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2006.10.16

刑事クラ ~モーツァルト殺人事件~

 アニメや特撮映画と違って、一般のテレビドラマではタイアップ主題歌が話題になることはあっても作品のサントラには関心がもたれることは少ないようです。それでも、あるジャンルのドラマ作品の音楽にはアニメや特撮映画と比べても根強い人気があるものが存在します。
 そのジャンルというのが時代劇であったり刑事ドラマであったりするわけですが、一般の大人向けのドラマと違って、時代劇や刑事ドラマは小さい子供のころから見慣れて馴染んでることが多く、余計に音楽が頭にこびり付いたりするわけですね。
 そんな音楽で育ってきた子供たちが大人になっていろいろと自分たちで企画できるようになってきたら、小さい頃から耳に馴染んできたこれらの音楽を素材に使って何か出来ないかとあれこれ考えて珍妙な企画が出てきたりするわけです。
 数年前には時代劇の音楽でそんな傾向の企画のアルバムが何枚か出てきたりしてましたが、それの刑事ドラマ版とも言うべきものが、この『刑事クラ』というアルバムです。

 刑事ドラマの音楽をクラシック風にというコンセプトのアルバムですが、使用楽器がバイオリン×2、ヴィオラ、チェロの弦楽カルテットとピアノという組み合わせですから、室内楽的なアレンジに限られてるのが少し残念なところです。
 このアルバムを企画した杉ちゃん&鉄平(杉浦哲郎&岡田鉄平)については良く知りません。解説書からはピアノとバイオリンの人ってぐらいしかわかりません。ネットで調べたら『アニクラ』とかいうアニソンのアレンジ盤も出してるみたいですが……試聴データを訊いてみたけど、アニソンのアレンジ盤としてはあまり芸があるようには聴こえませんでした。

 収録曲は以下の通り。

 ダブルコンチェルト第一番「アマデウス・モーツァルト殺人事件」
 01. 第1楽章「初動捜査」 Allegro
 02. 第2楽章「殉職」 Lento
 03. 第3楽章「事件解決」 Allegro maestro

 04. ワルツ「刑事コロンボ(MYSTERY MOVIE THEME)」
 05. スペイン舞曲「西部警察PART2」
 06. 協奏曲「AXEL F(ビバリーヒルズコップ)」
 07. 夜想曲「私だけの十字架(特捜最前線エンディングテーマ)」
 08. 哀愁刑事 ~SENTIMENTAL TANGO~
 09. 最終刑事 ~THE END~

 10. アマデウス・モーツァルト殺人事件 RADIO EDIT

 「アマデウス・モーツァルト殺人事件」は刑事ドラマの主人公たちがモーツァルトの死因に挑むというコンセプトの作品で、モーツァルトの代表曲に刑事ドラマの音楽が組み合わされて作られています。
 ダブルコンチェルトというのは、ピアノがメインならピアノコンチェルト、ヴァイオリンがメインならバイオリンコンチェルトとなるから、ピアノとバイオリンの2つともメインのコンチェルトだということでしょうが、普通、コンチェルトというと対立するのはオーケストラなのに、ここでは弦楽カルテット(正確にはバイオリン1本が抜けるから弦楽トリオ)というのはちょっと大げさな名前のような気がします。

 第1楽章「初動捜査」は事件発生で出動した刑事たちが、事件の周辺状況を捜査している状況を想定した曲。事件発生といってもモーツァルト自身はずっと昔に死んでいますから、何か難事件が起こって、その解決のカギがモーツァルトの死に関わってるとか、そういうところでしょうか。
 まずファンファーレ的に『Gメン'75』のイントロから始まり、ややアップテンポな「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」が続き、交響曲第25番のスピーディーなフレーズにつながっていきます。次にチェロから始まる『古畑任三郎』のテーマにピアノによる「トルコ行進曲」が重なってくるという展開。続く『はぐれ刑事純情派』がモーツァルト的な音楽の世界を断ち切って、いかにも日本の刑事ドラマらしい空気を作った後で『西部警察』のテーマ。本来はブラスメインの派手な曲なのにここではピアノと弦楽器だけという演奏にややダイナミック感が損なわれている感じ。なんかみんな歳をとって人情臭くなった大門軍団ってところでしょうか。そこに「ディベルメントK.136」が入ってきて優雅なモーツァルトの世界に引き戻されて終わります。

