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2007.03.09

伊福部昭音楽祭・第2部「映画人、伊福部昭を語る」

 前回の続きです。プログラムのタイトルを持ってきただけなので「映画人、伊福部昭を語る」とあっても、語ってる内容は取り上げてません。

第2部 映画の世界
   「映画人、伊福部昭を語る」

 伊福部先生を語る上で外すことが出来ないのは数多くの映画音楽の仕事です。日本映画の全盛期に働き盛りだったこともありますが、その数300本以上というとほとんど映画音楽の専門家だったといえる佐藤勝にも負けない数であり、日本映画界に大きな足跡を残していると言えるでしょう。
 今回のコンサートではそんな映画音楽の仕事の中からとくに代表的なものを取り上げ、作品関係のゲストを交えて紹介されています。
 ここからは指揮・本名徹次、演奏・日本フィルハーモニー交響楽団です。

 SF交響ファンタジー第1番

 この方面では伊福部先生の代表作ともいえる東宝特撮映画のモチーフを集め演奏会用にまとめ上げた一品。手元のCDだけでも20種類以上はくだらない数があるくらいの人気曲です。
 本名・日フィルでの演奏は卒寿記念の時にも聴きましたし、本名指揮に限れば去年の芦屋交響楽団の演奏も聴いていますが、さすがに申し分の無い演奏を聴かせてくれてますので、その点で心配はありません。
 ところで、この第2部では正面右上のスクリーンに映画の映像を流しながら演奏するという趣向になっています。公式サイトのブログでは確か映像に合わせて演奏するような感じのことが書かれてたような気がして、その辺を大いに期待していたのですが……

 いざ、蓋を開ければ映像に合わせる合わせないの話ではありませんでしたね。流れた映像は『ゴジラファンタジー』としてビデオ発売されていたもの。それ自身は日比谷公会堂初演版の音に合わせて映像を編集したものなので、演奏が寸分狂わず初演版と同じならピタリと合うことになりますが、とてもそういうわけにはいきませんね。
 それどころか、演奏開始と同時に画面に現れたのはそのビデオのタイトル画面。本当なら演奏が始まる前の部分から出してるんだから最初から完全にずれてます。途中までは指揮者もどうにか映像に近付けようとしてたのか、いったんは映像に追いついた感じもありましたが(『宇宙大戦争』のセレナーデの辺り)、そのまま合わせ続けるのは苦しいのか(『三大怪獣 地球最大の決戦』のゴジラ横浜港襲撃)、後半はもう開き直って映像を無視してた感じですね。

 そんな感じだったので、さすがに無難な音を出してるとはいえ、前半はちょっと余裕が無いような感じがあったのですが、後半は一転してのびのびしてる感じでした。ラストのマーチの前は十分に溜め込んで、一気にクライマックスに突入していきます。
 溜めた分だけ映像からはどんどん遅れていってるんですが、マーチの繰り返しを1回端折っちゃって、お陰で最後は映像より先に演奏が終わってしまったというのはどうなんでしょうね。本名徹次って、去年の芦屋交響楽団でもマーチの繰り返しを端折ってた気がしますが……
 ま、演奏の音の方はさすがです。ただ全般的に一様に音が出てるってイメージで、どうも教科書的という感じだったので、もう少しメリハリが欲しかったかな。

 3本の映画のための音楽

 特撮映画以外の一般映画での伊福部先生の作品から代表的なものとして選ばれたのが次の作品たちです。やはり映像付きですが、基本的に1シーン1音楽だから映像と音のずれも気になるものでも無いですね。

  1.『銀嶺の果て』より オープニングタイトル/スキーシーン

 『銀嶺の果て』は記念すべき伊福部先生の映画音楽の最初の作品です。タイトル音楽はどこか「ラドン追撃せよ」をスロータッチにしたような旋律の曲。広大な雪山の広がりと大自然の雄大さを、これから何か事件が起こるという予感と共に描いた感じですね。
 実際のサントラや映画だと、ブラスがパラパラと鳴ってる感じのチープな音に聴こえるんですが、さすがに大編成のオーケストラだと雰囲気が全然違います。なんか大雪崩の天変地異でも起こりそうな感じです。
 最後の輪転機が回ってるカットでのリズム主体のフレーズまで、ちゃんと音楽が続けて書いてあるんですね。

 スキーシーンの音楽は伊福部先生が監督(谷口千吉)と喧嘩したことで有名な曲。割と派手目で颯爽としたスキーシーンなんで、それを印象付ける曲が欲しいという監督の意図はよく理解できるのですが、伊福部先生が付けたのは『緯度0大作戦』のタイトル曲のような感じで、静かでどこか物悲しい感じの音楽。確かに映画の後の展開を考えると、それを予兆する音楽の効果を主張する伊福部先生の主張にも一理あります。
 この喧嘩を伊福部先生の肩を持って仲裁したのが黒澤明だったという話ですが、その黒澤作品で伊福部先生の音楽が好んで使われたというわけではありませんので、実際どうだったんでしょう。黒澤明からすると伊福部先生の主張は確かに理屈が通ってるけど、自分の映画でこんなことがあったらたまらないなぁというところだったのでしょうか。
 一方、喧嘩相手の谷口千吉作品では『奇巌城の冒険』なんかも伊福部先生が手掛けてたりしますから、別に根に持たれたりはしなかったんでしょうか。

