 「笑顔」「散策」にもつながる日常の安らぎのような曲。ベル系のシンセ音の旋律にストリングスが被さってくるやや短めの曲。
 「ハリキって行こう!」はアップテンポのドラムスから入るスピーディーな曲。流れるような爽快なメロディーがシンセ音で1ループ流れた後、低音の間奏部を挟んで今度はストリングスを加えてもう1ループ繰り返されます。
 圭一たちが自転車で興宮に繰り出したり野球をしたりという、活気あふれる青春の一コマというイメージの曲です。

 「オヤシロさま」はシンセボイスとシンセストリングスが主体のサスペンス曲。ゆったりと事態が進行しているという感じで、途中、ストリングスが厚みを加えてくるのに連れてサスペンス感が高まってきます。
 まさに雛見沢ミステリーというイメージで、本編中での使用頻度も高そうです。
 「やすらぎ」はピアノとストリングスによる日常の曲。これが『パトレイバー』なんかだと事件が終わった後の平和な夜明けってイメージなんですが、この作品だと惨劇の小休止程度の感じですね。昨夜の惨劇がただの悪夢だったかのような、何事も無かったような夜明けってイメージですか。

 「暗示」はパーカッションのテンポが心地よい感じの、ややスリリングなサスペンス曲。惨劇に巻き込まれるというより、反対に主体的に事態を進行させてるという感じかな。勝手な思い込みで状況を悪化させていくという泥沼の始まりって印象もあります。
 「元気印!」はシンセブラス系が主体のアップテンポなアクション曲。どっちかというとわざとチープな音作りでコミカルに作ってあるという感じで、主に圭一たちの放課後の部活の光景を描いた感じの曲ですね。
 「少女」はシンセベル系のゆったりとしたテンポの曲。日常の中に垣間見る素朴だけど可憐な少女のイメージ。曲としては主にレナって感じなんだけど、時折、圭一の前で女の子らしさを見せようとしてる魅音だとか、悟史に魅かれていく詩音だとかいうのも思い浮かんできますが、どうなんでしょう。

 「危機」はシンセブラス主体のアップテンポでスリリングなサスペンス曲。迫りくる緊迫感を煽りたてるような感じの曲で、川井憲次の劇伴ではしばしば使われてる感じです。『パトレイバー』とかだと敵のレイバーの襲撃シーンなんですが、この作品ではそこまで派手なアクションは無いので、迫りくる惨劇の恐怖を煽ってるというところでしょうか。
 曲全体はそんな感じで昔ながらの川井憲次ってところですが、中間部に入るハープ系の音が最近の『Fate/stay night』辺りの音楽とのつながりを感じさせてくれます。

 「祭り」は太鼓と鉦や鈴のような感じの和風のパーカッションを使った、ちょっとマイナーな感じの祭囃子風のベースにシンセボイスのコーラス風のメロディーを重ねた曲。本当の祭囃子なら景気の良い陽気な曲になるところですが、ここはあくまで陰惨な感じでゆっくりとしたサスペンス風の曲になっています。
 表の祭りではなく、古手神社の祭具が示すような古来の綿流しの祭りをイメージさせるような、神秘的で怖い曲です。
 「ものがたり」はゆっくりとした低音のストリングスの曲。宿命的でかつ無常感を感じさせるような叙情的な曲。雛見沢村の旧名、鬼ヶ淵村の伝説とオヤシロさまの祟りが物語られる感じが印象的です。

 「想い抱いて」はゆっくりとしたピアノソロに始まり、流れるようなストリングスが重なってくる、少し切なく物悲しい美しい旋律の曲。静かに情感が込みあがってくるような感じの曲ですね。
 先の「ものがたり」もそうだけど、この「想い抱いて」も『パトレイバー』(初期OVA)のED辺りに使われてたメロディーをバラード風にアレンジしてあるって感じで、ひどく懐かしさを感じてしまいます。
 「授業中!」はフルートがメインで、パーカッション、ベースのアップテンポで軽快なリズムが心地良い曲。授業中というにはうきうきとし過ぎてる感じがしますから、体育の授業かなんかで好きなスポーツでもやってる光景なんでしょう。それにしても雛見沢の分校って小学生から高校生辺りまでみんな一緒に1クラスに放り込んでるって感じがありますが、どう考えてもカリキュラム内容に幅がありすぎるのに、いったいどうやって授業してるんでしょうね。上の方は自習が基本でしょうけど……
 「淑やかに」はピアノの伴奏と淡いシンセベルがメインのゆったりとした安らぎの曲。途中からシンセストリングスとベースが重なってきて厚みとゆっくりとしたリズムが加わってる感じ。日常の中に少し洗練されたような新鮮さを感じつつ、ほっとするようなイメージです。