 ところで、『古畑任三郎』のテーマって出だしのところが『サウンド・オブ・ミュージック』のある曲に似ていて昔から印象に残っているんですが、その『サウンド・オブ・ミュージック』の方の曲、以前にJRのCMとかにも使われていて、けっこうお気に入りなのですが、巷で見掛けるCDってどれも歌ものばかりで、インストゥルメンタルって無いんですねぇ。どこかで『サウンド・オブ・ミュージック』の曲をすべてインストゥルメンタルにアレンジしたようなアルバム出してくれないかなぁ。

 第2楽章「殉職」は捜査途中で殉職した刑事に捧げるレクイエム。モーツァルトの死因を調査していて何で殉職者が出るのかよくわかりませんが、刑事ドラマに殉職は付き物ってことで……
 曲の方は「ラクリモサ」をベースに、ピアノによるマイナーアレンジの『太陽にほえろ』のテーマが絡んでくるという構造。頻繁にテーマが入れ替わってた第1楽章と比べると、テーマが固定されて落着いた感じの曲です。「ラクリモサ」というと以前に取り上げた『Fate/stay night』の「英雄鎮魂」という曲でも使われていましたが、モーツァルトのレクイエムというとこれが代表的な曲なんでしょうか。
 一方、『太陽にほえろ』というのは刑事が殉職する代表的なイメージってことなんでしょうが、テーマ曲のマイナーアレンジをレクイエム風に流すより、その刑事の在りし日の回想シーン的なものも入れた方が雰囲気あるような気がします。

 第3楽章「事件解決」は終幕に向けての畳み掛けってところで、サスペンス風に事件が進行する中を刑事たちが犯人を取り押さえて解決ってイメージ。その事件にモーツァルトの死因がどう関わっていたのか、また肝心のモーツァルトの死因が何だったのかというのも明らかにされてはいませんが……まさか、才能を妬んだサリアリによる毒殺だったとかいう映画『アマデウス』そのまんまのオチじゃないでしょうね。
 ピチカートで始まる『踊る大捜査線』に「ピアノソナタ第8番」が絡んで宿命的な展開を予想させた後、『特捜最前線』のサスペンス的なファンファーレから「交響曲第40番」のバイオリンによる悲しげなフレーズ。やがてダンスステップ的なアレンジのテーマが入ってきて、バラード風の『太陽にほえろ』のテーマにつながって事件解決。最後は「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」に戻って大団円という構成。
 刑事ドラマというと終盤の犯人逮捕に向かうチェイスシーンというのが見所の一つなんですけど、そこにポイントが置かれてはいませんね。辛うじて『太陽にほえろ』の直前のダンスステップ風のところ、解説書には『銭形平次』と書いてあるんだけど聞き取れませんでしたが、そこがアクションシーンに該当するところですか。殉職者は出たけど、あくまで頭脳的に解決するのがメインの事件だったって感じです。『太陽にほえろ』なら山さんの出番って感じですね。
 でも、どうせ『西部警察』も『太陽にほえろ』も引っ張り出して来たんなら『大都会』あたりのテーマを派手に入れてもって気がしないでもないですけど。

 通して聞いてみた感じでは、モーツァルトが強烈過ぎって感じです。ま、モーツァルトの曲でも一般に聴き慣れた印象強い部分を率先的に持ってきてるからって面もあるんでしょうけど、単独ではそれなりに聴こえる刑事ドラマのテーマもモーツァルトの曲と絡んだとたんに力負けしちゃってますね。この辺はアレンジでモーツァルトの方を抑え気味にする必要があると思うんですが、そこまで配慮されていない気がします。所詮、切った貼ったで繋げた冗談音楽の枠を出ていないのではないでしょうか。

 ワルツ「刑事コロンボ」は弾むようなピアノによる軽快なワルツ。ま、このテーマ曲自体、そもそも落着いた牧歌的な音楽なので、それに輪を掛けた感じです。どうしてもアクションとかサスペンスを強調したような日本の刑事ドラマのテーマ曲と比べたら、別世界のような感じがしないでもありません。

