伊福部昭 吹奏楽作品集
伊福部先生追悼シリーズ第3回です。二十五絃箏曲、ギター二重奏とどちらかというとマイナーな演奏のアルバムが続いたので、今回は吹奏楽のアルバムを取り上げてみたいと思います。
純粋に伊福部先生が作曲された吹奏楽の作品は多くなく、戦時中に軍楽用に依頼された曲を除くと、戦後の作曲で有名なのは『倭太鼓と吹奏楽のためのロンド・イン・ブーレスク』ぐらいでしょうか。もっとも、この曲は後に管弦楽用にアレンジされ、『SF交響ファンタジー』の初演時のプログラムで一緒に演奏されて以来、もっぱら管弦楽版の方が聴く機会が多くなっています。
昨今、アマチュアのブラスバンドでも伊福部先生の作品が演奏されることが多くありますが、それらは管弦楽の作品を独自に吹奏楽用にアレンジされたものがほとんどです。このアルバムに収録されてる作品も、1曲目を除けば、管弦楽作品を伊福部先生以外の人の手によって吹奏楽用にアレンジされています。
演奏は陸上自衛隊中央音楽隊。あまりプロの吹奏楽隊による伊福部作品の演奏は聴ける機会も少ないので、その意味でも貴重な1枚です。
収録曲は以下の通りです。
1.古典風軍楽「吉志舞」
2.交響譚詩
3.シンフォニア・タプカーラ
4.SF交響ファンタジー第1番
1曲目の『吉志舞』は戦時中に海軍の依頼で作曲されたもので、当時は祝祭日等によく流されていたとか、マッカーサーが厚木に来た際に出迎えに演奏された曲だとか言われています。(厚木は当時、海軍航空隊の基地)
出だしはスローテンポの『ロンド・イン・ブーレスク』といったところですが、後の「怪獣大戦争マーチ」に繋がるモチーフがすでに使われてるというのは、同じ時期に陸軍の依頼で作曲された『兵士の序楽』にも通じるところがあります。ただ、『吉志舞』は終始スローテンポの曲であり、いわゆる軍楽隊のマーチではありません。もっとも、当時の演奏は作曲家の指示よりもずっとアップテンポで行われていたようですが。
この「怪獣大戦争マーチ」を含む『ロンド・イン・ブーレスク』のモチーフの他に、やはり伊福部先生の作品では馴染みの深い土俗的なモチーフが絡み合い、独特の音楽世界を作り上げていますが、こうして古い作品を聴くと、私たちには「怪獣大戦争マーチ」や『ゴジラ』の「フリゲートマーチ」にしか聞こえないこのモチーフも本来は土俗的なモチーフの1つとして作られたものなのかも知れません。
『交響譚詩』は戦前に作曲された2楽章構成の作品。2楽章構成であり、あえて交響曲を名乗ってはいませんが「交響」と名付けてることろから見ても、十分に交響曲を意識した作品と思われます。一説には交響曲を作ろうとしたのだけど師匠のチェレプニンにまだ早いと釘を刺されたからだとか言われていますが……
第1楽章冒頭から、伊福部先生独特の土俗的モチーフによるアレグロの連発に、初めて聞く人は度肝を抜かれてしまうでしょう。本来は管弦楽用の作品なので、弦楽器の存在が幾分か印象を和らげてくれるのですが、吹奏楽では金管の力強さがストレートに響いてくる感じです。前回のギター二重奏版の後だと、特にインパクトが違います。
一転して静かな始まりの第2楽章。吹奏楽の弱みは、静かな音が音の弱さに繋がってくるところでしょうか。管弦楽なら静かな音でも弦の重ね合わせて厚みを感じさせることが出来るのですが、吹奏楽ではその点が不得手なようです。しかし、それに真正面から挑みかかってる演奏の真摯さは深く感じられます。
『シンフォニア・タプカーラ』は別名『タプカーラ交響曲』。ゴジラと同じ1954年に作曲された伊福部先生唯一の交響曲です。一般に交響曲というとソナタ形式の4楽章構成が思い浮かびますが、これは3楽章構成。
この曲は1979年に改訂されていますが、改訂のメインは第1楽章冒頭の静かでゆったりとした導入部の追加。元々は中盤のアップテンポの部分から始まっていたそうですので、ずいぶんと印象が違う気がします。この演奏はもちろん改訂版の方をベースにしていますが、やはり吹奏楽では難しいところかと思います。
逆にアップテンポな部分になると吹奏楽の持ち味発揮。特にほとんど全曲に渡ってアップテンポな曲調の現れる第3楽章は、ここぞとばかりに吹奏楽の醍醐味を聴かせてくれます。もっとも、これはこれでクライマックスになると奏者も息が続かなくなってくるぐらいにヒートアップしてしまいますが。
最後の『SF交響ファンタジー第1番』はおなじみの曲。ファンタジーは音楽用語で言えば「幻想曲」であって、これで1つの音楽ジャンルになるわけですが、ここではそういう音楽本来の意味ではなく、様々なモチーフを組み合わせた幻想的な組曲という程度の意味でしょう。
この曲も本来は管弦楽用の作品ですが、非常に人気の高い作品なので、アマチュアバンド向けにアレンジされたりもしていますが、ここに収録されて原曲に出来るだけ忠実に吹奏楽用にアレンジしたもの。中盤の『宇宙大戦争』の「セレナーデ」を除けば、どれも鳴り響くということを目的とした映画音楽のモチーフだから、もう低音響く金管の鳴りっぱなし。それでも冒頭の「ゴジラの恐怖」あたりは弦の厚みがないと……という感じがしますが、次第に管楽器だけの構成の方がストレートなイメージを与えてくれるような感じがしてきます。
そしてやはり圧巻はクライマックスの『宇宙大戦争』と『怪獣総進撃』のマーチ部分でしょう。何しろ本物の自衛隊の音楽隊が伊福部マーチを奏でてるんだから、これで燃えないわけはありません。
伊福部先生の吹奏楽作品のアルバムは、元から吹奏楽用に作られた作品が少ないこともあってか、たまに単発で何らかのオムニバス盤やコンピレーション盤に収録されることはあっても、まとまった形のアルバムとして出ているのは『バンドのための「ゴジラ」ファンタジー』を除けば、現在のところこれが1枚ですが、ほとんど非の打ちどころがない素晴らしい1枚だといえます。
あえて欲を言えば伊福部先生自身で吹奏楽用に作られた『ロンド・イン・ブーレスク』まで入っていれば良かったと思いますが、この曲は『バンドのための「ゴジラ」ファンタジー』の方に入ってるので、そちらで聴くことは可能です。
これは伊福部先生の作品に限りませんが、吹奏楽作品に関しては吹奏楽コンクールでの優秀バンドによる演奏などが割とCDになってたりします。そこから伊福部先生の作品が入ってるのを探すとかいうマニアックなこともやってたりするわけですが、やはりアマチュアのバンドはアマチュアであって、プロの演奏には敵わないなというのが実感できるアルバムですね。
(キング KICC-531 2005.04.27)
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