  2.『座頭市物語』より オープニングタイトル

 『銀嶺の果て』で伊福部先生と谷口千吉を仲裁したというその黒澤明と大喧嘩して『影武者』の主役を降りたことで有名なのが勝新太郎ですが、その代表作が座頭市シリーズ。伊福部先生はそんな勝新太郎には気に入られていたのか、座頭市には「伊福部のボレロしか使わない」と言ってたと聞きます。(後期のシリーズでは伊福部先生以外の人が音楽を担当してたみたいですが)
 勝新太郎が「伊福部のボレロ」と言っていたのが、このタイトル曲。雰囲気的には「SF交響ファンタジー第2番」に使われてる『奇巌城の冒険』のタイトル曲みたいな感じかな。座頭市=琵琶法師というところからか、オーケストラに混じって琵琶が使われてるのが珍しいですね。

  3.『ビルマの竪琴』より メインテーマ

 言うまでも無く旧作の白黒映画の方です。初代の『ゴジラ』を見た人が、これも伊福部先生の作品かと真っ先に気付いてしまうのがこの作品のテーマ曲。なんせ、「帝都の惨状」ほとんどそのまんまの音楽ですからね。
 「帝都の惨状」がゴジラの被災地とは名ばかりで実際は戦後の焼け跡を描いたシーンの音楽なら、これもビルマ戦線での日本軍の敗退の跡を描いた戦災映画みたいなもの。描かれるのは戦争の悲惨さと平和への祈り。伊福部先生の映画音楽の中でもとりわけ心情に訴えかけてくる名曲です。
 これもオリジナルに比べるとオーケストラが厚過ぎて少し違和感があったりしますが、美しい曲であるには変わりません。

 『わんぱく王子の大蛇退治』より“アメノウズメの舞”

 今度は伊福部先生唯一のアニメ作品の音楽。東映カラー長編アニメ映画の黎明期の作品の1つですが、いわゆる宮崎駿以前の作品であるためか『太陽の王子ホルスの大冒険』や『長靴をはいた猫』などと比べると、知る人ぞ知るだけのマイナーな作品に成り下がっています。
 この曲はフィルムのアメノウズメの踊りのシーンにぴったり合わせるように作られたもので、踊りの変化に応じてこと細かくバリエーション溢れるモチーフを組み合わせた音楽になっています。
 伊福部先生の作品では『舞踊曲「サロメ」』の「七つのヴェールの踊り」が同じようなバリエーション溢れる踊りの音楽として作られていますが、「七つのヴェールの踊り」があくまで音楽主体でモチーフの展開を繰り広げているのに対して、「アメノウズメの舞」では映像の変化に合わせてモチーフの切り分けをしているという感じで、より小刻みでかつダイナミックな変化として現れてる感じです。
 今回の演奏は『交響組曲「わんぱく王子の大蛇退治」』として数年前に発表された演奏会用のアレンジバージョンなので、曲のテンポ指定やタイミングの取り方などがサントラとは異なっていたりするかも知れませんが、それでも映像とのシンクロというのは期待したいところです。

 さて、本名指揮の日本フィルの演奏は、最初は何とか映像に合わせようとしてたみたいですけど、後半はどんどんずれていってシンクロも何も無いような感じでしたね。まぁ、これも伊福部先生や佐藤勝のような、映画音楽を映像を見ながら一発録りしてた頃の経験を踏まえた人だとぴったり奇跡のように合わせて指揮してくれたのかもわかりませんが、本名徹次にそこまで期待するのは酷と言うものでしょう。もうそういう技術は必要とされていない時代ということかな。
 サントラでは露骨に邦楽器を使ってるようなイメージがあるんですが、この交響組曲版では基本的にはオーケストラの音だけの演奏ということになります。それでも雅楽的な日本音階独特の雰囲気は損なわれていません。
 やはり伊福部映画音楽の醍醐味を極めた一曲として忘れられない曲ですね。

 オーケストラのための特撮大行進

 これは何年か前にゴジラシリーズの音楽を吹奏楽用にまとめて、アマチュアの演奏家たちが容易に演奏できるように発表された『バンドのための「ゴジラ」マーチ』を新たにオーケストラ用に改編したもの。まぁ、元のサントラはオーケストラ曲だから、大雑把に言えば曲の構成はそのままに、吹奏楽版で手を加えられた弦楽パートを元に戻したというところでしょうか。
 『SF交響ファンタジー第1番』をやった後でこの曲をやるのは、なんか趣旨がダブってるような気がしないではないですけど、特撮ファン、伊福部マーチのファンへのサービスと考えてありがたく受け取っておきましょう。

