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2006.03.21

嘘つきアリスとくじら号をめぐる冒険 堀江由衣

 堀江由衣のアルバムは新譜が出るたびに毎回買ってはいるのですが、とくに今回のこのアルバムに興味を持ったのはタイトルが以前のアルバム『黒猫と月気球をめぐる冒険』と同じコンセプトを予想させたからです。
 私の中の歌手・堀江由衣というイメージは、いわゆる歌姫とかアーチストとかとは無縁の、あくまでもアイドルシンガーとしてのイメージであり、その堀江由衣はあくまでアイドルシンガー・堀江由衣としてのキャラクターなのです。現実の音楽界が失ってしまった70年代〜80年代のアイドル歌手のコンセプトを、現代の舞台で演じているキャラクターという感じです。
 『黒猫と月気球をめぐる冒険』は堀江由衣にそんなイメージのキャラクターを色付けするのには格好の仕掛けでした。アルバムそのものはタイトル通りの世界観を築くほどの徹底したものではありませんでしたが、当時、自分のイメージしていた堀江由衣というものに一番近いものを感じたのは確かです。

 数年を経て再び同じ世界に戻ってきた今回の冒険、黒猫は嘘つきアリスに変身し、月気球は(飛行船?)くじら号に進化しました。
 ……というところで、収録曲です。

 1.はじまりの唄
 2.マッシュルームマーチ
 3.世界中の愛を言葉にして
 4.蒼い森
 5.Shiny merry-go-round
 6.くじら光線
 7.Puzzle
 8.いつか
 9.day by day
 10.スクランブル
 11.LET'S GO!!
 12.Will
 13.口笛

 プロローグの「はじまりの唄」とエピローグの「口笛」はともに平穏な日常を感じさせる穏やかな曲。片や冒険への予感を感じさせ、片や夢か現かの冒険譚を振り返るイメージの曲ですが、同じメロディーを繰り返すわけでもなく、うまく対をなしている感じの2曲に仕上がっています。
 2曲目の「マッシュルームマーチ」からいよいよ冒険に誘われるわけですが、どんどん突っ走って行こうって感じのアップテンポの曲と、振り返って自分を見つめなおすようなスローテンポの曲の配置がうまく繰り返されるような構成で作られていて、何度繰り返し聴いても飽きが来ません。

 慌しく飛び出した冒険の中で自分の希望、目的を確認するのが「世界中の愛を言葉にして」。冒険と言ったって結局はラブソングに落ち着くというのはお約束ですが、アルバムの前の方でこれだけ明確に歌い上げられてたら文句は言えません。力強くとはいかないけど、ポップアップで爽やかな歌声が魅力です。
 続く「蒼い森」は幽玄さを感じさせる曲。ようやく一息ついて自分を振り返り、そして広がる世界へと目を向けてる、そんな感じです。このアルバムに中では一番ニュートラルで客観的な印象を受ける曲ですが、こんな曲があればこそ、世界の広がりに期待できるというものです。

 楽しい出来事は次から次へと現れては去っていくメリーゴーランドのようなもの。そんな感じの「Shiny merry-go-round」。ストレートなスピード感ではこのアルバムの中でも最高潮。ボーカルもノリノリなのは良いですけど、少し息切れ起こしそうな感じです。でも、アルバムの1曲ならそのまま素直に受け取れますけど、これがアニメの総集編かなんかだと中盤のストーリーが思いっきりカットされてナレーション説明のダイジェストで済まされてしまってるような感じがして、少し嫌な予感。
 そんな楽しい冒険の連続の中でも時には辛いこともある。しかし、どんなときだって暖かな光が包んでくれてるって感じの「くじら光線」。光線って言ったって、くじら号の艦首に取り付けられた波動砲やらメガ粒子砲やら陽電子砲が冒険の邪魔者を排除するって曲ではありません。いわば癒しの光ですね。もっとも曲の方は癒しの曲ではなく、癒された立場の曲ですけど……

