伊福部昭音楽祭・第1部「音楽の生まれる時」
3月4日にサントリーホールで行われた《伊福部昭音楽祭》に行ってきました。伊福部先生が亡くなられてからの初めての大規模な本格コンサートです。
サントリーホールで本名徹次指揮の日本フィルの演奏というと3年前の卒寿記念コンサートと同じですが、現時点で伊福部先生の作品の演奏に関してベストのオーケストラであることには異論は無いでしょう。
なにぶん席が前から5列目とかいうところだったので、このホールでは演奏フロアを見上げる感じになってしまい、(前方の第1、第2バイオリンとコントラバス以外は)楽器がほとんど見えなかったのが辛いところです。
では、今回の演奏曲目です。
第1部 伊福部昭とヴィルトゥオーゾ
「音楽の生まれる時」
1.二十五絃箏曲甲乙奏合 交響譚詩
2.アイヌの叙事詩に依る対話体牧歌
第2部 映画の世界
「映画人、伊福部昭を語る」
3.SF交響ファンタジー第1番
4.3本の映画のための音楽
5.「わんぱく王子の大蛇退治」より“アメノウズメの舞”
6.オーケストラのための特撮大行進
第3部 管弦楽の響
「大楽必易」
7.管弦楽のための日本組曲
8.シンフォニア・タプカーラ
EC.シンフォニア・タプカーラ(第3楽章後半)
途中、演奏者やゲストの方たちのお話とかもありましたが、その内容は割愛させていただきます。
それでは順番に追っていきます。
第1部 伊福部昭とヴィルトゥオーゾ
「音楽の生まれる時」
ヴィルトゥオーゾとは超一流の演奏家を意味するドイツ語経由の言葉で、ここでは伊福部先生の晩年期に長年にわたって一緒に音楽を作り上げてきた二十五絃箏の野坂惠子と、ソプラノ歌手の藍川由美を差しています。
ここ20年ほどの伊福部先生の作品を追っていくと、もっとオーケストラの曲をいっぱい書いてくれたらと思ってしまうほどに、特に二十五絃箏曲の作品が目立って多かったりしますが、それだけこの人たちと密接に作品を作り上げてこられたということですね。そこで「音楽の生まれる時」です。
優れた音楽は作曲家が楽譜を書いただけでは出来ません。演奏者がいて初めて音になるわけですが、作曲家と演奏家の間に信頼関係が無いとその作品も十分に生かされることが無いでしょう。優れた音楽とは作曲家と演奏者の出会いから生まれてくるということです。
藍川由美の話で、伊福部先生の作曲は音を削るのに何年も時間が掛かってしまうということで、オーボエの音をあんまり簡単にしすぎて世界的に有名なオーボエ奏者の人じゃないと演奏できないくらいにしてしまったため、その曲は演奏者がいなくて再演できないとかいうエピソードが語られたのですが、演奏家がいてこその音楽であることを改めて感じさせてくれます。
二十五絃箏曲甲乙奏合 交響譚詩
二十五絃箏・野坂惠子、小宮瑞代
二十五絃箏曲甲乙奏合というのは以前に『七つのヴェールの踊り』の記事でも触れてるように、2本の二十五絃箏を用いてそれぞれ高音パートと低音パートを担当しながら二人の奏者が演奏することです。高音側が野坂惠子、低音側が小宮瑞代だったようですね。
1.第一譚詩
言うまでも無くオリジナルは管弦楽曲だったのを二十五絃箏曲としてアレンジされたものです。
日本の箏の音はギターなんかと比べるとずっと張り詰めて鋭い音が出てくるので、オーケストラに引けを取らないくらい音が響いてくる感じです。原曲だと派手なブラスで始まる曲だから、こういう編成の少ない演奏では本来の力強さとかは出て来ないんじゃないかと心配してたりしたのですが、全然そんなことはなく、『交響譚詩』の特徴を上手く出していて圧倒してくれる演奏です。
