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2006.09.13

H・K|笠原弘子

 最近はどうか知らないけど、一昔前まで「声優界の歌姫」と言えば笠原弘子のことを指していたものでした。
 昨今は歌を出す声優さんも当たり前になって、人気の声優になれば何枚も立て続けにアルバムを出してくることも珍しくはありません。人気が出ればどんどん商品化が進められるのは資本主義の原理に適ったことです。でも、いくら人気の出た声優さんでも10年以上アルバムを出し続けられる人なんてほとんどいないんですね。
 そんな中で、さすがにここ数年はコンスタントとは言い難くなって来ましたけど、十数年間アルバムを出し続けて来ている笠原弘子という存在はとてつもなく大きなもののように思えます。

 笠原弘子を意識したのはプロフィールの尊敬するアーチストとして伊福部昭の名前があったから……というのは半分冗談ですが、当時、『機動警察パトレイバー』を作ってたスタッフあたりが伊福部音楽を好んでいて、その影響を受けていたのだろうってことは想像が付きます。
 逆にそこら辺のスタッフに持ち上げられて業界内での評判が高まり、それが世間的な人気に結び付いていったというのも今は昔のお話です。当時のスタッフの多くが大林宣彦版『時をかける少女』で原田知世にはまって、その流れで自分たちの手でアイドルを作り出していった1つの成果が笠原弘子ではないかという見方もあります。
 世の中には声優になって役を掴むまでに物凄い苦労をしている人も多くいますし、そうやってデビューしても音楽活動まで手を広げられるかどうかなんて保証はありませんが、その点で笠原弘子は幸運だったようです。もっとも、その後の活動もすべてが受身になってしまい、自分で役を取ってくるという苦労をあまりしてなさそうなのが仕事の幅を狭めてしまうことになってきますが……

 ともあれ、笠原弘子の歌は多くのファンに愛され、声優の仕事はともかく、その後もずっと音楽活動だけはコンスタントに続いてきました。
 笠原弘子の影響力を本当に凄いかなと思ったのは、いつかの岩男潤子のイベントに行った時、目標とする歌手として笠原弘子の名前が挙げられたからです。アイドルやめて声優に流れてくる人も少なくはありませんが、岩男潤子の場合はセイントフォー解散から声優になるまでにかなりの苦労を経てきた人で、確かに声優としては笠原弘子の方が大先輩だろうけど、歌は自分の方が先輩だってこだわりがあって普通なんですが……。ま、その当時にラジオ番組か何かで一緒だったとかでリップサービスみたいなことだったのかも知れませんが……

 笠原弘子といえばいまなおカチュアや「未来派Lovers」といった単語が浮かんでくる世代からすればやはりピュアなイメージの残る『Semi-Precious Stone』や『恋愛性理論~Part1~』がベストアルバムであったり、それよりやや大人っぽく本格的なシンガー志向になった『さよならがくれたのは』や『本当の私』、あるいは別系統で『L'EXPRESS FANTAISIE』に始まる幻想シリーズといったところに馴染みが深いところで、『NEO DECADENCE』以降の迷走ぶりには置いてけぼりを食ってるような感じなのは否めません。

 そんな笠原弘子の最新のミニアルバムがこの『H・K』。「H・K」というのはもちろん本人のイニシャルですが、今になってこういうタイトルでミニアルバムを出すことにどんな意味があるのかというのが謎のところです。(アルバムの発売予定に別の仮題が付いていたこともあったので、最初からタイトル通りのコンセプトで作られたわけではないみたいですが……)
 収録曲は以下の通り。

 01. I will be there
 02. 恋歌
 03. I DREAM~ハート壊れそう
 04. My Best Friend
 05. 夏のリトグラフ 2005
 06. ひこうき雲

 「I will be there」は軽く自然体で日常を謳歌してる感じの曲。一般的なギター、ベース、ドラムスによるロックバンドの伴奏。あえてアレンジに凝らない今風な雰囲気の曲を笠原弘子向けに作ってみましたという感じで、単調な曲そのものに主張とかいうものは感じません。
 良くも悪くも今の笠原弘子をそのままの形で出してみましたという曲って感じがしますね。

