日本作曲家選輯 伊福部昭:シンフォニア・タプカーラ
ちょっと間が開いたけど、伊福部先生の追悼シリーズの4回目です。肝心の管弦楽作品がまだだったので、とりあえず入門用としてこの1枚。
ナクソスが意欲的に出してきてる《日本作曲家選輯》のシリーズの1枚ですが、比較的最近の発売でもあるし、手軽に入手しやすいCDだとは思います。
演奏はドミトリ・ヤブロンスキー指揮によるロシア・フィルハーモニー管弦楽団。先に発売されてる『日本狂詩曲』収録の『日本管弦楽名曲集』が沼尻竜典指揮の東京都交響楽団という日本人による演奏だったのに比べると、外国人の解釈による演奏がどうなってるのは興味がわくところです。
収録曲は以下の通り。
1.シンフォニア・タプカーラ
2.ピアノとオーケストラのためのリトミカ・オスティナータ
3.SF交響ファンタジー第1番
一般的に弦(特にバイオリン)の厚い日本のオーケストラに比べると、欧米ではしばしば管(特にフルート)の方が厚く感じられるオーケストラが珍しくありませんが、このロシア・フィルハーモニー管弦楽団も日本のオーケストラに比べるとどちらかといえば管楽器の方が目立って聞こえる感じです。
単にレコーディングの関係だとか、ホールの残響設計が違うからだとか、日本人と欧米人の肺活量の違いだとか、原因を考えればいろいろと浮かんできますが、聴覚的に違いが感じられるのは確かです。
『シンフォニア・タプカーラ』も踊りがテーマの軽快な曲調がメインとなる作品ですが、日本のオーケストラの演奏を聴くと、管楽器のアクセントはあってもあくまでメインの音は弦楽器のイメージなんですね。ところがこの演奏を聴くと、多くの場所でトランペット等の金管楽器が前面に出てきてる感じで、日本の演奏に聴きなれてると違和感を感じてしまいます。
作曲家としてはどう聴こえるかということも頭に入れて書いてるとは思いますが、楽器の構成もオーケストラによっては微妙に違ってくるし、ましてや個々の演奏家の力量までコントロールすることは出来ませんから実際はどんな音をイメージして作られた曲かなんてことはわかりません。ま、中には作曲家自らが立ち会って演奏指導して録音される場合もありますが、そういう例があると話は別ですが。
伊福部先生の場合だと、映画音楽の多くは自らが立会い、指揮をして収録しているので作曲家の意図はわかりやすいのですが、純音楽作品はあくまで演奏してくれる人があってのことなので、やはり演奏に当たる指揮者やオーケストラ次第ということになります。
そんなわけだから、あくまで弦が中心の『タプカーラ』も金管が表に出てる『タプカーラ』も、それはそれで1つの『タプカーラ』なわけです。
ただ、金管のアクセントが入ってる部分というのは元より金管が目立つ部分として設計されてるわけであり、それはしばしばトランペット等の音の通る楽器のソロだったりするわけですが、その部分はちゃんと演奏してくれないと曲全体が散漫に感じられたりします。
ま、事前に他の演奏を聞けばどう演奏するものなのかということがわかるはずですが、しばしば配られたパート譜だけでは即座に理解出来ない部分も確かだと思います。そういう点で少し作品に対する理解不足かなと思えた部分がかなり見られたのは残念です。
『リトミカ・オスティナータ』は日本語に訳せば「リズムによる執拗反復曲」ということになります。ピアノとオーケストラというと普通はピアノコンチェルトということになりますが、そこは伊福部先生、ピアノを使ったからと言って普通にピアノコンチェルトを作ったりはしません。
この作品のピアノはあくまでリズム楽器として使われています。ピアノは旋律を語るものなんて常識に囚われていてはこの作品は理解できません。そういえば伊福部先生ってマリンバの曲だってマリンバを半分リズム楽器みたいに使ってます。ピアノもマリンバも鍵盤楽器とはいえ、打楽器の一種であることには変わりません。だからドラムのように用いる方法もあるってことです。
ま、ショパンが聴いたら涙を流して嘆きそうな話ですが……
この曲、実は非常に演奏の難しい曲なんですね。だいたいピアニストって繊細な人が多くて、ピアノを打楽器として扱えなんて言われて平気で叩ける人なんて、伊福部音楽の信奉者でもなければそうはいません。おまけにコンチェルトのようにかけあうんじゃなくて、終始オーケストラと張り合って叩き続けなければなりません。メロディーも単調でメリハリがありません。たぶん、ピアノ奏者にとっては地獄のような作品なんじゃないでしょうか。
CD等で出てるのはどれも素晴らしい演奏のものですが、それは良い演奏のものをCDで出してるって話でしかなく、生演奏で聴く場合はあたりはずれがかなり大きい作品みたいですね。
で、このナクソス盤ですが……オーケストラの方はともかくとして、少なくともピアノは「あたり」の方ですね。オーケストラに対してけっして引けをとらず、そして終始大きな乱れも見せずに最後まで演奏しきってるのは見事と言っていいでしょう。
最後はおなじみの『SF交響ファンタジー第1番』ですが、やはり作品の理解というのが大きな障害になってる感じです。この作品はとくに楽譜に現れない微妙なタメとか変則的なリズムというのが重大な要素になっていて、それらは基本的に原曲となってる映画音楽そのものに対する理解がないと出て来ないものです。
日本のオーケストラでもけっこういい加減な演奏が多かったりしますから、ロシアのオーケストラに文句を言っても仕方ないのだけど、せめてわかった人に指揮をしてほしかったという感じです。冒頭のゴジラ出現のモチーフから「こんなの違う」と思わせるなんて日本のオーケストラならありえない話ですが、そもそもゴジラなんて知らなけりゃどうしようもないことですからね。
あとはラストのマーチに入るタイミングが違うというか……これも伊福部マーチに対する愛着がなければこだわるような部分じゃないといえばその程度の話ではあるのですが。ただ、オーケストラそのものはけっして乱れて無いんですね。中間あたりはあまり違和感は感じられない演奏だし。やはり作品に対する理解の問題でしょう。
伊福部先生の代表曲として取り上げた3曲としての選曲は悪くはないし、演奏はそれなりに整ってるからけっして悪いわけじゃありません。ただ、作品に対する理解という点で限度が見えてるというところかな。
1枚1000円で手に入ることを思えば、伊福部作品に触れて見るためのアルバムとしては手軽なところだと思いますし、『リトミカ・オスティナータ』だけでも元は取れるでしょう。後の2作品に関しては、興味を持ったらその先と言う感じで他の演奏を聴いて行ってほしいという感じです。
また、このCDに付いてる解説文はものすごく濃厚で、他のCDに比べてもこれだけ充実した内容は無いというくらいのものです。CDより解説書のほうが価値があると言えば言い過ぎでしょうが、とにかく一見の価値はある解説なので、伊福部音楽を知るためにはこれだけでも読んで欲しいですね。
ところで、Wikipediaの「ナクソス」の項目で、このアルバムが《日本作曲家選輯》の第1弾だと記されてるんですが、これは間違いですね。第1弾は『日本管弦楽名曲集』の誤りで、伊福部先生のこのアルバムは《日本作曲家選輯》でも割と新しい範疇に入るはずです。(追記:その後、正しく訂正されたようです)
(発売元:ナクソス 8.557587J 2004.12.01)
| 固定リンク




コメント