でも、少し演奏が硬いというか、微妙に音を外してるようなところも散見されたのは確かですが、二十五絃箏自体が演奏するのに物凄い技術と体力が要る楽器のように思えるので、やはりかなり困難な演奏なんでしょうね。
最後で音を止めるのに全身で覆い被さってるような格好だったのが印象的でした。
2.第二譚詩
第二譚詩は静寂なバラードからの始まりです。オーケストラだと冒頭の音をどれくらいの大きさで始めるかでけっこう印象が変わってくるくらい微妙なところなのですが、二十五絃箏版だとここは完全にソロになるので、むしろオーケストラよりもふさわしい音のように感じられます。
第一譚詩ではけっこう苦しそうなところが見られたわけですけど、この第二譚詩は激しい曲ではないのでいくぶん余裕が感じられます。それでも中盤で少し指遣いがもつれてたように感じました。
全般的には上手く『交響譚詩』という曲を表現しきった素晴らしい演奏だったと思います。たった2本の二十五絃箏でもオーケストラに負けないくらい音の強弱が表現できるものだと感心しました。
アイヌの叙事詩に依る対話体牧歌
歌・藍川由美
ティンパニ・高田みどり
戦前、アイヌとの触れ合いの中で育った伊福部先生が戦後になって子供の頃に聴いたアイヌの歌を再現しようとして作られた曲です。この曲自体は藍川由美のために作られた曲というわけではなく、それ以前からあった作品ですが、あまり演奏されること無く眠っていたのを藍川由美が掘り出してきたという感じですね。
歌詞はアイヌ語なので、手元に資料が無いのでよくわかりません。歌う藍川由美はアイヌの民族衣装らしき格好でしたが、いつもこの格好で歌ってらっしゃるんでしょうか?
1.或る古老の唄った歌
伴奏はティンパニーだけですが、このティンパニーの音が意外と大きいので歌手の声が消されてしまうんじゃないかと危惧しましたが、そんなことはなく、藍川由美の声もずっと大きいんですね。
ふだん、マイクを通して歌うポピュラー歌手の歌しか知らないから、こういうクラシックの声楽歌手の人の声って生で聴いたことは(去年の芦屋交響楽団の時の1回くらいしか)無いので、人間の声ってこんなに大きく響くものかと驚きました。
リズムを取りながら歌ってる感じだったのが印象的です。普通のクラシックの声楽だったらそんなことは無いんでしょうけど、これも伊福部作品ゆえの特徴でしょうか。
ティンパニーがたまにパラパラパラ~~と叩いてる音が『キングコングの逆襲』辺りの音楽で使われてるのと同じなので、少し親しみやすく感じたりしました。
2.北の海に死ぬ鳥の歌
前曲よりも勇壮な感じのティンパニー。歌のほうも少しゆったりとしたスピードで。より力強い感じです。今度はどちらかというと『キングコング対ゴジラ』の巨大なキングコングを鎮める曲のようなイメージです。
曲全体では兵たちが戦いに出て行くような勇ましい光景が思い浮かびます。
3.阿姑子と山姥の踊り歌
ティンパニーはさらに激しく、ソプラノも激しくアップテンポ。単なる踊りというより踊り狂ってるといった方がふさわしい感じの曲です。
ティンパニーの人、髪が角刈りっぽいから男の人かと思ってたら女性の方だったみたいですね。ティンパニーがメインってわけじゃないんだけど、かなり激しく叩いてる箇所が多いので、ご苦労様でした。
この第1部では伊福部先生の晩年の作品を語る上では決して外せない2人の偉大なる演奏家と声楽家、野坂惠子と藍川由美の実演を聴けて良かったです。CDではお馴染みの人たちですけど、関西だと滅多に実演に触れる機会はありませんからねぇ。
……ということで、第2部以降はは次回に、つづくっ!
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