『日本組曲』デュオ・ウエダ、伊福部昭を弾く
伊福部先生追悼シリーズの第2回です。
これは上田英治・上田ちよのギター二重奏によって伊福部先生の作品が演奏されているCDです。奏者のデュオ・ウエダのことはよくわかりません。関西在住のギタリスト夫妻のようです。
収録曲は以下の通りです。
1.日本組曲
2.ギターのためのトッカータ
3.交響譚詩
4.古代日本旋法による踏歌
5.SF交響ファンタジー第1番
6.聖なる泉
「ギターのためのトッカータ」と「古代日本旋法による踏歌」は元々ギターソロ用の曲ですから、このアルバムでもソロで演奏されていますが、残りの作品はギター二重奏によって演奏されています。
「日本組曲」は本来「ピアノ組曲」としてピアノ用に作られていた作品を近年になって管弦楽曲や二十五絃箏曲に改作されたものです。またギター六重奏によって演奏されたバージョンも存在しますが、元々大編成での演奏を目的としていない作品にしろ、ギター二重奏だと音域的にかなり演奏が難しいように思われます。
「交響譚詩」は伊福部先生が本格的にシンフォニーを手掛けようとして作られた最初の作品です。完全な交響曲では無いにしろ、当然ながら原曲は管弦楽をイメージしたものであり、吹奏楽版や二十五絃箏曲版があるにしろ、やはりギター二重奏というのは大胆な試みと言えるでしょう。
実際のところ、近年、いろいろと二十五絃箏曲版のCDを聴き慣れてるせいか、「日本組曲」も「交響譚詩」も、ギター二重奏で違和感を感じることはありませんでした。管弦楽に比べて音が少ないぶん、奏法の細かな部分が聞き取れて興味深く感じられます。
しかしながら最大の聴きものは「SF交響ファンタジー第1番」です。それこそ聴き手が壮大なオーケストラサウンドのイメージしかないこの曲を、いかにギター二重奏で再現するのかというのが、このアルバム最大の楽しみです。
さすがにゴジラの重厚さをギター2本で再現することは出来ませんが、おもしろいのは「大いなる魔神」のテーマに入ってから。単調な「ゴジラ」のタイトルテーマと違って、ギター演奏ならではの細かなリズムの変化が絶妙な味を出しています。
そして終盤のマーチ部分。出だしのファンファーレはやはりギターではイメージが違うって感じですが、本体のマーチ部分に入るとイメージは一転。さすがに管弦楽のアレグロによる伊福部マーチのイメージとは違うのですが、ギターの軽やかなピッチによる演奏はどこかビゼーの「カルメン組曲」とかをイメージさせる、軽快なラテン系の音楽を彷彿とさせてきて、これはこれで1つの演奏解釈だなと感じて来ました。
「宇宙大戦争マーチ」と「怪獣総進撃マーチ」で、こんな印象を与えてくれたからにはよりギター向きのメロディーの起伏のある「メーサー光線車マーチ」が含まれる「第2番」や「海底軍艦マーチ」が含まれる「第3番」も聴かせてほしい感じがします。
最後の「聖なる泉」は『モスラ対ゴジラ』や『ゴジラVSモスラ』で伊福部版モスラのテーマとして使われている曲です。『モスラ対ゴジラ』では小美人役のザ・ピーナッツによるコーラスが入っていましたが、平成の『ゴジラVSモスラ』では管弦楽によるインストゥルメンタルだけになっています。
近年、二十五絃箏曲「胡哦」として作り直されているモチーフですが、ここに収録されているのは原曲の映画音楽のままの形のようです。元々コーラス曲として作られてる作品で、ザ・ピーナッツ版はアカペラも存在する曲なので、ギター二重奏で十分に堪能できる仕上がりになっています。
前の「SF交響ファンタジー第1番」がギター二重奏としては相当に無理のある作品だったから、最後に耳直しに1曲というところでしょうか。元来がヒーリング系の曲だから、耳が癒されること間違い無しです。
収録時間72分、たっぷりいっぱい伊福部音楽が楽しめます。最初の1枚というには特殊ですけど、管弦楽以外で伊福部先生の作品に触れたい人にはお薦めできます。
ただ、インディーズレーベルなので、ネット等の通販か一部の楽器店でしか入手できないようです。興味ある人はググってみてください。
(発売元:SAKURA SOUND SSEC3105 2005.--.--)
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