 アルバムのど真ん中にある曲「Puzzle」。質実ともにこのアルバムのメインという感じの曲です。他の曲は、ボーカルを聴いたら堀江由衣だとか、曲の作りが堀江由衣に合ってるなという感じがしても、曲そのものが堀江由衣というキャラクターと完璧に結び付いてるってわけではないのですが、この曲だけはもう他には何も考えられないくらい堀江由衣というキャラクターにカスタマイズされて仕上げられてるって感じです。
 ま、これは恐らく現実の声優・堀江由衣とは別で、このアルバムが作り挙げた世界観が自分のイメージとマッチしたからなんでしょうけど、嘘つきアリスでも何者でもない、ここにいる堀江由衣という存在を深く印象付けている曲のようです。
(……とか思ったら、これ、angelaの曲か。さすがによくわかってるって感じです)

 思い切り盛り上がった山場の後の2曲。きっと訪れる出会いの日々に思いをはせるポップな感じの「いつか」と、少しメランコリックな感じで挫けそうな気分を励ます感じの「day by day」。けっして希望を失わない自分と、すぐに挫けそうになる自分。どっちも本当の自分の別の側面だけど、やっぱし逃げちゃダメだって感じでうまく対をなしてる2曲です。
 恋のスクランブルはいつも突然。乱気流に飲み込まれてくじら号は急転まっさかさま。渦に巻かれて目玉がくるくる……ってわけでも無いでしょうけど「スクランブル」。いわずと知れた『スクールランブル』のOP曲です。他で馴染みがある上に男性コーラスが入ってるってことでこのアルバムの中では酷く異質なのですが、3曲目の「世界中の愛を言葉にして」と同様、あえてこの場所に置くことによってアルバムにポイントを示してるような役割が感じられます。たぶんこの曲が無ければアルバム全体から見た時に「Puzzle」が異質に感じられたんじゃないかな。この2曲が互いのアクの強さを中和しあって、全体的にまとまりを持ててる感じがします。

 そんなこんなでいろいろあったけど、この先に未来が待ってる限り、旅はいつまでも終わらない。だから、さぁ、一緒に冒険に出ようって感じの「LET'S GO!!」。タイトルそのまんまのイケイケゴーゴー系の曲。
 そして冒険のその先で待ってるもの、自分が求めるものを改めて胸に刻む「Will」。1つのエピソードは終わったけど、まだ冒険は始まったばかり。沈む夕日に明日への希望を膨らませてる1つのエンディング。
 ここで現実に戻ってしまえば「口笛」に繋がっていくわけですけど、そうでないなら「マッシュルームマーチ」から、あるいは「Shiny merry-go-round」辺りからの繰り返しってところでしょうか。

 思いっきり牽強付会なところもあるでしょうけど、今回のアルバム、こうして振り返ればうまく1つの世界を物語ってるような気がします。タイトルで物語を提示したのなら、アルバムの中身もその物語を語ってほしいというというのが前の『黒猫と月気球をめぐる冒険』の時には少し物足りなかったんだけど、その点ではかなり満足できる出来だと思います。
 ま、嘘つきアリスが主人公本人のことなのか、主人公を冒険に誘ったきっかけなのかというのが曖昧な感じがしたのですか。もっとも、「LET'S GO!!」と「マッシュルームマーチ」が対になっていてそれぞれ反対の立場からの曲だとしたら、どちらも同じことなのですが。

 アーチスト抜きにして単純にアルバムとして考えたら、真ん中あたりで1曲ぐらい、精霊か女神をイメージさせるような思いっきり透き通るような声のアカペラの曲が入ってたら申し分ないのですけど、堀江由衣にそれを期待するのは酷なのかなぁ……
(思いっきり歌姫クラスのレベルが必要な気がしますが、堀江由衣にはそんなレベルアップよりも嘘つきアリスのままでいてほしいというのが個人的な願いです)

(発売元:キング KICS-91201 2005.11.23)

嘘つきアリスとくじら号をめぐる冒険(初回限定盤)
嘘つきアリスとくじら号をめぐる冒険(初回限定盤)

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