 「恋歌」は少しハードでアダルトな感じの曲。バックはサックスやトランペット、ピアノを中心にしたジャズバンドといった感じ。雰囲気的に後期の山口百恵を思わせるような70年代風の歌謡曲風のイメージですか。30代の女性の激しい恋を歌ってるという感じです。
 アニメソングっぽいものを除けば、どちらかといえばアコースティックな方向で勝負を賭けてくることが多かった笠原弘子にとっては、この手の曲でここまで激しいバックの曲というのは珍しいと思います。聴いた印象としては口先だけで伴奏を追ってるという感じで、声があまり伸びていないような気がしました。もとより声を張り上げるようなスタイルの人ではありませんから、あまり激しいバックと張り合うというのも想像しにくいものですが、このあたりはミスマッチな曲かなと思います。

 「I DREAM~ハート壊れそう」はサックスとギターを伴奏に使った、ゆったりとしたバラード系の曲。
 全曲とは違ってバックが抑え気味なので、それと反比例してボーカルが十分に伸びてるように感じます。いかにも笠原弘子らしい歌声を引き出せてる曲ですね。
 間奏部分のスキャットが(バックコーラスではない)、これまた笠原弘子らしい感じでなかなか良い雰囲気です。彼氏だかダンナだかに寂しかったよって甘えてるって感じの歌なんですが、こんな風な声で迫られたらイチコロですね。

 「My Best Friend」……といってもアニメソングじゃないよ。ドラムスが派手なライトポップ調ののアップテンポの曲です。
 ずっと一緒にいて喜びも悲しみも分かち合い心の支えになってきた親友と別れてひとり立ちする決意を歌い上げるって感じのポジティブソング。笠原弘子の歌う友達というと、表面上はベタベタしてるんだけどいざという時には素っ気無いって感じのドライなイメージがあるのですが、これはもっと本質的に結びついた真の友との別れって感じですね。
 たぶん相手にはずっと心配を掛け続けていたんだけど、もう大丈夫って感じで強がって前向きに進もうという感じが伝わってきますが、こういうシチュエーションでのポジティブになれる曲というのも斬新な気がします。ま、最近の笠原弘子って感じなのでしょうか。

 「夏のリトグラフ 2005」はスローペースの曲。ひと夏の思い出を振り返ってって感じで、切ない感じの歌声にどことなく高中正義を思わせるトロピカルなメロディーの曲です。
 夏の光景ってこともあるんだろうけど、『Nature』とか『Siesta』を今の笠原弘子でリメイクすればこんな感じになるのかなぁ……と思ったりもしました。

 「ひこうき雲」はしんしんとゆったりした感じのシンセの伴奏で始まる淡々とした感じの曲。後半、ギターとパーカッションが入って来て普通の曲っぽくなって来ますが、非常に穏やかな曲です。
 笠原弘子の歌は、日常光景の中から遠い過去を振り返ってるという雰囲気を切々と歌い上げてる感じですが、すべてはもう思い出になってしまったって感じの曲ですね。

   ☆ ☆ ☆

 期待していた以上には笠原弘子の魅力を引き出していたアルバムのように思います。下手に凝ったアルバムにしなかったのが良いというか、そんな感じですが。ただ、やはり何でいまさら『H・K』ってタイトルなのかがアルバム自体からは伝わって来ません。
 それに難を言えば続きが見えないって話ですね。このミニアルバムの先に新しい笠原弘子の音楽世界が広がっているかといえば、そうではなく、これもここ数年続いてる単発企画の一つに過ぎないって感じなのです。
 もっとも今さら幻想シリーズのようなものを音楽家とペアを組んで作るには、本人の歌にそれだけの柔軟性が無くなってきてるって感じなのかもしれませんし、いろいろと事情はあるのでしょうから無理を言っても仕方がありませんが。
 今回のミニアルバムでも笠原弘子の歌は確かに笠原弘子の歌なんだけど、もう20代の頃のような瑞々しくて張りのある歌とは別物なんですね。30代ももう後半に入った笠原弘子としての音楽志向というものを確立したアルバムというものを聴いてみたいのですが、まだそこのところであれこれ試行錯誤を繰り返してる最中のようです。
 ま、そんなこと言いながら聴いてる方だってもう若くは無いんですけどね。

(発売元:コイーライツバンク GNCA-7019 2005.09.22)

HK
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