 「勝負!」はアップテンポなリズムと昔のゲーム音楽のFM音源さながらの典型的なシンセウェーブによるピコピコサウンド。部活でオリジナルのカードゲームに夢中になってる圭一たちというイメージのコミカルな曲ですね。
 「ワルだくみ」はガラクタを叩いてるようなパーカッションに、わざと外したような下手糞なトランペットだかサックスだかの音色による、思いっきりゆっくりとしたファンキーな曲。ど素人によるブラスバンドって感じの曲ですが、「勝利のためには手段を選ばないのが正しい」という部活の中で圭一が強敵の魅音を出し抜こうと悪知恵を働かせてる光景の音楽ですね。
 「夕涼み」はギターのアルペジオとピアノ伴奏によるゆたりとした懐かしいフレーズ。夏の思い出という感じの軽快な、爽やかな夕暮れ時のイメージです。川井憲次らしいギターサウンドですね。

 「暗転」はややスピーディーなパーカッションと重いベースの上に低音のストリングスが奏でる、ゆっくりとしながらもスリリングなサスペンス曲。着実に一歩一歩と忍び寄ってくる惨劇の恐怖のイメージです。
 「緊張」は小刻みなストリングスのユニゾンのイントロに始まるスリリングなサスペンス曲。駆け回るようなパーカッションと流れるようなストリングスにアクセントとして入るシンセブラス。迫り来る惨劇の中の追う者と追われる者とによる鬼気迫るチェイスシーンを思わせるような、非常に緊迫感のあふれる印象的な曲です。
 「切なくて」はゆっくりとしたピアノソロに始まり、美しいストリングスの旋律が被さってくる安らぎの曲。惨劇の果てに……という感じですが、無事に生き延びた結末でも、悲劇の果てにもう取り戻せない過去を懐かしんでるという結末でも、どちらでも似合いそうな感じです。

 「メイン・テーマ~revise~」は最初からややスピーディーなパーカッション
が入って、少しアップテンポな感じの「メイン・テーマ」です。イントロやスキャットのフレーズの合間に入るシンセベルがポイントで、かなり印象が違ってますね。
 惨劇が終わった後で振り返る余韻のような感じの曲。「メイン・テーマ」の持ってたミステリアスな感じは残ってるけど、サスペンス感は無くなっていて物語の終幕を告げてるような曲です。
 「ひぐらしのなく頃に~TV Version~」はOP曲のTVサイズ。I'veの島みやえい子のボーカルによる、アニメ版『ひぐらしのなく頃に』をイメージ付けた非常に印象的な曲です。
 「why,or why not~TV Version~」は同人系シンガーという印象の強い片霧烈火のボーカルによるED曲のTVサイズ。ピアノによる後奏部分がそのまま次回予告に被ってたのが印象深いですね。

     ☆ ☆ ☆

 この作品のサントラ、実は最初に聴いた時はここで取り上げるのをスキップしてたんですが、それを思い直したのはサントラのCMで掛かってた「メイン・テーマ」がやけに印象に残ったからです。アニメ本編を見てる時や、サントラを漠然と聴いてても印象に残らなかったものが別のきっかけで気になってくることってあるものですね。
 で、その「メイン・テーマ」は確かにこのサントラ盤の肝なんだけど、作品を印象付ける目新しい曲というのがこれとそのアレンジ曲だけなんですね。目立つのは昔懐かしい『パトレイバー』や『らんま1/2』を思い出させるような、川井憲次の初期の作風の曲が多いことです。
 確かに日常の圭一たちのドタバタぶりを描くには近年の洗練された作風の音楽より、初期のチープな感じの音楽の方が似合ってるのは確かですが、これが惨劇に臨んだ時のキャラクターの心理描写にまで掛かってくると、残念ながら上手く機能しているとは思えません。舞台設定としては確かに昭和58年なんですが、別に昭和58年に作られたわけでもなく、作品が作られてる現在の世相を大いに反映してるものです。
 もっとも、音楽の作りというよりも使われ方の問題という気がしないでもないですね。作品本編で「メイン・テーマ」の印象が残ってないというのは、裏を返せば印象的な使われ方をしてなかったということです。この曲だけでももっと効果的に使われていれば、この作品の印象もずっと違っていたのではないでしょうか。

《発売元:フロンティアワークス FCCM-0137 2006.07.21)


TVアニメーション「ひぐらしのなく頃に」サウンドトラック
TVアニメーション「ひぐらしのなく頃に」サウンドトラック

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