 例によって映像が出てますけど、演奏はずれてます。『SF交響ファンタジー第1番』の方は元の映像をまとめたものがあったわけですけど、こちらは新規に編集したものと思われますが、時間的なタイミングはどうやって決めたんでしょうか? やはり既製のCDの音源に合わせて編集したんでしょうかね。

 まず最初は「怪獣大戦争マーチ」で、スクリーン上ではAサイクル光線車が縦横無尽に活躍しています。(といってもAサイクル光線はX星人の洗脳電波を妨害するためのものだから直接の攻撃兵器ではないんだけど……)
 演奏の方は『交響ファンタジー「ゴジラVSキングギドラ」』の「ロンド・イン・ブーレスク」風のアレンジじゃなく、ちゃんと「怪獣大戦争マーチ」のままですが、難を言えばピッコロがなんか違うって感じだったのが少し残念。(「宇宙大戦争マーチ」だと円盤の音を表すようなミュージックソーだか何だかの波打ってる音が入ってる部分に、「怪獣大戦争マーチ」だと祭囃子だかホイッスルを吹き鳴らしてるのだかのようなピッコロの音が入ってるんですが、そこのピッコロが一様に吹き鳴らしてるだけに感じました)

 続いて「メーサー光線車マーチ」でスクリーンにはガイラを狙うメーサー光線車の雄姿が……って、完全にさっきのAサイクル光線車と被ってますね。オケの編成なのか和田薫のアレンジの力なのか、オリジナルよりかなり分厚い音が出てる感じで、メーサー光線車というよりはメーサー巨大戦艦でも戦ってるようなイメージです。
 「メーサー光線車マーチ」というと『SF交響ファンタジー第2番』にも入ってるんですが、こんなの聴くと本名指揮・日本フィルの『SF交響ファンタジー第2番』『第3番』も是非とも聴かせて欲しい気がしますね。

 最後は「Gフォースマーチ」でガルーダの雄姿が……と思いきや、スクリーンには鈴鹿山地でのゴジラとGフォースの攻防戦。戦闘機も出てきてるけどメインはメーサータンク!……おいおい、なんかわざと揃えてないかって感じです。ま、後半は幕張でのガルーダの活躍シーンが入ってきてますけど……
 「Gフォースマーチ」も生で聴くのは《ゴジラ生誕40周年記念コンサート》以来。あの時はまだ映画公開前でサントラも発売されてない時期だったから、新しい伊福部マーチの誕生に興奮でいっぱいだったわけで、演奏の良し悪しなんて判断の外にありましたけど、そのときの興奮を思い出させてくれました。


 映画音楽と言っても特撮で始まり特撮で終わるというのが伊福部先生らしいところですね。『SF交響ファンタジー第1番』なんかは演奏される機会も多いので、この中では少し立場が違いますが、普通、映画のサントラなんて滅多に生演奏で聴ける機会なんてありませんから、これも貴重な体験です。
 パンフに「アメノウズメの舞」が『題名のない音楽会』で演奏されたエピソードが書かれてあったのですが、その放送をたまたま見ていて「何で、こんなマイナーな曲が演奏されてるんだ?」と驚いた記憶がありますが、伊福部先生自身の注文だったようですね。
 今のように『交響組曲』として演奏会用に整えられてるならともかく、当時はそれこそサントラ盤しか出てないような曲、それも黛敏郎自身が知らないような昔のアニメ映画の音楽なんて演奏されるのは奇跡のように感じました。それ以前にサントラ盤(『完全収録AKIRA IFUKUBE 映画音楽・東映動画編』)を聴いてこの曲の魅力にはまっていた自分は、こうやって演奏される機会があるんなら絶対に生で聴いてみたいなと感じました。
 後年、『交響組曲「わんぱく王子の大蛇退治」』としてまとめられたことでコンサート等で取り上げられる可能性が高まったわけですが、それが今回念願かなって聴くことが出来て嬉しかったです。

 第3部は次回につづくっ!


本名徹次指揮、日フィル演奏の『SF交響ファンタジー第1番』収録

伊福部昭の芸術(8)特別篇 卒寿を祝うバースデイ・コンサート 完全ライヴ
伊福部昭の芸術(8)特別篇 卒寿を祝うバースデイ・コンサート 完全ライヴ


映像付きの『ゴジラファンタジー』は現在は以下のDVD BOXの特典ディスクに収録(音は日比谷公会堂初演版ですが)

GODZILLA FINAL BOX
GODZILLA FINAL BOX


映画音楽関係で新規録音したものなら(演奏は???ですけど)

伊福部昭 映画音楽選集
伊福部昭 映画音楽選集


『交響組曲「わんぱく王子の大蛇退治」』収録

伊福部昭の芸術(7)
伊福部昭の芸術(7)


吹奏楽版だけど『バンドのための「ゴジラ」マーチ』なら

バンドのための「ゴジラ」ファンタジー
バンドのための「ゴジラ」ファンタジー


映画音楽関係のオリジナルサントラは当日発売されたベスト盤『伊福部昭 映画音楽の世界』が東宝ミュージックのサイトで直販されてますので、そちらもどうぞ。

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