 スペイン舞曲「西部警察PART2」はスリリングでアップテンポな曲。「アマデウス・モーツァルト殺人事件」では第1作のテーマが使われていましたが、こちらは第2作目のテーマ曲。やはりオリジナルはブラス主体の華々しい曲なので、ピアノと弦楽器だけというのはスケールダウンした感じです。
 だからこそのカルメン風にスペイン舞曲ってアレンジなんでしょうけど、スペイン舞曲というとやはりギター系の楽器が欠かせないんですけど、それをバイオリン系の楽器だけでやってるから、どこまでスペイン舞曲なんだって疑問が。ま、タイトルは雰囲気だけってものなんでしょうけど。
 途中でパトカーのサイレン風のフレーズが挿入されているんですが、少し耳障りかなぁ。

 協奏曲「AXEL F」は小刻みのバイオリン(ヴィオラ?)によるスリリングなフレーズで始まる曲。全体的にチェロだかバイオリンだかが激しく奏でてるって感じです。原曲は知らない(というか作品自体見たことない)ので、オリジナルに比べてどうアレンジされてるかとかはわかりません。

 夜想曲「私だけの十字架」は華麗なピアノのイントロから始まる曲。いわゆるコーラスパートを奏でるバイオリンは優雅で少し物悲しい雰囲気なのが印象的です。後半、曲のテンポが上がって演奏が激しくなってくるのが、夜想曲というタイトルからは少し違和感がありますね。
 それにしても、この曲は『非情のライセンス』の「昭和ブルース」と並んで昭和の刑事ドラマの主題歌の代表曲とも言える名曲ですね。

 哀愁刑事はピアノのイントロに始まってバイオリンがメインを奏でるタンゴ風の曲。岡田鉄平によるオリジナル曲ということですが、タンゴ風の曲で「哀愁刑事」といタイトルのつながりがよくわかりません。

 最終刑事は黄昏風のピアノによる無情感漂う感じの曲。こちらは杉浦哲郎によるオリジナル曲。やはり「最終刑事」というタイトルと曲の結び付きがよくわかりません。

 「アマデウス・モーツァルト殺人事件 RADIO EDIT」は「アマデウス・モーツァルト殺人事件」の短縮版かな。ラジオ番組等でリクエストしても3楽章全部掛かるのは難しいから、1曲にまとめてみたって感じでしょうか。詳しく聴き分けてないので何とも言えませんが、とりあえず第3楽章の最後に入ってた歓声が無く、すっきり終わってるのは確かです。

     ☆ ☆ ☆

 オーケストラを揃えれば企画が大掛かりになって大変だってことは想像が付きますが、やはり『太陽にほえろ』や『西部警察』を持ってきてブラス無しというのは寂しいですね。一方でモーツァルトというと弦楽器主体でオーケストラ書いてるような人ですから、弦楽演奏で並べたら勝負にならないですね。
 それにしても海外のオーケストラに比べると日本のオーケストラはストリングスが厚く感じたり、映画音楽等でもストリングス主体の曲が多いような気がするのは、モーツァルトからの影響なんでしょうかねぇ。これがベートーベンだとブラスとか木管だとかもコンスタントに使ってるイメージがあるんですが。
 正直なところ、モーツァルトは専門外で、聞き覚えがある曲でも解説書が無けりゃ曲名にたどり着けなかったぐらいですので、『刑事クラ』を名乗るなら、他のバッハとかベートーベンとかチャイコフスキーを連れて来てくれた方が有り難かったですが、やはり弦楽メインで選んだらモーツァルトだったんでしょうね。

 面白い企画ではあったけど、アニメのCDとかによくあるシンフォニー盤のように、作品のテーマ曲を素材にしてクラシックの手法で本格的な音楽に仕上げたというものではなく、あくまでクラシックの既成曲と混ぜてみたとか、既成曲の雰囲気に似せてみたというレベルから出てないような感じで、その辺が物足りないのが残念です。
 この辺がやはりアニメ作品とかとドラマ作品の劇伴音楽市場の大きさの違いというのが露骨に表れてるってところなんでしょうか。
 もっとも、そもそもこのアルバムはそんな大それた企画を目指したんじゃなく、あくまで《杉ちゃん&鉄平》というユニットの一連の作品の一つだといえば、そうなんでしょうけど……

(発売元:ユニバーサルミュージック UCCS-1092 2006.08.23)

刑事(デカ)クラ ~モーツァルト殺人事件~
刑事(デカ)クラ ~モーツァルト殺人事件~

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